サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
トップ 最新情報 政策提言 活動内容 サンフロント21懇話会とは 飛躍 風は東から

 新しい世紀の幕開けです。効率的な広域行政の展開を軸に県東部の活性化を図ろう─と発足したサンフロント21懇話会の活動もことしは7年目。活発な提言活動により東部広域都市づくり研究会、田方郡広域行政懇談会がスタートするなど、地域における地方分権をにらんだ動きも出てきました。
 ことし最初の特集「風は東から」。今回は2007年、沼津市で開催される技能五輪国際大会を中心に、「ものづくり県」静岡の現状や課題、新しい産業起こしのヒントなどをうかがいました。
風は東から
[東部発21世紀へのメッセージシリーズ6]
バックナンバー


IT化超える「製品力」を ものづくり見直す技能五輪
北井久美子(きたい くみこ)静岡県副知事
北井久美子(きたい くみこ)静岡県副知事
昭和5年労働省入省。婦人局婦人政策課長、女性局女性政策課長を経て平成年7月より現職。
「ものづくり県」静岡の優位性、
これをいかに守り続けるかが今後の課題
大坪 北井副知事が就任されて約一年半が経ちました。ものづくり先進県といわれる本県の産業の動向、東部に対する印象はいかがですか。
北井 静岡県は産業のデパートと呼ばれる程の「ものづくり県」です。それはとりもなおさず先人の築いてきた歴史や伝統から生まれ出たものです。その優位性をいかに守り続けていくか、また、グローバル化、IT化の中で本当に強い「製品力」を生み出せる中小企業を行政としてどう応援できるか、それが今後の課題だと思います。東部地域は自然が豊かで、首都圏に近い。首都圏からの進出企業も多く、医療を初め先端的な研究・開発機関も多く存在しています。進出企業、研究・開発機関と地場産業がもっとうまく融合すれば素晴らしいエリアになると思います。
斎藤 IT時代を迎えて東京に近い分、沼津にも先端技術産業がタイムラグなしに芽生えてきていい刺激になっています。ただ、よく言われるように静岡県、特に東部の既存の産業全般にハングリー精神に欠けるようなところがある。何とか食べていける、豊かさが逆に意欲を生みにくい面はありますね。
大坪 長谷川さんはその点、富士宮で高い技術力をもって企業を経営されていますね。
長谷川 私は朝霧の開拓農家に生まれ、過酷な自然と貧しい暮らしの中で育ちまし
た。若くして起こした事業もゼロからの出発です。よく、静岡県人らしくないと言われます。「やらまいか気質」で知られる浜松で働いていた頃、工場の敷地内に通っていた市道を効率が悪いので市と掛け合って移設し工場が大発展をしました。地域の「やる気」が行政を動かし、産業を発展させていくという面はあるでしょうね。確かに東部はそういうパワーに欠けている。
大坪 ハングリー精神ややる気といったものはもちろん必要ですが、一方、きっかけづくりというのが非常に大切だと思います。やる気がないと言われる最近の若者もきっかけを与えれば驚くほどの能力を発揮するんですね。先日も授業の一環で学生に空き店舗の経営をやらせたのですが、自分たちで資金を調達し、会社の定款を作り、事業を成功させたんです。
斎藤 沼津でも毎年秋に「よ
さこい沼津まつり」というのをやっています。きっかけは商店街の若手が単身四国へ行って、よさこいのやり方を学び、仲間を募ってゼロから始めて今年で五回目になります。やる度に規模が大きくなり、昨年は全国から三十五チームが参加しました。  


意欲を生み出す「きっかけ」づくり。
東部地域の魅力を活かし若者が夢を持てるグランドデザインを
斎藤衛(さいとう まもる)沼津市長
斎藤衛(さいとう まもる)沼津市長
昭和36年建設省入省。平成2年国土庁大都市圏整備局長を経て8年より現職。現在2期目。
大坪 きっかけをつくる、仕組みをつくる、教えてあげるということが意欲を生み出す秘訣ではないでしょうか。今こそ新しい産業を起こす機会です。ぜひ、さまざまな仕掛けやきっかけを作っていただきたい。そういった意味で今度長泉町に県がんセンターができますが、これも地域発展の大きなきっかけになるのではないですか。
北井 東部地域でいえばファルマバレー構想という大きな活性化プランがあります。ここにはすでに医薬品産業の工場や研究機能が集積しており、県がんセンターの開院をきっかけに産官学が連携し、この地域の医薬・健康関連産業の振興や県民の医療水準の向上を図ろうということを考えています。こういった地域構想にも若い人が積極的に参画してくれるといいですね。
大坪 行政、産業界のこれからの大きな役割というのは、若者が夢や目標を持ちやすい環境づくりにあるのではないでしょうか。沼津はこういう街を目指します、こうやれば素晴らしい社会がつくれ、皆さんはこんなことができるんだということを提示してあげることが大事ですね。
斎藤 では沼津市でどういう夢が描けるか。今ひとつ確たるものはないのですが、その題材になるものには二種類あると思います。一つはこの土地に古くからある素材、ここに住んでいる人には魅力的に映らなくても外から見たら素晴らしいと思われるものを再発見し、それを基本的なベースにしていく。もう一つは東京に近く、世の中の最先端なものに触れる機会が非常に多いわけですから、そういう中で刺激を受けて生み出されるもの。この二つを活かしながら民間と協力して新しい展開につなげたい。
大坪 最近、東京の財界人と話していると、大手が地方の産業と手を組み、その地域を発展させながら成長していこうという傾向が見られます。昔は従属関係にあった中小企業と大企業が、これからは対等の関係でネットワークを組みながらやっていこうと。産業界から見るといかがですか。
長谷川 確かに今までは全て自前で調達しよう、開発しようという発想でした。しかしこれからは得意な技術を持っている会社と提携したり、持っている技術を他社の技術と融合するといったことがますます加速していくでしょう。世界の中で競争していくためにこうしたソフト的な発想がますます重要になってきますね。


長谷川浩之(はせがわ ひろゆき)エッチ・ケー・エス社長
長谷川浩之(はせがわ ひろゆき)エッチ・ケー・エス社長
昭和42年国立沼津高専卒業。48年自動車部品の製造・販売会社潟Gッチ・ケー・エス設立、代表取締役社長となる。



大坪檀(おおつぼ まゆみ)静岡産業大学長
大坪檀(おおつぼ まゆみ)静岡産業大学長
サンフロント2懇話会アドバイザー
技能五輪を機にさらなる技能のレベルアップを。
メイド・イン・ジャパンを担う人材育成は産官学の連携で
大坪 産業界の動き一つをとっても技術力の大切さというのがよくわかります。その技術や技能向上を目指す技能五輪国際大会が2007年、沼津市で開かれますね。
北井 この大会は、二十二歳以下の青年の技術力を競う国際大会です。これをきっかけにものづくり機運を高め、本県の技術水準をレベルアップしたい。また、今回は世界初の試みとして、障害者の技能五輪・アビリンピックも静岡市で同時開催します。それぞれの選手が互いに交流し、障害を持つ人々の技術、技能の向上も図りたい。これだけコンピュータによる設計や自動化が進んでさえ、仕上げは高度な技術に裏打ちされた人間の感性がカギを握ると言われています。ところが静岡県内でも熟練技能者が高齢化し、若者の技術離れが目立ってきた。この傾向になんとか歯止めをかけたい。ものづくり先進県の本県が技能五輪を誘致したのもこのあたりをにらんでのことです。
長谷川 例えば、ある物を乗せるための平らな面を作るとします。平らな面を作るだけですから、ただ研磨すればよいと思われるでしょうが実際そうはいかない。上に乗せる物によって生じるゆがみを予め想定するという作業が必要になってくる。ものづくりの現場では常にそういった形而上学的な世界、感性の世界との戦いです。それは理論だけではうまくいかないんですね。北井さんのいわれるように最後は人の、いわゆる高い技術に裏打ちされた「感性」が必要なんです。メイド・イン・ジャパンの意味合いとは何かというと、いかにものづくりの現場で細かい事をやれるかを世界に実証してきたことです。多くの先達が苦労して築いてきた技術力の高さ。これがなくなったらメイド・イン・ジャパンというのはあっという間に通用しなくなるんです。
北井 そのメイド・イン・ジャパンを担う若手の育成が大切なんですね。技能五輪も一過性の大会で終わらせることなく、沼津地区、東部地区の地域開発につなげていかなければならないし、一番のポイントはこれをきっかけにした静岡県の技能技術者のレベル向上です。そのための選手育成、これには企業の協力が必要不可欠です。長谷川さんの会社からも選手を送り出して下さいよ。技能者の育成を支援するために沼津にも県立の職業訓練校がありますが、今後は民間に任せられるものはなるべく任せ、採算ベースにのらなくても地域になくてはならないような訓練科目を中心に地場産業をバックアップしていきたいと思います。
斎藤 人づくりという点から見ると、どうも最近マニュアル的な人間が多くなっているように感じます。もちろん基礎学習は必要ですが、小・中学校教育で子供たちの主体性がもっと発揮できるような教育が必要ではないか。そうすれば社会人になり、どんな道に進んでも、自ら考え、問題を解決していけるのではないか。沼津市立高校が平成十五年度に中高一貫教育を導入しますが、生徒が主体性を発揮できるような教育内容にしたい。また、技能五輪開催を機に新たな技術力が生まれ、いずれ新たな産業が芽生えることを期待します。それを東部地域、静岡県全域に波及させたい、またできるものだと思います。
大坪 将来この地域に必要なのは技能者の育成はもちろん、その技能を活かす知識労働者の育成です。市場が必要とするもの、創造性、感性、デザイン力、それに技術が加われば鬼に金棒。両者がうまくかみ合うことで技能者の価値もさらに高まり、地域の発展にも寄与できる。そうすることで次世代のメイド・イン・ジャパンがこの地域から、静岡から生まれることでしょう。



■技能五輪国際大会、
国際アビリンピック同時開催へ

 2007年、静岡県で世界の青年技術者が集い、約40職種にわたって技能・技術を競い合う「技能五輪国際大会」と、障害者のみなさんが参加する「国際アビリンピック」の同時開催が決まりました。両国際大会の同時開催は新しい試みで、両大会の参加者の相互交流も図っていくことになっています。
 「技能五輪国際大会」は、満22歳以下の青年技能者の大会で、開催予定地は沼津市。世界35の国・地域から約2500人が参加する予定です。また、「国際アビリンピック」は、世界32の国・地域から約1000人の障害者が集まり、約32職種で技能を競い合うことになっており、静岡市で開催される予定となっています。
 

■企画・制作/静岡新聞社営業局

▲ページトップ
入会案内お問い合わせ事務局案内リンク Copyright(c) SUNFRONT21.ALL RIGHTS RESERVED.