サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2025.6.6 静岡新聞掲載」

サンフロント21特別編 首長座談会PART4

サンフロント21懇話会の設立当初の大きなテーマが広域連携。設立以来30年が経ち、この間の環境、社会の変化は大変大きく、地域が生き生きと輝くためには、今こそ行政の境を越えた連携が欠かせない。「風は東から」特別編では、県東部20市町を東部、伊豆、伊豆賀茂、富士山の4つの地区に分け、これからの広域連携の在り方について語っていただく。
最終回となる第4回は、下田市の松木正一郎市長、東伊豆町の岩井茂樹町長、河津町の岸重宏町長、南伊豆町の岡部克仁町長、松崎町の深沢準弥町長、西伊豆町の星野浄晋町長に、賀茂地区の防災・観光・産業について聞いた。(聞き手は編集部)

[サンフロント21懇話会企画]

バックナンバー

 

 
地域の力を束ねて未来へ6首長が語る連携戦略
■“孤立”しないまちをつくる 地域で支え合う防災の力

■左から岩井茂樹東伊豆町長、岸重宏河津町長、松木正一郎下田市長、深沢準弥松崎町長、星野浄晋西伊豆町長、岡部克仁南伊豆町長

― 能登半島地震から1年半が経ちました。伊豆半島も”半島“という地理的特性を持つため、他人事ではないと感じた方も多かったと思います。賀茂地域では、どのような防災の取り組みを行っていますか。  
岩井 能登の被害を受けて「孤立集落」ではなく「自立集落」という視点が必要だと感じています。南海トラフ地震のような大規模災害時には、国や県が各地に一斉に支援を届けるのは困難です。であれば、自分たちがある程度“自分ごと”として災害に備え、自力で耐えうる仕組みを作っておくことが重要だと考えます。
         

■松木 正一郎氏
下田市長

静岡県下田市出身。建設会社勤務を経て、1989年静岡県庁に入庁。都市計画課長、交通基盤部景観まちづくり課長、下田土木事務所長など務める。2020年より下田市長に就任。現在2期目  

■岩井 茂樹氏
東伊豆町長

愛知県名古屋市出身。民間建設会社勤務、政治家秘書などを経て2010年より参議院議員を2期務める。安倍内閣のもと経済産業大臣政務官、菅内閣で国土交通省副大臣を歴任。22年3月より現職

 その通りですね。また、能登の事例から、陸海空の多様なアクセスの確保がいかに大事かを再認識しました。本来伊豆縦貫道の早期開通が望まれますが、まだ時間がかかる中で、縦貫道周辺に災害支援の前線基地は必要と考えます。現在、7市6町で伊豆半島広域防災協議会を立ち上げ、県の地域計画との連携も視野に入れた取り組みが進行中です。また、職員数が限られる小規模自治体では受援計画をあらかじめ作っておく必要性を感じています。
松木 道路インフラの整備は防災の根幹です。伊豆半島南部は特にアクセスが限られており、大雨が降ると事前通行規制により“陸の孤島”になってしまう。それほど道路網がぜい弱なのです。ですから、南海トラフ地震が発生したとき伊豆縦貫道が全通していないことを想定し、国道414号に事前投資を行い、孤立化を防ぐ必要があります。また、肋骨道路も重要です。県道河津下田線は全長3キロメートル程度ですが、県がこれまで年1億円だった整備費を今年度から4億円に増額してくれました。これにより完成が4倍も早くなります。
岡部 大規模災害の場合、近隣市町との連携だけでは不十分な場合もあるでしょう。南伊豆町は、杉並区をはじめ、町外の9つの自治体と災害時相互応援協定を結び、広域的な支援体制を整えています。県全体が被災した場合に備え、県外ネットワークの強化も不可欠と考えています。
深沢 災害時にまず必要なのは「情報」です。被災地の情報が入らないと、後回しにされるのが現実です。そこで重要なのが、情報収集体制の強化。庁舎が被災した場合でも機能するよう、代替施設やICTの活用を進めるべきですね。
星野 また、平時の「顔の見える関係」づくりが鍵になります。西伊豆町は、隣の松崎町と職員交流を進めており、共同で訓練をしたり、野球チームを組んだりと、実践的なつながりを作っています。非常時には“おせっかい”ができる関係が大切です。
岩井 海上アクセスの価値も見直されるべきでしょう。港の再活用については、県や消防団、陸海自衛隊などの関係機関と連携し、1市5町で体制を構築中です。
岡部 民間との連携も進んでいます。南伊豆町では、民間企業が新たに建造した船を横須賀に常駐させ、有事の際には船と40キログラム対応のドローンで物資搬送が可能な体制を整えました。




■市町の個性が交わる伊豆 魅力をつなぐ周遊の旅へ
■岸 重宏氏
河津町長

河津町出身。1973年中央大学経済学部卒業後、河津町役場に入庁。職員として産業観光課長、総務課長などを歴任、2006年より河津町助役、河津町副町長を務める。17年より河津町長に就任。現在2期目

■岡部 克仁氏
南伊豆町長

1963年生まれ。南伊豆町出身。高校卒業後、内装業を経て、2015年南伊豆町議会議員に当選。17年南伊豆町長に当選し、現在3期目

― 次は観光についてです。賀茂地域での連携や、すでに取り組まれている広域的な事例、工夫などをお聞かせください。
 広域観光はこれからの伊豆にとって非常に大事だと感じています。例えば、今年の河津桜まつりでは美しい伊豆創造センターを通じ伊豆の13市町に声をかけて、9つの市町にPRブースを出してもらいました。これは初めての試みで、お客さんの反応も良く、イベントを起点とした周遊促進にもつながりました。
深沢 周遊の仕組みづくりは特に西伊豆エリアのような公共交通が脆弱な地域では重要です。若い旅行者はアクティビティやホテル、交通をセミオーダーで組み合わせた旅を好む傾向があります。そこで、旅の選択肢をカスタマイズできるようなパッケージを構築することが求められています。
岡部 南伊豆では「南伊豆 Curry Love」という町おこしを昨年から実施しており、想像以上の反響をいただきました。伊豆の先端という地理的優位性を活かし、各地に宿泊した方々をいかにこの先端へ呼び込むかを意識した仕組みです。食というテーマは人を動かす力があります。さらにバイク神社の構想など、新しい誘客方法も検討しています。
岩井 観光客の皆さんを周遊させるきっかけとして「伊豆八十八ヶ所巡り」はどうでしょう。歴史ある資源であり、観光資源としての再活用が有効だと思います。四国でさえあれだけの人が集まるのですから、首都圏に近く、中京圏にもアクセスの良い伊豆に集まらないわけがありません。八十八ヶ所を巡りながら各地の楽しいものを経験していくのが良いと思います。
― ただ、無人のお寺やアクセスの難しい場所も多いですね。
星野 「シン・八十八ヶ所」ではないですが、新しい巡礼ルートもいいと思います。既存の場所に固執せず、伊豆半島全体の名所を巡るような柔軟な構成も面白いですね。時代に合わせて、御朱印やお賽銭のDX化も進めるといいのではないでしょうか。すでに飛騨高山の映画で有名になった神社ではお賽銭をQRコードで行っていました。
 以前、修善寺の桂谷八十八ヶ所めぐりに参加した事があります。3日間のイベントで、地元の方の接待や温泉券の特典などが印象的でした。こうした「心の癒し」に繋がる仕掛けも広域で展開できるのではないでしょうか。
― インバウンドについてはいかがですか。
松木 インバウンドは緩やかに戻ってきていますが、コロナ禍において人員整理をしたところも多く、宿泊施設側の態勢もコロナ前の水準に戻りきれていないのが現状です。稼働率を上げるために受け入れ態勢を整える必要がありますね。
深沢 欧米からの旅行者が増えており、ゲストハウスや民宿の利用も見られます。お話を聞くと、自国の方がSNSなどで発信した情報を元に来られているとのことでした。また、バスの本数は少ないが時間通りに来ることに感動されていましたね。
星野 二次交通がないから来ないというのは固定観念で、最近は自転車や徒歩、レンタカーなど多様な手段で訪れる方が多く、むしろその不便さを魅力と感じてくれる人もいます。成田ナンバーの大きな車が、地元の人しか知らないような店に乗り付けていたりもしますので、やはりそこはSNSの時代、しっかりと情報を出していくことが大切でしょう。
 河津桜まつりでは、インバウンドの来訪者が目立ちました。夕方には外国人ばかりという印象もあり、個人旅行の方が多かったですね。言葉が通じなくても地元の居酒屋などを積極的に利用されており、住民の意識も変わってきたように思います。
岩井 4月には世界的な音楽フェス「レインボー・ディスコ・クラブ」が東伊豆町で開かれ、3日間で約1万数千人、うち半数が海外からの来場者でした。「伊豆に外国人が来ない」ではなく「来たくなるコンテンツがあるか」でしょう。また、訪れた方にどれだけ快適に過ごしてもらえるかが大切ですね。
松木 インバウンド対応として、たとえば駿河湾フェリーに「富士山」や「伊豆」という名前(ブランド)を冠したらどうでしょうか。富士山静岡空港から清水港、フェリーで伊豆半島に来て、広域的に周遊して鉄路で帰るというルートもできると思います。また、クルーズ船の活用も可能性がありますね。3年程前に下田港に寄港したクルーズ船の乗客はバスで河津桜を見に行きましたし、今年8月には松崎沖に大型客船「飛鳥U」が寄港予定です。
深沢 新しく「飛鳥V」もでき、新しい寄港先を求めています。松崎を入口にクルーズ船のインパクトを半島全体に広げる観光動線を作っておくことが重要ですし、賀茂地域として受け入れ態勢を整える好機ではないでしょうか。

 

■一次産業に風を入れる 知恵と挑戦が拓く新展開
■深沢 準弥氏
松崎町長

松崎町出身。地元の小中学校、そして下田市の高校を卒業し横浜の大学に進学。大学卒業後、1990年に松崎町役場に入庁。様々な部署を経験し、企画観光課長などを歴任。2021年より松崎町長に就任。現在1期目

■星野 浄晋氏
西伊豆町長

1978年生まれ。西伊豆町出身。立正大学仏教学部卒業後、2004年に旧西伊豆町議会議員に初当選し、合併後の西伊豆町議会議員を3期務めた。17年に西伊豆町長に初当選し、現在3期目

― 観光の比重が高い伊豆半島ですが、地域資源を生かした新たな産業創出が求められています。
岡部 南伊豆町では風力発電やメガソーラーといった再エネを導入しています。災害時の強靭化にもつながるエネルギーの地産地消を進めており、子ども園や公園整備にも活かされています。また、温泉熱の有効活用や、縦貫道の建設残土で造成した圃場にレモンを植える計画もあります。出荷先も決まっていて、安定供給が見込める法人との連携により、農業の新展開を狙っているところです。
深沢 松崎町でも、太陽光パネルの活用を進めています。パネルの処分問題など課題もありますが、一方で遮光することが必要な農作物との組み合わせなど、再エネを軸にした新しい農業の可能性を模索しています。また、オフグリッド(※)の考え方を取り入れ、小規模自治体でも成立する仕組みを探っています。オフグリッド住宅は公共のインフラ整備なしに建てられるのが利点と言えますね。
 河津町は、露地栽培アボカドの栽培実験を始めました。温暖化の影響もあり、アボカドは将来性のある作物と期待しています。耕作放棄地を活用できる上、大学や民間法人との連携も進んでおり、農業に関心を持つ若者も集まりつつあるんですよ。
岩井 最近は、観光と一次産業の融合、「海業(うみぎょう)」のように水産業と観光を結びつけて利益を生み出す取り組みにも注目しています。農業については、伊豆半島では広い耕作地がなく、地形も急しゅんです。観光の視点から農産物の付加価値を高める取り組みが有効だと考えます。
星野 西伊豆町は体験型観光を“産業”として強化しています。わさびの収穫体験、鰹節工場の見学、松崎のしっくい体験などもいいですね。西伊豆のみならず、つるし雛の体験などもどんどんコンテンツ化して、コト消費を増やしたい。また、観光客が釣った魚を買い取り、地元で食べてもらうような仕掛けで、観光と一次産業を結びつけています。富裕層の誘致も視野に入れていて、一食1万円の食事をしに往復100万円をかけてくる富裕層向けに、堂ヶ島にヘリポートもつくりました。
岡部 コト消費でいうと、神子元島周辺でハンマーヘッドシャークの群れが見られます。海外のお客さまも多く、今後力を入れていきたいですね。ただ、上級者向けですので、ご家族にも楽しんでいただけるよう、長期滞在を見据えたマリンスポーツや温泉、食の体験型プランを準備したいと思います。
岩井 東京から2時間ちょっと、遠すぎもせず、近すぎもせずという距離感でワーケーションの目的地に選んでいただいています。「まちまるごとオフィス東伊豆」として、「山の中のデスク」や「海の見えるミーティングルーム」といった打ち出し方をしています。最近は保育園留学と組み合わせた移住支援も行っており、都市部の企業からも注目されています。
松木 これからの新しい分野は、おそらくAI関連でしょう。それも従来型のデジタルとは次元が違うと思います。場所にしばられない働き方はますます進んでいきますし、県もこれからスタートアップ支援に力を入れると聞いています。東京に飽きた人達は、ちょっとガラパゴス的な伊豆半島の自然や文化に魅力を感じるのではないでしょうか。また、起業家を呼び込むには、単なる場所の提供でなくチャレンジャーを後押しする地域の姿勢が必要ですね。
 人口減少が進む中、広域連携は“やらなければならない”時代に入ったと感じます。町民はすでに他市町のイベントにも足を運んでおり、むしろ行政の連携が追いついていない。まずは地域間交流の実態を丁寧に把握することが、次の一歩につながると思います。

※電気・ガス・上下水道といったライフライン(グリッド)に接続せずに、自然エネルギーや代替手段で暮らす自立型の生活様式のこと





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