サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2026.02.27 静岡新聞掲載」

CNF(セルロースナノファイバー)は「研究」から「活用」へ―。2月の「風は東から」は、今月行われた富士山地区分科会のパネル討論を取り上げる。供給側から日本製紙の畠田利彦富士革新素材研究所長、利用者側から富士急行の古屋喜正事業部次長、CNF研究を牽引する静岡大の西村拓也特任教授が実装を進めるうえでの課題と解決法について議論した。聞き手は中山勝サンフロント21懇話会TESS研究員。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ11

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富士山麓発、CNF革命 「使う」未来が動き出す
■供給の課題は「量と品質」

中山 セルロース材料が社会実装へ向かう今、まず供給側の現状から伺います。
畠田 紙需要はデジタル化で縮む一方、パッケージなど新たな需要も生まれています。当社は「余すところなく」活用する総合バイオマス企業として、CNFの機能性と用途の開発に取り組んでいます。CNFは軽量・高強度に加え、水中では繊維同士が絡み合って三次元の網目構造を形成するのが特徴です。金属を付与して消臭性を持たせたり、化粧品ではさらさら感、食品ではなめらかな口当たりに寄与したりと、機能化も進んでいます。
中山 具体的に、社会実装はどんな分野で進んでいますか。
畠田 分かりやすいのが、斜面(のり面)へモルタルなどを吹き付けた後にセルロース材料を吹き付ける工法です。表面にひびが入りやすいという課題に対し、セルロース材料の保水性によりひび割れ抑制が確認され、国土交通省のデータベースにも登録されています。
食品では保水性や気泡安定性を生かし、どらやきではふわっと感、しっとり感に加え、あんの水分を包むことで賞味期限を延ばすことが確認されました。日焼け止めはCNFを入れることで成分が均一に分散でき、少し振るだけで塗りムラなく使用できます。それだけでなく塗り心地にもつながります。
中山 供給側として、実装段階で最も問われる点は何でしょう。
畠田 工業製品として「必要な量を、必要な品質で、安定的に届けられるか」です。食品・化粧品は衛生管理の整った拠点、産業用途や樹脂用途は別拠点というように、用途ごとに供給体制を整えてきました。新素材は実績データの蓄積にも時間がかかります。まずは評価が進めやすい領域で実績を積み、モビリティや家電などへ段階的に広げたいと考えています。
西村 研究の立場から補足すると、ここがまさに「活用段階」の壁です。技術開発は進みますが、世の中に触れてもらい、使ってもらうには、安心できるデータと継続供給が欠かせません。供給の話が具体的になるほど、採用側も現実的な判断ができるようになります。
古屋 使う側としても同感です。導入を検討するとき、性能だけでなく「いつでも同じ品質で手に入るか」「量は確保できるか」が論点になります。供給の見通しが立つと、実証から本採用へ進めやすくなりますね。

■西村 拓也 氏
静岡大農学部 特任教授

農学部林産学科木質材料学を専攻。木質材料で自動車を作りたいと、2001年からアラコ、04年からトヨタ車体に所属。一貫して植物材料の開発に従事。木材、ケナフ、ポリ乳酸といった素材を用いた材料開発を行い、多数自動車部品へ採用されている。CNFを用いた材料開発の縁で23年6月より静岡大農学部ふじのくに寄附講座にて特任教授を兼務



■導入は「見える場所」に

中山 続いて、利用側の視点を伺います。富士急行は交通機関だけでなく、観光施設も持っています。どこからCNFを使うのが現実的でしょうか?
古屋 グループとしてCO2削減や森林整備を進めてきました。CNFは「地域の森から生まれた素材」として、まずはお客様や地域の方が目に触れる場所に使うのがよいと思います。例えば車両外装、駅舎、案内看板、バス停の透明部材などです。いまはポリカーボネートなど石油由来素材が当たり前ですが、そこに地域循環の素材を入れられれば、機能と同時にストーリーも伝えやすいのではないでしょうか。
中山 ただ、導入にはコストの壁もありますよね。
古屋 正直、イベント資材などは安価なものを採用しがちです。一方で廃棄コストもかかります。リサイクルを前提とした素材調達ができれば、中長期では見え方が変わるはずです。だからこそ、まずは小さくても「回るモデル」をつくり、維持管理や廃棄まで含めて効果を見せたいと思います。
畠田 供給側としても、そうした「具体的な場所」が決まると話が進みます。必要量と要求性能が見えれば、こちらも供給計画、設計、コスト感がでてきます。実装の入口は、使う側の方針が明確になると動きやすいですね。
西村 ここで大事なのは、CNFを分かりやすくお客様に伝えること、価値の伝え方が難しいと普及しません。
古屋 そもそも「セルロースナノファイバー」が言いにくく、聞きなじみのない言葉です。「森から生まれた未来の素材」などとわかりやすい言い換えが必要でしょう。さらに周知の方法として、「体験」を取り入れたらどうでしょうか。森を見学し、植樹なども含めて素材が生まれた背景を体感できると、納得感が違います。
中山 「見える場所」と「伝わる言葉」、そのセットで社会実装を進める、ということですね。

■畠田 利彦 氏
日本製紙研究開発本部
富士革新素材研究所長

1993年日本製紙に入社。研究部門に所属し、ディスプレイ用フィルムの設計・製造・管理に従事。2023年よりCNFを中心に木質資源を用いた環境性能や機能性向上に取組み、現在に至る



■普及の鍵は価値の可視化

中山 今までの議論から、西村先生、普及の決め手をどう考えますか。
西村 活用段階では、CNFを使う「うれしさ」をどう可視化するかが勝負です。強度や軽量といった性能は他素材にもありますし、大量生産品の価格には簡単に勝てません。だからこそ、触感、長寿命化、環境負荷低減、地域循環への貢献など、採用理由になる価値を具体的な用途に落とし込む必要があります。
畠田 供給側も同じです。「性能が同じなら安い方」という現実はどうしてもあります。そこを避けずに、どの価値をどの市場で強みにするかを、利用者側・研究側と一緒に詰めていきたいですね。
古屋 使う側としては、価値が「伝わる形」になっているかが重要です。単純な製造コストだけでなく、地産地消・地域の自然の循環に資する素材であることを企業の投資判断の中に組み入れてもらうことが重要だと考えます。「新しい投資をする理由」としてESG(環境・社会・企業統治)や地域循環、地域創生などに結び付くと動きやすい。富士山ろくから生まれた素材を富士山ろくの公共空間や観光空間で実装し、発信するのはとても美しいストーリーですし、説得力が出てきます。
西村 産学官連携も「両輪」だと思います。行政がこうしたいと言っても技術がないとできませんし、技術があっても制度や調達が整わないと広がらない。その距離感を縮め、本音で弱点も含めて共有しながら、継続する実証にすることが大切です。作る側の認知は高まっていますが、使いたい側とのバランスがまだ十分ではありません。そこが合ってくると、社会実装は一気に動きます。
畠田 だからこそ、まずは「使われる場所」を増やし、実績データを積み上げる。供給体制も含めて、現場で回るモデルにしていきたいです。
中山 本日の議論を通じて、CNFは「性能の良さ」だけでなく、「価値の翻訳」「見える実装」「継続できる連携」が揃って初めて広がることが見えてきました。富士山麓から生まれた素材を、富士山麓の現場で回し、発信していく―その第一歩が、今日のパネル討論で共有されたと思います。

会場から

会場 静岡の林業は木材価格が上がらず厳しい。CNFが上がれば、原料となる木材の価格を押し上げる効果は期待できるか。
西村 価格は用途と量、評価の前提で大きく変わる。安い輸入材と単純比較すると苦しいが、「地域の木を使う理由」をどう価値化するかがポイントになる。CO2吸収や循環、地域経済への波及まで含めて語れると、採用の動機が変わってくる。
会場 透明なプラスチックの代替になるようなCNF素材は可能か。
西村 透明化は検討が進んでいるが、繊維の均一化など技術課題もある。ただ、実現すれば新たな用途への展開が一気に広がる。
畠田 原料側でも、早く育つ樹種の活用などでコスト構造は変えられる。素材単体でなく「森林・観光・地域を含めたストーリー」とセットで価値を提示したい。

■古屋 喜正 氏
富士急行事業部 次長
技術・環境・CS推進課長

2006年富士急行入社。主にレジャー施設の開発計画の企画立案、行政協議、開発工事の推進を担当。富士山の自然環境に配慮した施設開発を複数経験。20年から現職。グループのサステナビリティ戦略の策定や、施策の立案と実行、ESG関連情報の開示・発信などを担当する
■コーディネーター
中山 勝 氏
サンフロント21懇話会TESS研究員

静岡産業大経営学部特任教授、総合研究所所長。慶応義塾大大院経営管理研究科修了(MBA)。スルガ銀行入行後、企業経営研究所にて常務理事、理事長を歴任。2021年4月より静岡産業大経営学部客員教授、24年4月より現職




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