サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から「2026.06.26 静岡新聞掲載」

小山町の富士スピードウェイ周辺で、モータースポーツを核にした新たなまちづくりが動き出している。飲食施設を備えた「富士モータースポーツフォレストテラス」が、来年春の全面開業に先駆けて今月開業した。サーキットの集客力を滞在や町内回遊につなげられるか。6月の「風は東から」は、小山町で進むモータースポーツを生かした地域づくりを追った。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ3

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モータースポーツ核に小山町から広がる地域の未来
■レース場から体験の場へ

富士スピードウェイは、1966年に開業した国内有数の大型サーキットだ。国際レースや国内主要レースの舞台として知られ、年間来場者は約80万人に上る。長年にわたり町の名を全国へ発信してきた一方、近年は単なるレース観戦の場から、多様な体験を生む交流拠点へと役割を広げている。
大規模レースに加え、企業イベント、試乗会、安全運転講習、花火大会、マラソン大会、ママチャリレース、子ども向けカート、キャンプなど、利用の幅は広い。広大な敷地と複数のコースを生かし、さまざまな催しに対応している。
富士スピードウェイの尾崎重昭プロジェクト統括部長は「モータースポーツを楽しむ施設だが、車が好きな人だけの場所にはしたくない」と語る。その入口となるのが「乗る」体験だ。レーシングカーやスポーツカーだけでなく、カート、自転車、乗馬体験など、体を使って非日常に触れる機会を増やしている。
来場者層にも変化がある。従来のコアなモータースポーツファンに加え、家族連れや、試乗会・体験型イベントを目的に訪れる人が増えている。また、4年前に開業した富士スピードウェイホテルは、国際サーキットの雰囲気と富士山の眺望を楽しめる宿としてインバウンドを含むあらたな滞在需要を生み出した。
波及効果は観光面にとどまらない。尾崎部長によると、近年は「モータースポーツの拠点で働きたい」と移住してくる人もいるという。世界耐久選手権の開催時には、地元の小学5年生が社会科見学に訪れ、世界規模のイベントの”舞台裏“に触れる機会もつくっている。安全管理や救護、警備などで自衛隊OB・OGも活躍しているという。富士スピードウェイは、集客施設であると同時に、教育や雇用の面でも地域と深く関わっている。
一方で、課題もある。集客は大規模レースやイベント開催日に集中しやすい。年間80万人という数字は大きいが、レースのない週末や平日に、どのような来訪目的をつくり、滞在や消費につなげるか。サーキットの集客力を一過性の賑わいで終わらせず、日常的な交流へ広げることが、次の段階の鍵になる。

■富士スピードウェイ
尾崎重昭プロジェクト統括部長




■スーパーママチャリグランプリ、富士山花火大会、富士マラソンフェスタなど、富士スピードウェイでは様々なイベントが開催されている


■滞在を生むフォレストテラス開業

その答えの一つが、今月5日に先行開業した「富士モータースポーツフォレストテラス」だ。地元食材を生かしたカフェやそば店、犬連れで楽しめる店舗などが並び、飲食の楽しみが加わった。来年3月には新たに3つの店舗、60室のホテル、温浴施設のオープンが予定されている。
エリア開発は、トヨタ自動車100l出資の富士モータースポーツフォレスト、テラスの事業はトヨタ不動産が推進し、このエリアの魅力向上に努めている。トヨタ不動産の平沢靖聡プロジェクト推進部長は「レースやイベント時には多くのお客さまが訪れる。その方々に飲食や宿泊などの機能を提供し、満足度を高めたい。一方で、魅力的な施設を整えることで、これまでこのエリアを訪れる機会がなかった人にも足を運んでもらい、富士スピードウェイの面白さに気づいてもらいたい」と語る。
フォレストテラスの向かいにはさまざまな車両の展示やイベントが楽しめる「ウェルカムセンター」や、一般の来訪者がマシンメンテナンスを見学できる「ルーキーレーシングガレージ」や「シェイドレーシングFUJIファクトリー」などがある。テラスが開業したことで、食事目的の来訪者がサーキットの雰囲気に触れ、レース観戦者が食事や宿泊、温浴へ足を延ばしたりと、相互に行きかう人が増え、相乗効果によりエリア全体の賑わいが高まることを期待している。
目下の課題はアクセスだ。富士スピードウェイホテルと東京・JR新宿駅直結の高速バスターミナル「バスタ新宿」を結ぶ高速バスはあるものの、車利用が中心となる。レースのない日や平日に来訪者の足をどう確保するか、関係各所との連携が求められる。

■トヨタ不動産
平沢靖聡プロジェクト推進部長


■6月5日にオープンした富士モータースポーツフォレストテラス。 飲食・ドッグスパなど静岡初出店を含む5店舗が先行開業している


■地域全体へ波及させる仕掛け

小山町の込山正秀町長は、富士スピードウェイを「町で一番の集客施設」と位置付ける。隣接する富士霊園には年間約64万人、近隣のゴルフ場には約15万人と、すでに町内有数の集客エリアだ。そこにフォレストテラスという新たな魅力が加わることで、町長は「町全体に波及効果が行き届くようにしたい」と期待する。
町が目指すのは、来訪者を町内の消費や回遊につなげることだ。まちづくり公社おやまを中心にDMO(※)の登録を目指し、将来的には宿泊税を観光施策の財源に活用する考えもある。ただ、富士スピードウェイ周辺に集まった人を町内の飲食店や観光資源へどう導くかは、これからだ。
込山町長が特に力を入れているのが、「モータースポーツのまちづくり」。昨年7月にはフランス・ル・マン市、小山町、フランス西部自動車クラブ、富士スピードウェイの4者が国際友好交流協定を締結した。モータースポーツを軸に、文化・社会・経済・環境などの分野で交流を進めるのが狙い。ル・マンの24時間レースはサーキット内にとどまらず、街全体を巻き込む一大イベントとして根付いている。
小山町も過去に、レース車両の場外車検を町なかで実施し、トークショーなどと合わせて盛り上がった経験がある。町は若手職員による検討会を立ち上げ、ル・マンへの視察も視野に入れる。「小山町がどうしたらモータースポーツの街になるのか、実際に見て考えてもらいたい」と込山町長。
モータースポーツを交流人口の拡大だけでなく、定住人口の増加につなげる動きも進む。民間によるガレージ付き住宅の整備に加え、レーシングチームや整備工場が集まる環境づくりも始まっている。富士スピードウェイ周辺を「訪れる場所」から「暮らしたくなる場所」へ広げる狙いだ。
アクセス面も重要だ。地元では新東名高速道路の小山パーキングエリア(PA)周辺の整備や、小山スマートインターチェンジ(SIC)開通への関心が高い。NEXCO中日本とトヨタ不動産も小山PAの整備で連携しており、富士スピードウェイ周辺へのアクセス改善が見込まれる。
ル・マンでは30万人規模の人が集まり、レース観戦にとどまらず、街全体でモータースポーツを楽しむ文化が根付いている。尾崎部長が目指す「大きな公園のような場所」も、サーキットを特別な人だけの場所にせず、誰もが訪れ、滞在し、楽しめる場へ広げる発想だ。
富士スピードウェイの集客力に、食、宿泊、温浴、ガレージ、住まい、町なかイベントといった要素を重ね、地域全体の賑わいへ変えていけるか。モータースポーツを町の個性として育てる挑戦が、富士山麓で本格化している。

※DMO…地域の観光資源を生かし、観光戦略の立案や関係者の連携、誘客促進を担う組織

■小山町 込山正秀町長


■企画・制作/静岡新聞社地域ビジネス推進局

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