サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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風は東から 企業や大学、研究機関などが互いの技術やアイデアを持ち寄り、農業をはじめとする関連産業で新たな価値を生み出す、県の「アグリ・オープンイノベーション(AOI)プロジェクト」。拠点となる「AOI―PARC」も開所からまもなく2年。中心的役割を担うAOIフォーラムは、大学・研究機関や県内外の生産者・民間事業者で構成され、技術開発やビジネス展開を進めている。7月の「風は東から」は、同フォーラムから生み出された成果を紹介する。

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ4

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農業の未来を拓く AOIフォーラムの成果
■スピード感ある対応で機能性表示取得 増田採種場(磐田市)

■「特定の栄養素に加え野菜の栄養がとれる、サプリメントのように野菜を食べるような時代が来てほしい」と語る増田秀美専務。

 増田採種場は90年の歴史を持つ種苗メーカー。主にアブラナ科(キャベツ、ケール、ブロッコリーなど)の品種開発を行っており、中でも、日本のケール品種登録の第1〜5号を同社が持つ。
 ケールは青汁の原料として日本では“市民権”を得ている。栄養価が高いが、苦くて飲みにくいイメージが一般的だ。そこで同社は、栄養価はそのまま、食べやすく扱いやすい「ソフトケール」を10年かけて開発。株取りできるよう品種改良した。また、普及のために「マスダケール」というブランドを立ち上げ、自ら販路を開拓し、普及を図っている。
 ところが、「体に良さそう」というイメージはあるものの、なかなか市場に受け入れられない。そこで、「機能性表示食品」取得を目指し、AOIプロジェクトに応募した。
 もともと同社のケールには血圧を下げると言われるGABAが多いことが分かっており、(1)GABA成分の安定的な確保(2)栽培方法の確立―の二つのテーマに、静岡県農林技術研究所と共に磐田市やAOI―PARCで取り組んできた。同社の増田秀美専務は「申請に当たっては、消費者庁から加熱処理をしたらどうなるかといった質問が矢継ぎ早に来る。こうした質問にスピード感をもって対応していただいた」と振り返る。その結果、2018年12月に葉物では全国初の機能性表示を取得することができた。

■農業のオープンイノベーションの拠点「AOI―PARC」

 こうした経験を踏まえ、増田専務は「新しい農業の提案をしていきたい」と語る。生産者は優れた生産技術を蓄積しているが、真似を恐れて開示しない傾向がある。それを知財化し、管理することで、提供者と利用者の双方に一定のメリットがある仕組みが必要だ。「農家がデータ分析に踏み込むことで、機能性表示ができ、権利保護のためのライセンス化ができるといい」と増田専務はその役割をAOI―PARCに期待している。 将来、スーパーなどの店頭に「地場野菜」や「有機野菜」と並んで「機能性表示野菜」コーナーができることが一つの目標だ。


■地域課題解決のヒントセミナーで探求 加藤工務店(沼津市)

■沼津産オリーブオイルの今年の生産目標は500本以上。「輸入品と比べると割高だが、味が違う。いろいろな料理にかけて楽しんでもらいたい」と話す加藤修一社長

 木材をふんだんに使ったデザイン、体育館ほどの広さのモダンな社屋は1階と2階が吹き抜けでつながっている。加藤工務店は、注文建築や公共工事を手掛ける傍ら、耕作放棄地を借り受け、オリーブを栽培している。
加藤修一社長は知り合いの農家からさまざまな課題、問題を聞いていた。担い手不足で茶畑を手放す人が増え、農地が荒れている。ひと昔前ならアパートや工場誘致もできたが、それもだんだん難しくなってきた。利便性の低い場所はなおさらだ。
 「地域密着の工務店として、地元をどうしたら元気にできるか」。加藤社長は生産性のある土地活用とは何かと考え、農業も一つの選択肢と判断した。とはいえ露地栽培のような農業は難しい。
 きっかけは、クレアファームを経営する西村やす子社長の講演。県産オリーブの栽培から製品化、販路拡大まで、地域の課題解決の糸口が目の前に現れた。「いきなり農業に踏み込んでも販路がない。一緒にやらせてもらえれば」と、知り合いの農家と訪問し、2017年9月に会社「クレアファーム駿河湾沼津」を立ち上げた。実ったオリーブは塩漬けやオイルに加工している。
 クレアファームはAOI―PARCでオリーブの実の効用や絞りかす利用の研究をしている。また、加藤社長はフォーラムのセミナーに欠かさず出席し、「この地域でできること、生かせることはないかという視点で聴いている」と言う。
 今後、生産量を増やす中でレストランや販売所などの拠点化も視野に入れる。農業を通じて、地域に楽しさを広げるのが目的だ。「オリーブ栽培だけでなく、生産性の高い農業、若者がやりたいと思える農業はまだあると思う。それが農業法人だったり別の形だったり、未熟だが生み出そうとしている若手もいる。そうした人たちの支援もAOI―PARCに期待したい」と語った。
 


■ネットワーク活用し新たな連携先を模索 イノベタス(富士市)

■「安定的な販売先の確保が重要」と語る和田仁取締役

 イノベタスの和田仁取締役は「AOI―PARCが開設され、しかも先端農業を扱うと聞いて」一も二もなくプロジェクトに応募した。
 同社は2014年創業で、親会社の紙パルプ工場を完全閉鎖型植物工場に改修した。リーフレタスやロメインレタスなどの葉物を1日1万2000株生産する日本屈指の規模を誇る。社員10人、パート従業員延べ80人を擁するが、全ての知識を社員で賄うのは難しい。「生産性を上げ、データを取るにはどうすればいいか。AOI―PARCの知見で当社のそんな足りない部分を補いたい。また、集めたデータをどう解釈するのか。ICTを活用した植物野菜工場といっても、最終判断は人なので、経験豊富なAOI―PARCの力を借りたかった」と和田取締役は応募の理由を語った。
 LEDライトと多段棚を活用した工場内は、作物の地上環境と地下環境をそれぞれデータ管理とモニタリングしている。地上環境では光、温度、湿度を一定のレンジ(幅)に保ち、驚くことに風も吹く。地下環境は、水とカリウム、リン、窒素などの肥料をコントロールしている。
 こうして、露地では出荷まで55日かかるレタスを35日でできるよう生育環境を整え、無農薬で栽培している。また、LEDメーカーのフィリップス社とレッドリーフレタスの育成に関する共同研究を進め、成果を挙げている。
 現在は、理化学研究所(理研)と共同で、レタスの栽培環境の至適化を目指す。しかし「良いものを作ったから売れるはず、というプロダクトアウトの発想は非常に危険。販売先がある程度明確に決まっていないと商品化は難しい」とスピード感の中にも慎重さを忘れない。
 AOI―PARCに期待するのは「研究機関や企業とのコーディネート」。理研や慶応大SFCなど、AOI―PARCの「知の集積」にはさまざまな専門家が在籍する。「どんなノウハウが活用できるか、連携できるネットワークにはどんなものがあるのか」と未来を見据える和田取締役の目は真剣だ。
 
幅広い分野で農業支援 ― 常駐するコーディネーター
■「農業分野はすそ野が広い。ぜひAOIフォーラムに参加してほしい」と呼びかける加藤公彦氏
 AOI―PARCでコーディネーターを務める加藤公彦氏は、植物病理学や植物生理学が専門。増田採種場やイノベタスを担当している。農業生産法人の規模拡大や三島市の箱根西麓野菜のブランディング、機能性表示食品の申請などに力を入れる。
常駐するコーディネーターは加藤氏に加え、金融機関出身で主にビジネスマッチングを担当する内藤正英氏、化学関連企業で長年知財を担当していた上原寿茂氏の3人。それぞれの得意分野を生かした幅広い課題に対応している。
 「県東部には農業だけでなく活発な企業がたくさんある。そうした企業と連携しながら、既存の農業を変えていくようなお手伝いをしたい」と加藤氏。「昔ながらの農家に、現代に適応した産業として発展してもらいたい。農家自体が魅力ある商品づくりをし、販路の開拓まで部分的にでも経験すると意識が変わる。AOI―PARCの活動がそのきっかけになれば」と期待を寄せた。


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