サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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「光り輝く東部」を実現するため、官民一体で県東部の活性化策を探る静岡新聞社・SBS静岡放送「サンフロント2懇話会」(代表幹事・岡野光喜スルガ銀行社長)は先月25日、沼津市内のホテルで東部地区分科会を開いた。テーマは「2世紀型地域産業集積の創出と広域連携〜東部地区での展開」。経済産業省関東経済産業局の金子実産業企画部長の基調講演に続いて、柳下福蔵・沼津高専教授、木村学・ジーエイチクラフト代表取締役、中山勝・企業経営研究所産業経済研究部長、金子氏が、地域間競争に生き残るための東部地区における産業集積のあり方、課題などについて話し合った。コーディネーターは小桜義明・静岡大教授。

風は東から
 
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東部に21世紀型の地域産業集積を 人づくり、産学連携がキーワード

小桜 義明氏
小桜 義明氏静岡大学人文学部教授(地域政策論)
京都大大学院博士課程。静岡未来づくりネットワーク代表幹事、静岡地域学会幹事、静岡総研外部研究員、自治研究所講師。

中山 勝氏
中山 勝氏 (財)企業経営研究所産業経済研究部長
慶応義塾大大学院経営管理研究科修了。昭和56年スルガ銀行入行。57年(財)企業経営研究所出向。研究員、主席研究員を経て、平成12年から現職。サンフロント2懇話会シンクタンクTESS研究員、静岡県広域行政推進研究会委員など務める。
キーパーソンを
育てる
小桜 浜松は昔からの工業都市として有名で、静岡市もいろいろな地場産業が集積し注目されてきたが、県東部はあまり注目されなかった。これほど産業・企業が集積していながら注目されなかったのは、行政的にばらばらで、産業経済の活性化、統一的な振興施策ができていないことの反映ではないだろうか。来年秋、長泉町に開院する県がんセンターを核とした「富士山ろくファルマバレー構想」が推進されているが、この地域もようやく一つの方向性をもった芽が育ち始めてきた。
中山 県東部の産業動向を振り返ってみると、戦前の地場産業、戦後の地域産業と首都圏から移転してくる大企業の進出型産業の3つに分かれる。このうち、この地域にとって一番ポテンシャルが高かったのは進出型産業である。首都圏一〇〇キロ圏内で、太平洋ベルト地帯に位置し、しかも交通アクセスが良いのがその理由だろう。富士山や温泉という天然資源に恵まれていたことも挙げられる。業種で見た場合、紙や自動車産業、一般機械、医薬など、集積はバラエティーに富む。「特色がありそうで特色がない地域」と言うこともできる。一方、これからの産業集積のあり方としては「産業クラスター」という発想がある。競争力を有する企業をどんどん集めて、地域そのものの競争力を高めていく方法で、企業や大学、研究所、シンクタンク、行政が有機的に結びつくものだ。ファルマバレー構想はまさにこのコンセプトにのっとって進められている。ただし、シリコンバレーモデルができるまで長い年月を要したように、一朝一夕で十分な効果を発揮するには至らない。シリコンバレーはカリスマ性のある人の努力が大きな発展の契機となった。今後「人づくり」が地域を発展させていくキーワードになると思う。
小桜 人材育成という面において今、注目を集めているのが国立高専。専門の産業技術の現状を踏まえて人材育成の現場の状況をお話し願いたい。
柳下 高専の特色は「くさび型教育」。一年次から専門科目を取り入れて学年が上がるに従って専門科目を広げていっている。もう一つは「実験・実習」。原理原則のデータをとって体験的に学習していく。こういう点が産業界、大学からも評価されている。全国に国立大学が99校あるが、法人化して80校にしようという案が煮詰まっている。全国に54校ある国立高専だけの法人化の案は消え、どこかの大学と吸収合併する可能性がある。国の予算は減少傾向で、研究費は自分で稼ぐように言われており、その一環としてTLO(テクノロジー・ライセンス機関)がある。県内では静大工学部の同窓会が財団法人浜松科学技術振興会をつくり、そこが中心になって財団方式の「静岡TLOやらまいか」を立ち上げる運びとなった。TLOの狙いは、大学・高専の先生方の研究を特許化し、それを会員の企業が事業化するのを支援することである。
金子 高度成長期には官民複合体という形で進んできたが、今そういう体制が限界にきているのではないだろうか。官のすべきところはここまで、ここからは民の分野と責任関係をはっきりさせてやっていくことが大事だと思う。加えて、産業政策の中心が中央から地方に移ってきているのは確かな事実。大企業を中心にした中央からの産業政策は限界にきている。地域においていい芽を持っている人たちをつなぎ合わせる政策をやっていかなくてはいけない時代にきている。
 


人材誘致には
魅力あるまちづくり
柳下 福蔵氏
柳下 福蔵氏 沼津工業高等専門学校教授(制御情報工学)
静岡大大学院工学研究科精密工学専攻修士課程。工学博士(大阪大)。ASME(米国機械学会)、SME(国際生産加工技術者協会)会員。(社)精密工学会静岡県東部地区精密技術研究会委員長。専門分野:精密加工学。
小桜 身近なところではゴルフクラブのシャフトや釣り竿などに使われている炭素繊維。炭素繊維に特化してユニークな企業経営をされている木村さんから、日ごろお考えになっていることを発言していただきたい。
木村 シリコンバレーなど世界の研究センター的な地域には、知的レベルの高い人や上を目指そうという人たちがそこに住みたい環境がある。いい人を世界中から集めるためには、魅力ある環境としてのまちづくりが大切。工業団地やインキュベート施設を作れば良いというものではなく、文化的な面も含め知的な人材が住みたくなる総合的な町づくりが必要だ。今私たちは百数十年前の産業革命と匹敵するような変化の時代に直面している。事業にしろ地域にしろ、10年、25年、50年、一〇〇年以上と長期的な展望に立って考える時期だと思う。その意味で人材集めは重要で、苦労もしている。社員50人のうち半分が新卒エンジニアで、残念ながら地元出身者はゼロ。20代の彼らが40〜50代になる頃、当社の事業もニッチからメジャーになるだろう。例えば今、進めているのが日本版スペースシャトルの開発であるが、1sの物を宇宙に運ぶだけで百万円以上かかる現状のコストを、炭素繊維系複合材料と新しい工作法で超軽量化することで十分の一以下にする試みだ。協力して進めているNASDA/三菱重工をはじめ、世界の宇宙関連メーカーはナノテクノロジー(超精密技術)で軽くて強い次世代材料を開発し、0年かけて十分の一に、25年かけて百分の一にしようとしている。sの物を一万円そこそこで宇宙に運べる宇宙ビジネスの実現を目指している。その25年先のために今何をどうするのか。産業育成、人づくりにも長期的な視点が求められていると思う。
小桜 人材育成、誘致ということに絡んで、地元出身者がいないと木村さんがおっしゃっていたが、ここで育てるのは無理だろうか。
木村 企業にそれだけの余力があれば育てることができるが、今、大企業ですらできない状況である。しかし当社は学校をやっているようなもので、0年、20年という未来を見据えて取り組むべきことは十分ある。そのために今目先の2年、3年に何をすべきか?と考えている。ただこの辺りの人々は基本的にリッチで、ハングリーな状況ではない。毎日過ぎていくことに何の不都合も感じていない人が多いように感じられる。それも問題の一つだと思う。
小桜 関東経済局から見て富士山ろくはどういう位置付けをされているのか。
金子 一言でいうと非常に恵まれた地域。東京に近く、地価が安い。地域の優位性を生かして、ぎりぎりに迫られないとやらないというのではなく、ある程度の余裕があるうちに前向きな動きを進めていく必要がある。日本の次の産業として、バイオについて関東経済局でプロジェクトを立ち上げて取り組んでいる。ぜひファルマバレー構想とも連携していきたい。



木村 学氏
木村 学氏 (株)ジーエイチクラフト代表取締役
玉川大工学部機械工学科卒業後、昭和45年GHクラフトを創業。47年有限会社設立。御殿場市在住。炭素繊維強化プラスチック製品の新規開発、設計、製作を行う。複合材料学会、先端複合材料技術会(国際)会員。
東部に工学系の大学を
小桜 浜松における静大工学部と産業界の関係と比較して、県東部における沼津高専と産業・企業との関係の違い、特徴についてお話しいただきたい。
柳下 残念だと思うのは、浜松の「やらまいか」というくらい威勢のいい中小企業の社長がちょっと少ない気がする。浜松の中小企業経営者は外で喧嘩してでも仕事を取ってくるが、この地域の経営者は5年ほど前までは、仕事を取りに出ていかなかった。また、この地域には最新の技術情報を提供してくれる人が少ない。工学系の大学がないので、学会が開かれない。新しい技術情報を入手するには一日出張し東京か名古屋へ行かなければならない。
中山 2世紀型という新しい技術を求めるとき、工学系もそうだがビジネス系の研究者も必要である。ベンチャー企業からの相談において、技術面も評価するが、マネジメント能力はどうかというところまで見る。このあたりに産業集積をつくって技術系とビジネス系の研究者を置くには、高等教育機関は必要不可欠。シリコンバレーとスタンフォード大、医療産業が集積している地域とメディカルスクールが連携しているように”産学連携“がカギだと思う。
小桜 地域における産業集積を結ぶものとして、大学あるいは知的な研究開発に勤しむ人材が非常に必要だ。知的な能力を持った人が来たくなるような魅力ある街をつくっているかどうか。自然環境や立地条件の優位性だけに安住していてはいけない。県東部には古い歴史と産業・企業の集積がありながら、グローバル化した中で現状を見ると遅れをとっている。それが課題として浮かび上がったのではないか。それを克服するために、どう連携をしていくのか、広域的な市町村合併についてサンフロント2懇話会で今後も詰めていきたい。民間レベルから行政に突き上げると同時に、民間レベルにおける広域的な連携も具体化していくことも必要ではないかと思う。


  基調講演・地域産業集積の振興について

金子 実氏
金子 実氏 経済産業省関東経済産業局産業企画部長
東京大経済学部卒業後、昭和59年通商産業省入省。機械情報産業局情報処理システム開発課長補佐などを経て、中小企業庁地域中小企業振興室長、経営安定対策室長を歴任。平成13年から現職。

金子  実氏 経済産業省関東経済産業局産業企画部長

 日本の地域産業集積の多くは、大企業の下請け中小企業が集積している”企業城下町的なケース“。長野県諏訪の精密機械や浜松のオートバイなどがよく知られている。グローバル化の進展に伴って、大企業の生産拠点が海外へシフトし、下請け企業は打撃を受け、産業の空洞化が深刻だ。他方、工業団地に大企業を誘致した産業集積では、生産拠点から研究開発拠点に衣替えをしているところが多い。首都圏にはニッチな分野で製品開発力を発揮し高いシェアを確保している独立系中堅中小企業の集積などもある。
 いずれの産業集積においても、研究開発力や製品開発力が、国際競争力を持つ企業として発展していけるかどうかのカギになる。産学連携はこうした開発力を高めるために必要な交流促進の動きの一つである。大学のTLO(テクノロジー・ライセンス組織)を活用した広域的な連携が欠かせない。世界的に有名なアメリカのシリコンバレーを例に取れば、研究者同士の交流が柔軟かつ密接であることが特徴。交流を通して知識・情報が入り、相乗効果でいい人材や資金がどんどん集まり、至るところで研究開発の芽が生まれる。まさにアメリカの技術開発、製品開発の温床になっているといえる。
 残念ながら日本の産業集積にはまだそこまで機能していない。日本の場合は組織の枠が力を持っていて、個人レベルでの交流が十分に行われていない状況にある。その解決が今後の課題といえる。


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