サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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合併特例法の期限を3年後に控え、「平成の大合併」と言われる動きが全国で活発化している。県内でも様々な動きが顕在化してきた。だが、静岡市・清水市の合併がいよいよ具体化した中部、磐南等の取り組みが顕著な西部に比べ、東部の歩みはにぶく、合併の好機をみすみす逃してしまうことが懸念される。市町村合併に詳しく、静清合併にも関った県自治研修所の大多和昭二教授を迎え、東部の皆さんとともに県東部における合併の方向性を検証した。 風は東から
 
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合併の取り組みは西高東低 首長のリーダーシップ カギ
八木 和男 氏
三島青年会議所(JC)理事長
八木 和男 氏



芹澤 伸行 氏
函南町長
芹澤 伸行 氏
県下各地で現実味を帯びる合併への動き
県東部は始まったばかり
―― 静清合併が本決まりとなり、磐田市を中心にした地域などでも合併に向けた動きが活発化しています。東部はいまひとつ低調な気がしますが、県内全域から見た東部地域の動きをどう評価しますか。
大多和 まず県内の動きをざっと紹介してみましょう。今回の静清合併は各方面からモデルケースとして高い評価を受けています。地方分権の受け皿整備を目的とした動きでは庵原三町でしょう。最近では磐南五市町村が県の合併重点支援地域に指定されました。また一方では、山間地の小規模自治体同士である佐久間町・水窪町で合併の動きも出ています。両町は時代に必要な行財政基盤強化のための緊急避難的合併もありうるとレポートしており、小規模、あるいは山間地の自治体が体制強化をする際の一つの方向性を示していると言えるでしょう。その他、枠組みが固まった志太四市町と固めつつある島田・榛北と榛南、多様な組み合わせが提示されている中東遠など、中西部地域では地方の将来像を模索した様々な動きが活発化しています。
 東部地域では具体的な動きはまだ見えません。あえて挙げるなら中伊豆三町(修善寺町・中伊豆町・天城湯ケ島町)が、地形的、交通的にまとまりがよく、助役を中心とした勉強会が進展すれば比較的スムーズに論議が進むのではないでしょうか。三町合わせた人口が三万人を超えるので、平成十六年三月までなら合併特例法(※)の三万特例市が可能です。非常にタイトなスケジュールだが、やってできないことではありません。
―― 東部広域都市づくり研究会(沼津・三島・裾野市、函南・韮山・伊豆長岡・清水・長泉町)では先ごろ実質的な合併論議が始まったと伺っています。今後の見通しはいかがですか。
芹澤 研究会発足三年目でやっと「合併」という言葉が出てきました。第一回の検討会では、三市五町が合併しても人口五十万人、もっと範囲を広げて七十万政令市(※2)を目指したらどうかといった意見や、御殿場市、小山町も含めて検討したらどうかなどの意見が出ました。東部には西部の浜松、中部の静清と肩を並べられるだけの中核がない。ですから、東部拠点都市構想のようなものの必要性を強く感じています。今後はやるやらないは当然のこと、やるならどこまでを組み入れるのか、研究会としての結論を出すべきだと考えます。
―― 伊豆南部の状況はいかがですか。
梅本 合併議員勉強会(賀茂地区の市町村合併を勉強する議員の会)では一昨年十月から合併への模索を続けていますが、七市町村で一気にまとまろうというとやはり腰が引けてくる。西伊豆三町村、南伊豆・下田、河津・東伊豆の三つに合併した後、一体を目指すという議論もありますが、それでは小さな町村しかできず、合併のメリットが期待できるのかという気はしています。小規模自治体にとって最大の懸念が財政問題で、例えば介護保険に本格的に取り組んだ場合、財政が持ちこたえられるのか。先の西東京市の合併(※3)はまさにこの部分の解決策としてのもので田無・保谷両市長の大英断でした。下田市・賀茂郡下の首長も将来に向かって声を上げるべきだと思います。
 


差し迫る期限と高まらない意識
住民一人ひとりが自らの問題として取り組みたい

大多和 昭二 氏
静岡県自治研修所教授
大多和 昭二 氏

※1) 市町村の自主的合併を前提に、行財政制度の特例を認めた平成17年3月までの時限措置。手厚い財政的支援、合併後の議員の処遇への対応、市・政令指定都市への昇格条件の緩和、住民意向反映のための制度充実などが挙げられる。市に昇格する人口要件は平成16年3月までは3万人に、17年3月までは4万人に緩和される。

※2)政令指定都市の略。地方自治法のうち「大都市に関する特例」の適用を受ける市で、国が政令で指定した大都市をいう。行政や財政などの面で県と同等の扱いを受けられる。法律上は人口50万以上で政令で指定する市だが、人口100万、その他都市としての規模、行財政能力等において既存の指定都市と同等の実態をもつとみられる都市が指定されている。

※3) 多様化・拡大化する住民サービス等に対応するための足腰の強い自治体を目指し、平成13年1月に田無市、保谷市が合併し、誕生。

※4) 日本各地の港湾や空港を拠点として設けられた輸入関連ビジネスの集積地域。現在22地域が国の承認(同意)をうけ、整備がすすめられている。

―― 経済界としては当然広域の合併は避けて通れないというお立場ですか。
宇野 駿豆地区商工振興懇話会(沼津・三島市、清水町など九商議所、商工会で構成)では昨年十月から合併についての検討会を始めました。しかし、範囲が広いので地域ごとの温度差が大きい。例えば三市五町で合併した場合、地域ごとのメリット、デメリットが出てくるはずです。そこを自分たちできちんと精査し、理解した上でやるやらないの結論を出すべきだと考えています。
芹澤 合併した場合としない場合、特に合併をしなかった場合の将来像を本音で提示する必要があるでしょうね。函南町では合併を論ずる前に住民の考えている方向性を知ろうと、二度にわたって住民アンケートを行いました。合併の必要性が「ある」と答えた住民は両回とも60%弱。相手先としては三島市、韮山町がともに上位を占め、規模は十万人以上、五万人以上がそれぞれ30%強。ちなみに三市五町の合併については4%から9%に減っています。合併には関心があるものの、どうあるべきかという部分まで意識が高まっていないのが実状だと思われます。
梅本 私達、合併議員勉強会は下田市・賀茂郡下の住民八万二千人中八百人にアンケートをとりました。関心は持っているが規模論、時期論になると分からないという声が大半です。二万人規模でも何しろ合併すればいいやというところに行きついてしまう。また、コミュニティと市町村の行政区割りがごっちゃになってしまって、行政を強く大きくする一方で従前の地域コミュニティをどう守っていくかという議論にならない。合併=コミュニティの崩壊という単純な思いが住民側には強いようです。
大多和 住民が合併を望まないのは、今現在行政が破綻しておらず市民から見て実感がないからです。今はもっぱら行財政面で国や県にどっぷり依存しているが、地方分権の流れの中では様々な権限委譲に伴ってこういった行財政の補完は次第に減っていく。このままの体制ではダイレクトに市民サービスに影響してくるでしょう。例えば生活保護などの福祉行政を全て市町村に権限委譲したらどうなるか。恐らくギブアップするところが出てくるでしょう。そうなれば合併もしくは広域連携で対応せざるを得なくなる。その危機感をどのように官民が共有し、打開していくのかが今問われていると言えます。破綻した状態になってから住民を大騒ぎさせるというのでは、首長や議会は今まで何をやっていたのかという話になる。
―― JCという立場からはどのようにお考えですか。
八木 首長や議員さんはJCから声をあげてくれとよく言われます。JC独自で合併についての勉強会も行っています。ただ、特例法の期限が迫っている中で、住民発議よりも首長や議員からの方が事が運びやすい。ですからそのような動きが出てきた時には、いつでも協力する用意はできていると常々申し上げています。



梅本 和煕 氏
南伊豆町議会議員
梅本 和煕 氏



宇野 統彦 氏
駿豆地区商工振興懇話会
広域合併検討委員会委員長
宇野 統彦 氏
待ったなしの地方分権
合併はゴールではなく新たな分権時代の始まり
―― 合併特例法の期限が平成十七年三月と迫る中、議論の中心は合併しないと住民サービスが破綻するといった面に集まりがちですが、一方では合併すると新たにこんなパワーが出るという側面もあると思います。例えば政令市が挙げられるでしょう。
宇野 単純に政令市であるか否かの比較なら、政令市は都市整備も一体でできますし、今まで必要だった知事の承認、許可、認可等も必要がなくなります。スピードと効率が求められる経済界にとってメリットは非常に大きいですね。
大多和 政令市になれば県に匹敵するほどの権限が手に入りますし、中央政府に行くと全然評価が違う。静清合併の場合も合併することで政令市が具体化するという側面が大きかった。特に清水市は以前FAZ(※4)の指定を受ける際、最初に手を上げたにもかかわらず、横浜や神戸といった政令市の港湾に先を越された経緯があります。静岡市にしても今後の都市間競争時代を勝ち抜く意味でぜひ政令市は欲しいところ。経済界にとって非常に分かり易い説明だったわけです。
梅本 政令市を目指す、これはすばらしいことです。ただ、沼津、三島を中心に政令市ができれば、天城よりこちら側の市町村はますます取り残されるのではないでしょうか。同様に下田市・賀茂郡が一つにまとまっても中心部だけが発展するのではないかという議論があります。これが総論賛成、各論反対という合併議論を進める上での大きなネックになっている。
八木 まちづくりにも同じことが言えます。経済効率を高める合併はよいが、それによって住民サービスの低下に繋がるのではないかという懸念です。これは合
併論議が財政再建や政令市といった経済面ばかりにスポットが当てられていることにも起因しています。まちづくりの視点から合併のメリット、デメリットを住民に分かりやすくPRする必要があります。我々としてはまちづくりの原則的な仕組みやシステムなどをいち早く提案することが大切だと考えています。
芹澤 例えば三市五町での合併といった場合に函南町のような小規模自治体の民意をどのように活かしていくかも課題です。合併当初は議員数が確保されますが次からは枠がなくなり、函南地区の民意を反映させるだけの議員数が確保できないかもしれない。そういった場合に、地区内に自治能力を持った新たな行政区を作り、議員を選出し、議会に送り込む。広域になればなる程そのような仕組みが必要です。また、そうでなければ末端の細かなサービスが行き届かなくなってしまいます。
大多和 今は差し迫った地方分権の流れに、どのような枠組みで対応していくかを検討し、結論を出すべき段階です。権限の委譲が大きく進んだ後の望ましい統治形態なりコミュニティのあり方については、国が検討を始めましたが地方での議論が進んでいない。ただ、どんな地方自治の仕組みを作るにせよ、行政基盤そのものがしっかりしていなければどうにもならないのは明らかです。仮に合併が進み行政基盤は強固になったとしても、今まで以上に住民一人ひとりが自らの問題として地方自治に参画していかなければ、結局は行政任せの現状と変わらない。いずれにせよ、合併はゴールではなく新しい地方自治のスタートとして捉え、対処すべき喫緊の課題です。
 

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