サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 天城山脈に降った雨粒が、無数に集まり大河となって田方平野を潤しながら、やがて駿河湾へ注ぐ―。狩野川は文化・歴史・生活といった面で地域と密接に結びついてきた、いわば「母なる川」。いま、流域市町村が行政の枠を越え、様々な場面で連携し始めている。狩野川を軸に地域を見直すことで浮かび上がる田方エリアの本来の姿とは。
 今回は伊豆長岡町の大川清仁、大仁町の望月良和両町長、狩野川河川整備を統括する国土交通省沼津工事事務所の大野昌仁所長、狩野川を愛し、人と川との良好な関係づくりを進める狩野川倶楽部の内田隆久事務局長をお迎えし、狩野川流域の課題や地域の方向性、将来像などについてうかがった。
風は東から
 
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狩野川軸にすすむ連携 イベントを機に体制強化
大川清仁 伊豆長岡町長
大川清仁 伊豆長岡町長
 昭和48年株式会社昌和製作所(現・創輝株式会社)に入社、製造部長や品質保証室長などを歴任。平成12年4月より現職。企業人の経験を生かし、新たな町政運営に日夜奮闘中。



狩野川薪能
狩野川薪能(2002.8.17) お問い合わせ/狩野川薪能実行委員会 TEL0558-76-1630
川と人々との結びつきを見なおし、
河川整備で親水性のある水辺の演出を
― 最近、狩野川の堤防をジョギングする人や河川敷で遊ぶ親子連れの姿をよく見かけるようになりました。身近な自然として川を楽しむ人たちが増えてきているように感じられます。
大野 河川行政では従来、まずは生活の安全確保のための治水を優先してきました。ところが平成に入って名古屋の長良川河口堰問題などに見られるように自然保護、環境保全といった観点も重視されるようになってきました。川へのニーズが変化する中、遅ればせながら法律も改正され、川の持つ優れた環境を積極的に活かす方向にシフトし始めています。
望月 大仁町城山下で進められている「ふるさとの川整備事業」もその一例でしょう。当初はテニスコートやゲートボール場など人工的なものを整備する予定でしたが、計画段階で住民の意見を集めたところ、葦や自然を残そうといった声が多く出されました。
内田 三年前からはじめた狩野川薪能も城山と狩野川が織りなす素晴らしい環境を生かすことを念頭に置いています。年々問い合わせも増え、今年は堤防の一部を緩斜面化してもらい、より多くの方に楽しんでいただけるようになりました。夕暮れから夜にかけて、城山をバックにかがり火で照らされた舞台はまさに「幽玄の世界」という言葉がふさわしい美しい眺めです。
大川 伊豆長岡町では「ラブリバー事業」を進めています。護岸整備によって生活と切り離された川をもう一度暮らしの中に取り入れていこうという試みで、大門橋から千歳橋、放水路まで河川敷を広範囲にわたって占用させてもらい、花壇やビオトープ、ウオーキングコースなど親水性豊かな整備を行っています。また一定の管理下で車の進入を許可したところ、人が足を運ぶようになりました。将来的にはグラウンドゴルフのコースの設置も検討しています。こうした取り組みで川に来る人が増えたことは間違いないですね。
望月 本来、狩野川は地域生活と密接に結びついた川だったのです。ところが大きな被害をもたらした昭和三十三年の狩野川台風を契機に、狩野川の整備は一気に護岸工事による治水に傾いた。それが人々から川を遠ざけた面は否めません。今、あらためて川を身近に感じられるようにしようと、官民あげての取り組みが始まったところです。
 


進む狩野川の利用。
サイクリングロードの整備で新たな地域文化の創造を
大野昌仁 国土交通省沼津工事事務所長
大野昌仁 国土交通省沼津工事事務所長
 平成元年、国土交通省(旧建設省)入省。同省中国地方建設局道路部道路計画第一課長、道路局高速国道課長補佐を経て、13年より現職。趣味はサイクリング。大学時代は沖縄を除く全国を自転車で走破した。


内田隆久 狩野川倶楽部事務局長
内田隆久 狩野川倶楽部事務局長
 伊豆洋らんパーク代表取締役。中伊豆青年会議所理事長、大仁町観光協会理事などを経て、現在、大仁町観光協会会長、大仁町商工会副会長。大学生をかしらに3人の娘の良き理解者である。
― 堤防を利用したサイクリングロード整備もその一つですね。

湯ッくりんぐ
湯ッくりんぐ中伊豆(2002.427〜2003.3.31)/ お問い合わせ:湯ッくりんぐ中伊豆事務局 TEL0558-74-0303
大野 これほど自然が豊かな川にサイクリングロードが整備されていないのは残念ですね。全国的に見ても、例えば関東平野の多摩川や利根川などは素晴らしいサイクリングロードが整備されています。狩野川は堤防の上の未舗装部分も多く、人が歩くにしても歩道があちこち寸断されている状況なので、まずはその改修を自治体と一緒に進めていこうとしています。
大川 サイクリングロード整備は観光面からも待たれるところです。現在、中伊豆五町(伊豆長岡・大仁・修善寺・中伊豆・天城湯ケ島町)で行っている「湯ッくりんぐ中伊豆」にも大きな弾みになる。昨年から始めたレンタサイクルと立寄り湯を楽しむイベントですが、着実にファンが広がっている状況です。
内田 狩野川倶楽部と大仁町観光協会で開催する一○○キロサイクリングも年々参加者が増え、昨年は県内外から四百人もの申込者がありました。大仁を起点に沼津や天城湯ケ島などの山間部をぐるっと回るのですが、狩野川沿いに一体的なサイクリングロードができればさらに参加者の裾野は広がるでしょう。

100kmサイクリング
100kmサイクリング(2002.9.29)/お問い合わせ:大仁町観光協会 TEL 0558-76-1630
望月 自転車の楽しみ方は通常、目的地までは電車や車で自転車を運び、自然を満喫できるコースを走って帰ってくるのが一般的です。現在は国土交通省と協力しながら、伊豆箱根鉄道への自転車乗り入れもお願いしています。電車での移動ができれば、駅を起点に行動範囲は広がります。川ルートと鉄道ルートがそれぞれ整備されれば、中伊豆エリアを手軽に自転車で移動できる。観光振興に大きな力になると思います。
大野 また三島や沼津の人が気軽に上流部に来られるといった上下流の交流も生まれます。イベントの実施などを糸口に、ぜひ日常的な交通手段として定着させたい。こうした動きが広まれば、上流の人が自転車で三島に行って買物し、荷物ごと自転車を電車に乗リ入れて帰ってこられるといった具合に交通渋滞の緩和や環境保全にも繋がります。サイクリング環境を整備していくことで住民の関心も高まり、新しい自転車文化が芽生えるのではないでしょうか。


望月良和 大仁町長
望月良和 大仁町長
 昭和62年大仁町議会議員に当選、平成3年4月より現職。他に大仁警察署防犯協会長、大仁町青少年問題協議会長、大仁柔道会長など。好きな言葉は「今日に生きる」。趣味はスポーツと読書。


狩野川4町花火大会
■狩野川4町花火大会(2002.8.1〜4)/ お問い合わせ:各町観光協会
狩野川を軸に見えてくる地域の将来像。
結びつきを強め、一つの市へ
― すでに観光面などでの連携が進む中伊豆エリアですが、忘れてはならないのが時代のニーズでもある広域連携・合併です。狩野川一つとっても互いに結びつきの強いこのエリア。例えば狩野川を軸にした将来像なども描けるのではないかと思います。
望月 町村合併については一つの財産を共有することが大きな要素だと思っています。上下流で狩野川を中心とした結びつきが将来的に考えられるとしても、今のところはそれぞれの町が抱えている問題点が多少ずれているので考えにくいですね。共通部分の連携を強めていくのが先決でしょう。例えば経済をどう再生していくかという問題に対して、近隣市町村と基幹産業である観光面で連携するといった手法が考えられるわけです。大仁に観光施設が少なくても、周りの地域が良くなれば必ず還元されていくわけですから、やはり連携していくべきだと思います。
大川 伊豆長岡・大仁地域と、修善寺から上流部といったくくりならまとまりやすいのではないでしょうか。すでに、それに近いことは「湯ッくりんぐ中伊豆」や「もてなしの道」、「日中学生会議伊豆フォーラム」など具体的な取り組みの中で実質的に始まっています。
内田 例えば「天城山で植林をやろう」と声をかけた場合、天城の人は自分たちの町だからとやってきます。しかし、他の地域の人は積極的に参加してくれない。皆さんは多かれ少なかれ狩野川の恩恵を受けているのだから、みんなで狩野川を守っていこうというのが本当でしょう。合併すれば自分の町のこととして受け止めてくれるのではないでしょうか。
大野 これだけ地域が分断されていると、自治体の枠を超えた取り組みについて、なかなか意思決定ができないという側面があります。県中・西部、あるいは他地域との地域間競争を考えた時に分断による意思決定の遅れが地域のデメリットになることは否めません。しかし、地域ごとにまちづくりを真剣に考える自治体があって、その民意を首長が発言できることはメリットだと思います。

― 狩野川が中伊豆エリア振興の大きなキーになることは間違いないようですね。まずはイベントを足がかりに進んでいく。八月初旬には近隣四町(韮山・長岡・大仁・修善寺町)でのリレー花火が開催されると聞いています。
大川 伊豆新世紀創造祭を機に、以前から行っていた花火大会の実施日を互いに調整し一つのイベントとして情報発信する試みです。狩野川を背景に地域ごとに特色ある花火を楽しんでいただけます。
大野 また今年は狩野川改修七十五周年にあたります。それを記念してさまざまな行事を秋に予定しています。シンポジウム形式にするか、イベントにするか、周辺自治体のご意見やご協力もいただきながら素晴らしい内容にしたいと思っています。
望月 近年の狩野川の歴史は国土交通省と周辺自治体の協力の歴史でもあります。排水機場や上流部の砂防堰堤の問題などを一つひとつ解決しながら、地元の生活や生命財産を守ってきました。今後も狩野川へのさまざまな取り組みを協力しあって実現していきたいですね。
 

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