サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
トップ 最新情報 政策提言 活動内容 サンフロント21懇話会とは 飛躍 風は東から

 9月開院の県立静岡がんセンターを核に動き出す富士山麓先端健康産業集積構想(ファルマバレー構想)。富士の裾野に世界的な産業振興エリアを構築する試みだ。地域活性化の起爆剤として地元の期待も大きい。
 今回は静岡がんセンターの山口建総長、ファルマバレー構想推進協議会委員で矢内原研究所の矢内原千鶴子所長、県企画部の福山嗣朗部長をお迎えし、静岡がんセンターとファルマバレー構想のさまざまな可能性を検証するとともに、世界をもにらんだ県東部地域の将来像についてうかがいました。聞き手は静岡産業大学の大坪檀学長。

風は東から
 
バックナンバー


患者の視点重視したがんセンター 「心のオアシス」目指し構想推進
山口建 静岡県立静岡がんセンター総長
山口建 静岡県立静岡がんセンター総長
 慶応大医学部卒業後、国立がんセンター研究所研究員、同センター中央病院内科医となる。内分泌部長、細胞増殖因子研究部長などを経て、平成11年から研究所副所長、宮内庁御用掛。12年には高松宮妃癌研究基金学術賞を受けた。

静岡がんセンターを核にしたファルマバレー構想
「患者の視点」を重視した医療・健康産業の集積を目指す

大坪 県立静岡がんセンターが、いよいよ九月に長泉町に開院しますね。最新の技術と設備を備えた日本一、いや世界一のがんセンターと聞いています。
山口 もともと日本のがん専門医は世界のトップレベルだといっても過言ではないんですね。大腸がんを患ったアメリカの医療関係者が、海を越えて日本の国立がんセンターに治療にこられた例もあります。このような専門医が十二分に力を発揮できる環境を築きたいと思います。
矢内原 静岡がんセンターは国立がんセンター中央病院(東京都)、東病院(千葉県柏市)に対し「西病院」と呼べる程の充実ぶりとうかがっています。技術、設備、人材とどれを取っても国立に勝るとも劣らない静岡がんセンターですが、違いはあるのでしょうか。
山口 大きく違うのが、国立がんセンターが両院ともリサーチオリエンテッド(研究指向型)なのに対し、静岡ではペイシェントオリエンテッド(患者指向型)に重点を置いたところです。患者の視点を重視しよう、言いかえれば患者満足度、これをどう追究するか。基本的に三つのポリシーを挙げています。まずは「治す」。ただ治すのではなく、患者さんへの負担をできるだけ少なく”上手に“治す。次は「支援する」。よろず相談所や二十四時間電話相談を設けて、告知を受けた患者さんや家族のさまざまな苦しみや悩みをできるだけ軽くすることに力を注ぎます。また患者図書館を設けます。最後は「進化し続ける」。我々自身の問題ですが、たゆまなく成長・進化を遂げていくことで常にベストの医療を提供していきます。その目標に向かって人も集め、機器も整備し、建物も造ってきました。
大坪 そして、このがんセンターの開院を契機に、静岡県が進めてきたファルマバレー構想がいよいよ具体化していくわけですね。
福山 静岡県は以前から目的指向型行政運営を目指してきました。これは県民本位の立場に立って、県民の皆さんの幸福に最終的な価値を置く。そのために行政はどうあるべきかをとことん追究するものです。ファルマバレー構想も、最終的な価値を県民の皆さんの健康に置き、「そのために何をすべきか」から始まっています。まずは県民ニーズに応える高度医療の研究・開発とそのための研究促進。さらにこれらの取り組みを核として県東部に健康関連産業の振興・集積を図っていくことです。言いかえれば先端的な研究開発、産業の創生と活性化です。その条件としてネットワークづくり、人づくり、まちづくりの三つの支援戦略を立てています。がんセンター開院はこの壮大な構想の第一歩であり、その中心的な役割を担うものです。
 


対話と協働で戦略推進
産学官の連携で大きな可能性が花開く
矢内原千鶴子 矢内原研究所長
矢内原千鶴子 矢内原研究所長
 大阪大医学部薬学科卒業後、ピッツバーグ大蛋白質研究所研究員、静岡薬科大助教授を経て、昭和62年大阪大医学部教授、平成8年同大名誉教授、兵庫医大病院薬剤部長、11年大阪薬科大学長、13年より矢内原研究所所長を兼任。


福山嗣朗 静岡県企画部長
福山嗣朗 静岡県企画部長
 東大法学部卒業後、自治省入り。自治大学校研究部長兼教授、宮内庁官房参事官を経て、平成10年自治省消防庁震災対策指導室長、11年静岡県教育次長。13年4月より現職。
山口 ファルマバレー構想におけるがんセンターの役割を私はニーズとシーズ(※1)の接着役と認識しています。つまり、この患者さんを治すためのこういう技術がほしい、あるいはこういう素材がほしいということを発信する。同時にベンチャー企業や製薬会社、医療機関からは、こういった技術がありますが何か使いみちはありませんか、という情報が集まってくる。そこから新たな展開が見えてくるはずです。今はその辺がなかなかうまくいっていない。
大坪 この構想はお金をかけて団地を造成し研究所を入れるというものではなく、地域が持っている資産をどう組み合わせて有効活用していくかという、非常に知的なプログラムです。今後、ネットワーク型の研究開発が活発化していくだろうと思いますが、それらをうまくジョイントする仕組みが必要ですね。
福山 今おっしゃられた点、産学官の連携と協働をどう進めるかがこの構想の成否を握る重要な鍵なんですね。そこで構想を推進する上で一番核になる構想推進センターを来年度には設立する予定です。その中身は大きく分けて四つあります。一つは共同研究支援機能です。二つ目は臨床試験支援機能。これはすでに治験ネットワークとして先行して進めています。三つ目がインキュベート(※2)機能、そして四つ目が情報交流・人材育成支援機能。これは交流サロンや研究開発フォーラムなどを広げていくことでニーズとシーズの合致を期待するものです。
山口 構想推進センターの一角で、医師や研究者が一杯やりながら、今度はあの人の話が聞きたいね、そう言えばあの研究はどうなっているの?といったフランクな話ができれば成功じゃないですか。
福山 すでに今年度からワークショップを頻繁に開催して、産学官の交流をどんどん進めています。行政はお膳立てをするだけで、集まった人達が自由に活動を盛り上げていってほしいですね。
矢内原 東部に製薬業の四割があるものの、各社の一部のブランチがあるだけで企業全体でファルマバレー構想を考えるという環境には残念ながらなっていない。一方、中小企業も数はあるが相互の連携は弱いのが現状。そこにがんセンターという核ができ、しかも新しい研究所ができてくる。これはいやが上にも大きな吸引力になるでしょう。そして、神戸(神戸医療産業都市構想)や千葉県の上総地域(かずさアカデミアパーク構想)といった先端技術産業構想とは異なり、”住民“を中心に置いたという点で一線を画しており、それがこの構想が突出している理由だと思います。是が非でも成功させていただきたいですし、それにはこの構想推進センターの役割はきわめて重要ですね。


大坪檀 静岡産業大学長
大坪檀 静岡産業大学長
 東大経済学部卒。(株)ブリジストン宣伝部長、米国ブリヂストン経営責任者を経て、静岡県立大学経営情報学部長、ハーバード大学客員研究員等を歴任。平成12年より現職。

静岡県立がんセンター
9月の開院に向け着々と準備が整う静岡県立静岡がんセンター。雄大な富士の麓で世界レベルの医療を提供する。
新しい産業を産み出し、既存の産業を活性化する
新たな地域の創造がここに始まる
大坪 そうした産学官協働の中から、具体的にはどのような医療新産業あるいは新薬が生まれるとお考えですか。
矢内原 がんセンターが中心ですから、まず考えられるのが、がんに関連した創薬が中心でしょう。ただしそれには長い年月と莫大な開発費がかかります。また、治験も容易なものではありません。大きな製薬企業でなければできない分野です。そういう意味では小規模の会社やベンチャー企業にとって、がん治療に関連するバイオマーカー(生体内生化学的指標)などの評価法の研究開発、看護・介護技術やそれに必要な用具・機器類の研究、地域の様々なリソースを使って健康関連食品を作るといったことは可能ですね。
山口 あまり進んでいないのが患者さんのケア用品の開発です。ここはまだまだ世界的に見てもやることがたくさんある分野です。あるいは医療に用いる素材。例えば生体膜。内視鏡手術などでできた穴に一次的に皮膚のかわりをさせるものです。患者さんのためになることでこれからの産業の余地が十分にある分野、そこにはベンチャーの出番はたくさんあるでしょうね。
大坪 ファルマバレー構想が進展していく中で、今後この地域はどう変わっていくと思われますか。
福山 健康関連産業は非常に将来性が見込まれますから、たくさんの企業が集まってくるでしょう。そうすれば健康に役立つ事業が増えていくとともに、雇用機会が創出されます。県民のみなさんにとって一石二鳥になる。それを期待しています。
山口 がんセンターの職員は約九百人。さらに委託業者だけでも三百から四百の人が出入りします。先だって長泉町のハローワークで行われた委託業者の面接には七百人もの人が殺到しててんやわんやだったそうです。フルオープンでないがんセンターですらこれだけの雇用が出現していますから、ファルマバレー構想が推進される中ではさらに雇用機会は増えるでしょう。
福山 更に伊豆半島にも近く、温泉など観光資源も豊富です。地域の特性を生かした、いわゆるウエルネス産業も健康関連産業の一つとして有望になってきます。それも育てていきたいですね。
大坪 がんセンターや構想推進センターといった高度な知識創造・活動機関ができると、周りにはものすごくたくさんの人やもの、情報が集まって来ます。レベルの高い知識層が移り住むことで街も随分変わるでしょう。がんセンターの周辺もここが日本か、というくらいきれいになりましたね。
福山 新幹線三島駅からも近く、東名高速、第二東名も目と鼻の先です。静岡空港が開港されれば新幹線を使った既存ルートで一時間半程度、第二東名を使えばもっと早い。世界各国の研究者が空港を利用してがんセンターに集うということが頻繁に起こるかもしれません。特にアジアの研究者はそうですね。交通基盤は戦略的に整備していますから、ますます利便性の高い地域になるでしょう。
矢内原 それからやはり富士山があるというのは強いですね。関西から見ますと富士山はあこがれですし、世界的に見ても有名な山です。先ほど伊豆の話もありましたが、静岡県はもっと富士や伊豆の宣伝をした方がいいですね。
山口 富士山を見るといい気持ちになります。同様に、がんセンターを見た皆さんが安心感を抱けるような施設にしていきたい。がんセンターにはたくさんの患者さんとその家族、医療関係者が訪れます。地元の方々と手を携えて地域としてやさしい気持ちで迎えられるようになれたらいいなと考えています。世界中から「2世紀の心のオアシス」と呼ばれるほどに魅力的な地域に発展させていきたいですね。
 

■企画・制作/静岡新聞社営業局

▲ページトップ
入会案内お問い合わせ事務局案内リンク Copyright(c) SUNFRONT21.ALL RIGHTS RESERVED.