サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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富士裾野の田園風景
■ 富士の裾野に広がる田園風景。澄んだ空気の中でおだやかやな時間が過ぎて行く。
 日本最古の住居群落とも言われる窪A遺跡の発見で一躍脚光を浴びた芝川町。眼前に雄大な富士を臨む静かな山あいの町は、バブル期の開発競争の波に飲み込まれることなく、今もなお、日本の原風景ともいえるのどかで静かな佇まいを残す。
 手つかずのまま残る豊かな自然はもちろんのこと、様々な歴史や文化など芝川には多くの優れた資源がある。そこに少しずつ光を当てながら、この地域ならではの魅力を磨いていきたい。それが芝川に生活する人々の自信や誇りとなり、心の通った観光につながっていったら――。そんな地域づくりが今ゆっくりと動き出している。
 今回はその中心的役割を担う芝川町商工会の活動を中心に、地域づくりにかかわる人々を追った。
風は東から
 
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人々の想いが育むまちおこし 地域を掘り起こし交流を促進
信長の首塚
■ 信長の首塚がある西山本門寺。あまたの歴史を刻み、今日も静かにたたずむ。
西山本門寺

文化と歴史、自然が調和する芝川町
点から線、線から面の観光へ
 芝川町商工会は三年ほど前から交流人口の拡大を模索、従来の観光、工業、商業、女性、青年の各部会を一本化し、「芝川町活性化推進委員会」を立ち上げた。雄大な富士の姿を背景に、町中に点在する「天子の七滝」や芝川の奇岩群(ポットホール)、西山本門寺や信長の首塚に代表される史跡などの資源に、地域のイベントや特産品をからめ、内外に芝川の魅力を発信していこうとする試みだ。
 ことし六月には従来の芝川寄席をリニューアルし、信長の首塚がある西山本門寺を会場に、「信長公没後四百二十年・歴史と文化交流発信事業」と銘打ったイベントを開催した。『信長公首塚』と刻んだ記念碑の除幕式を皮切りに、供養祭や講談、津軽三味線、曲ごまなどの芸能や特産品を集めた楽市・楽座、地元住民の民芸や踊りの発表会、アマ囲碁本因坊戦などが行われた。商工会事務局長深澤久男さんは「信長公の子孫の織田信成(のぶしげ)・信和(のぶかず)両氏をはじめ織田家ゆかりの方の参列もいただき、盛大なイベントとなりました。六百五十年余りの歴史を誇る西山本門寺の魅力を掘り下げながら、地域交流の拠点にしていきたい」と語る。
 さらに、まちおこしサミット「織田サミット」への参加を目指す。これは信長公ゆかりの市町村が交流しながら、歴史と文化を基盤に魅力ある個性豊かなまちづくりを進めるもの。シンポジウムや鉄砲隊の実演射撃、武者行列の再現、物産販売や観光案内などのイベントを持ちまわりで行い、交流人口の拡大を図る。現在、芝川町とともに登録準備を進めている。
 


「まちおこし」はまず「人づくり」から
地域を見直し、心を添えた観光振興を
数万年の時をかけて侵食された甌穴(ポットホール)
■ 数万年の時をかけて侵食された甌穴(ポットホール)。芝川の多様な自然が垣間見れる。


深澤商工会 事務局長。
■まちおこし事業の要、深澤商工会 事務局長。「織田サミットを起爆剤に」。
 芝川町活性化推進委員会実行委員長・増田秀次さんは、自らのビジネスを通じて「人づくり」がいかに重要かを痛感し、その経験を生かした地域づくりにも力を注ぐ。芝川町の美しい自然、観光資源を即ビジネスに結びつけるのではなく、「心」を添えた観光振興を目指している。「芝川町を訪れた人たちが、こんな親切を受けた、こんな触れ合いがあったと感激し、この町を自分たちの『ふるさと』のように思っていただければ」と話す。
 また、増田さんは三十年前、近所の小学生が通学路に「あいさつ道路」と名づけ、「おはようございます」と気持ちいいほどの大きな声であいさつを交わしていたことを思いおこす。「昔は当たり前だった人と人とのつながり。時代の変化とともに地方でも心の都市化が進み、地域の結びつきが希薄になっている。三十年前の子どもたちの「おはよう」の声、「ありがとう」の気持ち、そんな小さな事柄から見直したい」という。
 子どもの手本はまず大人からと、住民を対象に人間性を高める講演会などを商工会で企画しながら「住民総意のもとにまちおこしをしていきたい」と語る。また、第一線を退いた“高齢者パワー”を地域に生かそうと、同商工会はエコマネーの研究にも力を注ぐ。ことしから始まったふるさと案内人も、西山本門寺だけでなく今後は芝川町全体に広げていく考えだ。
 行政に依存するのではなく、自分たちのできるところから一歩一歩進んでいこうと、すでに西山本門寺の草むしり、観光客への接待など地元ボランティアの輪も広がりつつある。地元中学生や先生の地域行事への積極的な参加も心強い。ハードにお金をかけるのではなく、時代の変化に対応し知恵を絞りながら、手作りのまちおこしを模索中だ。


増田町活性化推進委員会実行委員長
■「善意と善意が行き交うまちを目指したい」。増田町活性化推進委員会実行委員長。

窪A遺跡
■ 砂で埋められ、今後の行く末を静かに見守る窪A遺跡。縄文人はここでどのように暮らし、富士の勇姿に何を思ったのか。
特産品の開発で地域の魅力を再認識
観光ルートの整備は必須の課題
 清恭治さんは、二年前に商工会会長に就任。「これだけ素晴らしい景観を持つ芝川町に、大勢の人に来てもらい、のんびり遊んでいただきたい。交流人口を増やす、そのためにはもっと観光振興に力を入れないと」という。
 この基本方針のもと、同商工会は観光パンフレットを作りイベントに力を入れる。特産品の開発にも取り組み、公募した二十八点の中から「ゆべし」、「柿巻き」、「栗のシブ皮煮」、「カリッ娘」の四点を採用。今年度はパッケージと販路を検討し、来年四月から正式に販売する。
 清会長は三百年続く造り酒屋の蔵元。地域の活性化につながればと、仕込みが終わった後の酒蔵を開放し、その年できた酒を振舞う「蔵開き」を三月に開催している。特産品の販売コーナーや、踊りや大正琴など地域住民の文化発表会も兼ねたこのイベントには、県内外から一万人ほどが訪れる。
 芝川町の自然にひかれ、東京や横浜などから移り住む人々もいる。「手漉き和紙作家の内藤恒雄さん、陶芸家の今野登志夫さんといった方たちは積極的に住民との交流に参加してくれます。また、首都圏で行われる作品展などを通じて芝川の魅力を情報発信してくれています」と清会長。自然体験プログラムを幅広く展開するホールアース自然学校代表・廣瀬敏通さんもその一人。「自然は人間が何であるかを教えてくれる先生、そこでは素直に自分を見つけることができる。そんな自然がたくさん残る芝川町で、多くの人に多くのことを体験してほしい」と語る。彼らを通じて地元があまり気付かない芝川の魅力を再認識したい考えだ。
 情報の発信と同時に、同商工会は地域に点在する見所を結ぶウオーキングルートの整備も町に働き掛けている。ことし三月、縄文草創期の住居群落が見つかったとしてにわかに脚光を浴びた「窪A遺跡」を含む森山と西山本門寺を通って柚野地区に至るルートだ。
 遺跡発掘のニュースの発表後、窪A遺跡にはゴールデンウィークに県内外から一万人を越す見学者が詰め掛けた。近くの農産物直売所で連日、農産物が品切れになるなど大きな手ごたえを感じている。まだ五、六年の調査期間が必要になるそうだが、それまでに観光客が休憩できるような拠点整備も含め、ウオーキングルートの整備を積極的に働き掛けていくことにしている。
 

柿巻き
ゆべし
カリッ娘
栗のシブ皮煮
■ 地元で取れる農産物にひと工夫、なつかしくて新しい特産品が開発された。(左より、柿巻き、ゆべし、カリッ娘、栗のシブ皮煮)


桜に込めた人々の想い
まちづくりのエネルギーは郷土への愛着

新しい発想でまちおこしをリードする清商工会会長
■新しい発想でまちおこしをリードする清商工会会長。「自ら行動することが大切」。
 商工会の様々な活動は確実に地域に浸透している。地域振興に役立てばと、柚野地区と稲子地区を結ぶ桜峠の二千坪(約六千六百u)の山を提供する人も現れた。譲り受けた「柚野むらおこしの会」では、早速、杉の木を伐採し、そこに河津桜やソメイヨシノの苗を植えた。その話を聞きつけた休耕田で桜の苗木を育てている人からは、数年経った桜の若木を寄贈してもらった。
 「あと五、六年もすれば、ユー・トリオ(町営の温泉施設)に来るお客さんやこの峠を通る人に美しい桜並木を見てもらうことができる。みんなの力で作った新しい桜の名所になりますね」。赤とんぼの飛ぶ小高い山の斜面に立って、清会長は笑顔を見せた。
 まちおこし、地域改革に向かうエネルギーはどこから出るのか。「やっぱり生まれた土地に対する愛着でしょうね。地域を良くしようと思ったら、まず自分が動かなければ始まりませんよ」。清会長のこの言葉がまちおこしに関わる人々に共通する思いなのだ。

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