サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 静清合併、環浜名湖市構想など広域合併を通じた新しい地域づくりを模索する県中・西部の動きに比べ、今ひとつ機運が盛り上がらない県東部地域。中伊豆エリアや賀茂郡下で行政・議員が主体になっての合併像が模索されているものの、東部の“核づくり”の動きは見えてこない。中・西部に政令指定都市が誕生すれば、東部の相対的な地盤沈下も危惧(ぐ)される。
 そんな中、沼津・三島両商工会議所は9月24日、沼津市のブケ東海で「広域合併研究会」(会長:諏訪部恭一沼津商工会議所会頭)を立ち上げた。それに先立ち両会議所は沼津市・三島市をモデルにした市町村合併に関する調査を行った。今回は調査の概要と、東部地域に必要な中核都市形成の可能性を探る。
風は東から
合併特集(2)
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待たれる県東部中核市の誕生 沼津・三島商議所が連携、推進
通勤・通学の状況(図表)

沼津市への流入
どこから 総数 流入率
三島市
8,865人
13.8%
裾野市
4,226人
14.0%
御殿場市
2,267人
4.5%
清水町
4,971人
27.8%
長泉町
4,665人
22.1%
函南町
2,608人
12.0%
伊豆長岡町
1,094人
11.2%
韮山町
1,163人
10.0%

三島市への流入
どこから
総数
流入率
沼津市
5,281
4.2%
裾野市
1,607人
5.3%
御殿場市
660人
1.3%
清水町
2,369人
13.3%
長泉町
2,307人
10.9%
函南町
4,596人
21.1%
伊豆長岡町
1,090人
11.2%
韮山町
1,786人
15.4%
沼津・三島を核に地域が一体化
合併のメリットは「中核市移行」
 沼津商工会議所はことし五月から七月にかけ、十の部会で合併についてのさまざまな論議を重ねてきた。しかし、フレームを決めないことには具体的イメージがつかめないことから、三島商工会議所に呼び掛け、東部の核となる沼津・三島市をモデルに定性的、定量的な分析をし、討議のための基礎資料を作成した。資料では地域の一体性や現状の把握、他地域との比較を調査し、合併した場合のメリットや留意点が報告されている。
 両市と周辺市町の人口流入出を見ると、通勤・通学者数は三島市から沼津市へ九千人弱、沼津市から三島市へ約五千人の流入がある(図表)。沼津市への流入は、御殿場市を除くほとんどの地域で一○%以上、清水・長泉町では二○%を超え、この地域の一体性を強く示している。周辺市町村からの購買活動は、沼津市が清水町(二二・六%)、長泉町(一九・一%)から多く集客しており、三島市へは函南、長泉、韮山町からそれぞれ二五%近い流入がある。通院・入院も沼津・三島市への周辺地域からの依存度は高く、両市がこの地域の中核を担っている現状がうかがえる。
 両市が一体となった場合の県内での位置付けを各経済指標で見ると、それぞれ約一○%のシェアを占めており(図表2)、東部地区の中核を形成してはいるものの、県中部の静岡市、西部の浜松市と比べた場合、スケールの違いもまた鮮明になっている。
 次に両市が合併した場合のメリットを見てみよう。まず挙げられるのが中核市(人口三十万人以上、面積百平方キロ以上で指定を受けることが可能)への昇格だ。中核市になると福祉・環境、都市計画などの権限が委譲され、地域自らの責任と判断による独自のサービスを提供することができる。例えば、保健所の設置による地域住民の健康計画が独自の責任と判断で推進できるようになる。また、合併特例法期限(平成十七年三月)内に合併した場合、合併に必要な費用の約七割が国からの補助金で賄えるなどの財政的優遇措置が受けられる。他にも都市規模の拡大に伴う都市型産業の振興や重要プロジェクトの誘致、地域としてのイメージアップなどが期待される。反面、企業・事業所にとっては新たに事業所税が加算される。

沼津市・三島市の位置づけ(図表2)
項    目
調査年
静岡県
静岡市
浜松市
沼津・三島
シェア
可住地面積(キロ平方メートル)
2000年
2731.5
193.4
229.4
125.9
4.6%
人     口 (千人)
2001年
3764
470
570
320
8.5%
世  帯  数(千世帯)
2001年
1298
176
205
120
9.2%
事 業 所 数(事業所)
1999年
203106
28274
30103
18704
9.2%
農業粗生産額(億円)
1999年
2903
169
304
118
4.1%
製造品出荷額等(億円)
1999年
159122
7808
20481
9914
6.2%
卸売業年間販売額(億円)
1999年
82476
24586
21501
8312
10.1%
小売業年間販売額(億円)
1999年
42663
6394
7998
4031
9.4%
課税対象所得額(億円)
1999年
59894
7835
9620
5426
9.1%
地方財政歳出額(億円)
1999年
13556
1852
1975
995
7.3%


広がる地域格差と県東部の現状
住民の「民意」醸成が課題





 県内に目を向ければ、中部は来年四月に合併が決まった静岡・清水市(二年以内に政令市へ移行)、西部でも八十万政令市を目標に浜松市を中心とした「環浜名湖政令市構想」がすでにスタートしている。政令市になれば県と同等の権限を持ち、自己決定、自己責任において一体的なまちづくりが可能。例えば新都市交通や道路網といったアクセス基盤をはじめ、総合病院、大学、コンベンションセンター、美術館、巨大なショッピングモールなどの高次都市機能が整備しやすくなる。横浜市、福岡市に代表される政令市は全国に十二都市。来年四月には十三番目となるさいたま市が誕生する。
 「戦略ビジョン型合併(「静岡県市町村合併推進要綱」)」を積極的に推し進める中・西部に比べ、なぜ東部にはそうした動きが出てこないのか。市町村合併に詳しい県自治研修所教授の大多和昭二氏は、「文化、教養、生活、娯楽といったさまざまな面で関東の外延現象の恩恵を受けている東部は、地域完結型の行政サービスを期待する度合いが低い」と指摘する。交通の利便性の高さを反映して、買い物はもちろん多くの人々が東京圏に通勤・通学し、温暖な気候を求め国や大学病院の付属機関がこの地に進出する。大多和氏は「地域間競争をやる都市形成が必要だという人々の『民度』が上がってこない。民度というのはそこに住む人々の意識、知識、洞察力といった総合的な価値観であり、その地域がどのレベルにあって、どのように地域づくりをしたいかの満足度。高いレベルで東京の影響を受けている東部の人達の民度が低いかというと決してそうではなく、それにもかかわらず一つの核になる都市がないというのは歴史的事情もあるが、問題にするほど地域に対して不満を持っていないことの表れ」と分析する。






「住民発議制度」の仕組み
 
一つの市町村の住民が請求する場合
  
合併関係市町村が連携して請求する場合
合併協議会設置の要求
それぞれの請求内容が 同一であるか知事が確認
請求を受けた市町村から 関係市町村への意見照会
合併協議会の設置の要求(全ての合併関係市町村で)
全ての市町村での議会付議の回答
全ての市町村で議会付議・可決
合併協議会の設置
東部に求められる戦略ビジョン
地域のリーダーは積極的に汗を流せ
 研究会は今回の沼津・三島モデルをベースに、すでに一体化が進んでいる地域を入れた三市五町(沼津・三島・裾野市、清水・長泉・函南・韮山・伊豆長岡町)に枠を広げ、さまざまな角度から合併の検討、検証をしていく。さらに、今年度中の「合併のための住民発議」をにらみ、積極的に地域への説明会も予定している。三島商工会議所の峰田武会頭は「少子・高齢社会を迎え、このまま合併が進まなければ財政的に行政が立ち行かなくなるといった説明をする一方で、国際社会に対応し得る真に実力のある地域の将来像―例えば、三島・沼津間のアクセス改善策や、港・新幹線・東名高速を有する伊豆の玄関口としてのにぎわいづくりといった具体例を提示しながら、住民に合併の是非を問うていきたい。狩野川への架橋一つとっても、二つの行政区域だとなかなか話はまとまらない」と話す。
 また、沼津商工会議所の永松太明専務理事も、東部で進行中の「ファルマバレー構想」を例に上げ、「従来の製造産業が海外流出し、地域産業が空洞化する中、地域特性を新たな産業分野として生かせるファルマバレー構想には地元経済界も大いに期待するところ。地域全体の課題として取り組むべきものという共通認識はできている。その意味においても合併は避けて通れない」と強調する。
 ますます激化する全国規模の地域間競争時代には、いま困らないからという理由で将来に向けた備えを怠れば、名古屋、浜松、静岡、横浜といった東海道ベルト地帯に点在する都市の間にあっては単なる通過点として埋もれてしまう。そうならないためにも首長、議会、経済界といった地域のリーダーが分権型社会における地域ビジョンを確立し、それにまい進する中で行政に不足する、あるいは必要な地域資源や人材・技術、また安定した財政基盤や行政権限を獲得するために合併問題を真正面から受けとめる必要がある。「民意が熟すのを待つのではなく、住民にしっかりと時代認識をしてもらうために、首長、議会、地域のリーダーは自ら汗を流さなければならない。望ましい姿を描く真剣さとそれに対する強い思い入れが不可欠」。変革のこの時代、求められるリーダー像を大多和氏はこう語った。

将来を見据え、市民の目線に立った合併を
沼津商工会議所
    諏訪部恭一 会頭

 夜、箱根方面から国道一号線を下ってくると、眼下に広がる田方平野の夜景の素晴らしさに息をのむ。と同時にこの地域が沼津と三島を中心にした、まさに一体の都市であることを実感する。しかし、実際には幾つかの自治体に分かれ、住む人々は自分の自治体の財政力や政策に従った住民サービスを受け、選択の余地はない。そこには、眼に見えない行政の境界が存在する。
 今、全国自治体の約8割、2,500の市町村で合併の取り組みがなされ、県内でも合併特例法の期限である平成17年3月を意識した動きが各地で起こっている。国と地方自治体の権限、財源などの関係が大きく変わる中で旧来の仕組みでは十分な行政サービスが受けられなくなるという危機感からだ。
 地域における人々の活動範囲が格段に大きくなっている現在、昔ながらの行政区域に縛られる必要はない。今は困らないから良いのではなく、将来を見据え、広い視野でのさまざまな施策を進めなければならないのだ。
 沼津・三島広域合併研究会は、少子高齢化や経済のグローバル化が進展する中にあって、地方が自立して主役になれる「真の地方分権体制」の確立こそが地域を活性化し、厳しい都市間競争に立ち向かう道であり、そのためには市町村合併が不可欠であるとの認識に立って設けられた。その中で、地域の一体性の実態や合併の意義、合併をした場合の都市像をイメージし、広く合併について市民の目線に立った議論をしていくための研究を進めていく所存だ。
 合併問題は、行政の変革で、市役所や役場の課題とされがちだが、今の私たちと将来の子や孫にかかわる大きな問題との認識を多くの方々に持っていただき、一緒に考え行動していきたい。



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