サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 平成7年3月を期限とする合併特例法。メリットの大きい様々な合併支援策は一方で期限後の地方支援の縮小を暗示している。国依存の体質から抜けきれない市町村にとって地方交付税などの大幅な削減は財政を圧迫し、行政サービスの低下や、住民の負担増につながりかねない。
 とりわけ平成2年にスタートした介護保険制度は、市町村が運営主体であり、過疎化と少子高齢化が進む小規模市町村にとって、サービス維持に向けた財源の確保は将来にわたり極めて重要な問題となっている。
 風は東から「合併特集」第2回では、年内の合併協議会設立(法定)に向けての動きが加速する田方地区を例に、介護保険制度の現状とその課題にスポットを当てる。
風は東から
合併特集(2)
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求められる社会的貢献の視点 ビジョン共有し地域が生かせる大学を
小野徹 小野建設社長
 


市町村ごとに保険料が異なる介護保険制度
少子高齢化の進展で負担増は明らか
 平成十二年から始まった介護保険制度は、介護が必要な高齢者が在宅で自立した生活ができるよう、必要な福祉・介護サービスを総合的に受けられる仕組みだ。運営は主に市町村が担う。
 加入者は六十五歳以上の第一号被保険者、四十〜六十四歳までの第二号被保険者で、そのうち介護が必要と認められた人だけが介護サービスを受けられる。利用者はかかった費用の一割を支払う。残りの費用の半分を国、都道府県、市区町村が分け合い、もう半分を四十歳以上の一号、二号加入者から徴収した保険料で賄う。(図1)
 六十五歳以上が負担する一号保険料は、居住する市区町村ごとに異なる。それぞれの市区町村がお年寄りの数や予測されるサービスの量、施設数、利用率等からどんなサービスがどのくらい必要かを事業計画にまとめ、そこから全体の給付費用を試算して必要な保険料額を割り出しているからだ。事業計画は三年ごとに見直される。
 国立社会保障・人口問題研究所が平成十四年にまとめた「日本の将来推計人口」によると、日本の高齢化率は平成十二年に一七・四%、二十二年に二二・五%、三十二年には二七・八%と増加の一途をたどり、高齢社会の到来は確実と予測する。
 田方九町村では、すでに平成七年に人口のピーク(十三万千三百五十八人)を迎え、緩やかに減少している。特に平成二十七年ごろまで増加傾向にある函南・韮山町を除く七町村は大幅な減少を続け、平成十二年の七万五千人弱が平成二十七年には十一%減の約六万七千人と予測される。(図2)
 総人口に占める老齢人口の割合は、田方九町村が平成十二年で一九・九二%。全国平均(一七・三一%)より二・六 高く、さらに平成二十二年になると、その差は四・八 拡大して二六・八五%となる。高齢化の進展が極めて早いことが読み取れる。これは、函南・韮山町を除いた七町村ではさらに加速し、平成二十二年には二九・六%に達し、住民のほぼ三人に一人が六十五歳以上となる。(図3)
 人口の減少と急速な高齢化は、介護保険事業にとって財源不足と利用者増のダブルパンチに他ならない。行政、住民双方への負担は今後ますます大きなものになることが予想される。


課題が山積の介護保険制度
広域化による運営基盤の充実が必須





田方南部広域事務組合
昭和39年、修善寺・中伊豆・天城湯ケ島の3町でのゴミ処理施設設置を機に、管理・運営のための一部事務組合「修善寺町他二カ町村衛生処理施設組合」を設立。その後介護保険業務を追加。それに伴い年4月より名称を現在の「田方南部広域事務組合」に変更。
 平成十四年度の田方郡の保険料は平均二千八百十七円。ほぼ全国(二千九百十一円)並だが、高齢化が進むにつれ、市区町村ごとに割り出される一号保険料が増えていくことはまず間違いない。
 特に、一人当たりの平均利用額が在宅サービスに比べて高い特別養護老人ホームなどの施設サービスが増加した際の保険料への影響は大きい。人口規模が小さければ小さいほど、高額施設利用者が一人増えた場合の保険料へのはね返りが大きくなるなど地域の介護保険事業計画への影響も少なくない。急激な保険料の増加は六十五歳以上の一号被保険者の懐を直撃しかねない。それを避けるためにも、分母となる市町村をできるだけ広域化し、保険料の平準化を図ることが肝要だ。
 また広域化は運営主体の行政そのものにもメリットが少なくない。制度にかかわる職員数は十万人超の市部で約十人。ところが人口二万人前後の小さな町村でも最低四人程度は必要。広域化することで事務作業を効率化すれば、浮いた財源で新たなサービスの創出や、高度な専門性を持った職員の配置なども期待できる。
 介護保険を利用するには、市町村窓口へ申請し、介護支援専門員による訪問調査を受け、その結果と主治医の意見書をもとに介護認定審査会で介護が必要か否か、また必要とされる介護のレベルが判断される。県東部健康福祉センターの渡辺治平介護保険課長は原則として市町村職員が行う訪問調査の重要性を強調する。
 「対象者がやせ我慢をしたり、プライベートな部分に踏み込まれるのを嫌がったりと、適正な調査がされず十分な介護を受けられないケースも往々にしてある。調査員には、相手がなかなか言い出せない部分をいかに読み取るかといった洞察力や豊富な現場経験に加え、老人福祉に関する深い知識が必要」と介護支援専門員には社会福祉士や介護福祉士といった高い専門性が不可欠な点を指摘する。
 広域化による事務作業の効率化は、すでに田方郡の一部で行われている。中伊豆・修善寺・天城湯ケ島の三町は田方南部広域事務組合を設置。異なる市町村にまたがる一部事務組合が三町の介護保険を運営する。申請窓口と訪問調査は町ごとに行うが、それ以外の事務作業や介護認定調査会、保険料徴収などの業務は職員四人で一手に引き受けている。
 介護認定審査会がひと月に審査する件数は三町あわせて約百件。保健・医療・福祉に関する専門家五人からなるチームを四チームつくり、各チームが月一回、平均二十五から三十件の審査をこなす。
 同組合の久保田義光介護保険室長は「四チーム体制でも必ずしも十分とは言い切れない。小さな市町村が専門家を自前で賄い、十分な対応を行うのは極めて困難ではないか」と小規模市町村での介護保険運営の難しさの一端をのぞかせる。
 また、一部事務組合だけでは市町村ごとに行われる老人福祉行政と介護保険運営が切り離されてしまう問題も指摘する。「本来介護保険は地域の老人福祉と一体であるべきもの。広域化によって効率化は図れるものの、本当の意味で地域のお年寄りのための福祉サービスの向上につなげるには、部分的な共同事務に留まっていてはいけない」と、老人福祉の観点から田方南部で機運が高まっている合併に期待を寄せる。






西東京市
平成13年1月、「少子高齢化社会に対応するには、合併で財務体質を強化し、行政の効率化を図ることが不可欠」と、田無市・保谷市市長の強力なリーダーシップのもとに合併。旧田無市(約8万人)と旧保谷市(約10万人)が一体となる効果で10年間に199億円の経費を削減し、浮いた財源で主に福祉・教育の充実を目指す。
「合併待ったなし」の小規模市町村
老人福祉への取り組みは住民一人ひとりの課題
 厚生労働省は来年四月からの六十五歳以上の介護保険料の全国平均が、現行の二千九百十一円より十一・三%増の三千二百四十一円になると発表した。地域格差は最大で八倍。県内も現行の約一割の値上げになる見込みだ。
 増加の一途をたどる保険料負担を抑制しようと、同省は介護保険事業の広域化を図る自治体や、市町村合併を行った自治体に対して「介護保険広域化支援事業」を行う。広域化にかかわる一時的なシステム経費や事業経費の増加による負担増を肩代わりし、合併本来のメリットがきちんと住民に還元されるように合併推進を側面から支援する。
 一方、自民党の地方自治に関する検討プロジェクトチームが先に行った論点整理には、特例法の延長はしない、地方交付税の優遇措置縮小のほか、人口一万人以下の小規模市町村の権限は住民への窓口サービスに絞り、その他の業務を都道府県や近隣の中核自治体に移すという「地方の選別」とも取れる厳しい指針も見え始めた。地方、とりわけ小規模市町村にとっては、時代の潮流のなか、合併問題を直視せざるを得ない状況が確実に膨らんでいる。国は「アメとムチ」両面から合併への一層のてこ入れを強化する方針だ。
 平成十三年一月、一足先に合併を済ませた東京都西東京市(人口十八万人)が合併を決意した最大の理由は、まさに介護保険への将来的危機感からであったという。介護保険の問題は、今は財政基盤の脆弱な小規模市町村に焦点があたりがちだが、老齢人口の増加は福祉や医療面での行政サービス需要の増大につながり、小規模市町村に遅れて高齢化が進む沼津、三島、富士といった人口十万人以上の都市部においても今後大きな課題となっていくことは間違いない。
 高齢者単独世帯への生活支援の充実や救急医療体制の拡充、専門的な人材の確保、さらに予防医学や高齢者の生きがいづくりなど、介護保険をはじめ老人福祉のあり方そのものが今大きく問われている。
 超高齢社会の到来という激しい変革のただ中にあるこの国で、重要なのは時代に先手を打つ施策であり、住民一人ひとりが地域を考えていく行動だ。言い換えれば、私たち一人ひとりに将来を見据えた選択、決断が強く迫られていると言えるだろう。



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