サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 「県東部に大学院大学を―」。昨年秋に「県東部に大学を誘致する会」が県知事に要望書を手渡し、あらためて課題の1つに浮上してきた県東部への新しい大学誘致。市町村再編で先行する県中・西部には既に国立大学、私立大学に加え、静岡県立大学や県がバックアップする静岡文化芸術大学があり、地域の人材育成の要(かなめ)となりつつある。地域に根ざした大学は、県東部で誕生が待たれる中核市においてもきわめて重要な機能の一つだ。
 サンフロント2懇話会特集「風は東から」合併シリーズ第3回「教育」では、大学の機能や地域教育に造詣の深い静岡県立大学の北大路信郷教授、静岡県伊豆県行政センターの府川博明所長、小野建設株式会社の小野徹社長をお迎えし、地域における大学の役割や県東部に求められる大学の姿についてうかがった。(聞き手は静岡新聞社・伏見一成東部総局長)
風は東から
合併シリーズ(3)教育
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求められる社会的貢献の視点 ビジョン共有し地域が生かせる大学を
小野徹 小野建設社長
小野徹 小野建設社長
昭和45年慶応大学経済学部卒業。(社)静岡県建設業協会情報・IT対策委員会委員長代行、(社)三島建設業協会広報委員長を務める。元・韮山高校PTA会長、現・三島市立錦田中学校PTA会長として地域の教育をリードしている。


大学院大学誘致に必要な地域に生かす視点と経営の枠組みづくり
―― 高次都市機能の代表格の一つに大学がよく挙げられます。ファルマバレー構想をめぐっても県東部にも高次都市機能を求める声が高まってきています。本来はまず基盤となる中核都市づくりが先行し、その中で地域が必要とする大学設立となるのでしょうが、ここでは逆に地域の象徴づくりとも言える大学誘致を手掛かりに県東部再編のヒントを探ってみたい。昨年春から動きが目立つ大学院大学誘致構想なども踏まえながら、まずは地域における大学づくりについて考えていきたいと思います。
 府川 大学づくりの面から話をすると、県内には短大から高専まで含めて大学が四十一あり、四万人の学生が学んでいます。東部にはそのうち九校で、八千三百人が通っています。これを少ないと見るかどうか。確かに多くはないですが、やみくもに大学をつくるというのではなく、その前に地域で大学をどう育てるか、活用するかといった「大学の生かし方」をよく検討することが大切でしょう。
 北大路 一言で大学づくりといっても教える側の視点に立つと具体的にどのランクを狙うのかが重要です。一時期、偏差値の輪切りだと盛んに取りざたされましたが、今の大学は当時よりもさらに序列化が進んでいます。知的好奇心や興味といった学力の根本的な部分や、学習への動機の低下など学生の格差は広がる一方です。大学そのものが多すぎるとの指摘もあります。その意味で的を絞りやすい大学院大学の誘致は選択肢としてはかなっているのではないでしょうか。
 小野 過去、県東部でも大学誘致の話が浮かんでは消えてきました。人材確保の面からも、今度の大学院大学誘致構想には大きな期待を寄せています。ところが、では実際にどこに誘致するのか。今回の誘致はある程度街なかに広い土地を確保することが前提になるとも聞いています。そんな広い土地を現状の市町村の枠組みの中で用意できるのか。地元住民からするとどこか煮え切らない、半信半疑の部分もあります。
 府川 最近は大学の設置基準も大分緩和され、それほど広い土地が必要というわけでもなくなってきました。ただ、大学院大学は学生数が少ないですから経営的には苦しい。授業料を一人二百万円取っても百人程度の生徒数ではおのずと限りが出てきます。そういった意味で経営の難しさをどうバックアップするのか。採算に載らないまでもどこまで支援するかという枠組は、ある程度地元経済界や行政がつくるべきでしょうね。
―― どんな大学にしろ、今の社会情勢の中では一つの市や町で持つのは難しい。どんな街づくりに役立てるのか、どういうものを目指すのかといったグランドデザインの中に必要な姿を描き、広域的に連携しあって誘致するなりつくるなりすることが重要なのでしょう。


地域経済とリンクする地方大学。
教育機関整備と産業育成は地域活性化の両輪


府川博明 氏
府川博明 静岡県伊豆県行政センター所長
京都大学教育学部卒業後、静岡県入り。新大学整備推進室長を経て、平成10年大学課長、11年企画部企画総室長、14年4月から現職。静岡文化芸術大学設立時には県の担当者として手腕を発揮した。
―― 府川さんは県庁の大学課で浜松市の静岡文化芸術大学設立に尽力されました。この大学は財界や産業界、経済界からの強い要請があってできたそうですね。
 府川 人口五十万人を抱える大都市・浜松に自前の大学がない。市でも大学を作りたいという考えはありました。また、少子化の中で、当地にあった県立大学短期大学部のあり方そのものを見直さなければならないということも加わって、県の思いと産業界の思い、市の思いが一致してできた大学です。県がある程度経営面のサポートをしながら、運営自体を機動的に行っていくために産業界の方に理事に入ってもらいました。公設民営の、今でいう独立行政法人の先駆けのようなスタイルです。
―― デザイン学部というユニークな学部もありますね。
 府川 自動車、楽器、繊維といった地場産業との結びつきを念頭に設置しました。街なかにあるため学生も積極的にまちづくりに参加していますし、薪能などの学外を巻き込んだ活動も実施しています。地域に開かれた大学です。
 北大路 地域との結びつきが強いこと、これが地方大学の特徴です。地元での就職が魅力的であれば、質の高い学生も集まるが、そうでなければ来ない。要は地域経済とのリンクです。幸い静岡県立大学は地元から非常に高く評価されていて、地域の名のある企業に毎年必ず採用してもらっています。実際、他の地方都市から入学し、そのまま県内に就業する生徒も少なくありません。その意味でも新しい大学をつくる場合には、どういう学生や研究者が集まる大学にするのか、大学のコンセプトづくりが非常に重要になると思います。大学院大学となればさらにその傾向は強くなるでしょう。
 小野 我々は土木建築という部門をやっていますが、実は県内に土木建築を専攻できる大学はないのですね。業界内では土木建築専門の大学や学部がほしいという話が常に出ています。県東部には日大付属三島高校があるので、ここを卒業し日大の理工学部や工学部、生産工学部で土木建築を専攻した学生を、Uターン就職で確保しやすい面はあります。もちろん東京で就職する学生もたくさんいますし、戻ってきた学生を行政や地元企業が取り合うわけですから、決して十分とは言えません。いずれにせよ土木建築をやろうという人間は一度は静岡県から出ていってしまう、それをもう一度戻ってもらうという大変な思いをしているわけです。
―― 地元に大学があれば地元に就職するケースが増えてくるし、いい大学になればよそから学生がくる。産業界にそれだけの力があれば地元に就職し、ひいては街の活性化にもつながる。地域が大学を持つことの意味は非常に大きいということですね。


北大路信郷氏
北大路信郷 静岡県立大学経営情報学部教授
国際基督教大学大学院卒業後、アテネオ・デ・マニラ大学客員講師、地方自治研修資料センター研究員を経て昭和63年静岡県立大学助教授、平成2年同大学教授。主な研究テーマに地方行政における広域行政、情報公開、行政評価など。
求められる地域のグランドデザイン。
社会的貢献をテーマに東部ならではの新しい大学像を
 北大路 よく政令市になると大学が持てるといわれますが、本来は逆で、政令市になるのに大学が必要なのですね。今、静岡・清水の合併で不安視されているものの一つに、政令市の人口要件七十万人はクリアするけれど他の政令市と比べて都市の風格や基盤などが全然違う、あんな大都市と同じになれるのかということがあります。政令市になったからできるのではなく、仮に政令市を目指すなら、それを前提に「こういうグランドデザインを実現していこう、そのために地域のコンテンツを磨いていこう」といった取り組みが重要なのですね。政令市になった暁には、という議論では結局何も進まないのが現実だと思います。
 小野 この地域でも沼津と三島を結ぶ道路すらまともでないのに、合併合併と先に騒いだところでやっぱりだめなんですね。十分な都市基盤も整備されないまま、仮にその二つがくっついて果たして本当に県東部の中核として機能できるのか。沼津と三島をターゲットにおくなら、そこにどんなグランドデザインを描くのか、まずはそこからだと思います。
―― がんセンターにしても開院して終わりというのではなく、本来は道路も含めた周辺をどう整備・発展させていくか。実はそれこそが重要だと思います。がんセンターをいかに地域に生かすか、そのために地域はどうあればいいのか、そんな課題を共通項に周辺市町村がまとまっていくのも一つの手だと思いますし、大学誘致もそれをどう県東部が生かしていくのか、その中で必要な将来像は何かという議論だと思います。そういう意味ではもっと地域に入り込んで発言し、リードしてくれる大学がほしいところです。
 北大路 大学はこれまでそういった「地域への貢献」を二の次、三の次にしてきたきらいがあります。よく、大学の役割を教育、研究、社会的貢献の三本柱といいますが、そうは言っても研究と教育の両立は難しい。まして社会貢献までやるとなるとどうしても散漫になる。しかし、これからは社会的貢献を第一目的とする、そんな大学なり大学院大学が必要になってくるかもしれません。
 府川 アメリカには大学が四千校以上あります。日本は短大を含めて千二百校。人口は日本の二倍ですが大学の数は三倍以上です。なぜかというとアメリカの学生は若者だけではないのですね。社会人や高齢者に加え、女性の社会参加が進んでいる。そういった新しい層を積極的に取り込むことで学生自身も単眼ではなくいろいろな形の目を養えるようになる。それも大学の新しい魅力になります。
 北大路 特に注目したいのがNPOです。今後、女性を中心にNPOで活動したいと願う人はますます増えていくでしょうし、三島はグランドワークが日本で初めてできたという実績もある。NPO、企業、行政などのさまざまな地域団体をコンサルテーションできる人材育成などは非常にニーズが高くなると思います。そこまで目的を絞り込んだ大学はまだありませんし、逆にそれができれば他をリードできることは間違いありません。
―― 東部には伊豆がありますから、観光業をコンサルテーションできる人材を地域の大学が輩出する、そんな仕組みができれば支援も集まりやすいかもしれません。まずは地域がしっかりとしたビジョンを共有し、その上で連携し合いながら具体化していく。県東部ならではの新しい大学の誕生が待たれるところですね。


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