サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 合併特例法の期限を2年後に控え、「平成の国取り合戦」とも言われる市町村合併の動きが全国的に活発化している。県内でも新市の名称が決まった御前崎・浜岡両町をはじめ、合併協議会の準備委員会を立ち上げた島田市・金谷町・川根町など、具体的な枠組みが姿を現しつつある。
 サンフロント2懇話会特集「風は東から」合併シリーズ(4)では、県東部としては初めて合併特例法の期限内合併に名乗りをあげた修善寺・中伊豆・天城湯ケ島・土肥町を取り上げる。伊豆の中央に位置し、県東部で最大の面積となる新市の姿を通じて、新しい伊豆観光の姿や今後の県東部再編の動向などについて考える。
風は東から
合併シリーズ(4)
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伊豆随一の観光立市へ発進 未来見据え踏み出す田方四町
手を取り合う4町の町長と 議長
平成14年12月24日 合併協議会設置協議書に調印し、手を取り合う4町の町長と 議長=修善寺町役場


県東部に新市誕生。自治体としての責任果たす土肥町の英断
 「伊豆中央部の十、二十年後を見据え、魅力ある市、頑張れる地域を目指して、力を合わせて合併協議を進めていきたい」 一月二十四日、ラフォーレ修善寺で開かれた「修善寺町外三町法定合併協議会」の初会合の冒頭、協議会長の大城伸彦修善寺町長は力強く語った。この日から、修善寺・中伊豆・天城湯ケ島・土肥四町は、平成十六年三月三十一日の新市誕生を目指して、具体的な協議を開始した。
 修善寺・中伊豆・天城湯ケ島三町の連携の歴史は古い。昭和三十九年にはゴミ・し尿処理などの業務を共同化。平成十二年四月に全国で始まった介護保険導入に際しては、県内でただ一つ、介護認定審査会、保険料徴収なども含め一体的に運営。同年施行された地方分権一括法、また、市昇格への人口要件が三万人に緩和された合併特例法を追い風に、早くから三町合併の意思表示をしていた。
 今回はこの三町に土肥町が加わった。同じ田方郡下とはいえ、土肥町へ抜けるには国道136号での山越えか、有料船原トンネルでのルートしかない。厳冬期は雪や凍結で通行止めになることも多く、日常生活の一体度は低い。もっとも、前後を海と山に囲まれた土肥町は隣接するどの町村からも隔てられた、いわば「独立圏域」。住民感覚からすると合併は遠い世界の話だ。
 しかし、加速する地方分権の時代、国や県からの補助に依存する小規模自治体の将来は決して明るくない。昨年七月に政府地方制度調査会が発表した「小規模市町村のあり方」の論点整理やその後公表された「西尾私案(※)」では、小規模市町村の権限縮小、都道府県や周辺市町村による行政業務の代行、さらに「将来的には『市』を基礎的自治体として町村はなくしていく」との方向性も示された。
 本来、地方自治は住民=納税者からの「信頼」の上に成立する。保健・福祉といった基礎的な住民サービスさえも独自に行えない自治体では今までのような住民からの厚い信頼は保てない。土肥町が今回の合併に踏み切った背景には、住民に対する的確な行政、最低保障的な福祉行政ができる自治体に、自らなろうという強い決意を垣間見ることができる。田方郡という明治以降続く政治的なつながりの歴史や、今までの広域連携の実績が土肥町を三町との合併に踏み切らせた。
 市町村合併に詳しい県自治研修所・大多和昭二教授は、「財政運営強化もさることながら合併の手だて(特例債)がある時に上位の力をつけた自治体に成長しようとする動き。豊富な温泉や天城山、土肥港といった多様な資源を共有し活用することもできる。仮に新市名が伊豆市にでもなれば『伊豆』という全国的なブランドが手に入る。より大きな行政権限を持つと同時に県東部最大の面積と名前を含め市というイメージを手に入れることは、激化する地域間競争の勝ち組になるための非常に戦略的な動き」と評価する。

※西尾私案…政府地方制度調査会の西尾勝副会長が昨年十一月に提出した私案。一定の人口規模に満たない町村は一律に権限を縮小し、場合によっては周辺自治体に編入させるとした内容が含まれている。小泉首相の諮問機関である地方制度調査会は、この私案をもとに小規模自治体のあり方の検討を進めている。


楽しさキーワードに伊豆観光のリードを


 新市の人口は約三万八千人、面積約三百六十四平方キロ、静岡市、本川根町に次ぐ県内三番目の広大な面積を持つ。基幹産業は観光。長引く不況や、競合観光地の台頭などで伊豆全体の観光交流客数は年々減少傾向にあるが、四町合わせて年間約五百万人(平成十三年度県調べ)と、下田市を抜き、伊東、熱海に続く伊豆第三の観光市となる。
 最も関心の高い新市の名称については公募で意見を募り、小委員会で検討した後、合併協議会で決定していく。「名前の問題はいろんな意味で綱引きや政治的な力が働くため、えてして中庸的な名前になりがち。観光的に考えるなら、それぞれの街の由来や知名度を勘案した観光地らしい名前がいいのでは」と株式会社ツーリズム・マーケティング研究所の中根裕主席研究員は観光的な観点からの名称選択の重要性を強調する。さらに新しい新市観光のあり方についても「温泉旅館に泊まりおいしい料理を食べるといった従来の観光スタイルに、医学的な見地からの健康促進メニューをプラスした新しい形態が求められていくだろう」とアドバイス。健康づくりが今後の観光の重要なテーマである点を指摘し、温泉、自然、食と三拍子そろった新市の豊富な資源を通じて、多様な観光健康促進プログラムが生まれることを期待する。
 その際、キーとなるのは「楽しさ」の演出。一時流行したクアハウスが衰退した要因のひとつは、入浴手順を詳細に指示されるため、温泉に入る気持ちよさよりも義務感が先に立った結果といわれる。地元の食材で作る、カロリー計算されたヘルシーでおいしい食事と、ガイドつきのエコツアーで雄大な自然を満喫しながら、あるいは農業体験にいそしみながら決められた運動量をこなす。一汗かいた後は、ゆったりと温泉にひたってリフレッシュ。この地域には、そんな新しい旅が描けるストーリー性が秘められている。
 合併を契機に行政組織や観光協会の効率化・意思決定の迅速化も図られる。それにより、イベント時期の調整や今までバラバラだったTV・新聞、チラシなどを使った広告が無駄なく効果的に行えるようになる。また、大型キャンペーンや年間を通じた施策の展開など、予算の拡大と配分の見直しによる大胆な施策の立案、運営も可能だ。
 近く発表される新市将来構想にもこれら地域資源をどう観光に生かすかといったことが盛り込まれる。現在のモータリゼーションからすると道路整備は大きな課題。合併を機に県から重点支援地域の指定を受け、伊豆縦貫道の延長や土肥へのアクセス改善といった基本的なインフラ整備を積極的に進めたい考えだ。


ファルマバレー構想と連携し地域全体の底上げへ
 県中西部がそれぞれ政令市構想を中心に再編に向かう中、今後の県東部はどうなっていくのだろうか。東部のほかの市町村よりも一足早く合併に歩み出した四町は次のステップも視野に入れる。
 合併協議会の幹事会メンバーである修善寺町児島保次総務課長は「近い将来、この東部地区で起きるだろう第二、第三の合併ステップに向けた布石」と話す。新市が特例法という恩典を得ながら新しい枠組みで落ち着く五年後、十年後には、さらなるボーダーレス化と地域間競争の激化が予想される。地域づくりの戦略上、どこと組めば生き残っていけるかという問題も改めて浮上する。その時、市として確固たる実績を残しておけば、田方北部や沼津、三島とも対等に渡り合える。中核市、政令市といったさらに大きな力を獲得する動きに対してイニシアチブを取ることも可能だ。
 同時に、東部で進められているファルマバレー構想についても、伊豆随一ともいえる豊富な資源を背景に積極的に連携していく考えだ。ファルマバレー構想という極めて優れたソフトを活用しながら、今まで別々だった福祉、医療、保健、健康などの分野をトータルに考えた予防医療や健康寿命を伸ばす取り組みに力を入れる。その根底には、住んでいる人が健康であってこそ、訪れる人へのいいおもてなしにつながるとの思いがある。「ファルマバレー構想の後援地域を目指しながら、結果、それが観光に結びつき、住民の健康に結びつくといったトータルな地域振興を目指したい。中伊豆のグリーンツーリズムや修善寺の桂座など、すでに確立されたものも含め、地域資源の活用を念頭に、『癒し』の地域づくりに発展させていきたい」と児島課長は抱負を語る。
 今回の合併が示すとおり、二十一世紀の初頭は分権型社会への移行期にあたる。調整が続く南伊豆、西伊豆など新しい枠組みが誕生する可能性はあるものの、「平成の大合併」といわれる一連の動きの中で東部に中西部に負けない政令市が誕生する可能性はきわめて低い。大多和教授は「県東部の場合、地形的にも現在の状況から見ても、まずはこの四町と、田方北、駿東といった十万単位の基礎的な自治体としての市の姿を整え、その後、十分に自治能力を持った人口二十〜三十万という単位の都市が林立していくのではないか」と話す。一極集中ではなく、個々の自治体がバランスよく連携しながら競い合っていく。ファルマバレー構想といった東部全体の課題に対しては個々の地域が役割分担し相乗効果を発揮していく、そんな将来像を描くこともできそうだ。
 四町が合併を迎える十六年三月までは約十三カ月。県への合併申請や、県議会の議決、総務大臣への届出などにかかる期間を除くと、実質八カ月ほど。合併というスタートに向けた四町の準備はいま始まったばかりだ。



 
人  口
世帯数
面  積
観光交流客数
修善寺町
16,830人
5,514世帯
69.40ku
1,932,722人
土肥町
2,076世帯
49.41ku
1,422,321人
天城湯ヶ島町
7,960人
2,495世帯
135.14ku
1,199,340人
中伊豆町
8,313人
2,491世帯
110.02ku
455,561人
新市
38,581人
12,576世帯
363.97ku
5,009,944人
※人口・世帯数…H12国勢調査
 観光交流客数…H13県観光交流調査

 

合併までのスケジュール

修善寺町外3町合併協議会
14年度 1月 2月 3月
15年度 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月
合併協議会設置
協定項目の協議・決定
・ 新市の名称 
・ 新市の事務所の位置
・ 議会の議員の定数及び
  任期の取扱い
・ 新市建設計画 等
合併協定書の調印
各町議会議決
合併申請書県提出
総務大臣協議
県議会で合併議決
総務大臣への届出
総務大臣合併告示・合併効力発生
新市市長選挙
各庁閉庁式
新市誕生


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