本格的な少子高齢社会を迎えたわが国において、大きな成長が見込まれる健康・福祉、医療関連産業の振興を目指すファルマバレー構想。先端的な研究開発を促進する一方で、地域に根ざした新しい産業の育成を目指すなど、対象となる分野、業務は多岐にわたる。その中心に位置し、構想推進の原動力となるのがこの4月に開設されたPVC(ファルマバレーセンター)だ。
土居弘幸静岡県健康福祉部技監、山口建県立静岡がんセンター総長、井上謙吾ファルマバレーセンター所長をお迎えした対談の第2回は、構想実現のカギを握るPVCにスポットを当て、県東部発、世界基準の地域づくりに向けていよいよ具体化する構想の姿に迫る。聞き手はサンフロント21懇話会のシンクタンクTESSの西島昭男委員長。
[ファルマバレー構想特集]
シリーズ2
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土居弘幸
静岡県理事
兼健康福祉部技監
構想実現へ向けたPVCの四つの取り組み。
欧米に遅れる日本の「産学官の連携」
西島
PVCの開設によって、今年度からいよいよファルマバレー構想がさまざまな形で県東部に暮らす私たちの前に姿を現すわけですが、構想具体化のカギを握るPVCの取り組みについて概要をご説明下さい。
土居
まずは産学官連携による共同研究の促進です。欧米に比べわが国が最も立ち遅れている分野で、研究機関や医療機関、企業等の埋もれているニーズとシーズを掘り起こし、接着を仲立ちします。二つ目は患者さんにとって信頼の高い治験ネットワーク構築の支援です。一部は間もなく稼働しますが、優れた新薬の開発などに大きな成果が期待されます。三つ目は健康関連分野におけるベンチャー企業の創業支援です。地域の皆さんのやる気の芽をはぐくみます。最後に地域全体の底上げに向けた情報交流・人材育成支援です。昨年度から始めている交流会の拡大や研究開発フォーラム等の開催を通じて、人材・情報の活発な交流を促し、新しいアイデアや活動を生み出す土壌づくりを行います。
西島
いま遅れていると指摘のあった産学官の連携ですが、なぜそれほどまでに重要なのでしょうか。
井上
欧米では、大学や研究機関で行っている基礎研究が患者の役に立つところまでうまくつながっています。製薬会社の人たちとアカデミックな人たちの交流がものすごく活発なんですね。しかし日本では、大学の先生方は研究はするけれど創薬のことまであまり考えておらず、生かす仕組みもできていない。そこに問題があります。日本で創薬や医療器具開発のベンチャーが極めて少ないのもそのためです。その「仕組み」を作っていこうというのがこの構想の基本的な考えです。
西島
その産学官の連携を促進するためにPVCでは交流会をはじめ、さまざまな方策を計画しているそうですね。
井上
去年はがんセンターのドクターを中心に、現場にはこういうニーズがあるということをプレゼンテーションしました。今年度はPVCが交流会を引継ぎ、地域のものづくり集団側から自社の持つ技術を医療に活用したいがどうしたらいいか、という問いかけや双方向の交流を行いたいと思います。また、県内外の大学、研究機関の学者、研究者にもプレゼンテーションしてもらい、お互いに刺激しあっていただこうと考えています。
キーワードはネットワークの構築。
地域の潜在的なポテンシャルを引き出すPVCの情報ステーション化
山口 建
静岡県理事
兼県立静岡がんセンター総長
山口
もう一つ、大切なのがネットワークの構築です。地域にはたくさんの物づくりを得意とする企業があって、単体で事業をしていたり、組合や商工会議所などの団体に所属していたりしています。個人の発明家もいるでしょう。一方で、病気にかかり、こんなものが必要だ、こういう技術があったらいいなという人たちがいる。今後は、このように多様なレベルの情報をデータベース化し、関連ある集団を密にネットワークしていこうと考えています。これによって、市町村からも商工会議所からも物づくり集団からも医療従事者からも、情報がすべてPVCに集中するようになる、ここがポイントです。
土居
まずはメーリングリストとメルマガの発行でしょう。救急医療の現場では、救急救命士や医師のメーリングリストがいくつもあって、例えば昨日こんな症状の患者を搬送して、こういう処置をしたがこれでいいのかといった内容のメールがまわってくる。それに対してアドバイザー的救急医がすぐに返事をしてきます。構想においても、ある技術が必要だ、こういう技術があるが役立てないか、という問いかけに対してすぐに答えが返ってくる、そんな双方向のネットワークが必要です。
井上
具体的には「ファルマバレー研究開発フォーラム」といった交流組織を立ち上げ、会員相互でより詳細な情報交換ができるような仕組みを考えています。会員からはそれぞれ得意分野、研究領域などの情報を提供していただき、関心のあるテーマごとのきめ細かな交流を実現していきます。
西島昭男
サンフロント21懇話会
シンクタンクTESS委員長
井上謙吾
(財)しずおか産業創造機構
ファルマバレーセンター所長
「可能性の芽」をはぐくむPVCのインキュベート機能。
県の特命チームが強力にバックアップ
西島
そうした交流の中から見つけ出した「可能性の芽」を実際にはどのように事業化までサポートしていくのですか。
土居
当面のPVCの役割は産学官連携による共同研究のコーディネートやメディカルベンチャー創業に関する相談窓口であると考えています。将来的には研究資金やベンチャー創業資金の支援、オフィスやラボの提供など、幅広い業務サービスをワンストップで行いたい。資金面での支援や経営指導等については、国や県、しずおか産業創造機構など関係機関の支援制度やメニューを効果的に活用していきたいと考えています。
井上
また、これを実際の研究開発に結びつけるためには医学、工学、薬学などの技術的なアドバイスや、技術移転や商品化に向けての法津的なアドバイスが不可欠です。これに関しても外部からの専門アドバイザーの招へいや既存のアドバイザー制度の活用を通じて、さまざまな分野での相談に対応していきたいと考えています。
西島
PVC開設に伴い、県庁内でも構想を円滑に推進するための画期的な方策が検討されているそうですね。
土居
PVCから上がってくる情報に対して部局を横断した迅速な対応が行えるように各部局にファルマバレー担当者を置きました。これによって、今まで時間がかかっていた大きな政策判断や首長から知事への相談事項などをすみやかに知事や関係部局のトップにつなぎ、判断を仰ぐことが可能になります。
西島
同時に欠かせないのが市町村の取り組みです。多岐にわたる構想をいかにまちづくりに活用していくか。すでに市町村へのヒアリングを開始したと聞いていますが、状況はいかがですか。
山口
4月の一カ月間で周辺21市町村をまわってお話をうかがいました。御殿場から富士宮にかけての富士山麓地域では医薬品、医療機器などの製造業の振興、活性化と企業誘致について特に関心が高く、将来的にはリサーチパークの形成を目指しています。また、熱海、伊東、田方郡などの温泉観光地については、ウエルネス産業の振興、創生という点で一致しています。今後は各地域が持つ自然環境、人材、技術などの資源や特性を生かした多様なアイデアが出てくることを期待しています。
井上
新しい考え方による新しい物づくりが始まると、この周辺の高い技術を持った人たちが受け入れられるでしょうし、その中から世界中の患者さんに役立つものが出てくる可能性もあります。地域はあくまで舞台と考え、世界を見つめる広い視野で構想にかかわっていくことが重要です。それが結果として地域の活性化につながるのではないか、そういった大きな可能性がこの構想には秘められていると思います。
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