サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 ファルマバレー構想が推進される県東部地域。構想の大きな柱の一つにウエルネス産業の振興がある。サンフロント21懇話会は今月4日、伊東市内のホテルで伊豆地区分科会を開いた。テーマは「伊豆観光の新展開―ウエルネスによる伊豆の活性化に向けて」。
 7月の「風は東から」では、当日行われたパネルディスカッションを取り上げる。クアハウスかけゆの池内賢七男前支配人、県立静岡がんセンターの山口建総長、駒の湯源泉荘の高橋誠代表取締役、伊東市の鈴木藤一郎市長をパネリストに、基調講演を行った財団法人日本ウエルネス協会の古川文隆専務理事をアドバイザーに迎え、伊豆地域での先進的な取り組みや全国レベルでの取り組みの中から、全く新しいウエルネス産業としての伊豆観光活性化のヒントを探った。コーディネーターはサンフロント21懇話会シンクタンクTESSの青山茂研究員。
風は東から
[ファルマバレー構想特集]
シリーズ4
バックナンバー


キーワードは「かかりつけ湯」 ウエルネス視点に伊豆新時代へ
静岡県大村義政生活・文化部理事
鈴木 藤一郎
伊東市長


静岡県大村義政生活・文化部理事
池内 賢七男
クアハウスかけゆ前支配人
伊豆地域におけるウエルネスの取り組み
 青山 時代は今、ウエルネスという新しい価値観を求めています。それを地域づくりや産業振興に活用していくために行政、住民、企業がしっかりとしたネットワークを構築し、その中で考えていく必要性が指摘されています。パネル討論では具体的な事例を交えながら、地盤沈下の著しい伊豆観光の立て直し、あるいはまちづくりにウエルネスという視点を加えると何ができるかを探っていきたいと思います。まずは行政の取り組みとして、伊東市の活動についてご紹介ください。
 鈴木 当市は平成10年、伊豆で唯一、国の健康保養地モデル市町村の指定を受け、12年2月に「健康回復都市宣言」をいたしました。温泉を使った体の癒しと、スポーツ・文化を通じた心の癒しを目的にまちづくりを進めています。具体的には平成11年度から3年間、国・県の補助を受けて健康保養モニターツアーを行いました。また、オレンジビーチマラソンや市民向けに腰痛予防教室などを開催しています。それらを踏まえて平成14年から健康保養地づくり実行委員会を立ち上げ、今までの事業を継続しながら、新たな観光誘客を目指しています。
 青山 伊豆各地にはウエルネスや癒しといった要素を新たな魅力として発信しているさまざまな宿泊施設があります。中でも駒の湯源泉荘の高橋さんは薬学部ご出身の経験を活かし、独自の保養健康プログラムの提供を始めていますね。
 高橋 3年前から温泉を使った保養健康プログラムを実施しています。これは三つの柱からなっており、一つは私と施設スタッフによる入浴セミナー、健康リフレッシュ体操の指導、そして啓蒙活動として「上手な入浴法」というリーフレットを配っています。二つ目は外部のインストラクターやセラピストによる整体治療とリフレクソロジー。これには必ず温泉入浴を組み合わせています。三つ目が医療機関との「緩やかな連携」。近くの温泉療法医の先生に、温泉療養に向いていると判断された患者さんに私どもの割引券を渡していただいています。残念ながら事業としては大きな成果に至っていませんが、入浴セミナーの前後に体重・体温の測定をし、お客さん自身が体の変化を把握できるので、飲酒後の無理な入浴をしなくなり、お風呂で体調を崩す方がぐんと減りました。もう一つ、前にも増してお客様から「お宅のお湯がいい」と言っていただけるようになりました。これは私たちの施設の特徴や取り組みの方向性がうまくお客様に提示できているからだと思います。


求められる意識改革と地域への浸透
大仁町観光協会内田隆久会長伊豆洋らんパーク社長
山口 建
静岡県理事
兼県立静岡がんセンター総長


大仁町観光協会内田隆久会長伊豆洋らんパーク社長
古川 文隆
財団法人日本ウエルネス協会
専務理事
 青山 個々の取り組みを地域全体の成果に結びつけるにはやはり行政、企業、住民のネットワークが重要になってきます。長野県の鹿教湯(かけゆ)温泉では鹿教湯病院とクアハウスの非常に連携的なプログラムを実行される中、町内ほとんどの団体が加わった「鹿教湯温泉保養健康協会」という組織を立ち上げ、まちづくりを推進しています。
 池内 クアハウスかけゆは温泉を健康増進に活用しようという日本での草分け的存在です。鹿教湯病院は約八百床あり、ほとんどが脳卒中の患者さんです。この二つを核に、行政、商工会、組合、観光協会等、地域のあらゆる団体が参加して作ったのが鹿教湯温泉健康保養協会です。年間約2000万円の予算でインストラクターを採用し、鹿教湯温泉でのイベントは言うに及ばず、無償の早朝健康体操や各種会議・会合には必ずトレーナーがついてストレッチ体操の時間をとるといったように、地域のすべてにこの協会が携わっています。そのとりまとめをやってきました。
 青山 従来の価値観を変えるところがウエルネスを産業化していく上で大きなポイントと言えるでしょう。鹿教湯の例にあるようにウエルネスに取り組んでいくためには、地域全体が意識改革に取り組んで行かなければなりません。がんセンターにおいてはこのウエルネスに必要な意識改革をどのようにお考えですか。
 山口 がんセンターの基本的な考え方は「心通う対話」です。患者さんのお話をよく聞いて一緒に考え、できることは一生懸命やりましょうというものです。そうする中で患者さんやご家族の考え方がきわめて劇的に変化しているのがよくわかります。同様に、温泉にお見えになるお客さんも変化していると思います。一言で言えば、自分の健康について詳しく知るようになった。そうするとどこの温泉が自分の健康にメリットがあるのかを考えるようになる。さらに言えばあの宿に行けば自分の健康観が取り戻せるだろうということです。医療でいうところのかかりつけ医ならぬ「かかりつけ湯」、病院に行くほどではないけれど、温泉に入って心身ともに癒されることで自分の健康観が取り戻せる。観光の中にもこういった意識が重要になってくると思います。
 青山 地域への浸透という視点でとらえるといかがでしょうか。
 古川 平成元年に宮崎県の都城市が行った日本初の「ウエルネス都市宣言」をお手伝いさせていただきました。これはまちづくりの中にCI(コーポレート・アイデンティティー)を導入する際、その基本コンセプトをウエルネスにしたものです。この前のアンケートでは人口13万7千人のうち98%がウエルネスという言葉を知っていて、自分なりのウエルネス観を持っている人が52.3%でした。この背景には、一つに首長さんの熱意とやる気、そして役所のあり方の違いがあります。一家一ウエルネス運動を推奨していて、市民が役所に出向くのではなく、役所の人が市民の中に入っていく。市民百人の代表が一市役所の職員となる。つまり、一人の市役所の職員が変われば住民百人が変わるんです。そういった意識改革が進んでいる気がいたしました。


静岡県大村義政生活・文化部理事
高橋 誠
駒の湯源泉荘代表取締役


静岡県大村義政生活・文化部理事
青山 茂
サンフロント21懇話会
シンクタンクTESS研究員
人材育成とネットワークづくりが産業化のカギ
 青山 次に産業という視点でとらえた場合、先ほど高橋さんから事業面での難しさの指摘がありました。お客の絶対量が不足しているのか、他に理由があるのか、その辺はいかがですか。
 高橋 首都圏を中心に温泉に癒しを求めている方はたくさんいらっしゃると思います。温泉保養、温泉利用というととかく湯治というものを考えがちですが、長期的なものでなくても構わないと思います。保養を目的とするならば二、三泊でも十分ですし、体をリフレッシュする、癒すためであれば一泊でも、日帰りでもいいでしょう。私どもでは二、三泊される方が多いのですが、連泊となると単価や食事、それに伴った人の配置など課題も多く、供給側がいかに多様な受け入れ体制を用意できるかがカギだと思います。また、伊豆各地で温泉を使ったいろいろな試みがなされていますが、私のところを含めて地域間の連携が全くとれていません。各温泉場の事情はありますが、それらを踏まえた中で特徴や個性をもってやっていけばいいのではないかと思います。最も大きな問題は人材育成です。伊豆で温泉保養ということを事業として進めるのであれば、まずはインストラクターあるいはトレーナーの育成に力を注ぐべきだと思います。
 鈴木 人材育成に関しては伊東市でも今後の重点課題と認識しています。というのも、伊東市立病院はもともと国立温泉病院だったところで、リウマチの治療で全国的に有名でした。今でもお医者さんがほとんど残っているので要望も多い。将来的にはプロスポーツ選手のリハビリを受け入れたいと考えています。それにはスポーツドクターやインストラクターなどの人材の育成、あるいは登用が欠かせません。医療体制の充実にも力を入れていきたいですね。
 青山 時代が求めるウエルネスという価値観にどう伊豆が応えていくか。ウエルネスを既存の資源の掘り起こしやラインナップも含めてそれらをくくっていく全く新しい価値観としてとらえ、まずはビジネスベースでの成功事例をつくること。そのキーになるのがネットワークづくり、人材の育成であり、何よりもウエルネスとは何か、ウエルネスで物事をくくるというのはどういうことなのかを徹底的にプロモーションしていくことが重要だと感じました。近い将来、伊豆に住むほとんどすべての方が、都城市のように自分なりのウエルネスという価値観をしっかりと持っている、そんな地域になっていけたらと思います。


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