サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 「心の時代」と言われる21世紀。病気でなければいいという従来型の健康観から、病気や障害の有無だけでは個人の健康観は推し量れない、つまり「心のあり方」をより重視する傾向にある。こうした社会ニーズを背景に、「心と体の癒(いや)し」を手軽に体験できる温泉が、今再び見直され始めている。
 もともと温泉は湯治という、健康づくりや療養の大きな役割を担ってきた。ところが温泉地の観光化が進み、温泉が単なる団体旅行の付属品として見なされるようになると、温泉本来の価値はだんだん軽んじられるようになった。しかし近年の健康ブームを背景に、伊豆各地で温泉本来の健康療養という側面を掘り下げていこうとする試みが始まっている。将来的にはファルマバレー構想が進める次世代ウエルネス産業の一つの核となることも期待されている。
 8月の「風は東から」では、温泉とウエルネスに焦点を絞り、伊豆各地で始まっているさまざまな取り組みを紹介しながら、伊豆地域のウエルネス振興のヒントを探る。
風は東から
[ファルマバレー構想特集]
シリーズ5
バックナンバー


見つめ直したい温泉本来の価値 21世紀型湯治で、ウエルネス先進地へ
温泉を遊ぶ〜気ままに足湯サーキット
湯らっくす公園の健康遊歩道
湯らっくす公園の健康遊歩道。後方に見えるあずまやが足湯。
湯らっくす公園の健康遊歩道




 湯らっくす公園

 今、全国の温泉地でブームになっているのが足湯。服を着たまま気軽に温泉の恩恵にあずかれることから体験型の観光施設として取り入れる温泉場が増えている。伊豆各地にもすでに20カ所ほどが作られ、手軽な「癒しスポット」として地元住民や観光客の人気を集めている。
 中でも伊豆長岡町にある湯らっくす公園は、天然の石を大きさ、形、高さなど、数種類にパターンパネル化して並べた『健康遊歩道』を併設した本格派。はだしかそれに近い状態で歩行することで、足そのものの血流が良くなり、同時に反射区(ツボの一種)と関連する内臓諸器官や頭部の血流を良くし、細胞を生き生きさせる作用がある。全長108mの遊歩道にはソフト、ハードの二コースがあり、初めての人にはかなり痛い。手すりにつかまりながら自分のペースで回った後、適度に刺激された足をお湯に浸す。ほんの数分でうっすら汗が浮かんでくる。気持ち良くて、ついつい長居をしてしまう。
 この公園は平成11年に「温泉と健康」をテーマに、地元住民や議会の意見を取り入れ伊豆長岡町が建設した。住民はもちろん、観光客が温泉街を散策しながら立ち寄れる手軽な施設として当初から人気が高かったが、あまりの人気ぶりに足湯部分を増築し、今では10人ほどがくつろげる規模になっている。地元の常連と観光客との間に交流が生まれるなど、波及効果も出始めている。伊豆長岡町は「実は住民向けの温泉施設が町内になかった。足湯をきっかけに健康というキーワードで温泉の有効利用を進めたい。健康遊歩道を併設した足湯をさらに数カ所作り、ウオーキングを楽しみながら健康増進を図れるような取り組みを行いたい」(建設観光課)と温泉場ならではのウエルネス空間づくりを進める。


温泉を学ぶ〜健康プログラム
緑に囲まれた露天風呂。薬草風呂のほか、森林浴も楽しめる。
緑に囲まれた露天風呂。薬草風呂のほか、森林浴も楽しめる。
緑に囲まれた露天風呂。薬草風呂のほか、森林浴も楽しめる。






 駒の湯源泉荘

 古くから湯治場として知られる畑毛温泉の、さらに山を分け入った所にある源泉荘。専用源泉3本、日量40万リットルの豊富な湯量で、日替わり薬草露天風呂、うたせ湯、ハーブ湯、手の湯、足の湯など22のお風呂が楽しめる。リーズナブルな料金設定で、若いカップルからお年寄りまで幅広いファンを持つ。以前から湯治客が多かったことから、社長の高橋誠氏は薬学部出身の経歴を生かし独自の健康プログラムを提供している。
 無料の入浴セミナーでは上手な入浴のポイントや入浴時間、温度の目安、温泉の効果などを解説する。次に体重計で体重を測り、いざお風呂へ。体温より少し高い(38度前後)のお湯に20〜40分じっくり入った後、再び体重チェック。少ない人で150cc、多い人だと1リットル以上の汗をかく。それが入浴後に必要な水分量の目安となり、温浴効果が実感できる。「熱い温泉でないと入った気がしないという方がいるが、体温との差があればあるほど心臓や血管に大きな負担がかかる。体の芯から温まるなら無理なくゆっくり長めのお風呂に、が基本」と高橋社長。また、「泉質だけで温泉の効用を論ずることはできない」とも。例えば炭酸泉が高血圧に、硫酸塩泉が動脈硬化に効くといった効用は、基本的には温熱や浮力、水圧などが体に作用した結果であって、一般に言われているように温泉に含まれる成分そのものが体内に入り患部を治すわけではないという。従来の温泉の効用を覆す話に参加者は一様に戸惑うものの、正しい温泉知識を身につけることで今まで以上に温泉や温浴そのものを身近に感じ、結果、自分なりの健康観なり健康法を身につけて帰っていく。
 このほかにも健康リフレッシュ体操、外部のインストラクターによる整体治療とリフレクソロジーなど日替わりで実施される健康プログラムはバラエティー豊か。近隣の温泉療法医と連携し、治療に効果的と判断した患者に対して割引券も提供している。日曜日と水曜日には採れたての野菜を売る市場も開かれ、希望をすれば日替わり薬草料理一品がついた本草料理が楽しめる。首都圏からの観光客だけではなく、地元からのリピーターが多いのもうなずける。


温泉で気づく〜「ワッツ」
天城温泉療法

 体温よりやや低い約34度の温水プールで、インストラクターに体を抱きかかえられながらクラゲのように浮かんでいるうちに、深い脱力状態に・・・。水中指圧(ワッツ)はアメリカやヨーロッパで広く普及しているアクアリラクゼーションだ。体の健康だけでなく内面のリラックスにも効果があるとされ、肢体不自由や中枢神経の障害、ケガのリハビリだけでなく、自閉症などの発達障害に関しても有効な手法として各方面に取り入れられている。
 伊東市ではこのワッツとグリーンツーリズムをセットにした障害者家族向けのモニターツアーを6月24、25日に市内のホテルで開催した。これは伊東市健康保養地づくり実行委員会(会長・鈴木藤一郎市長)が、障害者と介助者が気軽に温泉旅行を楽しむための受け入れ体制を目指し、癒し体験プログラムを手掛けるNPO法人天城に委託して実施した。戦略的観光誘客促進事業の一つとして県からも補助を受けている。障害を持って以来10数年ぶりにプールに入ったという参加者の一人は「ワッツを受け、肩が上がるようになった。中断していた水泳にまたチャレンジしたい」とその効果に目を見張る。
 NPO天城の副理事長でワッツインストラクターの杉本錬堂氏は「水に浮き、ゆっくり手足を動かすうちに委縮していた筋肉がほぐれてくる。同時に心も自然とほどけてくるんです。一人で浮ける、次は少し泳いでみよう、といった具合に徐々に自信が持てるようになる。こうした気づきが癒しにつながり、自信ややりがい、前向きな思考が生まれるんです」とワッツの心身両面への効用を強調する。
 このワッツを手軽に体験できるのが天城湯ヶ島町で行われている「天城温泉療法」。町と観光協会、旅館組合で構成する天城湯治実行委員会が中心となり、天城温泉会館でのワッツと宿泊や地元の食材を使ったヘルシーフードなどを組み合わせた新たな観光メニューをPRしている。ワッツだけの参加も可能。参加者はまだまだ少ないが湯布院から視察団が来るなど、現代版湯治サービスとして大きな期待が寄せられている。
 


時代はウエルネスツーリズムへ〜新たな価値観の創造
「気づき、癒し、やりがい」のくり返しが健康観を高めることにつながる。
「気づき、癒し、やりがい」のくり返しが健康観を高めることにつながる。


 全国に次々と誕生している大型温泉施設の例を見るまでもなく、健康を取り巻く市場は拡大を続けている。立ち寄り湯や足湯を気軽に利用する家族連れや若いカップルの利用率が高い源泉荘からわかるように、いわゆる高齢者や疾病を抱える人たちだけではない、より幅広い層への浸透も期待される。さらに「団塊世代」の60代への突入を間近に控え、今後こういった健康=ウエルネスへのニーズは一層高まっていくことは間違いない。
 ウエルネスとは本来、心身ともに健康な状態のことを示す。ファルマバレー構想が目指すウエルネス産業の育成についても、本質的には一人ひとり異なる健康状態、健康観に対して何を提供し満足してもらえるか、その切り口を見い出せるかがポイントだ。今回取り上げた三つの事例は、それぞれの狙いや目的、また施設や地域の特色を、温泉を使ってウエルネスという価値観の中でどう掘り下げていくかを具体的に示している。温泉という地域資源を遊びや学び、気づきという視点からとらえ直し、従来の温泉とは一線を画す新しい付加価値を生み出している。人材や宿泊、食事など受け入れ側にさまざまな課題は残るが、市場や体制が整う中でいずれ大きな成果に結びつくことが見込まれている。
 10月には東海道新幹線品川駅が開業し、首都圏と伊豆地域がさらに近く便利になる。伊豆地域の豊富な自然やそれを背景にした山海の恵み、伊豆高原に代表される美術館群、点在する植物園や水族館、グリーンツーリズムやさまざまな体験など、数多くの資源をどのように結びつけ、多様な健康観に対応できる多様なウエルネスプログラムとして生まれ変わらせることができるか。地域全体の意識改革とスピード感が今、求められている。

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