サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 県東部地域におけるウエルネス産業の創出を大きな柱とするファルマバレー構想。伊豆地域では、このウエルネス(=健康増進)の視点を取り入れた新たな観光の魅力づくりが進んでいる。平成12年度から静岡県東部県行政センターが始めたウエルネスビジネス及びウエルネスツーリズムの研究事業も、こうした取り組みのひとつ。今年度は「新たな湯治場づくり事業」として、研究活動に加えモニターツアーを実施した。
 「風は東から」12月では、官民一体で行う新しい湯治場モデルの実験と検証を通して、求められる新しい温泉観光地のあり方とその産業化に向けた課題、シナリオを探る。
風は東から
[ファルマバレー構想特集]
シリーズ9
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現代版”湯治“で新しい観光地づくり 伊豆をこころと体のふるさとに
「新たな湯治場づくり事業」とは
温水ストレッチとワッツを受ける参加者
温水ストレッチとワッツを受ける参加者。ストレッチは自宅でも手軽に実践できる。
温水ストレッチとワッツを受ける参加者

 湯治には昔から療養・保養・休養の3養があると言われ、医学が発達していなかった時代では、温泉が多くの疾病の治療に重要な役割を果たしてきた。戦後の経済成長の過程で湯治場の多くは観光温泉として発展を遂げたが、昨今の高齢化、健康志向を背景に温泉本来の「癒(いや)し」、「療養」の側面が各地で見直され始めている。
 「新たな湯治場づくり事業」は、東部県行政センターが天城湯ヶ島町の船原館と、韮山町の駒の湯源泉荘、修善寺町のホテルラフォーレ修善寺などに呼び掛けて始まった。
 船原館の鈴木基文社長は自らが「ワッツ(水中指圧)」のインストラクター。天城湯ヶ島町が進める天城湯治実行委員会の中心メンバーだ。源泉荘の高橋誠社長は薬学部出身の経歴を生かし、温泉が体にもたらす効果を科学的に分析、一人ひとりに合った温泉の入り方講座や本草料理を提供する。ラフォーレ修善寺はクア施設を利用した温泉療法に加え、食の面からも健康を提案しようとワンサイクルメニューの開発を行った。「健康増進」をキーワードに、個々の施設が温泉療法の中からそれぞれの設備に適したものを実践する。
 東部県行政センターの加藤好昭主査は「人のつながりをベースに、施設間連携、食などの異業種連携が実現した。古いものを生かしながら時代に合った新しい要素を積極的に取り入れていくことが大切」と語る。新しい湯治場づくりを通じて、魅力ある伊豆の復権と交流人口の拡大に寄与していきたい考えだ。


ウエルネスモニターツアーを実施
 11月18、19の両日、「新たな湯治場づくり事業」のテストモデルとして、伊豆と同様に温泉観光地として名高い九州・沖縄地方の観光客(男性11人、女性1人)を対象にモニターツアーが行われた。船原館を基点に、初日は歴史あふれる修善寺の名所・旧跡めぐりやそば打ち体験、中伊豆ワイナリーヒルズを見学し、2日目は山深い天城の温泉場を散策、地元産のワサビをふんだんに使ったワサビ料理を味わった。ツアーの目玉である温泉療法は、初日にラフォーレ修善寺内のクア施設で「ワッツ」と「温泉ストレッチ」、2日目に駒の湯源泉荘で「自分に合った温泉の入り方」講座を体験した。大分県から参加した男性は「温泉を健康面からとらえ直す取り組みに大きな魅力を感じた」と、今回のツアーの可能性を高く評価した。
 


施設の特徴と温泉療法のマッチングが成功のカギ
 一口に温泉療法といってもその種類はバラエティーに富んでいる。温泉施設にしても、個々の宿が持つ温泉や設備の形態は千差万別だ。それぞれの施設の特徴を生かした温泉療法を取り入れることが第一の課題。
 「自分が体験して気持ちいいと感じるものが見つかれば、次はそれを自分の施設にどうやって取り込むかを考える。まずは、これだけの施設しかないからできない、これだけのお風呂では無理というマイナス思考を捨てること」と鈴木氏。施設ごとの特徴が際立てば際立つほど、地域全体としての魅力アップにつながると指摘する。高橋氏は「温泉療法を客寄せパンダ的に考えて、とりあえずこんなツアーを作れば半年間くらい集客できるだろうと考えると成功しない。長期ビジョンを持ち、定着させるのに2年、3年かかるぞと経営者自らがどっしり腰を据えて勉強していくことが大事」と意識改革の重要性と息の長い取り組みの必要性を強調する。
 


健康をキーに新メニュー開発
ワンサイクルメニューの夕食
ワンサイクルメニューの夕食(上)と朝食(下)。これに昼食がついて1日1800キロカロリー以下
ワンサイクルメニューの朝食


 今回の事業を機に、新たに加わったのが会員制組織を持つラフォーレ修善寺。温泉セラピストで、温泉療法ツアーを数多く手掛けてきたNPO天城の杉本錬堂氏の指導のもと、水深のあるクア施設を生かした温水ストレッチに取り組む。営業推進マネージャーの渡邉繁樹氏は、「以前からクア施設のソフト面での有効活用を考えていたところ、今回のお話をいただいた。会員には健康保険組合も多いので受け入れられやすいと思う。これを機にお客様に本当に喜ばれる、継続性のある取り組みにしたい」と意欲的だ。ラフォーレらしさを出すため、ワンサイクルメニューの開発にも着手した。
 ワンサイクルメニューとは、朝・昼・晩の3食で1日に必要なカロリーや栄養バランスのとれた食事をしようというもの。温泉旅館にありがちな食べきれないほど豪華な食事ではなく、”湯治“をコンセプトにした新しい考え方だ。食養生プロデューサーの石川美知子氏は「生活習慣病の多くは運動不足やストレス、バランスを欠いた食事などに起因する。健康寿命を全うするためにはそういった運動、生活、食習慣のあり方を見直すことが大切で、温泉に療養に来るお客さまにこうした新しいスタイルを提案し、実生活の中で生かしてもらえるような情報発信も今後のリゾートの役割」と語る。メニューには地元特産のワサビやお茶、シイタケ、ミカンなど機能性の高い食材がふんだんに使われている。これらはがん予防や老化抑制に効果的なだけでなく、地産地消を意識したものとなっている。また、盛りつけの美しさや食べる楽しさの演出にも配慮した新たな食のスタイルづくりに挑戦する。ワンサイクルメニューを今月中に完成させ、モニタリングを経て3月からは週2回、インストラクターによるストレッチと温泉指圧が体験できるツアーを会員向けに募る。


温泉療法を地域の文化に
 こうした取り組みを地域に根付かせるには、温泉療法士をはじめ、ワッツ・インストラクターや整体、リフレクソロジーなどのセラピスト、栄養士など多岐にわたる人材育成が必要だ。職業として専業化できるネットワークと市場の育成がカギとなる。それには「伊豆本来の魅力である『心と身体を癒す文化』を地域ぐるみで取り戻すこと」と杉本氏。まずは地元住民自らが温泉療法の魅力を体験し、理解する機会を提供しようと、1月から天城温泉会館を会場に「健康温泉祭」を実施する。一軒でも多くの旅館や施設が温泉療法に魅力を見い出し、積極的に参画することで、地域としての広がりと新たなイメージの形成を期待する。
 こうした中、今回の事業に参加している施設以外にも独自に取り組みを始めたところがある。奈良時代より子宝の湯として親しまれてきた天城湯ヶ島町の東府屋は「ふたりでセラピ!」という企画を立ち上げた。子どものほしい夫婦を対象に、セラピストが骨盤のゆがみを治す体操や、冷え性に効く運動を教えてくれる。ゆったりとした自然の中で温泉に浸り、滋味あふれる料理を食べて子どもを授かりやすい体にしようというもの。「子宝の湯」という宿の特徴と温泉療法がぴったりマッチした好例だ。新たに設備投資をしなくても、それぞれの旅館の特色を見い出しさえすればソフトや人のつながりだけで魅力づけが可能となる。
 こうした取り組みはそれぞれが試行錯誤の末にたどり着いた一つの形であり、これがきっかけとなって参入者が増え、伊豆地域の新しい魅力づくりの大きなうねりとなっていけばとの思いがある。「それにはまず、うちでの取り組みが成功すること」と渡邉氏は表情を引き締める。
 


必要な「地域づくり」の視点
 鈴木氏が会長を務める天城観光協会は、来年度の目標に温泉療法の文化を包括的に体験できる態勢づくりを掲げた。インストラクターの確保、養成はもちろん、周辺の自然や史跡を案内できる達人、あるいは禅の達人、そういった人材の掘り起こしに力を入れていく方針だ。高橋氏も「宮城県鳴子温泉郷の温泉療養プランや、長野県赤倉温泉の温泉ソムリエといった成功事例を見てもわかる通り、観光産業だけにこの指止まれをやるのではなく、地域全体にそれを広めることが必要だ」と語る。  健康増進や癒しが手軽に体験できる伊豆の温泉のポテンシャルは高い。こういったニーズは都市部に多く、首都圏を市場に持つ伊豆の優位性は明らかだ。健康への関心が高まる中、ファルマバレー構想を追い風に、古くからの湯治文化に現代的な視点を加え、新たな魅力を持った湯治場へと生まれ変わる、今回の取り組みはそうしたシナリオの第一歩だ。
 

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