サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 12回にわたってお送りした「風は東から」ファルマバレー構想特集。最終回は石川嘉延静岡県知事、サンフロント21懇話会代表幹事の岡野光喜スルガ銀行社長、大坪檀静岡産業大学学長を迎え、産学官それぞれの立場から、構想の可能性と展望についてうかがった。
 昨年4月のファルマバレーセンターの開設以降、静岡県治験ネットワークの稼動や画期的な人口呼吸補助器の開発、温泉活用によるウエルネス分野の取り組みなど、その成果は徐々に姿を現し始めている。平成17年度には静岡がんセンター研究所(研究棟)の開設を控え、本格的な医工連携の取り組みもスタートする。
 新時代を切り拓く「ファルマバレー構想」。県東部活性化の大きなうねりとなる日は近い。
風は東から
[ファルマバレー構想特集]
シリーズ12
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具体化進むファルマバレー構想県民参加で新しい地方時代の創造へ
石川嘉延 静岡県知事
石川嘉延 静岡県知事
構想から実現へ。進む地域への浸透
 大坪 昨年4月、ファルマバレー構想の中核的な支援機関としてファルマバレーセンターが開設されました。いよいよ構想の具体化が始まったこの1年、振り返っていかがですか。
 石川 この構想は、かつての産業立地的なものと違っています。まず、産学官の人的ネットワークをうまく活用し、知的財産権を生み出す。そしてそれを徐々に生産やサービスなど現実的な分野に波及させていくといったソフト先行である点です。最終的には産業集積が目標ですが、単に大規模な工場誘致や産業誘導だけができればよいというものではありません。知の創造こそ価値の源泉であり、この力の集積が必要です。ソフト開発の要となるファルマバレーセンターと、それを中核とした治験ネットワークが構築され、やっとその姿が目に見えてきましたが、こうした理解が徐々に行き渡ってきたように感じています。
 大坪 この構想はハード志向ではなく、ネットワーク型の新しいものです。そこから新しい発想のハイブリッドなものが生まれてくる。学者の間では学際的といっていますが、そういうボーダレスでハイブリッドなネットワーク型の産業構築、これは新しいものですね。
 石川 例えば、新薬の開発で今、日本に一番欠けているのが、最終段階で患者の同意の下、実際に薬を投与して成果を調べる治験の土俵です。  神戸でも医療産業都市構想が進んでおり、核となる神戸市民病院は約900床にも及ぶ大病院ですが、治験のベッド数を見ると、神戸市民病院と各研究機関が共同で利用する先進的な医療機関の60床の計1000床にしかならない。それに比べ我々の治験ネットワークは県内の主要病院が連携することで、すでに8000〜9000床に達しており、16年度末までには27病院、1万床が参加します。また、ファルマバレーセンターが窓口兼事務局となって、個々の治験ごとにニーズに合った体制づくりを進めていきます。  問われているのはこうしたソフトの仕組みづくりなんですね。おそらく我々のネットワークを重視したやり方の方が早く結果が出るのではないかと思っています。
 岡野 20世紀の産業立地というのは工場の進出など目に見えるものでした。しかし、今回は形が見えてこない。これが皆さん違和感を持たれているところだと思います。もう一つは、今まで縦割りで行ってきた大学、研究機関での研究開発に、今回は横の知を加える、つまり学問の境界や企業の枠を超え、お互いが持っているノウハウを結集し、相乗効果を出すことで地域に産業クラスターを形成しようとしている。平成17年度には静岡がんセンターの研究棟が完成し、東工大、早稲田大、東京農工大などが進出してきます。医学と工学が連携する中から生まれてくるもの、これが今後の構想の一番大きな成果になっていくと思います。


東部の構想から静岡県の構想へ
 大坪 実は志太榛原経済フォーラムでは5月に東部地域を見学に行こうという話が出ています。これからは東部に限らず、静岡県全体がファルマバレー構想に参加していったらいいのではないですか。
 石川 徐々にそうなっていくと思います。発端は東部ですが、例えば治験ネットワークは浜松の病院までカバーしています。産業界や大学の研究機関も東部地域に限定する必要はありません。  県内全域で取り組んだ場合、静岡県は広すぎるという意見もありますが、道路、鉄道の優れた交通インフラを介して、時間から2時間で直接的にインターフェースできます。コミュニケーションを濃密にしていく必要性が高まれば高まるほど、ITでの瞬時の情報のやりとりに加え、直接対面して打ち合わせたり、あるいは確認する必要性が増えてくるはずなんです。そうすると静岡県ぐらいの広さで、交通の利便性が高い東部は非常に有利であり西は浜松、あるいは名古屋まで、東は東京までカバーできるセンター(中心)になるのではないかと思います。 岡野 ファルマバレーセンターの利用価値が上がる、つまりあそこに行けば情報がある、あるいは自分の疑問に答えてくれるというように皆さんの評価が高くなると、時間かけても利用するようになると思うんです。ファルマバレーセンターの価値が上がれば上がるほど、時間軸を超えて人は集まってくると思います。


新しい地方の時代の曙(あけぼの)をつくる
岡野光喜 スルガ銀行社長
岡野光喜 スルガ銀行社長
サンフロント21懇話会代表幹事
 大坪 今後この構想は、県内だけでなく名古屋、東京を吸引する、産業興しや仕事をするために人が集まってくるという構想に変わってくるのではないでしょうか。  ノースカロライナ州のリサーチトライアングルがそうです。そこには博士号を持っているような人が2000人位いる。いろんなことをやっているものだから、アメリカ中の人が頻繁に相談に訪れる。やっぱりインターネットだけではだめなんです。飛行場も、利用者が増えてとうとうハブ空港(複数のローカル空港から路線が集まり、また幹線航空路の起点となる基幹的空港)になった。この構想もネットワークがうまくできれば、静岡県内からだけでなく県外からも流入する。我々は東京や名古屋を自分たちの市場だと思った方がいい。
 石川 東京にしろ、名古屋にしろ、機能はいろいろあります。しかし、健康産業に焦点を絞り、それを総合的に集積する中からいろんな物を創造しようという仕掛けは見当たりません。東京、名古屋に散在している素晴らしい機能が、こちらにやってくることで向こうも生きるし、こちらも更に浮上する。  現に、ファルマバレーセンターを中核として東工大、東京農工大、早稲田大が医工連携をやろうと乗り込んできます。東大も研究室単位で入ってくる可能性が出てきています。今年の6月から7月頃にはそれぞれ研究協定を結ぼうという話が進みつつあります。このように、先生がおっしゃったようなことがもう始まっているんです。
 岡野 高度先端医療というのは、医学、工学、生物学、化学などさまざまな分野が融合していくものだと思います。今まで別々の組織だったものにファルマバレーセンターが横軸を通そうとしている。横で結ぶという発想は全く新しい、革命的と言えるものですね。
 石川 重要なのはコンセプトです。東京だってやろうと思えばここよりたくさんの機能がある。けれど、旗を振り、必要な資源や資金、人材を投入して、この指止まれと呼び掛ける人がいない。我々はそれをやった。だから東京にある機能もこちらに注目して乗り込んでこようとしているんです。
 大坪 これは新しい地方の時代の曙をつくっていると言えるでしょう。今までは東京や名古屋など大都市圏を助けるために地方があった。だからみんな出て行ってしまった。今度は地方が東京、名古屋、大阪から全部吸引する時代になってくる。これが成功すると、最先端のものを吸引してこの地に新しい富の蓄積が行われるんです。


健康増進の新しい視点
 大坪 この構想は先端的な医療技術、新薬の開発から、スポーツや旅行など我々の健康増進のチャンスになるもの全てを視野にいれた展開を図っていますね。静岡県内には、ワールドカップや国体を経てたくさんのスポーツ施設ができた。これはすごい宝で、例えばエコパは世界中に知られていますし、こうしたスポーツ施設を使わない手はないでしょう。
 岡野 日本の場合、プールは水泳競技にしか使われていない。これはもったいない話で、欧米では、インナーマッスルの強化や試合後のこわばった筋肉をほぐすのに温水プールが盛んに利用されています。また、プロのスポーツ選手はシーズンオフに身体を「調整」しますが、それには温泉療法が一番とも聞いています。
 ところが、伊豆の温泉にはそういった施設やトレーナーがいない。一部の有力選手は自前でトレーナーを連れてきますが、プロのスポーツ選手の調整やリハビリができるプログラムを組んでアマチュアにも開放すれば、温泉とスポーツが融和した新しい温泉文化が生まれてくると思うんです。
 石川 今、リハビリの専門家と言うと理学療法士や作業療法士が挙げられますが、この専門課程を見ていると必ずしもスポーツ医学の知識が入っているわけではありません。一方、スポーツの分野では筋力増強から始まって、リハビリにも応用できるような手法がすでに開発されつつある。そこが融合してリハビリからスポーツ、選手の能力アップまで切れ目ない治験体系ができるような気がするんです。
 岡野 日本では、スポーツは根性だというような考えがまかり通ってきました。それで50年、00年来てしまったわけですが、もう2世紀。そろそろ科学的な見地から、あらゆる分野が融合していかに健康増進するかを考える時代です。逆にこれはキーワードだと思うんです。他県ではまだそのような例がない。そこをやれば一つの大きなブレイクスルーになるし、静岡空港が開港すれば韓国、台湾、上海、広州などからそれを学びに大勢の人がやってきます。ツーリズム+αの付加価値というのがウエルネス、健康であると思うんです。
 石川 ウエルネスや健康増進の分野では今まで具体的なものがなかったのですが、昨年の国体をきっかけに、選手強化の一環で東京大学の小林寛道先生のトレーニング理論を取り入れました。その過程で、この理論が高齢者の体力増強、回復、あるいは単に筋肉だけでなく、気力、意欲の維持や増進に役立つということが分かってきたんです。そこで6年度から健康筋力作り推進事業に本格的に取り組もうとしています。非常に幅広い、今までなかったような視点から、いろんなものが発生するつの実例となるでしょう。


大坪檀 静岡産業大学学長
大坪檀 静岡産業大学学長
サンフロント21懇話会アドバイザー
構想への積極的な参加を
 大坪 次の年間、県民が構想を前向きにとらえていくためにどういうことを望んでおられますか。
 石川 この事業が単に医療機器や新薬の開発だけの構想でなく、健康にかかわるあらゆるものを視野に入れて、それに役立つものは何でもやっていこうというものであることの理解がやっと浸透し始めました。そうなると、健康器具から医療器械、食材やツーリズムも含めてあらゆるものがかかわってくるわけですから、これは関係するのでは、と思ったらどんどんファルマバレーセンターや県にお尋ねいただきたいですね。
 大坪 地域の企業がファルマバレー構想にどうかかわっていいのか、その糸口をなかなかつかめないという印象を受けます。
 岡野 ビジネスというのは自分の頭で考え、これとこれを結びつけたらこうなるといった「気づき」と「ひらめき」が必要です。ファルマバレー構想を遠くから眺めて、ビジネスの種が転がり込んで来ないかなという待ちの姿勢ではだめなんです。
 例えば、診断薬などを専門に開発する沼津市の(株)ビーエル(野中浦雄社長)が手掛けたインフルエンザの簡易測定キット、これは東部にある企業の技術を融合させて作り上げたものです。これも野中社長のひらめきでしょう。
 何と何を融合させたら一番うまくいくのかを考え、高い技術をもった企業が集積する東部で事業をするのが一番効率的だと判断された。ですから、ファルマバレーセンターが主催するがんセンターの医師・看護師との交流会などに積極的に参加し、何が病院側のニーズなのか、学者の、研究機関のニーズなのかを知ることがビジネスチャンスをつかむ早道だと思います。こうしたシンポジウムや意見交換会から、世の中のニーズはどこにあるかをかぎとることが第一歩ではないでしょうか。
 石川 例えば、富士・沼津地域の異業種交流の中から生まれた救急用呼吸補助マスク。これを医療現場で使えるようにするには、厚生労働省の医療器具認定を受けなければならない。ところがノウハウのないまま進めたら手続きに膨大な時間を要してしまいます。そこでファルマバレーセンターが相談を受け、専門家を交えて対応したことで認可がスムーズにされました。このように何か人々の健康増進とか病気を防ぐのに役立ちそうだと思ったら、どんどんファルマバレーセンター、あるいは県、最寄りの商工会議所を通じて相談してほしいですね。必要な援助なりアドバイスなりの協力体制は整っています。
 岡野 一番大切なのは、素人の発想にいかにプロの手を使って付加価値を高めるか、それにはまずファルマバレーセンターを利用してもらうことだと思います。
 大坪 構想が進む中から新しい発想がどんどん生まれていく気がしますね。今日はありがとうございました。

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