サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 21世紀最大の成長産業といわれる日本の観光産業。しかし、平成13年の対GDP比は2.1%にとどまり、他の先進諸国に比べ立ち遅れているのが現状だ。その最大の理由は日本に来る外国人観光客の少なさにあり、受け入れ数ランキングでは世界33位、アジア8位と、国際観光におけるわが国の「後進国」ぶりがうかがえる。
 国は平成15年から石原伸晃国土交通相を観光立国担当大臣に任命し、国際観光キャンペーンを開始した。静岡空港の開港を平成18年度にひかえる静岡県にとっても、国際観光市場の開拓は極めて重要なテーマとなる。
 本年度の「風は東から」は、この「国際観光」を6回にわたり重点的に取り上 げる。第1回の4月はコンベンション・観光担当の大村義政静岡県生活・文化部理事と、大仁町観光協会の内田隆久会長(伊豆洋らんパーク社長)を招き、国際観光の現状と課題についてうかがった。
 聞き手は静岡新聞・静岡放送の篠原光秋東部総局長。
風は東から
[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ1
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開拓遅れる日本の国際観光市場・求められる受け皿整備と意識改革
静岡県大村義政生活・文化部理事
静岡県
大村義政生活・文化部理事
コンベンション・観光担当
国際観光後進国「日本」
 篠原 平成15年から国は「ビジットジャパンキャンペーン」を始めましたね。小泉首相が登場するCMも記憶に新しいところです。なぜ、いまこれほどまでに国際観光が注目されているのでしょうか。
 大村 各国の外国人観光客の受け入れ実績を見ると、上位のフランス、スペインでは自国人口以上に受け入れていますが、日本は遠く及ばず、世界33位、アジアの中でも8位と、タイや香港、韓国にも後塵を拝しています。平成15年の訪日外国人は521万人、対して日本人の渡航者数は1300万人と実に3倍弱の出国超過。国際旅行収支も3.5兆円の赤字。視点を変えれば、非常に大きな成長余力のある分野ともいえます。
 そこで、国では「グローバル観光戦略」を策定し、平成15年度よりビジットジャパンキャンペーンと銘打って、2010年に訪日外国人客数を1000万人にしようと、内閣を挙げて取り組んでいるわけです。
 篠原 静岡県の現状はいかがですか。
 大村 静岡県の観光交流客数はピーク時の昭和63年には1億4千万人でしたが、近年はそれを下回る1億3千万人前後で推移しています。それでも、伊豆だけでも5000万人近い方が来訪する全国有数の観光立県と言えます。一方、国際観光はというと、訪日外国人が本県に立ち寄る割合は非常に低く、14年度では3.9%。521万人中わずか20万人にとどまります。観光県・静岡としては、21世紀の基幹産業であり、平和産業である観光の振興を重点課題として、間近となった静岡空港の開港を視野に入れ、国内観光・国際観光ともに力を入れていく予定です。


有望なアジアマーケット
 篠原 観光の現場で外国からのお客さんの変化を感じることはありますか。
 内田 日本人客が大半を占める中、外国人観光客の主流はアジアの方です。アメリカや欧州からは極端に少ないと感じています。アジアの方は富士山を見て温泉を楽しむというのが一般的ですが、中には「伊豆の踊子」をはじめとする日本文学に興味を持つ方もいらっしゃいます。
 大村 アジアの富裕化にともない、今後、爆発的に海外旅行者が増えるのがアジアマーケットです。東南アジア、中国、台湾、韓国などがターゲットになります。特に中国は、浙江省との友好関係を生かした誘客を進めています。また、アジアのさまざまな都市での海外プロモーションや、外国のプレスやエージェントの招へいも行っています。浙江省からは、招へいツアーとして浜名湖花博に約千人が訪れますし、駿河湾フェリーを利用した台湾、韓国からのツアーがすでに商品化されるなど、取り組みの成果が着実に実を結んでいます。
 内田 特に中国はマーケットの規模が格段に大きいですし、ある程度来訪している国に比べ、ビザの問題があって来たくても来られないというのが現状でしょうから、今後の団体ビザ解禁の拡大には大いに期待できますね。


伊豆における取り組み
大仁町観光協会内田隆久会長伊豆洋らんパーク社長
大仁町観光協会
内田隆久会長
伊豆洋らんパーク社長
サンフロント21懇話会運営委員
 篠原 極めて有望な市場として期待の大きいアジアマーケットですが、すでに伊豆ではユニークな取り組みを始めているとうかがっています。
 内田 平成12年の伊豆新世紀創造祭を機に、バリアフリー伊豆研究会という民間団体を立ち上げました。障害を持った方やお年寄りに対する観光地のバリアフリー化が主な活動ですが、対象を外国人にも広げ、外国人にとって伊豆の障壁はどのようなものかを調査しました。そんな中、ご縁があり、東京都内の学生と中国・北京大学を中心とした学生の交流会「日中学生会議」の東京会議の一部を伊豆国際フォーラムとして平成13年8月に誘致しました。中伊豆地域を観光し、旅館に泊まり、ここで体験した結果をフォーラムで発表していただきました。
 篠原 若者を呼ぶというのは将来性があっていいですね。
 内田 特に北京大学の学生は中国の次代を担う人たちですから、そういう意味では先につなげたい取り組みの一つです。
 大村 若者への期待と言えば、秋ごろには友好関係にある浙江省も団体客のビザが解禁になるとの情報も入っています。それに合わせて修学旅行ベースでの相互交流を進めようと、県教育委員会と連携し、15年度には調査団を派遣し、16年度には100人程度の高校生の受け入れを予定しています。
 篠原 観光協会の動きとしてはいかがでしょう。
 内田 外国人受け入れは各協会が個別に取り組んでいます。しかし、観光協会は市町村ごとにありますので、なかなか一本にまとまらないのが現状です。河津桜の例でわかる通り、あれだけ集客があれば伊豆全体が潤うわけです。ですから観光協会もまとまったPRやイベントをやっていこう、また、今は行政に依存する部分が多いので、独立法人化を目指した伊豆観光ビジターズビューロー(仮称)を立ち上げる計画をしています。
 篠原 具体的にどのようなことをするのですか。
 内田 広告宣伝、イベント、国際化の問題、フィルムコミッション、IT戦略などを総合的に行います。まちづくりに関しても景観整備、バリアフリー化などを行いたい。観光協会ももっと地に足のついた活動をやっていかなければならない、行政にもどんどん提言していかなければならないと考えています。


国際観光の障壁
 篠原 一方で、まだまだ外国からの客が呼べない、あるいは呼んでも来ない現状がありますが、どういった点が障壁になっているとお考えですか。
 大村 平成15年に県内ホテル、旅館の2131施設を対象に外国人受け入れに関する調査をしました。回答のあった650施設のうち、現に受け入れている施設が47%、中でも伊豆は55%という高い数値でした。しかし、外国語対応可能な施設は全体の3分の1にとどまります。受け入れの障壁は何かとの質問では、外国語対応ができない(28%)、施設が外国人向けでない(9%)、以下、食事や生活習慣と続きます。やはり受け入れ施設にとって、言葉の問題は大きいようです。
 篠原 しかしわれわれが外国に行く時は、何とか相手に伝えようと一生懸命努力しますよね。必要以上に恐れている部分もあるのではないですか。
 大村 異文化に接すること、非日常に出合えることが観光であって、マッターホルンの入り口に日本語で表示があったら興ざめですよね。言葉以外でも、外国人が熱海の旅館で浴衣を着、一人ずつ用意されたお膳に盛られた美しい小皿料理に舌鼓を打つ。それ自体が非常に興味深いと。これも異文化との出合いでしょう。受け入れ側の私たちも外国人をいたずらに怖がる必要はありません。
 内田 全くその通りですね。こちらもすべての従業員が中国語を話せるわけではなく、受け入れる気持ちがあるかどうかだと思います。施設的な問題も、習慣の違いを味わうことの楽しさ、お風呂に入る習慣が違えば、湯船に入る前は掛け湯をしてください、と教えればいい。外国人だから、日本人だからと区別する必要はないと思います。ただ、普段と違うわけですから、事故だけは起こさないような気配りと説明は必要ですね。


浙江省・静岡県友好庭園「越秀園」
友好関係生かし観光交流の拡大に期待
静岡県は昭和57年に中国・浙江省と友好提携を結び、平成14年には静岡県浙江省友好提携20周年記念行事を開催。今年4月に始まった浜名湖花博には、中国有数の景勝地である西湖の庭園をモチーフにした浙江省・静岡県友好庭園「越秀園」を出展。オープニングセレモニーでは石川嘉延静岡県知事をはじめ、関係者のテープカットが華々しく行われた。
受け皿整備の方策
 篠原 障壁を取り除くための取り組みとしてはどのようなことをお考えですか。
 大村 今後は、先ほどのアンケートを踏まえて、外国人の受入態勢を充実させます。今年度は新規施策として、県内2カ所(浜松地区、熱海・伊東地区)をモデル地区に指定し、観光アドバイザーの派遣、サイン整備への支援、外国語の講習など、地域ぐるみの取り組みを支援していく予定です。
 篠原 必要なインフラ整備という面ではいかがでしょうか。海外からの予約システムの整備などは。
 大村 エージェントを介した予約から、今ではインターネットで個人が直接申し込む時代です。ホームページや予約システムの外国語対応は必須でしょう。駅や道路のサイン整備も県内全域で不十分です。英語はもちろん、中国語、ハングルなど多くの方が来ていただいている国の言葉に対応した整備をしたいですね。
 篠原 静岡空港への期待も大きいと思いますが。
 大村 静岡空港を整備する意義は県民の利便性に加え、人・もの・情報の発信と誘引にあります。空港が開港すれば、外国人観光客は広域的な移動をしますので成田イン・静岡アウト、あるいは静岡イン・関空アウトといった観光ツアーの商品化の実現性は非常に高いと考えます。こうしたツアー造成に際し、富士山の魅力や伊豆の温泉などを上手に演出し、広域的にPRすることで、外国人観光客を引き寄せることができれば、静岡県、東部、特に伊豆は確実に元気になると思います。
 内田 東部、伊豆から見ると静岡空港からのアクセスが課題です。ぜひ伊豆にコミューター空港、もしくは2次交通システムの整備をお願いしたいですね。また、富士山空港という名前はぜひ実現してください。


観光施策に求められる視点
 篠原 阿蘇山で有名な熊本では、酪農は県の農水部ではなく経済部が統括する観光行政の管轄だと聞きました。阿蘇は酪農が盛んだからだそうです。そういったトータルな発想がほしいですね。例えば下田など水産業を観光施策に組み入れれば、旅館の食事なども変わっていくのではないでしょうか。
 内田 よく文化財が教育委員会の管理下にあって外部の人に何も見せないということがありますね。あれはもったいない。
 篠原 フィルムコミッションなども、イタリアでは国宝級の文化財を使って撮影をさせていますね。やはりスタジオのセットでは本当のイタリアの良さは分かってもらえないということでしょう。国の施策として観光をトータルな視点でとらえていると感じます。
 内田 伊豆の場合、道路使用の関係で警察とのかかわりが多いのですが、創造祭以降、県のご協力もあって許可を出していただきやすくなりました。
 大村 国も基幹産業と言いながら、グリーンツーリズムは農水省、エコツーリズムは環境省であり、その構図は県も同じです。その他、都市観光、産業観光があり、さらにはファルマバレー構想(富士山麓健康先端産業集積構想)でもうたわれているウエルネスツーリズムもある。これだけ観光の要素が多岐にわたると、観光部局の施策だけでは進まず、県や地域での交流施策や地域づくり施策を「観光」のもとに一つにくくり連携させて、総合的かつ効果的に展開することが必要となります。そうしないと、静岡県の観光は立ちゆきません。
 内田 地域割りも問題ですね。伊豆には20近い市町村がある。県に支援をお願いするにも首長がそれぞれお願いに行く。これでは何を優先していいか県も迷ってしまいます。ですから、合併で多少でも市町村が統合され、意見が集約されれば優先順位がはっきりしますし、それぞれの温泉場の個性は生かしながら、将来的に伊豆が一つの行政単位になればもっと効率的だと思います。
 篠原 今後、国際観光を進めるにあたってのポイントは何でしょう。
 大村 一つは、やはり静岡空港の早期開港でしょう。これによる交流人口の拡大を期待しています。そしてもう一つは、ホスピタリティ(おもてなしの心)です。心のこもったもてなしは、どんな整備にも勝ります。
 内田 受け入れ側の人たちが外国の方と接する機会、経験を多く積むことだと思います。それには偏見を捨て、受け入れる気持ちを持つ、まさに心のバリアフリーから始めたいですね。

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