サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
トップ 最新情報 政策提言 活動内容 サンフロント21懇話会とは 飛躍 風は東から

 長引く不況がダイレクトに影響する観光業界。中でも住民の8割近くが観光業に携わるといわれる伊豆地区への影響は大きい。こうした状況を打開しようと、国のビジット・ジャパン・キャンペーン、県の観光立県に向けた動きを追い風に、外国人観光客誘致に向け、伊豆の女将(おかみ)たちが新たな試みを始めている。
 風は東から「国際観光特集」第3回では、外国人モニターツアーの実施を契機にスタートした伊豆の女将たちの取り組みを紹介し、国際観光時代にふさわしい新しい地域のあり方のヒントを探る。
風は東から
[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ3
バックナンバー


世界を見据えたおもてなし戦略 求められる新たな女将像の構築
国策としての国際観光振興。 立ち上がる伊豆の女将たち
パンパシフィックホテル横浜で行われたカクテルパーティー
パンパシフィックホテル横浜で行われたカクテルパーティー。会場では伊豆の観光ビデオを流すなど、積極的なPRを展開した。

 しっとりとした木造のたたずまい、四季折々に風情を感じさせる和の庭園、打ち水された敷石が美しい玄関先…。旅館は日本の伝統・文化を体験できる数少ない場所だ。日本人には懐かしさを、外国人には異文化の楽しさを提供し、訪れる人すべてに安らぎの空間を与える旅館。この日本旅館の顔として、滞在者へのサービス全般の品質管理を担うのが旅館の女将たちだ。和服に身を包み、日本の伝統・文化を体現するとともに、心の機微に触れるおもてなしの心を現代に伝えている。
 平成15年に始まったビジット・ジャパン・キャンペーン。後れをとる日本の国際観光市場の開拓を目的に、内閣府と国土交通省が中心となって各種施策を展開している。国内市場を中心に成長してきた日本の観光産業は他の先進諸国に比べて国際化が遅れている。案内ひとつ取っても外国語表記は未整備な部分が多く、外国人旅行者が安心して目的地にたどり着ける環境にない。 またホテルや旅館などの受け入れ側も外国語でコミュニケーションできる従業員の配置が十分でなく、外国人旅行者にとって必ずしも日本は快適な旅行先とは言えない。特に大手ホテルチェーンと異なり、その多くが小規模経営の日本旅館は、外国人を受け入れたくても1から10まで自前で準備しなければならず、受け入れに立ちはだかるさまざまな障壁を前に途方にくれている状態だ。
 このような状況に一石を投じようと、独自の取り組みを始めているグループがある。静岡県女将の会伊豆支部は県の協力を得て、昨年12月、外国人の目から見た日本の観光地の問題点の洗い出しを目的に、国内に居住する外国人を集めてモニターツアーを実施した。伊豆各地の女将たちが自慢のネタを持ち寄りツアーを企画。外国人旅行者の反応を測るとともに、案内や標記などさまざまな課題や問題点を探った。
 本年度は9月末にモニターツアーを予定。昨年の反省を生かし、数カ所を忙しく回るより、1カ所滞在型の体験をしたいという声を反映して、外国人にも人気の高い「伊豆の踊子」が歩いた道をメーンに、近隣の名所や地域ならではの体験を織り込んでいく。
 将来的には「さまざまな体験がチョイスできる、通年楽しめるコースとして商品化したい」と支部長を務めるホテルセタスロイヤルの稲葉敦子副社長。今後は標識や観光スポットの英語表記はもちろん、観光名所や歴史を英語で説明できるガイドの育成など、市町村や県の力を借りながら受け皿整備を進めていきたい考えだ。


新たな試み「The Okami」 発足
打ち合わせ中の「The Okami」のメンバー
今後の活動について打ち合わせる「The Okami」のメンバー。右から2番目がアドバイザーの椙江郷恵社長。

 女将たちの取り組みはこれにとどまらない。ことし2月には伊豆支部の有志が集まり、日本のコンシェルジュネットワークと連携した新しい国際観光振興団体「The Okami(ザ・オカミ)」を立ち上げた。
 コンシェルジュとはホテルを利用する観光客やビジネスパーソンのさまざまな要望に対応するスペシャリストのこと。いわばホテルの顔としてホテルの格付けを高めるとともに、コンシェルジュの対応いかんでは、旅行者の旅先の印象を大きく左右する重要な役割を担っている。海外では一般的な職種だが、日本ではまだなじみが薄い。しかし、最近は首都圏に進出する外資ホテルのほとんどに配置されるようになった。   
 仕掛け人は、パンパシフィックホテル横浜のチーフコンシェルジュを務め、現在ホテル・旅館のコンサルテーションや、人材育成のための研修を多く手掛けている株式会社アイピーオーネットの椙江郷恵(すぎえ・さとえ)社長。県観光交流アドバイザーも務める椙江社長は「以前から外国のお客さまから日本の旅館に行きたいというリクエストがたくさん寄せられていた。しかし、コンシェルジュには日本旅館とのつながりがなかったため、個人の体験やインターネット、雑誌などの情報に頼るしかなく、自信を持ってお勧めできる日本旅館が少なかった。女将とはユニホームこそ違え、お客さまに対する細かな心配りや滞在中にいかにくつろいでいただけるかなど、おもてなしの原点は同じ。そこでコンシェルジュと女将のネットワークを融合することで、外国からのお客さまにより快適で安心して過ごしていただけるような連携をとることができればと、日本独特のネットワークThe Okamiを立ち上げた」と語る。
 メンバーは、コンシェルジュの国際ネットワークであるレ・クレドール・ジャパンの有志や伊豆の女将たち約40人。女将たちはレ・クレドールのミーティングに出席し情報交換を行う一方で、首都圏のホテルで開催される外国人客を対象としたカクテルパーティーに参加し、実際に求められているサービスの質を肌で感じ取るなど、外国人客受け入れのための足固めを行っている。今後は、海外での観光展や国内のコンベンションなどへのブース参加、ホームページでの情報発信などを通じて女将の良さや温泉旅館の素晴らしさを世界にアピールしていく予定だ。
 


競争力強化へ必要な地域の意識改革
 日本の伝統とおもてなしでお客さまを迎え、心からの安らぎを提供してきた女将。昨今の温泉ブームや、癒やし、リラクゼーションなど旅館に求められるニーズも多岐にわたる。温泉効果や日本の雰囲気を堪能したいと考える外国人客の数も年々増加する中、単なる宿泊施設としての旅館の役割にも変化が求められている。
 外国人観光客誘致をにらみ、世界トップレベルのコンシェルジュの視点で、女将を主役にした伊豆の競争力強化の取り組み。椙江社長は「まずは、個々の宿という殻から出ること、女将同士の横のネットワークや地域の観光業とのつながりを強化すること」など、地域ぐるみの意識改革の必要性を女将たちに訴えかけている。
 地域の魅力は、文化・歴史、自然は言うに及ばず、そこに住む人々の「おもてなしの質」に左右される。中でも女将は地域を代表する「おもてなしの顔」として、常に来訪者のこうしてほしい、ああしてほしいの一歩先を行き、感動と感謝の気持ちを感じてもらうこと、つまり、コンシェルジュの要素が必要だ。
 それには、地域の事情に精通していることはもちろん、本当の意味でお客さまの立場に立つことが求められる。おみやげ一つにしても自分の旅館に置いてあるものをただ勧めるのではなく、近くにおいしいおまんじゅう屋があれば、お客さまが帰る時までに手配しておく、といった対応が必要だ。
 基本的にお客さまの要望に対してノーと言えないコンシェルジュは、その多様なニーズを解決するために信頼に基づいた強力な情報ネットワークを構築している。「例えばパンパシフィックホテル横浜にお泊まりのお客さまが銀座に食事に出かけたいとおっしゃれば、ホテル西洋銀座のコンシェルジュにお勧めのレストラン情報を教えてもらう。信頼で結ばれているレ・クレドールの会員の情報なら、自信を持ってお客さまにお勧めできる」と椙江社長。
 こうした信頼と情報の質の高さに基づくネットワークを持つことで、お客さまに喜ばれる情報のやりとりや、さらには地域ごとに送客し合えるような態勢づくりが可能となる。
 日本の宿として古くから受け継いできたおもてなしの心と、料理人たちの芸術的な日本料理の技を守りながら、新たな時代の旅館のあり方とは何か、そして日本特有のホスピタリティーを提供する文化を担うこれからの女将像とはどのようなものか。今、世界に向けたおもてなし文化の再構築が伊豆から始まっている。


■「レ・クレドール Les Clefs d'Or」
レ・クレドールは、ホテルのコンシェルジュがゲストサービスの質を高めることを第一の目標として、互いに知恵、知識、情報を共有し、励ましあい助け合い協力しようと、1929年パリで設立された組織。現在、34ヵ国、約3,000名のメンバーが活躍する国際的ネットワークに成長している。モットーはService Through Friendship(友情の輪を通じたサービス)。レ・クレドールのメンバーが付けている金の鍵の襟章は、利用者の要望の扉を開き、観光業界の未来を開く鍵の象徴とされている。

■「レ・クレドール・ジャパン Les Clefs d'Or Japan」
コンシェルジュの歴史が浅い日本でも現在、国際会員18名を含む60余名の国内会員及び法人会員27社、アドバイザー1名ほどの法人会員が協力し合って活動している。

■企画・制作/静岡新聞社営業局

▲ページトップ
入会案内お問い合わせ事務局案内リンク Copyright(c) SUNFRONT21.ALL RIGHTS RESERVED.