サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 地域の魅力を発信する新たな手法として注目を浴びているのが、映画やTVドラマなどのロケの誘致。最近では、韓国ドラマ「冬のソナタ」のような海外ドラマのロケ地をめぐる「ロケ・ハンター」と呼ばれる人たちが増加している。インターネットの普及や海外ドラマの流行を背景としたフィルム・ツーリズム市場の拡大を受け、今、観光振興、地域振興における映像メディアの存在が大きく見直され始めている。
 8月の「風は東から」は、これらの映画やCMロケ誘致に大きな役割を占めるフィルム・コミッション(FC)の活動や、海外観光客誘致に積極的に映像メディアを活用する国内観光地の事例などを紹介しながら、国際観光振興における新しい情報発信のあり方について考える。
風は東から
[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ5
バックナンバー


映像通し日本の魅力発信 国際観光振興へ地域協力
新たな観光振興「フィルム・ツーリズム」
「ロケジャパンツアー」パンフレット
「ロケジャパンツアー」で配布された案内パンフ レット(日本語版)。「青燕」のロケ地を中心に、 伊豆各地の撮影スポットを紹介。

 インバウンド(外国人の訪日旅行)を振興する上で欠かせないのが、情報発信。近年、日本を訪れる外国人観光客はようやく500万人を突破したが、世界的にはまだまだ低位に属している。その大きな原因に、日本の良さ、魅力が世界の人々に正確に伝わっていないことが挙げられる。
 こうした中、情報発信の新たな手法として、映画のロケ地を訪れる「フィルム・ツーリズム」と呼ばれる旅行形態が注目されている。
 例えばイギリスでは、国を挙げて映像産業の誘致を振興、海外の映画製作、特に米国からの誘致活動に熱心である。ロケ隊の長期滞在による経済効果に加え、「ある晴れた日に」「プライベートライアン」「ノッティングヒルの恋人」「ハリー・ポッター」「ロード・オブ・ザ・リング」などの誘致によって、実に幅広い年齢層の「フィルム・ツーリスト」の獲得に成功した。英国政府観光局は、自ら「ムービーマップ」を作成、この追い風に乗る勢いだ。


日本での取り組み「ロケジャパンツアー」
「ロケーションジャパン英語版」
日本各地のロケ可能な場所を掲載した「ロケーションジャパン英語版」

  近年、日本でもこうした傾向が見られる。NHKのTV放映をきっかけに、爆発的なブームとなった韓国ドラマ「冬のソナタ」。主役を演じるペ・ヨンジュンの人気ぶりは言うに及ばず、そのロケ地をひと目見ようと、大勢の日本人観光客が韓国へ出かけている。JTBなどの大手旅行代理店はもちろん、中小代理店もドラマに精通した添乗員を同行させたり、現地でしか手に入らない関連グッズを用意したりと、趣向を凝らした企画で積極的な参入を図っている。
 この「冬ソナ現象」を参考に、今月2日から5日にかけて「ロケジャパンツアー」の第1弾が伊豆で開催された。これは訪日観光客の倍増を目指す国の「ビジット・ジャパン・キャンペーン」の一環で、国土交通省が主催。韓国の旅行会社を対象に、伊豆を中心とした映画・ドラマの撮影地やそこでの裏話などを紹介し、新たな日本向け旅行商品の開発を促す。ロッテ観光、東西旅行社など11社が参加した。
 一行は韓国でも人気のドラマ「101回目のプロポーズ」のロケ地となったラフォーレ修善寺のチャペルや、来春公開予定の韓国初の女性飛行士・朴敬元(パク・ギョンウォン)さんの生涯を描いた韓国映画「青燕(あおつばめ)」の撮影地の玄岳、記念碑が建つ熱海梅園内の韓国庭園を見学した。参加者の一人、毎年日本に8万人を送客する韓国旅行会社「旅行博士」のリ・サンピルさんは、「韓国人は温泉好きが多い。映画・青燕の成功いかんでは、伊豆は魅力的な観光地となる」と期待する。
 「ロケジャパンツアー」第2弾は9月末。札幌、小樽を中心に台湾旅行社向けのモニターツアーを予定している。台湾は日本のTVドラマ専用のケーブルテレビ局があるほど、日本の映像ファンが多い。ことし11月からは北海道の富良野が舞台の「北の国から」の放映が予定されており、台湾の「モー娘。」と言われるS・H・E(エス エイチ イー)は札幌でプロモーションビデオを制作している。モニターツアーでは札幌や小樽のFCなどがガイドを務める予定だ。
 


フィルム・コミッションと地域活性化
実際のロケ現場の様子
実際のロケ現場の様子。(写真:フィルム・コミッション伊豆)

 今回のツアーの仕掛け人は、地域活性プランニング(東京・港区)の藤崎慎一社長。
 藤崎社長は、地方に軸足を置いた地域活性化の取り組みを数多く手掛けており、その有効な手法としてFCに着目、各地でFCの立ち上げを支援している。昨年夏にリクルート社から独立、リクルート時代に培った編集ノウハウと地域での人脈を生かし、ロケに行きたい人とロケを呼びたい人のマッチングを図る雑誌「ロケーションジャパン」を発行する。前述の「青燕」も、この英語版を入手したスタッフが日本での撮影を検討し、伊豆がロケ地の一つに選ばれた。
 FCとは、映画製作やロケーション撮影の誘致を目的としたPR活動、誘致した映像制作プロジェクトに対する警察、消防などの許可手続きの代行といった、映画のロケーション撮影をスムーズに進めるための支援を行う組織のこと。もとは国土交通省が観光振興の一環でFC設立を推進、2002年ごろから全国に広まった。自治体や観光協会、商工会議所が地域PRの一部門として設立するケースが多い。
 現在、日本には69のFCがあり、国内外を問わず映画やTV番組、CMなどあらゆる映像媒体を地元に誘致しようと激烈な誘致合戦を繰り広げている。各FCとも国内メディアへの対応が主だが、最近では姫路で行われた「ラスト・サムライ」のような、いわゆるハリウッド・プロジェクトの誘致にも成功している。ロケーションジャパンの英語版を見た海外のメディアからの問い合わせも十数件あったという。
 県内では、ロケの実績が100を超えるロケ応援団「フィルム・コミッション伊豆」をはじめ、沼津の「フィルム微助人」、ウオーターボーイズのロケを支援した「フィルム・コミッションはいなん」などが各地で活動している。
 しかし、「FCを作っただけで満足せず、そこからいかに地域の活性化、つまり観光誘客に結びつけるかが大切」と藤崎社長はくぎを刺す。「何のためにFCを作るのか、その目的を明確にすること。地域経済の自立を目指すならば観光客を呼ぶべきで、そこにつなげない限りFC活動の継続は難しい。ロケ隊が来た、地元が映っただけで終わらせず、その実績をいかに地域に還元するか。それには観光客が来ることで地元にお金を落としてもらうのが一番わかりやすい」と語る。



キーワードは「観て、聞いて、体感して」
藤崎社長
「フィルム・ツーリズムが新しい観光活性化の芽として育ってくれれば」と語る藤崎社長。

 当然、FCを設立したからといって即、観光誘客に結びつくものではない。ロケに選ばれるのは有名な観光スポットではなく、夕陽が美しい丘や人気のない砂浜など、地域の人だけが知っている場所がほとんど。そうした無名の場所が認知されるには時間がかかる。まずはFCに関わる人々が自分たちの持つ資源の価値を正しく認識し、誇りをもって訴えかけることが必要だ。
 同時に、FC活動は、地域振興、観光振興につながる有効な手段であって、地域経済を営むすべての人々に関わってくる、という地元の理解も重要だ。例えば栃木県の那須町ではFC設立にあたり、「転校生」「なごり雪」で有名な映画監督の大林宣彦氏をゲストに迎え、地元の人々へ向けたシンポジウムを開催したという。
こうした取り組みに加え、訪れる観光客の「観(み)て、聞いて、体感する」という満足度を上げるためには地元ぐるみの協力体制も欠かせない。
 ロケ地を訪れる観光客は、ロケ現場を見るのもさることながら、その地に住む人々だけが知り得た撮影の裏話、苦労話を聞くという「ライブ感」を楽しみにやってくる。そして実際にその場所に自分が立つことで、より作品を深く理解し、また、作品を通して自分を見つめ直したいという欲求を持っている。
 それに応える地元側も、ロケ地巡りマップの作成、案内板の設置やロケの裏話を語るボランティアガイドの組織化をはじめ、出演者やスタッフが地元の食堂で好んで食べた物のリストアップ、また、個々の商店などでもロケのスナップ写真を観光客に見てもらうといったさまざまな「仕掛け」づくりが必要になる。
 「ローマの休日」の舞台となったイタリア・ローマには半世紀を過ぎた今でも、世界各地から映画ファンが押し寄せる。映画へのあこがれは国や世代を超える。映像や通信技術の進歩は今後、観光地をより身近なものにしていくだろう。グローバル化が進み、大交流時代となった21世紀、人々は今まで以上に記憶に残るワンシーンを体感しにロケ地を訪れるようになる。国際観光時代を迎え、ますます注目を浴びる「フィルム・ツーリズム」。伊豆が日本を代表するフィルム・ツーリズムのメッカとなることを期待したい。


■「動きだしたファルマバレー構想−健康長寿の国・静岡をめざして」
動きだしたファルマバレー構想
今後の活動について打ち合わせる「The Okami」のメンバー。右から2番目がアドバイザーの椙江郷恵社長。

 静岡県が主要施策として進める「富士山麓先端健康産業集積構想(通称・ファルマバレー構想)」を解説した書籍「動き出したファルマバレー構想―健康長寿の国・静岡をめざして」が静岡新聞社より発刊されました。ファルマバレー構想をけん引する行政・大学・企業関係者が、各々の立場・視点から同構想を分かりやすく解説した、大変読み応えのある出版物です。
 本書は序章から終章までの計7章と、「『ファルマバレー構想』に期待する」「『ファルマバレー構想』と連携する公的機関」と題したコラムからなっています。18名の執筆者が各々の視点からファルマバレー構想を語り、終章では静岡産業大学の大坪檀学長を司会に、石川嘉延・静岡県知事、山口建・静岡県立静岡がんセンター総長、小林寛道・東京大学大学院総合文化研究科教授による座談会「明日の健康長寿の国・静岡づくりにむけて」を収録しています。
 まさに、構想全体を俯瞰するファルマバレー構想の「解説本」。ぜひ、お買い求め下さい。

編者:地域情報化研究所
発行:静岡新聞社
A5版 並製 243ページ
1,500円(税込)
2004年7月発売
●お問い合わせ先は
潟Gスビーエス情報システム 地域情報化研究所 054-288-2576  labo@sys.sbs-np.co.jp

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