サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 県内最大の観光地「熱海・伊東地区」。温暖な気候と豊富な温泉に加え、国内有数の観光地としての長い歴史を背景に成熟した「おもてなし文化」を誇る。
 国が指定する「国際観光温泉文化都市」や富士箱根伊豆国際観光テーマ地区に加え、本年度からは県の国際観光テーマ地区にも選ばれ、インバウンド(外国人の訪日旅行)振興に向けた、各種研修やアドバイザー派遣、表示看板整備など「外国人が一人歩きできる観光地」に向けた環境整備が期待される。
 「風は東から」国際観光特集第6回では、県内インバウンド振興のカギとなる「熱海・伊東地区」の動きを取り上げる。熱海地区は、熱海市の川口市雄市長と熱海芸者の西川松千代さんに、伊東地区は暖香園の北岡貴人社長にそれぞれ意見をうかがった。聞き手は静岡新聞・静岡放送の篠原光秋東部総局長。
風は東から
[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ6
バックナンバー


国際化にらみ、受け皿整備加速 欠かせぬ街づくりの視点と規制緩和
受け皿整備に必要な人材育成
プロの踊りが手軽に楽しめると好評の「華の舞」
プロの踊りが手軽に楽しめると好評の「華の舞」

 篠原 本年度から3年間、熱海・伊東地区が県の国際観光テーマ地区に指定されました。県の支援のもと外国人観光客の受け皿整備が大いに期待されますが、今後どのような取り組みを行っていかれますか。
 川口 まずは外国の方が一人歩きできるようなサイン整備に本腰を入れていきたいですね。同時に、ソフト面については通訳の確保・養成に力を注いでいきたい。現在は、個々の旅館のがんばりで、半分以上の施設で英語対応が可能となりましたが、誘客のメーンとなるアジア、特に韓国、中国語への対応はまだまだ不足しています。今後は県にご協力いただきながら研修会などに取り組んでいきたいと考えています。
 松千代 毎週土日、熱海芸妓連歌舞練場「芸妓見番」で行っている「華の舞」も外国のお客さまに非常に人気があるのですが、外国語の解説があればもっと楽しいと思います。あるいは外国語のパンフレット。芸者衆の歴史や、こうした踊りには不断の稽古(けいこ)が必要だとかいった、芸者文化そのものに触れたものがあるといいですね。
 川口 熱海市は独自にハングル語、中国語、英語の観光パンフレットを作っています。その中で華の舞も大きく扱われていますから、これを見番に置いておくべきですね。
 篠原 先ほど通訳の話も出ましたが、こうした人材の育成は大きな課題です。日本一ともいわれる芸者文化、後継者の育成はどうお考えですか。
 松千代 おかげさまで華の舞を始めてから芸者衆のレベルが格段にアップしました。それを若い方が見て、いいなと思っていただけるようで、少しずつですが芸者を希望する方が増えています。ただ、芸者というのは熱心にお稽古をする人ほどお金がかかりますし、「熱海をどり」といった行事での衣装やカツラ代もばかになりません。昔はひいき筋からご祝儀が出たものですが、今はそういう時代ではなくなりました。ですから、一生懸命芸を磨く人がもう少し楽にできるような仕組みがあれば、と思います。
 川口 華の舞や熱海をどりには市から補助が出ていますが、個々人にまでは手が回らないのが実情です。けれど頑張ってもらわないとね。
 松千代 花柳界は一度火を消してしまったらおしまいですから、どんなことがあっても続けなければと思っています。


熱海が誇る「華の舞」と「起雲閣」
熱海市長 川口市雄氏
熱海市長 川口市雄氏

 篠原 先ほどお話のあった華の舞は、最近は市外へ出張公演もあるそうですね。
 松千代 先日は県からお話をいただき、焼津へ行きました。来月はお隣の伊東市にも行く予定です。見番にも外国からの団体客がよくお見えになりますね。
 川口 熱海の芸者さんは約300人、日本一の規模を誇ります。層が厚いので、他に真似のできない質の高い踊りをお見せできると自負しています。また、芸者衆には海外誘客にも一役買ってもらい、数年前には私と一緒に上海、広州、韓国・釜山と、観光プロモーションに同行していただきました。その時の効果で韓国、中国の方がずいぶん増えているそうです。そうしていらした方に華の舞を見てもらう、これが大変喜ばれています。
 篠原 芸者文化を大切にされている一方で、最近は歴史的建造物の保護にも力を入れていらっしゃいますね。
 川口 平成12年に、大正から昭和にかけての歴史的建造物「起雲閣」を市が取得したのを皮切りに、昨年は歌人の佐佐木信綱さんの別荘・凌寒荘(りょうかんそう)を取得しました。また、ブルーノ・タウトが設計した国内唯一の建造物である旧日向邸の取得も決まりました。
 松千代 歌舞練場も中に入ると独特な雰囲気で、人気がありますね。
 川口 こうした文化施設は市民を中心としたボランティアグループによって管理・運営されています。今後はこれら施設をネットワーク化し、街の魅力付けを図ろうと考えています。
 


街全体に活気を取り戻す仕組みづくり
熱海芸妓置屋連合組合 演芸部長 西川松千代
熱海芸妓置屋連合組合
演芸部長 西川松千代
(本名 西川千鶴子)さん

 篠原 今後、名実共に国際観光地を目指す熱海にとって、カジノはぜひ実現したいところでしょう。法改正といった高いハードルもありますがいかがですか。
 川口 熱海市が目指しているのは高級感漂うヨーロッパ型のカジノです。熱海花博会場となった後楽園前の埋め立て地などを候補地にシンボル的な建物を予定しています。8月24日にはカジノサミットが開催され、国会議員をはじめ識者の方とのシンポジウムや模擬カジノを行いました。皆さんの関心も高く、日本初のカジノ実現に向けて意を強くしたところです。
 松千代 以前は夜の街にお客さまと一緒に繰り出したものですが、今は旅館の中に何でもそろっているのでなかなか外へ出歩かなくなってしまいました。お客さまが外へ出ないと街が死んでしまいます。カジノができれば昔のようににぎやかになるのではないでしょうか。
 川口 それでも最近では、夕食は外でどうぞという旅館さんも出てきましたし、夜の街が楽しくなるようなさまざまな仕掛けも考えています。熱海には読んで字のごとく素晴らしい海があり、サンビーチからテラスにかけて海岸を整備し、ことしは熱海花博にあわせて砂浜のライトアップも行いました。起雲閣のライトアップも今後予定しています。2010年に向け熱海の街中を華いっぱいに飾る花の都づくりも進めています。宴会型の観光地から、女性にも愛される心いやされる観光地へと脱皮していきたいですね。
 篠原 ありがとうございました。





サンフロント21懇話会幹事・暖香園社長 北岡貴人氏
サンフロント21懇話会幹事・暖香園社長 北岡貴人氏

「国際競争時代に勝ち残る街並み整備の推進を」

 熱海・伊東地区の宿泊収容客数は、伊豆半島全体の半数を超え、県内最大の規模を誇る。しかし、熱海・伊東の名前だけでお客が来た時代に各旅館は迷路のような建物を次々と増やし、隣とのすき間がほとんどない街並みを形成してしまった。結果、今、伊豆東海岸が最も客数の落ち込みが激しい。
 熱海・伊東は温泉以外の魅力に乏しい。海も魅力の一つだが、外国にはこの程度の海岸はたくさんある。外国人観光客に貫一・お宮の話をしてもほとんど理解されない。
 私は趣味を兼ねて国内外の観光地を旅行しているが、今の観光地には、高層ホテルの周りに美しいヤシ並木が続くハワイや、昨今人気の由布院、東北の、広々とした敷地に旅館が1軒あるような環境面の充実が求められている。
 緑あふれる美しい街並みづくりを進めるには、建ぺい率を下げ、緑地を増やすことが必要だ。しかしそれでは建物が小さくなり、十分な営業面積が確保しにくい。そこで、容積率を引き上げ、高さ制限をなくす。商売も成り立ち、周囲の緑地も増えていく。
 また乱立している看板も、道路に直角ではなく平行にし、マップを見ながら散策できるようにすると、街全体がすっきりする。これは電線の地中化とともにぜひとも進めたい。こうした地道な取り組みを通じて、長い年数をかけ、ヨーロッパのような街並み文化を創造するべきだろう。
 急がれるのは宿泊スタイルの見直しだ。現在の日本のような、1部屋に4人、5人と泊めるシステムでは、2人1部屋を基本とする外国人観光客にはなじまない。
 また、1泊2食のパッケージについても、お仕着せの宴会料理ではなくルームチャージ制にし、食事は宿泊客が自由に好きなものを選べることが望ましい。さらには、宿泊客に街中どの飲食店でも利用できるミールクーポンを発行すれば、街に人が出掛けるようになり、地域全体の活性化にもつながる。
 日本の交通費の高さも外国人旅行者にとってはストレスだ。JRやバスの値段もぜひ思い切った改革をしてもらいたい。例えば、ハワイのオアフ島のバスは1周どこで降りても200円程度。伊豆半島ぐるり1周が500円ほどになれば、東海岸だけでなく伊豆全域に外国人観光客がこぞって押しかけるだろう。
 外国人観光客受け入れは、とりもなおさず海外の観光地との競争だ。そのためには大胆な改革が必要になる。熱海・伊東両地区の結束力は弱いといわれ、地域ごと、旅館ごとの取り組みの度合いもまちまちだ。インバウンド促進には観光地全体の底上げが必要で、そのためには広域的な連携が不可欠。行政のかじ取りにも大いに期待したい。


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