サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 来年4月に戸田村との合併を控える沼津市。これまで、観光面の弱かった沼津市にとって、温泉と宿泊機能をもつ戸田村との連携強化には、大きな期待がかかる。特に注目されるのが合併によって約60kmにも延びる海の活用だ。すでに平日、休日とも多くの観光客でにぎわう沼津港周辺に新たな観光スポットとして完成した展望水門「びゅうお」は連日にぎわうなど、あらためて沼津の海の魅力が見直されている。
 風は東から10月は、沼津の海の魅力をテーマに、期待される観光振興について検証する。
風は東から
[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ7
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見直される沼津の海の魅力合併契機に観光振興に活用
沼津港湾振興でにぎわい機能強化
びゅうお
びゅうお
沼津港の新しいランドマーク「びゅうお」。高さ30mの展望台までエレベーターが快適に運んでくれる

 休日のみならず、平日も多くの観光客が訪れる沼津港。9月26日には、日本最大級の規模を誇る大型展望水門「びゅうお」が完成した。水門の背後地は50ha、約9000人の人命を津波から守るために県が総事業費43億円をかけて建設した。沼津港を観光の重要な拠点と位置づける沼津市は、そのうち4億円を負担し、水門の上部に高さ30mの展望台を整備した。
 展望台からは、雄大な富士山や広大な駿河湾の景色を360度のパノラマで楽しめる。晴れた日は、遠く南アルプスや清水までが一望できるとあって、オープン当初から話題を呼び、1日平均1000人が訪れる新名所となっている。
 沼津港は平成12年、国の特定地域振興重要港湾に指定された。重要港湾とは港の格付けの一種で、防災、レクリエーション、物流、観光機能を強化し、港を活性化することで地域振興に結びつけるのが狙い。国土交通省が全国14港を指定している。
 指定を受け、平成14年3月には県の沼津港湾振興ビジョンが策定された。観光整備が同ビジョンの柱で、びゅうおもその一環で展望台が併設されている。
 今後は、県が外港地区を物流、防災、観光交通拠点地区として整備し、沼津市や地元産業が中心となって古くなった内港地区の魚市場などの移転や集約を行う。水産物、地元名産の販売、飲食店が入るマーケットモールや観光船ターミナルなどにぎわい拠点づくりを進めていく。
 すでに沼津商工会議所、観光協会、静岡県、沼津市などで構成する沼津港ビジョン推進委員会(代表・斎藤衛沼津市長)が具体策作りに向けた協議を始め、総事業費は100億円を超えるとみられる。
 開港して70年余りたつ沼津港。古くから商都・沼津の繁栄を担い、さまざまな物資を伊豆半島へ運んできた。沼津市の鳥居照義沼津港振興対策室長は「港は昔から地域の生活・文化に欠かせない物流拠点でありながら、一般の方には縁遠い場所だった。しかし、これからはもっと皆さんの生活に入り込んで、気軽に訪れてもらえるような、にぎわい機能の強化が求められている」と語る。


欠かせぬ観光資源のネットワーク化
 沼津市の年間交流客数は約39万人(平成14年度)。宿泊客数も約6万2000人と周辺の伊豆や富士箱根地域に比べると観光目的の利用は少ない。沼津市の杉沢貞雄商工観光課長は、「市内に宿泊施設が少ないこともあり、観光面では今まで通過点という位置づけだった。観光は他の産業への波及効果が高いことから、市としても重視したい分野のひとつ。今後は沼津を訪れる方に少しでも長くとどまっていただく、あるいは何度も足を運んでいただくための施策を展開したい」と語る。
 そこであらためて着目されているのが海岸線にして全長47kmにもおよぶ海の活用だ。富士山を仰ぎ見る千本松原の砂浜から、戸田村へ続く三浦地区(静浦・内浦・西浦)のリアス式海岸まで、その風景は変化に富んでいる。全国的にも珍しい砂嘴(さし)を持つ大瀬崎はよく知られるダイビングのメッカ。昨年オープンした「ららら サンビーチ」は、家族連れで気軽に海水浴が楽しめるスポットとして人気を集めている。また、急深な駿河湾の地形はバラエティー豊かな海産物を育む。沼津が誇る海の観光資源は枚挙にいとまがない。
 現在、力を注いでいるのが千本浜公園から若山牧水、井上靖、芹沢光治郎といった沼津ゆかりの文人たちの文学碑や歌碑、記念碑と、御用邸記念公園を結ぶ遊歩道「潮の音プロムナード」の整備。沼津港はこのルートのほぼ中間に位置し、びゅうおはランドマークとしての役割も担う。びゅうおが完成し港を中心とした回遊性が高まったことで、周辺飲食店街への波及効果も期待されている。また、我入道の渡しを沼津駅近くのあゆみ橋まで延ばし、駅と沼津港、あるいは千本浜から御用邸まで、線から面へのルート展開を図る。牛臥山沿いの土地も市が取得し、今後さらなる整備が見込まれる。
 さらに来年4月の戸田村との合併で、新沼津市の海岸線は全長60kmを超える。両市村は、海水浴や釣りなど駿河湾でのマリンレジャーを観光の主体とするなど観光面での共通点も多い。宿泊施設を多く持つ戸田村を沼津の奥座敷と位置づけ、相互に補完し合いながら、観光資源のネットワーク化を図り、体験型、滞在型、リピート型の魅力的な観光地づくりを目指す。


合併前に始まった観光面での連携
出逢い岬
出逢い岬

 戸田村は昭和61年の温泉発掘を契機に、従来の漁業に加え、観光産業が大きく発展した。御浜岬公園を中心とした海のレジャー、桜やハマユウなどの花、駿河湾に沈む夕陽、タカアシガニは全国的に有名だ。近年では駿河湾深層水を利用した戸田塩が各方面で評判になるなど、個性豊かな自然資源に恵まれている。戸田村観光協会の川合建次会長(海のほてるいさば社長)は「戸田村は大いなる田舎。もともと漁師町なので、村人は人情に厚い。その”漁師の人情“を生かした手作りの観光を行ってきた」という。人口約4000人の町に年間4万人もの観光客が訪れ、リピート率も高い。
 沼津市との観光連携の具体的な話し合いはこれから。来月初めには両観光協会が初の会合を開く。川合会長は「広域になるとキメ細かな観光行政は難しいかもしれないが、戸田村が今までやってきたこと、今後のビジョンをよくご理解いただき、戸田地域が活性化することで沼津市の発展に寄与したい」と語る。
 すでに観光面での連携は始まっている。ことし5月の海人祭では沼津市が1日2往復、市民約100人を乗せた船を仕立て、戸田港までのクルーズを行った。戸田村では、大漁旗を立てた漁船が港の外まで出迎え、黒潮太鼓保存会の太鼓演奏や郷土料理のもてなし、施設案内などを行った。参加者には大変好評だったという。
 陸路で約1時間の沼津―戸田間も海路では約30分。渋滞のイライラから解消され、晴れた日には海上から富士山が楽しめる。杉沢課長は「『癒し』や『ゆったり』『のんびり』がキーワードとなる時間消費型の観光には、船は格好のアイテム。沼津港の整備が進み、今以上に多くの人が訪れるようになれば、船で戸田地区へ行く人も増えるのではないか」と期待する。
 今回の合併を大きなビジネスチャンスととらえているのが、沼津―戸田間の定期高速船ホワイトマリンを運営する戸田運送船の山崎元社長。「船に乗ったことのない沼津市民が大勢いると聞く。戸田村を知ってもらうためにも、沼津の小中学生にぜひ、船で遠足に来てもらいたい。また、各地区のお年寄りに船でゆったり伊豆戸田荘(国民宿舎)に来てもらうといったことを関係各所に働きかけたい」と、両地域の交流推進に意欲を見せる。
 


道路網の改善、強化が緊急の課題
実際のロケ現場の様子
駿河湾に沈む夕陽や、御浜に抱かれた静かな戸田漁港が一望できる。新たな戸田の観光スポットとして脚光を浴びている。

 新市建設計画によると、新市に人を呼び込むための施策として両市村民が必要と考えている項目は、「沼津市街、三浦地域、戸田地域が連携した、魅力的な観光ルートを作る」が最も多く、次に「三浦地域と戸田地域を結ぶ道路を整備する」「市街地の道路を整備し、渋滞緩和を図る」が続く。
 現在、沼津と戸田を結ぶ主な道路は、海岸線沿いに大瀬崎から井田を通る県道沼津―土肥線と、西浦古宇から山合いを抜ける県道達磨山―西浦線の2本。しかし、沼津―土肥線は車幅が狭いため大型バスは通りにくく、達磨山―西浦線は豪雨、降雪による交通規制を受けやすい。合併による両市村間の道路網の整備は、観光面だけでなく生活・防災面からも望まれている。
 川合会長は「時間はかかるだろうが、沼津―戸田間の道路が良くなれば、海沿いに伊豆半島を1周できるようになる。今までは修善寺から戸田に入って松崎方面に抜けるというのが一般的だったが、将来は沼津が伊豆半島の玄関口になる」と期待を込める。
 戸田村との合併を契機にますます深まる沼津の海の魅力。海岸線や沼津港をはじめとする拠点整備と並行して、将来的には両市村の相互補完が可能な観光資源の開発を通じた新たな広域観光ルートの形成も望まれる。観光産業発展に欠かせない海都・沼津の復活。地域が寄せる期待は大きい。

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