サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 県東部の活性化を探るサンフロント21懇話会は設立10周年事業として、5月25日-30日に、北欧メディコンバレーと技能五輪ヘルシンキ大会を視察した。
 メディコンバレーでは、産学官連携して先端健康産業の集積を目指すファルマバレー構想の先進事例として、大学との関わりや、ベンチャー企業に対する手厚い支援策、投資会社のあり方、国からの助成金制度などについて説明を受けた。また、技能五輪ヘルシンキ大会では、2007年の沼津市での開催に向け、競技の理解と認識を深めるとともに、沼津大会を支援するヒントを探った。
 6月の「風は東から」は、視察に同行した懇話会シンクタンクTESSの中山勝研究員と大石人士研究員のリポートを紹介する。
風は東から
[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ3
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地域振興のヒント探る北欧視察 若者の力生かし技能五輪成功へ メディコンバレー

中山 勝 TESS研究員
(財)企業経営研究所 産業経済部長
 
産学官連携で注目浴びる研究エリア
 メディコンバレーは、デンマークのコペンハーゲン地域とスウェーデン南端部のスコーネ地域にまたがる医薬・バイオインダストリーの一大研究・インキュベーション(起業支援)エリア。200年、両国をまたぐ世界第2位の長さの斜張橋「オレソン橋」が完成し、より注目度が高まった。
 四国の約1.5倍の地域に国際空港、12の大学、バイオテクノロジー・医療・IT関連企業約300社が集積する。特に、バイオテクノロジーや医療分野での研究は高く評価され、欧州ではロンドン、パリに次ぐ地域と言われている。
 メディコンバレーの核となるのが5つのサイエンスパークだ。今回は特に、研究開発の成果をビジネス化するための支援施設であるインキュベーション施設を訪問した。

■ サイオンDTU

 1962年に設立されたファスフォルムサイエンスパークとデンマーク工科大学の統合によって2004年に誕生した。敷地面積は約100ヘクタールあり、その土地は国から譲り受けサイオンDTUが所有している。入居企業の資金負担を軽減するために、建物はサイエンスパークが投資、所有し、企業に賃貸する方法を取っている。研究開発型企業105社(就業者3000人)がリサーチパーク内で事業を展開している。2万5000平方メートルの試験場があり、インキュベーション施設も保有。この施設には、現在は20のハイテク関連企業、4つのサービスプロバイダーが入居している。入居者は、試験スペースマネジメント支援、投資家などとのネットワーク支援が受けられる。さらに、デンマーク政府から独自にベンチャー投資資金を引き出すことに成功し、収益が見込めそうなベンチャー企業や事業に対し2000万-1億円を投資している。

■ シビオンサイエンスパーク

 1986年に設立された創業間もないベンチャー企業のためのインキュベーション施設。現在85社が入居。20年で約750社が起業し、8割にあたる650社が巣立った。研究成果に対する技術的目利きや会計・経営などのマネジメントをサポートする組織には20人が常駐、5大学と連携し、140人の専門家とネットワークを結んでいる。入居企業はIT関連とバイオその他が半々。同じ領域の企業を集積させ、発展を促進する方針をとっている。また、同施設には、ベンチャーキャピタル入居し、新事業に対する投資を行っている。
 ファルマバレー構想は、今秋に静岡がんセンター研究所がオープンし、さらなる成果が期待されている。その成果をビジネスに結びつけ地域の新たな成長軸にしていくためには、メディコンバレー成功のキーワードでもある「産学連携」「起業化支援」「行政の関与」の仕組みが不可欠と考える。その中でも成長の種を持続的に作り出す「人」に注目したい。
 メディコンバレーでは実に多くの質の高い人材―学生・学者・研究者が活動している(学生13万人、うち博士課程学生1万人)。特に若者たちのユニークな発想は魅力的であり、彼らがビジネスを創造していく原動力となっている。こうした人々が集う大学誘致が県東部においても検討課題となろう。また、インキュベーション施設入居者をサポートする専門家・実務家は想像以上に多く、そのパワーが民間の活力を引き出し、事業を成功に導くという良い循環を創り出している。これらの人材は、ファルマバレー構想を成功に導き、さらに地域活性化につなげていくためにも極めて重要な要素となる。


三島青年会議所 成川勝一理事長 技能五輪国際大会 ヘルシンキ大会

大石人士 TESS研究員
(財)静岡経済研究所 研究部長
世界から集う若き技能者たち

 5月25日-6月1日、フィンランドの首都ヘルシンキで開催された第38回「技能五輪国際大会」。この大会は、若者が技能を競うことにより、参加国の職業訓練の振興と技術水準の向上などを目的としたもので、今大会には37の国や地域から集まった22歳以下の若者たち660人が技を競った。
 競技職種は、機械製図CAD、自動車板金、配管、造園から、美容・理容、洋菓子製造、レストランサービスなど、正式種目34、デモンストレーション5、あわせて39職種で、日本からは32職種、36人が参加した。今大会の日本の成績は金メダル5個、スイス、南チロル・イタリアと並んで1971年以来となる第1位。しかし、総メダル数は8個で世界第5位にとどまった。
 大会役員関係者は約1000人、地元をはじめ国内外からの来場者数は11万8000人余にのぼった。
 次の第39回大会は、2年後の2007年11月14-21日、静岡県の沼津市で開催されることになっている。

■国際大会を地域活性化に生かす

 2007年に沼津市で開催される静岡大会は、史上初めて障害のある人の職業的自立支援を図る「国際アビリンピック」との同時開催で注目される。大会名も「2007年ユニバーサル技能五輪国際大会」と決定。技能五輪の主会場となる沼津市門池地区では、移転新築される沼津技術専門校に併設してすでに競技会場の造成が進められている。
 これまで県東部で大規模な国際大会が開催されるのは少ないことであり、地域として大会の成功に協力していくとともに、これを東部地域活性化に結び付けていくことが期待される。折しも開催年となる2007年は、雇用面などで「2007年問題」として技術や技能の伝承が危惧されている年。全国から集まる多くの若者たちが大会に参加、あるいは見学することで技術・技能に関心をもってもらうと同時に、「モノづくり静岡県」「モノづくり日本」を県東部から世界にアピールしていくチャンスでもある。
 大会は、競技運営、レセプション、エクスカーションなどの公式行事の準備を、組織委員会が中心となって進めるが、ヘルシンキ大会を視察して感じるのは、随所で活躍する若いボランティアの力である。1校1職種の世話係担当や開閉会式の演出、会場内のスタディツアーの案内などの役割が分担され、ボランティアの総数は3000人近くとなっていた。こうしたビッグイベントでのボランティアの重要性は、静岡県でもすでに2002FIFAワールドカップや昨年の浜名湖花博で実証済みであり、静岡大会でも大いに期待されるところである。

■参加を促す仕掛け作りが必要

 さて、大会は2年後に迫っているが、いま一つ認知度が低いことが気にかかる。多くの人たちにさまざまな形で参加してもらうことが大切であり、県東部地域としても多様な形で参加、協力していく必要がある。
 まず、若者の技能向上が大会の目的である以上、静岡県から多くの選手が出場して欲しい。残念ながらヘルシンキ大会では、静岡県からの出場者はいなかった。しかし、1960-70年代には、県東部の企業から国際大会に出場し優秀な成績を収めているので、ぜひ今からチャレンジの準備を期待したい。また、全国の若者たちに、同世代の若者たちが真剣に競技に取り組む姿をみてもらい、技能・技術の素晴らしさや大切さを感じてもらいたい。そのためには、授業の一貫や修学旅行の見学先として取り入れてもらうことも必要だろう。あわせて、これを機会に地元企業には産業観光の視点から、企業・製品紹介や工場見学の受け入れ体制が整えられれば、静岡県の観光も厚みが増していくことになる。
 さらに重要となるのが「おもてなし」の意識である。単にホテルや観光施設だけでなく、会場までの沿道や街中の景観、訪問先で一番敏感に感じる味(食事)や心(あいさつ)など、よい思い出を持ち帰って、また訪れてもらいたい。それには、花博の成功を生かし、開催地周辺での花いっぱい活動の展開や、各種案内標識への英語併記なども効果的だ。また、ファルマバレー構想の推進にあわせて跡地利用も考えたい。県東部のものづくり活性化に寄与する、テクノビレッジのような技術者や科学者が集うセンターを整備したらどうだろうか。こうした課題に、今後は地域が一体となってチャンスを生かす方法を考えていかなければならない。
 そのためにも、多様な主体の参加を促すPR活動を進める必要があり、サンフロント21懇話会も地域の企業や市民、行政などに積極的にアイデアを提言していきたい。
 


 「北欧視察を終えて」


サンフロント21懇話会 運営委員長 井口賢明

 近年、廃棄物ゼロを意味するゼロエミッションという言葉を耳にする。今回視察したデンマークの「インダストリアル・シンビオシス(産業共生)」は、業種の異なる企業が互いの副産物や廃棄物を相互に再利用している希有(けう)な例だ。事前の資料から受ける印象は、工業団地のような限られた区域にさまざまな企業が集積し相互に連携する、といったものだったが、実際はもっと広域で、人口2万人のカルンボーという町に実にうまく溶け込んでいる。
 この産業共生が成功した背景には、行政主導の大規模開発ではなく、個々の企業の必要性から連携が生まれたこと、ベースには企業の利潤追求があったことが挙げられる。新たな工業団地のあり方として、大いに参考になった。
 また、技能五輪ヘルシンキ大会では、ボランティアをはじめ運営陣がよく組織化されていた。国際大会だけに、2年後の沼津大会では市民挙げての取り組みが必要だ。技能五輪終了後の門池地区の有効利用についても、沼津市から懇話会に意見を求められている。今回の視察を参考に、今の東部の状況を鑑みながらどのような提言ができるのか、ファルマバレー構想の一環として検討課題としたい。

 

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