サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 4年後に迫った静岡空港の開港で、空路という新しいルートが拓(ひら)ける静岡県。国内4路線、主にアジアを中心とした海外9路線が予定され、交流人口の拡大が期待されている。空路への関心が高まる中、伊豆にコミューター空港を開設し、静岡空港と結ぶことで新たな観光客の獲得を願う動きが出ている。伊豆縦貫道、東駿河湾環状道路など、整備が進む道路網とともに、低迷が続く伊豆観光活性化の切り札となるのか。
 10月の「風は東から」は、14日に行われた伊豆地区分科会でのパネルディスカッションの模様を紹介する。静岡県の谷和実空港部長、伊豆の国市の望月良和市長、南伊豆町観光協会の村田俊英会長、JTBパブリッシングの大口裕美編集長を迎え、緒についたばかりの伊豆コミューター空港開設に向けた問題点や課題を探った。コーディネーターは静岡文化芸術大学大学院の坂本光司教授。
風は東から
[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ7
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コミューター空港を伊豆観光の起爆剤に ハード整備と地域活性化は車の両輪
伊豆の国市 望月良和市長
伊豆の国市 望月良和市長
昭和62年大仁町議会議員、平成3年大仁町長就任。ことし4月に誕生した伊豆の国市初代市長に就任。
伊豆のアクセス事情と望まれる二次交通
坂本 静岡空港開港で静岡県への国内外からの交流人口の拡大が予測されています。こうした人々をどうしたら伊豆に呼び込めるのか。空港からの二次交通の必要性が高まる中、小型機が離発着するコミューター空港の可能性がにわかに現実味を帯びてきました。観光の低迷が続く伊豆にとっては久々に大きな夢のある話ですが、まずは伊豆のアクセスの現状について説明をお願いします。
 道路網については、最も混雑する伊豆への入り口の緩和策として、東駿河湾環状道路の整備をはじめさまざまな対策をしています。また、最近注目されているのが、渋滞も信号もない海上交通です。これは大量で早い輸送が可能で、県はTSL(高速船テクノスーパーライナー)を使って海上交通のうまみや面白さを知ってもらおうと、関東圏と下田を直結する実験などもやっています。
 一方で、ピストン輸送や少量輸送に適しているのがエアコミューターです。静岡空港は着実に整備が進んでいて、あと3年半後には飛行機が飛びます。私の役割は、いかに静岡空港に多くの便を就航させるかだと思っています。また、そこからどうやってお客を伊豆に引っ張りこんでもらうか、アクセス改善の一環としてコミューターが浮上するのではなかろうかと思います。
村田 伊豆半島の最南端に位置する南伊豆町は、観光への依存度が非常に高い地域でありながら、アクセス事情が悪い。ハイシーズンには東京から車で8時間から10時間かかることもざらにあります。道路事情の悪さが入り込み客の低迷の原因のすべてとは思いませんが、大きな要素であることは間違いありません。
大口 JTBの調べでも観光動向は国内、海外を含め順調に推移している中、残念ながら伊豆エリアは一部を除き横ばい、もしくは減少しています。原因として、台風や地震などの天災と海水浴の不振が挙げられますが、やはり交通アクセスも大きな要因です。鉄道が通っていて東京や東海圏から便利な東伊豆、中伊豆に比べ、南伊豆、西伊豆は不便で行きにくいというイメージがあります。また、伊豆に入ってから周遊する二次交通も決して便利ではなく、車の渋滞がひどいというのが口コミで広がっていて、利用者に敬遠されているのが現状です。


不振が続く観光産業。再生のヒントとは
静岡文化芸術大学大学院 坂本光司教授
静岡文化芸術大学大学院 坂本光司教授
大井川町生まれ。浜松大学教授、福井県立大学教授などを経て平成16年4月より現職。

坂本 伊豆観光のテコ入れ策として脚光を浴びるコミューター空港ですが、一方で、低迷する観光自体をどうするかも大きな課題です。旅行ニーズ・ウォンツは薄れていないにもかかわらず、伊豆だけが落ち込んでいるという厳しい現状が突きつけられました。
望月 今や、観光主体のまちづくりは全国で行われていて、従来の観光地や海外などにも競合相手が広がっています。客層も、以前の団体客から女性や中高年層を中心とした小グループへと大きく変化しています。こういう時代にあって本当に伊豆は危機意識を持っているのでしょうか。過去の良かった時代は忘れ、時代認識を改めて考え、今までのやり方に区切りをつけることが大切です。それには、各地の個性的な観光資源を活用し、PRしていくことが必要でしょうし、首都圏依存、エージェント依存の体質も見直すべきでしょう。また、観光業界と地域が本当に連携できているか。民・官・学の連携不足、市民の参画ができるようなシステムに欠けているのではないかと感じています。
南伊豆町観光協会 村田俊英会長
南伊豆町観光協会 村田俊英会長
昭和51年『弓ヶ浜ロイヤルホテル文雅』開業。下賀茂温泉旅館協同組合理事長などを歴任し平成10年より現職。

大口 伊豆観光の最大の魅力はなんと言っても温泉と美しい景観です。しかし、旅行スタイルが見学型から体験型に変化している中、温泉旅行もただお湯に入り、おいしい食事を食べるだけでは不十分で、健康や美容のために温泉を楽しみたい方が増えています。旅行者はとてもわがままで、快適かつその土地でしか食べられない物、ほかでは見られない美しい風景を求めています。また、予算に見合う満足感が得られるかどうかを重視します。ブランドの強みというのは少しぐらい高くても安心してお金を出せるというところなので、ぜひ伊豆のオンリーワンを作る中でブランド化を進めてほしいですね。
 伊豆には滑沢渓谷をはじめ、南伊豆の素晴らしい海、大瀬崎にはスキューバに格好のポイントがあります。伊豆の面白みとうまみを知った人は多くがリピーターになっています。だがその前段階、いかに伊豆の面白みを味わわせて理解させるか、そこがあまりにも手薄だと感じます。せめて地域ごとにいろいろなオプショナルツアーをつくり、どこの旅館でもお客さまにさまざまな観光メニューを提案できる。それが次のリピーターを生むのではないでしょうか。
 以前のように大手航空会社がハブ空港に乗り入れ、乗客が目的地まで小型機に乗り換えるというのではなく、最近はポイントトウポイントで直結して送り出すのがサービスだ、というように航空事情が変わってきました。つまり、ニーズがあればどんどん直結していこうということです。ですから、静岡空港に来たお客さまが伊豆に行きたくなるような魅力を創(つく)ってもらいたい。地元の皆さんにはぜひその点をお願いしたいですね。
 


空港建設に必要な地域のコンセンサス形成
JTBパブリッシング 大口裕美 宿泊情報編集部編集長
JTBパブリッシング 大口裕美 宿泊情報編集部編集長
昭和52年JTB入社。るるぶ情報版編集長を経て、平成16年より全国の温泉と宿を編集する宿泊情報編集部へ。

坂本 コミューター空港の可能性については器が先か、活性化が先かという話ですね。しかし、現実には国、県、市町村を合わせて1000兆円を超える借金を抱え、市民感覚として公共事業に対して非常に冷たい見方をしている昨今、誰がどのような主体でどのようにこの構想を進めるのか、検討しなければならない課題は多いのではないですか。
望月 私は道路整備に比べたらずっとコミューター空港の方が安上がりだと思っています。伊豆は平らなところが少ないので、場所の選定は難航するでしょうが、それでも候補地がないわけではない。空港にモータープールを併設すれば、目的地までの車の移動もそれほど問題ないと思います。伊豆新世紀創造祭で提案した伊豆ナンバーは、産官の連携でようやく実現にこぎつけました。同様に、まずは伊豆全体の合意をつくることが先で、行政で話し合いをしながらそれに各業界の皆さんのご意見をいただくのがいいのではないでしょうか。
村田 今回のお話を受けて、地元の産業5団体で意見交換をしました。作るのであればぜひ賀茂郡に、と言いたいところですが、場所の議論は別にしても伊豆にコミューター空港が必要だという点では一致しています。飛行場建設には莫大な金額がかかると思っていましたが、新幹線を1キロ作るのに70億円、コミューター空港だと60億円あればできるそうです。
静岡県 谷和実空港部長
静岡県 谷和実空港部長
企画部、東京事務所長を経て、平成16年に県理事兼広報局長就任。平成17年8月より現職。

 東京に地下鉄を1キロ通すと200億円かかると言われています。小型機は機体が軽いので、大変上質な道路を作るというイメージです。
 最近の調査では、年収1300万円を超える家庭が上海4000万人のうち1割を占めるそうです。こうした富裕層はお金より時間を惜しむ傾向があり、チャーター便で目的地に乗りつけるのが日常です。タイやインドネシアも同様で、必ずしも静岡空港と結ぶことだけを考えるのではなく、こうしたタクシー感覚で利用する海外客のこともぜひ考えてほしいですね。
坂本 ここで、会場からいかがでしょうか。
会場の男性参加者 地域の小規模な観光施設を活性化させる場合はソフトで努力しても可能でしょうが、伊豆全体の主力産業である観光の場合、ハード・ソフト両面の対応が必要条件だと考えています。ソフトの努力は当然ながら、空港整備は基幹的整備の促進としてお願いしたい。伊豆住民の感覚としては、飛行機というとジャンボ機をイメージし、それが離発着する羽田、成田並みの空港を整備するだけの予算を確保できる政治力があるかどうかは疑問です。しかし地元にとって非常に関心が高いテーマですし、この夢を伊豆全体で共有して実現に向けてがんばる中で、創造祭で果たせなかった”伊豆は一つ“をぜひこのテーマで進めていきたい。観光のために施設を作るというのは住民にとってもろ手を挙げて賛成とはいかないでしょうが、地域の活力づくりに主体的に取組んでおられる皆さんから、ぜひ住民に積極的にアピールして、どんな夢が描けるかを訴えていただきたいと思います。
坂本 「念ずれば花」という言葉があります。成功した会社には高い目標と信念があります。例えばワコールは50年先の将来像に向けてまい進し、世界最強の会社になりました。空港建設には10年ほどかかると聞いています。コストの問題もお話のあった通りです。夢のある苦労であればどんな苦労でも地域住民は耐えられると思います。久しぶりに伊豆半島全体がわくわくするようなテーマがコミューター空港。ぜひ掛け声だけでなく、産学官に住(住民)を含めた一日も早い推進体制を作っていただきたい。それを念じて終わらせていただきます。


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