サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
トップ 最新情報 政策提言 活動内容 サンフロント21懇話会とは 飛躍 風は東から

 現代は、日本人男性の2人に1人、女性の3人に1人ががんにかかる「がんの時代」。平成14年、長泉町に開院した県立静岡がんセンターは、今や日本を代表する高度がん専門医療機関として全国的にも高い評価を受けている。12日、同じ敷地内にがん臨床技術の世界的研究開発拠点となる研究所が開所した。医看工連携によるプロジェクト志向型の研究体制で、患者・家族の支援に役立つ成果を生み出すことが期待され、また、研究所の活動がファルマバレー構想の推進に大きく寄与するとみられている。
 11月の「風は東から」は、静岡がんセンター研究所の概要と、構想推進における役割について考える。
風は東から
[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ8
バックナンバー


医看工、産学官連携でがん対策推進 成果生かし健康志向の地域づくりへ
静岡がんセンター研究所
静岡がんセンター研究所
患者家族、臨床を徹底支援
 県立静岡がんセンターは県民のがん対策を担う高度専門病院として平成14年9月に開院した。「患者・家族の視点」を重視した診療方針で、病院、疾病管理センター、研究所の3部門が積極的ながん対策、がん医療を行っている。研究所としての活動は病院の開設と同時に始まり、すでにさまざまな成果を生み出している。開所式で静岡県の石川嘉延知事は「研究棟の完成で、ファルマバレー構想の一連の施設整備は一段落した。組曲に例えるなら、がんセンター、創薬探索センター、治験ネットワーク、そして研究所と、それぞれのパートが出そろい、これから感動を呼び起こす演奏が始まる」と期待を込めた。
 研究所の使命は、患者・家族支援、臨床支援、ファルマバレー構想の推進―の3点だ。
 研究所の特徴を最もよく表しているのが、日本初となる患者・家族支援研究部。病院と疾病管理センター、研究所が協働して、患者・家族の悩みや負担を軽減するケアの研究を行う。がん生存者の声を聞き、それを次の医療に生かそうと、3年前から全国のがんセンター、がん患者会の協力を得て「がん治療はいかにあるべきか」を患者家族の立場で徹底的に議論した。その成果は数々の冊子にまとめられ、県内外の病院などに配布されている。また、臨床支援として、がんの早期発見や最適な治療法の選択に役立つ腫瘍バイオマーカーの開発や、手術、抗がん剤、放射線治療に次ぐ第4の治療といわれる免疫治療の開発に努めている。
 もう一つの特徴がプロジェクト志向型の研究だ。一つのフロアで患者・家族を支援するプロジェクトを一つ設定し、センター職員、大学、企業の研究者が”イコールパートナーシップ“で開発を進める。「職員、大学の研究所、企業の方々がひざを交えて日々話し合いながら研究に取り組む環境づくりは、成果をより早く生み出すための必須条件だ」と研究所長を兼ねる静岡がんセンターの山口建総長。すでに富士写真フイルムと人工知能を使った画像診断装置の開発が始まっている。さらに、次世代陽子線治療装置、患者の口腔ケア、新しい病院運営システムなどの包括的共同研究をパートナー企業と進めていく。
 施設内には、こうした研究のための動物実験室や、医学専門書2万4000冊が収められた医学図書館を用意。また、患者家族支援研究部の横に医療従事者、研究者が気軽に打ち合わせや意見交換などに使えるスペースとして「交流サロンいずみ」が設けられている。


ハード、ソフト両面で地域を活性化
テープカット
テープカットで開所を祝う関係者ら(2005年11月12日、開所式)

 ファルマバレー構想は医療、バイオ関連産業クラスターの形成を目指し、研究所はそのけん引役を期待されている。「研究所はいわば広告塔。ファルマバレー構想とはこういうものだ、というのが研究所の活動を見ると分かる」と山口総長。全国各地に同様のクラスターが形成されつつある中、「ベッドサイドのニーズに応える、ひとづくり、ものづくり、まちづくり」をテーマにした点でほかの地域とは一線を画す。静岡がんセンターをはじめ、東工大、早大、東京農工大、静岡県立大、遺伝学研究所といった医・看・工学のエキスパートに、県工業技術センターや民間企業が参加することで、産学官が連携した研究開発を行う。その土俵が研究所であり、それぞれが協働することによるシナジー効果を狙う。
 ものづくり分野でがん診断薬開発の一翼を担うビーエルの野中浦雄社長は「人材はいるが設備面で能力がない中小企業にとって、研究所の素晴らしい施設を使えるのは大きな魅力。ここでの成果が健康な県民をつくり、国民をつくる中で世界初の技術がいろいろ出てくるだろう」と意欲を見せる。樹状細胞の増殖で装置面をサポートするエイブルの石川陽一社長も、「われわれの装置を研究所で実際に使ってもらい、実用面の改良を加えていきたい。臨床と研究のフィールドが近いことが最大のメリットだ。ぜひ、世界に通じる製品を生み出したい」と抱負を語る。


がん患者へのユニバーサルサービス
 ひとづくり分野では、すでにマンモグラフィー(乳がんなどの画像診断法)の読影医育成に実績がある静岡がんセンター。国立沼津工業高等専門学校の柳下福蔵教授は「高度な医療技術はもちろん、外部を柔軟に受け入れる医看工連携研究室には、ぜひ多くの学生を受け入れてもらいたい。構想が産業だけでなく、新たな人材を生み出すことを楽しみにしている」と語る。
 ファルマバレー構想におけるまちづくりというと、リサーチパークや工業団地を連想しがちだ。現に、静岡がんセンターの北側にはオリンパスの工場進出が決定、移転後の長泉高校にも大学関連の施設が入居予定だ。こうしたハード整備に加え、構想が目指すのはソフト面でのまちづくり。例えば、県民誰もがさまざまな医療情報に接することができ、医療相談や支援が受けられる体制づくりが求められている。現在、患者・家族支援研究部はがんの医療情報や心のケア、経済支援、在宅看護支援などの相談窓口について県内市町村を対象に調査を行っている。山口総長は「がんに関するユニバーサルサービス(図1)を確立することがこの部門の大きな目標」と語る。

 少子高齢化社会が到来し、健康への関心が高まる中、予防医学から在宅ケアまであらゆることがファルマバレー構想の対象となる。街かどの医療相談コーナーに人の輪ができ、在宅看護に適した間取りの住宅が建てられる。授業で効率的な介護を学んだ子供たちが近所のお年寄りを手助けする―。そのような患者に寄り添う医療、ケアの開発、普及を研究所が担い、この地域に健康をキーワードとしたコミュニティーが形成されることを望みたい。


静岡がんセンター研究所に期待する

静岡がんセンター研究所で共同研究を行う東工大、早大、東京農工大と、
大学連携をサポートする経済産業省に研究所への期待を聞いた。
経済産業省大学連携推進課・中西宏典課長
 
経済産業省大学連携推進課・中西宏典課長

 全国的に見ても医学、看護、工学の連携は新しいアプローチ法と考えられ、この研究所をモデルケースとして注目している。国民の一番大切な健康をいかに増進するか、特にがんという、多くの国民を苦しめている部門の研究や医療サービスに結びつく大きな動きが静岡県にあることを評価したい。高齢化や医療費問題といった課題に対する新しい答えがここから出てくれば、国全体にも大いにプラスになると考えている。
東京工業大学大学院生命理 工学研究科・大倉一郎教授
 
東京工業大学大学院生命理 工学研究科・大倉一郎教授

 この研究所の研究体制は非常にオープンなシステムであり、そのため、全く違う分野との共同研究がやりやすいのではないかと思う。さまざまな組織と接触し、交流を深めることが研究の発展には必要不可欠なので、そういう意味で大変楽しみだ。
東京工業大学大学院生命理工学研究科・赤池敏宏教授
 
東京工業大学大学院生命理工学研究科・赤池敏宏教授

 臨床の現場との結びつきが強いので、われわれ基礎研究のテーマ設定もかなり的を絞ったものになると思う。大学から送り込む人材には、どんどん臨床の勉強会に入れてもらうよう言ってある。また、プロジェクトごとにメンバーが入れ替わるという、ダイナミックな人的交流も期待している。
東京農工大学大学院・松永 是教授
 
東京農工大学大学院・松永 是教授

 臨床に近いことのメリットは、腫瘍マーカーなどの結果をすぐに測定できる点だ。日ごろ患者さんの視点で物事を見る機会が少ないわれわれ工学関係にとって、研究所は素晴らしい学びの場であり、医看工連携の拠点にふさわしい場だと思う。
早稲田大学研究推進部長・ 逢坂哲彌教授
 
早稲田大学研究推進部長・ 逢坂哲彌教授

 臨床からと先端工学からの発信が融合することで生まれる、患者に本当に役に立つ研究を実用化したい。現在、いくつかの医療機関とこうしたコラボレーションを行っているが、静岡がんセンター研究所は現場の医療に直接つながる窓口の一つとして大いに期待している。


■企画・制作/静岡新聞社営業局

▲ページトップ
入会案内お問い合わせ事務局案内リンク Copyright(c) SUNFRONT21.ALL RIGHTS RESERVED.