サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 観光地の成功の第一条件に挙げられる交通アクセスの良さ。静岡県の調査(H15)では、伊豆を好ましくないと感じるイメージのトップは「交通渋滞に巻き込まれる」だった。夏の海水浴シーズンには東京都内から南伊豆地区まで8〜10時間かかることもあり、首都圏の観光客から敬遠されているのが現状だ。また、平成15年の集中豪雨では、まさに「陸の孤島」と化した伊豆半島。通行止めは41カ所にも上り、大勢の観光客が足止めされた。復旧は長期にわたり、住民や産業に深刻な影響を与えた。
 12月の「風は東から」は、伊豆観光活性化に欠かせない道路網整備の現状と課題についてスポットをあてる。
風は東から
[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ9
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路整備に「おもてなし」の視点  ハード、ソフト両面で渋滞緩和図る

伊豆の道路事情と整備方針
 伊豆を訪れる観光客は年間4200万人、京都に次ぎ全国第2位の観光地だ。7割が首都圏からの旅行客で、そのうち6割が車利用。県の調べによると、伊豆の渋滞個所はおよそ25カ所。大きくは沼津・三島地区、熱海・伊東地区、下田地区に分かれる。首都圏から来るルートは2経路あり、真鶴を通り熱海・伊東方面に抜ける国道135号と、東名沼津インターから国道136号、414号を通るルートだ。伊豆半島は間口が狭いため、入り口にあたる沼津・三島と熱海・伊東、またそれら3つの国道(135号、136号、414号)が合流する下田付近でも慢性的な渋滞を引き起こす。さらに観光地特有の問題として、休日の渋滞のひどさが挙げられる。
 県全体の道路整備予算は約700億円。伊豆地域にはその3割が充てられている。伊豆半島の主軸となる伊豆縦貫道は主に国の整備となるため、県の重点課題は南北軸となる国道135、136号の機能強化だ。具体的には国道135、136号で渋滞の激しいところからバイパス化や拡幅を進めている。先月18日には網代バイパスが開通した。
 主要道路軸が完成すれば次のステップとして、南北軸の間をろっ骨のように結ぶ東西道路を整備する。基本的には現道の整備・拡幅や一部バイパス化を行い、伊豆縦貫道に建設が予定されているインターチェンジとそれぞれ結ぶ計画だ。
 大規模な整備と並行して、即効性の効果が期待できるのが交差点の改良。平成13年から18年にかけ、2種類の交差点改良事業を県下全域で行っている。現道を見直し、右折レーンを設置するなど実情に即した工夫をこらすことで車の流れを円滑にする。用地取得などの大きな予算をかけることもない。伊豆地区では30カ所が対象となり、うち20カ所が完了した。「渋滞は残るが以前に比べると良くなったという地元の声を聞く」と県・土木部の石野功道路企画室長。このほか、雨量規制がある区間の防護策の強化や、河津桜まつりなどの大きなイベント時期を避けて工事を行うなど、さまざまな工夫を重ねている。


情報を生かした渋滞回避

河津桜まつり
年間100万人以上が訪れる「河津桜まつり」
 主要道路網の整備と並行して力を入れているのがソフト面での渋滞緩和だ。
 「THIS伊豆ナビ(http://www.sui2.com)」は国土交通省が取り組むITS(高度道路交通システム)の一環で、交通渋滞の緩和や快適な観光の実現、観光入り込み客数の増加を目的に道路情報、観光情報、公共交通情報などを提供し、その有効性や実現の可能性を検証する。ことしは社会実験として、河津桜まつり期間中に「駐車場満空情報提供実験」を行った。

「駐車場満空情報の提供実験」

情報板
伊豆高原駅手前に掲示された情報板。会場までの所要時間がリアルタイムに反映される

 毎年100万人の人出でにぎわう河津桜まつり。ピーク時には駐車待ちの車による渋滞が幹線道路にまで及ぶ。また駐車場探しのためのうろつき交通が発生、周辺道路で慢性的な渋滞を引き起こす。今回の実験では、(1)町内駐車場の満空情報を携帯電話で本部に集約、それを各駐車場に伝えることで駐車待ちの車を誘導する(2)桜まつり会場周辺の渋滞・駐車場満空情報を伊豆急伊豆高原駅手前で表示することで、車から電車に乗り換えてもらう「パーク&トレイン」を実施。乗り換え利用者には会場のある河津駅までの往復割引切符を用意した(3)河津バガテル公園駐車場から会場までのシャトルバスを運行―の3点について行った。昨年に比べうろつき交通の90%削減や、電車への乗り換え利用が1.7倍となるなど、目覚ましい効果を挙げた。

 事務局を担う国土交通省沼津河川国道事務所の中川晋吾調査係長は「こうした試みを通じて渋滞緩和に有効なシステムを地元主体で構築してもらい、桜まつりだけでなく伊豆各地のイベントで役立ててもらいたい」と語る。  イベント時だけでなく、伊豆を車で訪れる人の多くが知りたいのは今現在の道路状況と目的地までの到着予定時刻。カーナビを搭載した車は増えているが、「伊豆地域に関してはVICS(※)の設置個所が少なく、カーナビを使ったリアルタイムな渋滞情報を入手するのは困難」(中川係長)。また、インターネットや携帯電話で道路情報は手軽に調べられるようになったが、規制情報は道路管理者である県が出す一方、渋滞情報を管轄するのは県警などの警察。東名の渋滞情報は全線で見られるものの、他の一般道は県単位のため、別々に情報を入手しなければならないのが現状だ。
 「This伊豆ナビ」ではこうした情報を東京都、神奈川、山梨、静岡各県で一元化してワンストップで提供している。現在は渋滞情報、道路規制情報、ルート案内などが別々のコンテンツになっているが、将来的には目的地までの料金や所要時間、周辺の観光情報を一つの地図に集約することが目標だ。例えば、東京から下田に行く主なルートは3つ。それぞれのルートのどこで工事をやっていて、どの部分で渋滞が発生しているか、あるいは途中にはこんな観光名所があるから寄ってみよう、という情報が一つの画面で読み取れるシステム作りを目指している。誰もが使いやすい「This伊豆ナビ」構築に向け、関連省庁、県、市町村などの間で調整が続けられている。

「下田白浜月曜会」

白浜月曜会
アロエの花をバックに、整備に汗を流す「白浜月曜会」のメンバー

 白浜月曜会は昭和52年から国道135号の下田市白浜地区でアロエの植栽や清掃美化を行っている。現在は尾ケ先ウイングに続く国道沿いに枕木を並べ、ベンチやシュロの葉を使った日よけを作っている。オーシャンビューを遮るように生えている桜の大木をチェーンソーで伐採するなど、その大掛かりな活動はプロ顔負け。代表を務める鈴木篤さんは「好きだからできること。月に1度は皆で集まり、整備方針について話し合う。熱が入るあまり時には言い合いになることも」と笑う。アロエの赤い花にも似た地域の人々の熱い思いが、訪れる人の感動を呼んでいる。
 ※VICS(道路交通情報通信システム)
 ドライバーの利便性の向上、渋滞の解消・緩和などを図るため、渋滞状況、所要時間、工事・交通規制などに関する道路交通情報を、道路上に設置したビーコンやFM多重放送により、ナビゲーションシステムなどの車載機へリアルタイムに提供するシステム。


景観に配慮した道づくり
 ハード、ソフト両面での渋滞緩和策とともに今後県が力を入れるのが、景観に配慮した道路づくり。県が進める「くらしの満足度日本一」では、単に使いやすさだけを追求するのではなく、道路整備に「おもてなし」の視点を入れることで、旅行の”プロセス“としての道路の役割を見直すのが狙い。
 すでに全県で、県が管理する道路の一部区間を里子に見立て、地域住民や企業、学校に清掃や草花の手入れなどの管理を任せる「アダプトロードプログラム」がスタートしている。下田土木事務所管内には県内で最も多くの美化団体があり、活動も活発だ。
 伊豆には半島をぐるりと回る国道があり、眼下に見える青い海原や駿河湾越しの富士山など、至る所に息をのむような風景が広がっている。「こうした景観の良さが来訪者に本当に伝わっているか。写真を撮るにもガードレールが邪魔だったり、木がうっそうと茂っていたり、誰もが止まりたいところに簡易駐車場がなかったりといった不都合を解消したい」と石野室長。地域住民を巻き込んだ「見直し作戦」や、心に残る「道のある風景」の募集など、新たな伊豆の魅力として発信することも考えている。
 観光や産業振興、生活道路、あるいは災害や緊急時の動脈などさまざまな役割を担う道路。より豊かな道路空間の創造に向けて住民と対話しながら、住む人、訪れる人誰もが気持ちよく、また安心して利用できる道路網の構築に向けた整備が進んでいる。


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