サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
トップ 最新情報 政策提言 活動内容 サンフロント21懇話会とは 飛躍 風は東から

 伊東市は健康保養地の先駆けとして、平成10年に国のモデル都市指定を受け、12年には健康回復都市宣言を行っている。全国4位の湯量を誇る温泉をはじめ、海、山、湖などの自然、歴史、文化を併せ持ち、40以上の美術館が林立する伊豆高原は若者に人気のスポットだ。こうした豊富な観光資源を生かして、官民一体の「健康保養地づくりプロジェクト」が本格化している。その目玉となるのが小林寛道東京大学教授との「温泉と運動」をテーマにした共同研究だ。
 2月の「風は東から」は、伊東市が進める健康保養地づくり事業について、静岡県の土居弘幸理事、伊東市の佃弘巳市長、東京大学の小林寛道教授に話を聞いた。
風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ11

バックナンバー


「温泉と運動」軸に東大、県と共同研究。自己実現可能な健康づくりを伊東市で
健康寿命を延ばし、体力向上図る決め手
土居弘幸静岡県理事兼健康福祉部技監
土居弘幸静岡県理事兼健康福祉部技監
昭和28年生まれ。岡山共立病院医師、厚生省健康政策局指導課救急医療専門官を経て、平成13年静岡県に着任。


小林寛道東京大学教授
小林寛道東京大学教授
昭和18年生まれ。日本陸上競技連盟医科学委員会委員長、日本体育学会理事長などを歴任。平成16年からしずおか健康長寿財団副理事長。
ウエルネスという言葉をよく耳にします。心身ともに健康な状態を表す言葉ですが、静岡県が進めるファルマバレー構想では、ウエルネスの視点で伊豆の豊富な資源を活用した地域振興を進めていますね。
土居 従来の生活習慣病予防の考え方や枠組みを超えた新しい方法論の導入と、地域の関係者がそれぞれの専門性を活用し互いに協力し合うことによって、地域住民はもちろん観光客、そして地域全体が健康で豊かになることを目指しています。
 新しい方法論とは、小林東大教授が提唱する「(※)KKウエルネストレーニング理論(KK理論)」です。寝たきり予防に加え、最近の研究では、認知症の予防や知的障害児の運動調整機能の向上に寄与することが示唆されています。このたび伊東市が、県と一緒に東大と地域において共同研究を始めることになり、大きな期待を寄せているところです。
伊東市と東大が共同研究を始めるに至ったきっかけを教えてください。
 健康保養地づくりに向け、今までオレンジビーチマラソンをはじめ、さまざまな取り組みをしてきましたが、大きな柱として継続できる事業がありませんでした。一方、全国屈指の湯量を誇る温泉の利活用も課題でした。健康保養地を目指すにあたっては単に長生きをするのでなく、健康寿命を延ばしたい。それには体力の向上が必要です。そんな折、三島の県総合健康センター(KK理論に基づくトレーニングマシンを導入し、子供からお年寄りまで幅広い筋力アップ事業を展開している)にKKマシンを視察に行き、偶然小林先生にお会いする中で「これだ!」とひらめいたんです。その縁を大事にしたいと思っています。
「出会いを大切に」というお話ですが、今回の共同研究に向けての抱負をお願いします。
小林 ファルマバレー構想を進める上で、運動分野での役割を与えてもらいました。静岡県では脳の活性化を高める、大腰筋を鍛える、さまざまな部位の筋肉を太らせる新しい方法などを行っています。その中に水と温泉を活用した運動のカテゴリーがあります。温泉が体にいいことは分かっていても、それを積極的に健康づくりに生かそうという研究はまだ十分ではない。温泉という資源をもっといろいろな形で利用できないか、これは私自身以前から取り組みたかった研究なんです。

佃弘巳伊東市長
佃弘巳伊東市長
昭和22年伊東市生まれ。58年9月から伊東市議会議員3期12年、平成7年4月から静岡県議会議員3期10年務め、17年5月から現職。

シーサイドスパ
伊東マリンタウン内のシーサイドスパ
伊東マリンタウン
共同研究の舞台となる伊東マリンタウン
健康保養地づくりの柱、温泉・健康・食事
以前から研究したかったというのは先ほどの市長の縁ということにも通じます。共同研究の内容について教えてください。
小林 一般的な温泉の入り方である「静」、積極的に温泉を活用する「動」、寝たきりの方でも健康増進できる「楽」の3段階を、個々のライフスタイルに合った形で組み合わせたいと思っています。
 KKマシンを使った運動と温泉の組み合わせももちろんですが、私が注目しているのが「かけ湯」です。温泉の原点はかけ湯なのですね。伊東は湯量がたっぷりありますので、手おけなども工夫しようと思っています。地中から出るエネルギーを上手に体に取り込み、この研究を通じて新しいものを開発したい。非常にワクワクした気持ちでいます。
 場所は伊東マリンタウン内のシーサイドスパを予定しています。ここにマシンを置き、観光客も住民も親しめるスペースにしたい。マリンタウンには年間210万人が訪れますが、スパの稼働率はいまひとつです。この事業を進めることでスパの活性化にも貢献すると思います。
土居 もう一つ大事な柱が料理ですね。大抵の観光地には名物料理がありますが、それは地域の限られた食材を生かし、料理として磨き上げたからこそ名物になったのです。ところが静岡は食材に恵まれ過ぎてかえって特徴がない。伊東の名物料理は、と聞かれても、食材はたくさん思い浮かびますが、磨き上げられた文化としての料理はどうでしょうか。日本各地で大変おいしいラーメンが増えています。それはみんなで競い合い、工夫しているからです。伊東市もぜひ、地域の皆さんで知恵を出し合い、競い合って、「ここに来たら絶対にあれを食べないと」という料理を出していただきたいのです。
 アジとイカを一緒にたたいただけの漁師料理があります。こうしたシンプルでおいしい、昔ながらの料理がたくさんある。健康保養地づくり事業では地元の食材を使った健康メニューを開発し、旅館や飲食店で提供することを考えています。これは地産地消にもつながりますし、健康増進に地元の食材を掛け合わせた薬膳村構想として結実させたいですね。

内需拡大に必要なスピード感と地域連携
KKマシン
KK理論を応用して開発されたKKマシン(県総合健康センター)


※KKウエルネストレーニング理論・・・歩行に重要な役割を持つ体幹深部筋(大腰筋)を効率的に鍛えることで、スポーツの競技力向上、リハビリテーションのためのトレーニング、子どもの体力向上、高齢者の要介護・寝たきり予防など、さまざまなニーズに対応できるトレーニング理論。
すでに伊豆高原では定年後の生活を過ごしたいという首都圏からの移住者が増えているそうですね。大量リタイアを迎える団塊の世代の一番の関心事は、あとどれだけ思い通りに体を動かせるかだと聞いています。
小林 団塊の世代は今まで一生懸命家族や社会のために働いてきました。定年になってやっと本当に自分のやりたいことに時間を使えるのです。ところが、知力や判断力は豊かになるのに、体力は衰える一方。健康になるのも目標として十分なのですが、実は健康でやりたいことができる体の基盤をつくることが大切なのです。そうして初めて自己実現が可能になる。温泉はその基盤づくりに非常に有効な資源だと思いますし、これから始まる健康づくりから、極めて高い文化性、文化的活動が起こってくることを私は期待しています。
 最近ではフラダンスの愛好家が東京から団体でやってきますし、北海道のお年寄りが冬の間パークゴルフをしに訪れます。温暖な気候に加え、温泉を利用した科学的な筋力アップメニューができれば、伊東を訪れることの付加価値がさらに高まると考えています。
小林教授の協力を得ながら市が主体となって進めていく保養地づくりですが、ファルマバレー構想の一環として県はどのような支援を考えていますか。
土居 小林教授がオリンピック選手を育成する中で確立されたKK理論を、日本で先駆けて県民の健康増進に応用しているのがファルマバレー構想です。県総合健康センターがその有効性を検証し、一般市民向けの運動プログラムを開発しました。県が推奨する新しい方法論を、今度は伊東市が実践してください。技術的なサポートは東大と一緒に県総合健康センターが行います。また、県民、市民への広報にも力を注ぎ、市と一緒に説明責任を果たしていきたいと思います。
 すでに来年度の市の予算も計上しています。新しい取り組みというのは行政ではなかなかできないものですが、それを突破していくのが政治の役割です。今までのように基本計画や事業計画をゆっくり作っていてはすぐに陳腐化してしまう。即実行し、付加価値を高め、変化をさせていかないと飽きられてしまいます。「失敗を恐れていては成功はない」をモットーに、やってだめならまた考えればいい、ということを職員には言っています。
土居 地域の方にもぜひ協力をお願いしたい。地元を知り尽くした人々や、観光のプロが集まって真剣に議論すれば、必ず良いアイデアが出てきます。しかし、言い放しで終わらせないで下さい。今回は、佃市長のリーダーシップにより”実行“されることを期待します。行政はそれを応援し、励ますことをこまめに継続してやっていきます。
 伊東市は今まで外に対して多くの宣伝をしていました。しかし、これからは健康保養地づくり事業を中心に、内需の拡大に軸足を置いた展開をしたい。まずは地元の人たちが親しめる健康づくりを目指したいですね。そうすれば必ず伊東を訪れる人にとっても魅力アップにつながると思います。
小林 KK理論も、すでに出ている効果を実証するだけでなく、それを土台にいろいろなノウハウを開発したい。海も温泉も食材もありますし、別の分野の専門家にも大いに入っていただきたい。このプロジェクトは初めの一歩。ここから伊東市がどんどん発展していくことを願っています。


■企画・制作/静岡新聞社営業局

▲ページトップ
入会案内お問い合わせ事務局案内リンク Copyright(c) SUNFRONT21.ALL RIGHTS RESERVED.