サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 東部地域の活性化に向け、企業と行政が一体で提言を行うサンフロント21懇話会。ことしはファルマバレー構想の推進と伊豆の観光振興をメーンテーマに、産学官が連携する中から多くのベンチャー企業が生まれている北欧メディコンバレーの視察や、伊豆コミューター空港の可能性を探る講演会を開催するなど多面的な活動を行った。また、沼津、三島市を中心とした2市3町を対象に、合併した場合のメリット・デメリットについて独自の調査を行い、成果を冊子にまとめている。
 3月の「風は東から」は、1年間の総括として石川嘉延知事、懇話会代表幹事の岡野光喜スルガ銀行社長に、今後の東部発展に向けたヒントを聞いた。聞き手は静岡産業大学の大坪檀学長。
風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ12

バックナンバー


高価値と感動生み出す地域づくりへカギ握る物流・通信インフラ整備
住民の意識に変化。いよいよ世界へ向けた飛躍の時
石川嘉延 静岡県知事
石川嘉延 静岡県知事

岡野光喜 スルガ銀行社長
岡野光喜 スルガ銀行社長
サンフロント2懇話会代表幹事

大坪 檀 静岡産業大学学長
大坪 檀 静岡産業大学学長
サンフロント21懇話会アドバイザー
大坪 サンフロント21懇話会が設立された11年前と比べて東部は随分変わりました。伊豆新世紀創造祭や静岡がんセンター開院をきっかけとしたファルマバレー構想、また、静岡空港の開港も3年後に迫り、経済も活性化しつつあります。一部では市町村合併も進み、地域の流動化が少しずつ始まっています。そこで今後、東部の発展に何が必要なのかをお聞きしたいと思います。

石川 以前は東部地域の人たちと地域のあり方を議論すると、県に対する不平不満や批判が返ってきましたが、最近はそういうことが少なくなってきた一方で、今こんなことをやっているとか、こういうことを始めたといった自分の積極的な行動やチャレンジをベースに、ついては県に何をしてほしいという、主体性のある発言が多くなってきましたね。

大坪 それはとても大事なことですね。具体的にはどのようなことですか。

石川 例えばファルマバレー構想。これは既にプロジェクトと呼んでいますが、あちらこちらでそれに呼応する動きが出てきました。中でもウエルネス産業の分野の「かかりつけ湯」には、伊豆全域の宿泊施設が積極的に参加していただいています。また、三島の県総合健康センターで成果が上がっている大腰筋トレーニングは、来年度から伊東市が一般市民向けに温泉入浴と健康筋力づくりに導入予定です。このトレーニングは器具を使いますが、器具開発の分野に東部のものづくり企業が携わっています。

大坪 この傾向に弾みをつけるのが富士山の世界遺産登録でしょう。

岡野 まずは富士山周辺から産業廃棄物やごみをなくすルールを明確にするべきです。行政だけでなく、一人ひとりが「どのように行動するべきか」という意識を持ち、それを地道に続けていくことが世界遺産登録につながると思います。

石川 富士山を目当てに大勢の人がやってきますが、実は静岡県の泣き所は周辺の宿泊機能が弱いことです。ほとんどが富士五湖をはじめとする山梨県側に流れていってしまう。伊豆の西海岸や天城山西麓から見る富士山も素晴らしいのですから、温泉だけでなく富士山を目玉にしたキャンペーンをしたらいかがしょう。

大坪 伊豆半島に来て、温泉に入って富士山を眺める、すばらしいですね。眺望をメーンにした観光というのは東部にはあるのですか。

岡野 東部に住んでいる人々にとって、富士山は毎日見えるものであり、特別意識した存在ではないと思います。先日、静岡県に大変ゆかりの深い彫刻家の流政之先生(※1)とともに、富士山が美しく見える場所を探すために東部各地を回りました。その中で先生がお選びになったのが田貫湖からの眺めでした。人工湖である田貫湖を舞台にすることで、富士山の雄姿がもっとも際立って見える場所だそうです。言われてみると本当にすばらしい。富士山を見慣れている私たちには思いもつかない新鮮な視点で、絶景ポイントを教えていただき、とても感謝しています。


雄大な富士を一望できる田貫湖畔
雄大な富士を一望できる田貫湖畔

新鮮な魚のそぼろを使った伊東の「箱ずし」
新鮮な魚のそぼろを使った伊東の「箱ずし」
東部のお宝探し。オンリーワンをつなぎ、新たな魅力の創造を
大坪 静岡県は今までもロダン作品の収集に力を入れてきました。流先生のような世界的に著名な芸術家にもご協力いただいて、ほかに類を見ないオンリーワンの魅力を創(つく)りたいですね。伊豆についてはいかがですか。

岡野 伊豆の強みは周遊できることです。しかし、町ごとの詳しい地図はあるものの、森林浴を楽しみたいとか神社仏閣を巡りたいといった、訪れる人の目的に沿った伊豆全域のマップがありません。スポーツにおいても、狩野川沿いのサイクリング、田牛のサンドスキー、松崎のカヤック、大瀬崎のダイビングなどいろいろな種類のスポーツが楽しめるのですが、限られたファンだけにしか知られていない。伊豆で誰もが楽しめるスポーツマップを作れば、新たなファンを獲得することができ、ひいては旅館・ホテルの活性化につながります。伊豆には陶芸の黒田泰蔵先生(※2)のような芸術家も多く住んでいらっしゃる。視点を変えることで、また違った伊豆の魅力を引き出せると思います。

石川 食材についても、何でもあるのでかえって特色が見えてこない。これから伊豆半島を鮮明に印象づけるには、伊豆でしか味わえない料理を見つけ出すことが大切でしょう。
 例えば伊東の箱ずし。地元の海産物を入れた押しずしですが、これがうまい。伊東には何十年も訪れているのに最近まで知りませんでした。しかし地元の方は秋のお祭りには必ず作るので、珍しくも何ともないとおっしゃる。シッタカと呼ばれる貝の味噌汁だって、外から来る人にとっては珍しくておいしい。地域の本当にいい食材に地元の方が気付いていないのです。

岡野 約1000万人と言われる団塊世代は、両親が地方から出てきて東京で育った方が多く、もう一度父母のふるさとの味を発見したいという願望があります。そうなると、江戸前のすしではなく、地方の郷土料理がクローズアップされてきます。伊豆の旅館は、「東京と同じものでなく郷土料理を出してほしい」というお客さまの声が多いそうです。旅館とお客さまのミスマッチが起きていて、これを解消することが伊豆ブランドの創造につながるのではないでしょうか。


空港開港で変わる産業の形。人の流れが行政変える
静岡空港イメージ
観光だけでなく、貨物輸送の面でも期待される静岡空港
(写真はイメージです)


※1 流政之先生
 彫刻家。大正12年長崎県生まれ。立命館大学を中退し、終戦後独学で彫刻を学ぶ。昭和50年ニューヨーク世界貿易センターに「雲の砦」をつくり国際的評価を得る。

※2 黒田泰蔵先生
 陶芸家。昭和21年生まれ。無釉の焼締め白磁で独自の作風を確立する。カナダや益子で修行後、現在は伊東市に窯を移し、各地で個展を開催。

※3 電鋳プレート
 母型に膜厚ミリ単位の、超厚付け電気メッキを施した後に、はく離して製品を作る方法。
大坪 産業やものが集まると人々の行き来も活発になって、行政の境を無視する動きがだんだん起こってきます。東部ではF1レースの開催や、ファルマバレー構想から派生した新しい産業の集積が進んでいますね。

岡野 その一つが来年沼津市をメーン会場に開催される技能五輪国際大会。国内外から20万人が集まる国際大会に向けて、今、周辺道路の整備が急ピッチで進んでいます。これが完成すると人の流れも大きく変わるでしょう。郊外のショッピングセンターがにぎわい、多くの駅前商店街が衰退傾向にあることを考えれば、今後はますます車の移動に便利なところに人が集まるでしょう。

石川 道路整備にはたくさんの課題が残っています。また、東海道線と御殿場線、身延線と東海道線、あるいは新幹線と在来線の乗り継ぎなど、公共交通の利便性の向上が相当大きな問題だと認識しています。これを改善すると人々の生活圏がもっと一体化して合併への弾みにもなると思います。

大坪 公共交通と自動車のスムーズな相互利用が促進されると、生活圏や商業圏がますます広がりますね。静岡空港の開港はそれに拍車をかけるのではないですか。観光はもちろん、ビジネスの場面でどのような利用をお考えですか。

岡野 人の行き来についてはよく議論されますが、むしろカーゴ(航空貨物)を活用して静岡県の産品を県外、海外に売り込むことが産業の活性化につながると思います。道路渋滞の影響もなく、一度ルートができれば定期的に物は流れていきます。今まで東部の物流は貨物トラックが主流でしたが、飛行機でカーゴを運ぶことができれば海外に対しても、北海道、九州をはじめ各地に直結する販路ができ、大きなチャンスとなります。

大坪 空港を使うと産業の形も変わると思います。時計、あるいはハイテク製品のような軽くて高付加価値のものにシフトしていくのではないですか。

石川 最近、面白いことを聞きました。下田に女性3人でミニカーのネット販売をしている会社があります。趣味に属するものを扱う小さな企業なので、インターネットと宅配便があれば結構商売になるそうです。また、南伊豆に携帯電話やデジカメ用の電鋳プレート(※3)を作る会社があります。川崎にある、この分野では世界トップメーカーの子会社です。高い技術力があるので、会社がどこにあろうが世界中から注文が殺到するそうです。
 伊豆半島もこれから暮らしやすい場所、医療・文化・教育水準が高い場所というイメージが確立してくれば有能な人材を集めることができると思います。難しい仕事をする人はオフタイムにはリラックスしたい。都会派もいるでしょうが、もちろん自然派もいます。そこを狙っていけば意外な展開が期待できるのではないか。その前提になるのは、通信インフラの整備と物流です。せっかく鉄道があるので、鉄道と貨物輸送を組み合わせた仕組みができないか、庁内で研究しています。

大坪 オンリーワンで多品種少量生産。それならカーゴの対象になる。こういうものが日本の得意とする分野です。オンリーワンの技術をもつ会社はこれからも生き延びていくと思いますし、新しい産業誘致の形を考えた方がいいですね。

石川 道路、鉄道、空港などのアクセス改善によって、物流や人の動きはますます拡大すると思います。東部の合併はなかなか進みませんが、自治体の行政区域は自由に伸縮すると考えるといいのではないでしょうか。オリンピックが開催されたトリノも市の人口は90万人程度。けれど都市圏で考えれば約200万人になる。周辺の人々はトリノにある機能を利用していますし、都市圏で力を合わせればオリンピックも開催できるのです。

大坪 東部にも大都市圏という考え方を導入していけばいい。そう言っているうちに三島、沼津といった行政区のことを忘れるかもしれません。人の動き、あるいは産業の動き、経済の力が行政を動かす、そういう時代がすぐそこまで来ています。


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