サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 東部活性化の方策を探るサンフロント21懇話会特集「風は東から」。本年度は「観光」「技能五輪国際大会」をテーマに、広域連携やファルマバレープロジェクトにまで踏み込んだ振興策を紹介していく。
 4月は伊豆八十八カ所霊場巡りにスポットを当てる。四国八十八カ所になぞらえ日本各地に設けられた札所の一つで、健康志向や温泉・歴史ブームを背景に、“自分探し”を求める中高年に静かな人気を呼んでいる。伊豆八十八カ所巡りの魅力と、それが支持される社会的背景や地域振興に結びつける手法について考えた。
風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ1

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伊豆を一つにつなぐ八十八カ所霊場。歴史と自然訪ね、自分探しの旅へ
手軽さと達成感が魅力。中高年に人気の八十八カ所巡り
歩き遍路
■美しい花を眺めながら参加者同士の交流が生まれる
歩き遍路のお問い合わせは
伊豆霊場振興会
TEL 0557-35-0274
ホームページ http://www3.tokai.or.jp/y-tanaka/
 「それではまいりましょう」―。元気のいい掛け声とともにリュック姿の中高年男女約20人が伊豆箱根鉄道田京駅を出発した。一行は、伊豆八十八カ所をウオーキングで巡るグループ。思い思いのペースで最初の目的地である十一番札所、長源寺(伊豆の国市)に向かった。
 世話役の田中康男さん(伊東市)は定年退職後の趣味として四国八十八カ所巡りを計画したが、体調を崩し断念。同じころ、知人の話から伊豆八十八カ所の存在を知り、5年ほど前から寺巡りを始めた。今回は、すべての行程を徒歩で回り、昨年12月から月1回のペースで、全25回を予定している。毎回20人前後が参加する。
 春真っ盛りの伊豆。黄色い菜の花、色とりどりのチューリップ、気の早い芝桜が濃いピンクのじゅうたんを広げる。あまりの美しさに一行は何度も足を止める。庭先で植木をせん定している地元住民に気軽に花の名前を尋ね、しばし歓談する場面も。
 小一時間歩いた後、長源寺に到着。あらかじめ連絡を入れてあるので、寺の応対もスムーズだ。あいさつ後は本堂に上がり、納め札とさい銭を納めて住職の読経に全員で唱和する。時間があれば、住職の説法や寺の由来などを聞くことができる。その間、参拝した証として納経帳に朱印を押してもらう。寺を回るごとに朱印が増えていくのがお遍路の楽しみの一つだ。
 田中さんが代表を務める伊豆霊場振興会の会員は現在180人。多くが地元だが、県中西部はもちろん首都圏からの参加も多い。九州に住む会員もいて、頻繁には来られないため田中さんが情報を提供している。年齢層は40代後半から80代と幅広い。横山博さん、周子さん夫妻は伊東市から参加した。博さんは「健康づくりが目的。同じ趣味を持つ仲間と知り合ったり、住民とのふれあいが楽しい」。周子さんも「寺院に何気なく安置されている鎌倉時代の仏像を見ると心が洗われる」と語る。


納経帳を手にする室伏社長
■1年かけて作成した納経帳を手にする室伏社長
日帰りバスツアーの
お問い合わせは
三嶋観光バス
TEL 055-970-1011
ホームページ
http://m-kanko.com/
事業展開に期待。必要な寺の組織化と参拝のルールづくり
 伊豆八十八カ所の起源は定かではないが、江戸時代には盛んに巡礼が行われていたという記述が多くの札所に残されている。昭和40年代後半、熱海を中心に一度復興が図られたが、関係者が高齢化する中、自然と下火になっていった。現在は個人や田中さんのように小グループでの参拝がほとんどだ。
 そんな中、手軽に伊豆八十八カ所を巡る日帰りバスツアーを開催しているのが三嶋観光バス(函南町)。同社はもともと四国巡礼ツアーを行っており、巡礼のノウハウは豊富。2年ほど前に県の経営革新支援法に応募し事業を開始した。
社長の室伏強さんは「四国遍路に参加したお客さまから感動と感謝の言葉をいただいたこと、また、巡礼の楽しさを知ったお遍路さんは満願後に西国・坂東・秩父など次の巡礼先を目指す。首都圏に近く、観光ポテンシャルの高い伊豆は、全国の巡礼ファンの受け入れ先として大いに可能性がある」と事業に踏み切った理由を語る。
 観光地間競争が激化し、割安な海外ツアーに押され、依然低迷を続ける伊豆の観光産業。首都圏の中高年層に向けた新たな観光の魅力として、また、懸案とされていた「伊豆は一つ」を具現化する手法としても関係者の期待は高い。「長年観光に携わっているが、伊豆が一つにまとまれるツールは八十八カ所以外にはない」と室伏社長は断言する。
 しかし、一度消えかけた伊豆八十八カ所霊場を再び整備するには課題も多い。事業を始めるに当たり、室伏社長が最初に行ったのが納経帳と地図づくり。八十八あるお寺すべてを回り、寺院名とご本尊を記入してもらった。
 最も大きな問題が、八十八カ寺の組織化とコンセンサスの形成だ。長い歴史を通じてシステム化され、いつでもお参りできる四国や西国と違い、作法を知らず観光気分で訪れる巡礼者の受け入れに難色を示す寺もある。中には無人の寺もあり、納経帳への押印ができない場合もある。さまざまな宗派に分かれていることもまとまりにくい理由の一つ。まずは八十八カ寺に霊場会のような組織を立ち上げてもらい、法事などで忙しい時の参拝方法などについてルールづくりが必要だ。「時間はかかるだろうが、礼節を持って対応していくことが大切」(室伏社長)。受け入れ態勢を整え、伊豆の活性化につなげたい考えだ。


歴史や文化が眠る寺。魅力を束ね、観光振興の起爆剤に
説法に耳を傾け、心静かに仏像を拝観する
■説法に耳を傾け、心静かに仏像を拝観する。自分を見つめなおす貴重な時間が流れる
 団塊世代の大量リタイアを目前に控え、高齢者向けの観光商品が次々と市場に投入されている。伊豆では健康増進と癒しを提供するかかりつけ湯が誕生した。三嶋大社では、大手旅行会社と共同で桜のスケッチツアーを行い、好評を博した。さまざまな旅行パンフレットにはウエルネスやホスピタリティ、健康、感動といった単語が並ぶ。
 伊豆八十八カ所霊場巡りは、満願の達成感は言うに及ばず、遍路の過程で「自分を静かに見つめ直すことができる」のが大きな魅力だ。日大短期大学部で観光学を研究する宮川幸司助教授は「戦後の日本を全力で駆け抜けてきた団塊世代はスピード時代への反動や反感、あるいは何かを置き忘れたという思いがある。一方、テロや環境問題、犯罪の凶悪化、低年齢化などの社会不安から、心の平安を得たいという欲求が働く」と分析する。
 古文書や仏像など、地域の歴史が眠っている寺も多い。伊豆の国市韮山の北条寺には北条政子の打ち掛けが現存し、下田の長谷寺のご本尊は国の重要文化財に指定されている。一番札所から順に回るのは大変だが、「例えば納経帳を旅館に置き、時間が空いた観光客に散策がてら勧めても喜ばれるのでは」と宮川助教授。
 受け入れ側となる長源寺の高木泰孝住職は「伊豆という地域柄、信仰一辺倒というよりは、ウオーキングで健康になる、景色を楽しむといった観光的な側面が大きいだろう。温泉で体を温めると同様に八十八カ所巡りで心を温め、心の満足を得てもらいたい」と語る。健康、歴史、人との交流―さまざまな魅力を重ねることで、線で結ばれた八十八カ所の世界に深みと広がり加わっていく。
 元来、地域と寺は密接な関わりを持っていた。中国から仕入れた知識を僧侶が辻説法で広める過程で、住民が雨露をしのぐお堂を建てたのが寺の始まりとも言われる。今でこそ寺に行くのは先祖の墓参りだけという人も少なくないが、歴史を振り返れば寺は地域の公民館であり、学校であり、結婚式場であり、困ったときの相談所であった。
 失われがちな地域と寺の関わりを再構築し、地域に眠る歴史を掘り起こす意味でも、伊豆八十八カ所霊場復興の機運は、観光だけでなく新たな地域おこしに発展する取り組みといえよう。


伊豆八十八カ所霊場
1番 嶺松院  2番 弘道寺
3番 最勝院  4番 城富院
5番 玉洞院  6番 金剛寺
7番 泉龍寺  8番 益山寺
9番 澄楽寺 10番 蔵春院
11番 長源寺 12番 長温寺
13番 北條寺 14番 慈光院
15番 高岩院 16番 興聖寺
17番 泉福寺 18番 宗徳院
19番 蓮馨寺 20番 養徳寺
21番 龍沢寺 22番 宗福寺
23番 東光寺 24番 般若院
25番 興禅寺 26番 長谷寺
27番 東林寺 28番 大江院
29番 龍豊院 30番 自性院
31番 東泉院 32番 善応院
33番 正定寺 34番 三養院
35番 栖足寺 36番 乗安寺
37番 地福寺 38番 禅福寺
39番 観音寺 40番 玉泉寺
41番 海善寺 42番 長楽寺
43番 大安寺 44番 広台寺
45番 向陽院 46番 米山寺
47番 龍門院 48番 報本寺
49番 太梅寺 50番 玄通寺
51番 龍雲寺 52番 曹洞院
53番 宝徳院 54番 長谷寺
55番 修福寺 56番 正善寺
57番 青龍寺 58番 正眼寺
59番 海蔵寺 60番 善福寺
61番 法泉寺 62番 法伝寺
63番 保春寺 64番 慈雲寺
65番 最福寺 66番 岩殿寺
67番 安楽寺 68番 東林寺
69番 常石寺 70番 金泉寺
71番 普照寺 72番 禅宗寺
73番 常在寺 74番 永禅寺
75番 天然寺 76番 浄泉寺
77番 円通寺 78番 禅海寺
79番 建久寺 80番 帰一寺
81番 宝蔵院 82番 慈眼寺
83番 東福寺 84番 法眼寺
85番 大聖寺 86番 安楽寺
87番 大行寺 88番 修禅寺
  伊豆八十八カ所霊場

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