サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 東部活性化の方策を探るサンフロント21懇話会特集「風は東から」。本年度は「観光」「技能五輪国際大会」をテーマに、広域連携やファルマバレープロジェクトにまで踏み込んだ振興策を紹介していく。
 5月は伊豆の国市が新たに取り組む地域振興策にスポットを当てる。食品残さや畜ふんから作る有機堆(たい)肥を利用して中国野菜を栽培し、市内の学校、飲食店、旅館などに提供することで地産地消を基本とした循環型社会システムの構築を目指す。構想の概要と関係者への取材を通じて、安全、安心、健康な社会の実現に向けた取り組みを紹介する。
風は東から
[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ2
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食から見直す未来志向の地域振興。農業、環境、観光柱に循環型社会構築
地産地消基本に伊豆の国市が地域の課題解決へ

発会式であいさつをする望月市長
発会式であいさつをする望月市長

 日々の忙しい生活のなかでおろそかになりがちな食生活。栄養の偏りや不規則な食事、肥満や生活習慣病の増加などに加え、BSEや野菜の残留農薬問題にみられる食の安全性など、誰もが食を取り巻く環境に不安を感じている。
 一方、地域で生産された農産物や水産物をその地域で消費する「地産地消」の取り組みも各地で行われている。高齢化社会の到来による健康志向、スローフード、ロハスに代表される食生活の見直しや環境に配慮したライフスタイルを多くの人が求めている現在、安全で安心な「食」への関心が高まっている。
 こうした社会的背景から、伊豆の国市は”安全な食による健康を提供する地域づくり“に乗り出した。
 望月良和市長は以前から農業を柱にした地域振興を模索していた。他方、一般家庭の生ごみや旅館、飲食店からの残飯、畜産農家から出る畜ふんの処理も大きな課題として存在していた。これら二つの課題解決に向け、廃棄物を有機堆肥に加工し、安全な野菜づくりを行うことを検討。市場性や希少性を考え、中国江蘇省の協力を得て薬効性の高い中国野菜に白羽の矢を立てた。
 望月市長は「中国には古くから『医食同源』という考え方があり、野菜を中心とした健康的な食生活が営まれている。まだまだ日本に知られていない野菜も数多い。薬効性の高い中国野菜を本市の安全な環境で育て、できた野菜を薬膳料理として市民や観光客に提供したい」と語る。
 今月8日には「安全、安心、健康のまちづくり推進会議(会長・望月市長)」を設立、農業生産者、観光事業者、江蘇省の関係者など約40人が集まった。農業振興、バイオマスタウン、観光振興の3推進委員会に分かれ、今後は市内の生ごみ、畜ふんなどの収集と有機堆肥化→野菜の有機栽培→市民や観光客への薬膳料理の提供―といった地域循環システムを構築する。


農業、環境、観光―三推進委が生み出す好循環

安全、安心、健康のまちづくり構想が目指す循環型社会システム
 このうち、「農業振興推進委員会」は減農薬、有機堆肥を使った有機農法による安全でおいしい野菜の生産を目指す。とりわけ中国野菜については、市が提携する江蘇省農林庁南京市蔬菜(そさい)科学研究所から種の提供や栽培法の伝授、技術者の定期的な派遣を受ける。
 5月末には市内農家20軒の畑約35アール、8月末からは市が用意した試験ほ場15アールで中国野菜の栽培に着手。堆肥の施用量による収穫量や品質、病害虫の発生状況などの調査を実施する予定だ。農業振興委員で、自身も有機農法による稲作を行っている小島登さんは「日本に比べて種類が豊富な中国野菜から、米の裏作に適した作物を見つけ出したい」と期待する。
 とれた野菜はまごころ市場やJAグリーンプラザでの試験販売、薬膳メニュー開発への提供を予定。市内大手スーパーの協力で産地化も視野に入れる。
 健康な野菜づくりに欠かせない有機堆肥を作り出すのが「バイオマスタウン推進委員会」。市内の生ごみや畜産農家から出る畜ふん、旅館やスーパーの食品残さなど、いわゆるバイオマス(生物資源)を有機堆肥化し、農業生産者に販売する。まずは、原料となる食品残さ量の調査や畜ふんの実態調査を行い、必要な再生施設の規模などを試算する。
 「観光振興推進委員会」はバイオマスタウン推進委員会と連携して市内の旅館、飲食店、スーパーなどからの食品残さを収集する体制作りに取りかかる。
 生産された野菜を使った薬膳料理の開発も観光部門の役割だ。調理師約500人が属する伊豆誠心調理師会の荒川郷夫会長は「薬膳の専門家の指導で、新しい食材を料理にどう生かすか考えたい」と語る。創作料理コンテストや市民対象の試食会にも積極的に協力する考えだ。メニュー開発を通じて旅館で提供する料理の魅力を高め、ゆくゆくは食と健康、温泉を組み合わせたパックツアーを商品化し、団塊世代や健康志向の女性に売り込んでいく。
 江蘇省との連携強化も観光面での大きなポイント。昨年11月の江蘇省農産物視察団21人をはじめ、今まで同市を訪れた関係者は延べ122人。3年後に控えた富士山静岡空港開港をにらんだ訪日観光客の誘客を目指す。


構想推進に欠かせない市民の合意形成
「自分たちが作った野菜を地域おこしに役立てたい」と語る小島さん
「自分たちが作った野菜を地域おこしに役立てたい」と語る小島さん

「伊豆ならではの旬の食材をアピールしたい」と語る荒川さん
「伊豆ならではの旬の食材をアピールしたい」と語る荒川さん

基調講演を行った技術顧問の金山さん
基調講演を行った技術顧問の金山さん
 構想実現の成否を握るのが土の活力を取り戻し、健全な農作物を栽培するための新たな農法への取り組みだ。
 アドバイザーを務めるのは、「NPO百匠くらぶといきいき食卓ネットワーク」技術顧問の金山重信さん。二十数年有機農法を実践してきたキャリアを持つ。
 長い間、日本の農業政策は生産性をいかに上げるかに心血を注いできた。たっぷりと化学肥料を与え、除草剤、殺虫剤、土壌センチュウ駆除剤などの農薬を過剰に使用してきた。その結果、土は疲へいし、品質や栄養価の高い作物が得られないばかりでなく、残留する農薬などの人体への影響が懸念され始めた。
 金山さんは堆肥から化学物質を極力排除し、植物(特にイネ科)の持っている浄化作用を使うことで、バクテリアなど土の中の生態系を正常に戻し、土の再生を図る。「自然相手なので一気には進まない。一つ一つ進めていき、将来的には無農薬で栽培できる作物を多く見いだし、安全で質の高い野菜が供給できる地域を目指したい」と語る。
 8日の発会式をうけ、推進会議の各委員会は具体的な活動内容とスケジュールの作成に着手した。中国野菜の栽培に挑戦する小島さんは「有機農法や中国野菜の栽培は、同じ志を持つ地域の生産者に格好の話題提供になる。この事業をきっかけに薄れがちな地域のコミュニティー形成につながれば」と期待する。調理師会の荒川さんも「構想を通じて出会った人々との交流を大切にしたい。秋には食育をテーマにしたイベントの開催も予定している」とやる気を見せる。
 構想推進の原動力となる委員会活動もさることながら、一方で大きなウエートを占めるのが市民意識の向上だ。今後構想が進む中で生ごみの分別収集やイベントへの参加など、市民の協力が不可欠となる。金山さんは日本各地で疲へいした農地の再生を手がけた経験から「これからは体制を作ると同時に、市民のコンセンサス形成が必要。市民の理解を深めるため小規模な集会を開くなど、啓発を図らないとせっかくの構想も絵に描いたもちで終わる」と言い切る。
 食育基本法が制定され、食を通じた心身の健全育成をどう図るかが地域の大きな課題となっている。市長をはじめとする地域のリーダーが、まちや農業、市民の健康の実態を考えて発想した答えが「安全、安心、健康のまちづくり構想」であり、次世代を担う子供たちに胸を張って残せる環境を作り出すことが求められる。
 伊豆の国市の息の長い取り組みは、今始まったばかりだ。


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