サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 東部活性化の方策を探るサンフロント21懇話会特集「風は東から」。7月は、伊豆南部1市5町(下田市、東伊豆・河津・南伊豆・松崎・西伊豆町)の合併問題をテーマに、4日に行われた伊豆分科会でのパネルディスカッションの模様を紹介する。パネリストに下田商工会議所の萩原聰治会頭、桜井泰次河津町長、川口建築都市設計事務所の川口良子専務取締役、県・賀茂地域支援局の斉藤民夫局長を迎え、観光産業の低迷や高齢化、地方交付税の削減など深刻さを増す財政状況の中、合併に向けた行政、議会、住民の役割や合併を阻害する要因について意見を聞いた。コーディネーターは静岡新聞社の原田誠治常務取締役。 風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ4

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輝く伊豆南部へ向け地域一丸 住民の心に届く合併構想を
八木 和男 氏
静岡県賀茂地域支援局
斉藤民夫局長
企画部企画課長補佐、総務部市町村総室長を経て今年4月に着任。


芹澤 伸行 氏
川口建築都市設計事務所
川口良子専務取締役
県内の多くのまちづくり構想にかかわる。現在、県合併推進審議会委員。
危機感つのる1市5町。
21年度が財政再建への分岐点
原田 自主財源がほとんどない中での行政運営という厳しい状況の伊豆南部。合併は避けて通れないというのが地域の一致した意見です。にもかかわらず具体的な動きが見えてこない。低迷する観光産業の息を吹き返す意味でも、生き残りをかけ、地域が今後どのような行動をすればいいのか。今日はパネリストの皆さんに本音で語っていただきたいと思います。まずは現在の1市5町の財政状況についてお願いします。
桜井 県の試算によると、合併したばかりの西伊豆町を除く1市4町で、19年度の予算編成が難しいのが下田市と東伊豆町。南伊豆町、松崎町は21年度に赤字に転落し、河津町は幸い基金(※1)があるものの、現状のままでは10年後には赤字に転落する見通しです。基幹産業である観光の低迷により、税収の改善も期待できない。一方、国からの交付税は段階的に削減される。職員の新規採用を控えるなど大幅な歳出カットをはじめとする行革にそれぞれの市町村が徹底的に取り組まないとならない状況です。
萩原 大規模なリストラを行った民間企業は業績がだいぶ上向いてきています。この地域でも農協、漁協、森林組合が一つに統合される中、行政だけがばらばら。行政こそ大規模なリストラが必要で、それが合併だと思います。私どもの試算では、合併で約6億円の削減が見込める結果となっています。首長、三役が減り、現在84人いる議員は3分の1になる。職員も100人ほどが退職その他で減る。この分を各種施策に投下すれば経済も息を吹き返すのではないでしょうか。1市5町が合併した場合、人口は7万8千人になります。規模が大きくなれば行革の余地もかなりあると思いますので、合併し、規模を拡大した上で改革に着手すべきでしょう。
原田 早ければ19年度には赤字団体が出るという切羽詰った状態ですが、先ごろ北海道・夕張市が600億円もの負債を抱え、民間企業の倒産に当たる財政再建団体になりました。明日はわが身という自治体も多いのではないですか。
斉藤 財政再建団体の指定を受けると、国の指導のもと財政再建計画を立てて予算を編成します。しかし収入が税収しかないので、人件費の削減、投資的経費の抑制、各種団体への補助金カットなど徹底した歳出カットが行われます。同時に増税や公共料金など住民への負担が最大限引き上げられます。
 財政再建の場合は最終的に住民負担になりますので、関心がないでは済まされません。伊豆南部の自治体もこのままでは再建団体になる可能性は十分ありますので、予算・決算の透明性の確保、議会のチェック機能の強化と並行して積極的に市民に情報を開示する姿勢が求められるのではないでしょうか。
 


時代の変化に追いつかぬ行政と関心を持てない住民
大多和 昭二 氏
河津町
桜井泰次町長
河津町議会議員、観光協会長を経て昭和61年より現職。

原田 夕張市の場合、観光開発に地域の再生をかけ、予算・決算書への記載がいらない「一次借入金」を乱用し、スキー場やホテルなどを買い漁った。一方、市民の多くも行政のやることだからと、あまり関心を示さず、観光振興についてお任せだった。
萩原 この地域も行政は絶対倒れないという意識が大多数だと思います。合併で名称や地域が変わるのは避けたい、今のまま何とかやれればいいというのが本音でしょう。
川口 経済が右肩上がりに成長した時代はそれでよかったが、ここに来てどうも不都合が生じてきています。一生懸命仕事をして税金を払い、それを行政が最も効率的な使い方をしていた時代が長かったため、住民が今まで関心を持たなさ過ぎた。しかし、長い間見る必要がないことに慣れてしまった住民にとって、いきなり関心を持てと言われても戸惑いが先に立つと思いますし、能力不足も否めません。
 夕張市の事例を、住民が行政の中身をチェックしなければいけない時期が来ているという警鐘ととらえ、行政がつぶれるというのはどういうことか、自分に何が起こるのかを考える契機にしてほしいですね。
原田 確かに行政は広報誌などを通じた情報開示に熱心です。しかし専門用語も多く、果たして市民が理解できているかは疑問です。職員も議員も住民理解を深めることにもっとエネルギーを使うべきではないですか。
斉藤 住民理解のもとに議会、首長が車の両輪となって合併を進めるのが理想ですが、口でいうのは簡単で非常に難しい。合併を経験した市長さんに聞くと、住民説明会を頻繁にし、何度も広報したにもかかわらず、説明会に来る方の顔ぶれは毎回同じで、住民からは合併について説明がないと言われてしまう。これが現実だと思います。この点については地道にやるしかないというのが実感ですね。ただ、やはり財政問題だけでは住民には納得してもらえない。合併によって地域がこう変わるという将来像を行政が住民に示せるかだと思います。
原田 住民側も賢くならないといけない、これはよく分かりますが、そうなるためにどうしたらいいでしょう?
川口 それを一生懸命模索しています。例えばまちづくりの中で建物一つ造るにしても、地域、住民とのかかわりをいかに深めるかに力を注いでいます。しかし、時ここに至ってそんな悠長なことでいいのかという思いも一方にあり、多少強制的でも自分の地域について学ぶ機会を作るべきなのかもしれません。今日会場に足を運んでくれるような人はいいのですが、それ以外の方は糸口さえ見えない。確かに新聞や広報誌などに情報はあるけれど、実感として自分の中に取り込めない。その見えない壁を壊すのは誰なのか。それには意識をもった人たち自身が、自分たちの口から言葉を発して伝えていくしかない。地道な活動です。正直こうしたジレンマを抱えています。ぜひ、行政や議員は”伝わりにくい“を前提に説明する能力を高めていただきたいですね。



梅本 和煕 氏
下田商工会議所
萩原聰治会頭
下田市議会議員、同商議所副会頭を経て平成13年より現職。


宇野 統彦 氏
静岡新聞社
原田誠治常務取締役
政治部長、取締役編集局長などを経て現職。政治、国際問題が専門。
住民と行政をつなぐ議員の役割。
小異を捨て、リーダーシップ発揮へ
原田 合併新法(※5)の期限は5年です。一方、1市5町の合併への道筋は、現時点では手がかりさえない状況です。地域が合併を前向きにとらえられない理由は何でしょうか。
萩原 市町ごとに議会の温度差もあり、市民からは議員が抵抗するのではという意見を聞きます。首長が提案しても議会が承認しないと進みませんから、小異を捨て、将来の伊豆を考えていただきたいというのが経済界の願いです。
川口 合併に限らずあらゆる場面でしばしば目にするのが、行政が何も言ってくれない、住民が関心を持ってくれない、という責め合いの関係性です。お互い良くしようと思っているのに、なぜ責め合いの会話になってしまうのかとても歯がゆく思います。立場が違いますから考えが違うのは当然で、本来その仲立ちや調整役を務めるのが議員だと思います。ところが、こうした議員に遭遇するのは極めてまれです。しかも、その議員を選んでいるのは私たち有権者です。堂々巡りの中で現実を見据える目、人を見る目が必要ということを常に感じています。
原田 伊豆は一つを達成する前段としての賀茂地区合併。実現のポイントを最後にお聞かせください。
桜井 予算が組めなくなればやはり合併という流れになると思います。知事にも支援策を用意するという気持ちが十二分に見えます。県が支援策を出せるチャンスを生かし、大同団結して市民サービスを充実させることが一番夢のある施策ではなかろうかと考えています。合併新法は22年3月までの時限立法、あと4年ほどしかないがぜひ思い切って前に進みたいと思います。
川口 観光戦略や地域発展のための戦略を打ち立て、推進していく主体としての行政を構築する、その手段が合併なんだという視点を持ってほしい。厳しい時代だからこそ、攻めの部分が大切なんです。合併で若者の流出を止め、高齢化率が下がったというような未来が描ける、その手段としての合併に取り組んでいただきたいですね。
斉藤 現状では、1市5町で一体に合併を進めていくところまで足並みがそろっていません。そうした中で合併調査委員会が5月に発足しました。ここで議論を深め、法定協議会の早期立ち上げにつなげていただきたい。いずれにせよ、行政、議会、住民が合併の必要性について活発に議論することが大切です。合併の是非を判断するのは議会ですので、特に議員の方には責任ある判断ができるよう、深く学んでいただきたい。私たちも声を掛けてもらえればどこにでも説明にうかがいます。
原田 ここで会場からどうぞ。
会場の男性 この地域の住民は手を引っ張ってもらわないとなかなか腰が上がりません。しかし、合併の是非や地域の状況をもっと知らせてもらえば理解する力はあると思います。人のふんどしで相撲をとり、もらうことばかり考えているといつまでも貧乏から抜け出せない。ぜひ、首長や議員の方には前向きに積極的に住民を引っ張っていただいて、財政の問題だけでなく、地域の将来像を提示してもらいたいと思います。
原田 合併は手段、自分たちの地域を将来に向かって可能性のあるものに下支えする作業だと思います。住民も人任せでなく、全員で支える側に回ってほしい。住民から未来を託された政治家は将来のために本当に捨て身になってほしい。あと5年以内に賀茂が一つということが実現すれば今日のシンポジウムも役に立ったことになると思います。
 


※1「基金」
・・・財政調整基金。突発的な災害や緊急を要する経費に備えるために設置される。また決算剰余金が多い時は多く積み立て、財源不足時に取り崩すという、年度間調整的な役割を果たす。
※2「合併新法」
・・・市町村合併の特例等に関する法律。平成22年までの時限法。合併特例債などの財政支援措置がなくなり、知事勧告など県の関与が強化された。


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