サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 東部活性化の方策を探るサンフロント21懇話会特集「風は東から」。本年度は「観光」と来年の「技能五輪国際大会」をメーンテーマに、広域連携やファルマバレープロジェクトなど、県東部振興のホットな話題を取り上げている。
 8月は、伊豆の観光振興をテーマに、それを支える人づくりにスポットを当てる。手間と時間がかかることから、長年課題とされながら立ち遅れている地域の人材育成。県をはじめ、各市町が力を注ぎ始めた人づくり施策を紹介する。また、2000年の伊豆新世紀創造祭で誕生し、住民によって支えられながら継続する二つのイベントを事例に、観光振興における人づくりのあり方を検証する。
風は東から
[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ5
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立ち遅れる人材育成に地域が本腰 まちづくりと観光振興の両立図る
各地で始まる人材育成。地域の課題を行政がサポート
狩野川薪能(伊豆の国市)
■狩野川薪能(伊豆の国市)
城山の濃い緑を背景に、地元の小中学生による子ども創作能が行われる(写真は昨年の模様)




 静岡県は本年度「地域観光カリスマ講座」「観光商品企画研修」「広報スキルアップ研修」を開設。観光立県として人づくりにポイントを置いた地域の魅力づくりに一役買う。温泉マイスター制度も、温泉資源を見直し、知識を学ぶことで、温泉を活用した地域振興の担い手を養成するのが目的だ。
 即戦力となる観光客受け入れのスキルアップに力を入れているのが伊東市の「観光ホスピタリティ向上研修会」。市内の旅館・ホテル従業員やみやげ物店、一般住民が対象で、サボテンパークアンドリゾート取締役副社長の菊池勉氏を講師に、「おもてなし」の本質を5回にわたって学ぶ。
 伊豆市は今年、財団法人静岡県生涯学習振興財団の二つの事業を取り入れ、地域の人材育成に取り組んでいる。
 一つ目は、昨年から始まった「伊豆市人づくり塾」。20代〜30代の若者を対象に、地域のリーダーに必要なノウハウを習得できる場として開設した。公募で集まった20人ほどが3班に分かれ、まちづくりをテーマに企画の取りまとめや提案方法を学んだ。事業を担当した同市企画部企画課の浅田茂治係長は「地域のために何かしたいという気持ちを持つ若者は多い。しかし、それを具体的な行動に結びつけるきっかけがなかなかなかった。この事業で学んだ手法とネットワークを地元でぜひ活用してほしい」と語る。
 二つ目が、子どもたちへのキャリア教育。ニート、フリーターの増加による社会問題に歯止めをかけようと、経済産業省が中心となり、特色ある地場産業を地元企業・団体や住民の協力で子どもたちに体験させる取り組みだ。温泉場に近い修善寺小学校では5年生が観光客の目線で地域を見直す活動を行った。浴衣を着、下駄を履いて普段通学や遊び場として見慣れた温泉場を散策、自分たちが住んでいる場所の新たな魅力を発見した。秋にはもみじ祭りで観光客への接客体験が予定されている。県生涯学習振興財団の池田易史事業課長は「このプロジェクトを通じて地域や周りの大人とかかわることで、地域を愛する心や自分に自信を持つことを覚えてほしい。それが将来働くことの大切さを理解した大人に育つことにつながれば」と期待する。


人づくりの面でかみ合わない観光振興とまちづくり意識
人づくり塾(伊豆市)
■人づくり塾(伊豆市)
旧4町から集まった若者が、まちづくりについて活発な意見を交わす。4地区の交流と人的ネットワークづくりも期待されている
キャリア教育プロジェクト(伊豆市)
■キャリア教育プロジェクト(伊豆市)
射的場で射的に興じる子どもたち。温泉場に住んではいても、初めて体験する子どもがほとんどだ




 一方、イベントを通じて、人づくりに力を注ぐのが伊豆の国市の「狩野川薪能」と伊豆市の「修善寺桂座」だ。この二つのイベントは、住民自らが地域おこしの手法を学ぶ機会づくりの先駆けと言える2000年の伊豆新世紀創造祭で誕生した。当初から人づくりにもポイントを置き、地域文化の掘り起こしと魅力の発信を通じて、地域力の強化と継承を活動のテーマとしている。
 狩野川薪能は、地元に伝わる伝統芸能の三番叟(さんばそう)と城山の大蛇伝説を能にアレンジし、一流の演者による薪能を開催している。薪能にあわせ、地元の小学生が能を体験するワークショップも開かれ、地域に根ざした文化事業として定着しつつある。
 修善寺桂座は夏の音楽イベントだ。大正から昭和にかけ実在した芸能小屋を再現し、中国を代表する楽器の二胡(にこ)、津軽三味線や尺八などの和楽器、沖縄ミュージックなどプロミュージシャンの演奏が「竹林の小径」の特設会場で楽しめる。地元だけでなく、東京からの固定ファンも多い。桂座の演者による小学生を対象にしたワークショップや中学、高校のブラスバンド部に直接出向き、演奏指導をするクリニックも好評だ。ワークショップに参加した小学生が、高校・大学生となり桂座の運営を支える側に回るという好循環も生まれている。
 しかし、スタートから7年が経過する中で、次第に明らかになってきた課題もある。その一つが、関係者間の地域振興に対する温度差だ。まちづくりなのか、観光振興なのか、実際にイベントを支えるスタッフの中でもその考え方はまちまちだ。
 桂座を運営するノスタルジックロマン修善寺実行委員長で菊屋旅館の野田治久さんは「確かに桂座は温泉場のイベントだが、運営スタッフのほとんどが学校関係者、主婦、会社員など観光業に直接かかわらない住民だ。音楽を通じたまちづくりのためであって旅館に人を呼ぶ手段ではないと考える人が大半」と言う。反対に旅館をはじめとする観光従事者からはもっと集客に結びつくイベントをするべきだという声も上がっている。
 薪能も観光協会が事務局になっているが、実行委員会を構成するのは教育委員会や、三番叟保存会、文化協会を中心とした地域住民だ。また、600〜700人が集まるイベントにもかかわらず、開始時間が旅館の食事と重なることや、温泉場までの輸送手段の確保などの問題もあり、市内各地の温泉場との連携は実現していない。


時代はウエルネスツーリズムへ〜新たな価値観の創造
修善寺桂座(伊豆市)
■修善寺桂座(伊豆市)
運営の手順を確認するボランティアスタッフ。桂座で培われたノウハウは、ほかの地域イベントにも生かされている

 こうした状況に対して、伊豆の国市観光協会副会長の内田隆久さんは「伊豆にとって観光とまちづくりはまさに車の両輪。観光に携わる人だけでなく、地域にもっと門戸を開き、さまざまな住民の知恵と力を借りるべき」と語る。修善寺地区でも、来年予定されている修善寺温泉開湯1200年祭では桂座の反省を踏まえ、まちづくりと観光誘客の両方が図れる仕掛けづくりに着手するという。
 1泊2日の団体旅行という前世紀の観光モデルが通用しなくなった現在、観光地に必要なのは点の力ではなく、面の力であり、地域全体の魅力づくりだ。それには、住民の協力が欠かせない。しかし、住民にとって、普段の生活の中で「観光地に住んでいる」ことを意識することはあまりなく、意識する必要もない。安全に快適に住める環境が確保されていればいいという考え方が多数を占める中、住民に地域利益、相互利益を考えるための意識改革や気付きを与える場が必要となっている。桂座や薪能はこうした気付きと実践の場として成功しているものの、当初の目標である「文化を主軸に、新たな創造性を触発するまちづくり」という長期的な地域のコンセンサス形成には結び付いていない。
 静岡産業大学の大坪檀学長は、「おそらく薪能や桂座は創造祭で地元の人にこうすれば人が来るということを学んでもらう仕掛けだった。両市ともそれぞれ合併し、次は自分たちの地域をどうしようかと考える時期。この地域は何を観光資源とするのか、それぞれの人が考え、話し合い、進む方向を決め、それに向けて集中するべきだ」とアドバイスする。地域の経済活動を活発化するために観光業に携わる人もそうでない人も一丸となってまい進できるような地域のグランドデザインを描くこと、また、地域住民をこうした活動に上手に”巻き込む“仕組み作りと話し合いの場が、今、求められている。


  地域の「誇り」、プロとしての「自信」を育てる
大石 人士
大石 人士

サンフロント21懇話会TESS研究員  財団法人静岡経済研究所
研究部長 大石 人士


 伊豆という老舗観光地はブランドが形成されており、温泉をはじめとした豊富な観光資源があるわけだが、重要なのは、これを生かす人的資源が定着しているか。とりわけ、観光関係者だけでなくそこに暮らす住民も含め、地域に誇りと愛着を持ち、マニュアルではなく心からの「もてなし術」を持った人材が育つ仕組みが、地域として備わっているか、検証する必要がある。
 小中学生は来訪者に対するあいさつの心を持ち、高校生・専修学校生も社会人として必要な最低限のもてなし術を身に付ける。大人は観光客が観光地を堪能できるローカルマナーを作り、観光業関係者は国内最高レベルのもてなし術を習得する。さらに首長・行政担当者は、観光客のニーズを先取りする情報収集力を身に付ける。こうして観光地に暮らす各世代が「もてなし術」を磨き続けることが、地域を担う観光人材の輩出につながっていくのではないか。
 また、知識・体験が豊富で洗練された観光客を満足させるには、観光業関係者がプロとしての自覚とその実績に自信を持つことが重要となる。情報収集・マーケティング力や企画・プロデュース力といったマネジメントのできる経営者や地域リーダーが不可欠であり、顧客のニーズに即応できる洞察力、判断力、接客力を持った従業員が求められている。伊豆が首都圏をターゲットとするなら、首都圏の観光施設を上回る観光のプロとしての”もてなし術“が必要となろう。そして、こうしたプロの仕事を見る地域の若者たちが、観光産業に携わることが”かっこいい“”楽しい“”面白い“と感じられること、あのホテル・旅館・観光施設で働きたいと思うことが、明日を担う人材を育てることになる。
 人づくりは一朝一夕にはいかないが、魅力的で元気な観光地は、「誇り」と「自信」の中から生まれるものと確信する。


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