サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 東部活性化の方策を探るサンフロント21懇話会特集「風は東から」。9月は、伊豆の観光振興をテーマに、映像を通じて地域を見直すフィルムコミッション(FC)の活動を取り上げる。FCとは映画、テレビドラマ、CMなどのロケーション撮影を誘致し、実際のロケをスムーズに進めるための機関。映像を通じた観光振興が図れることから、国土交通省の呼びかけで平成12年ごろから全国に広まった。今回は、伊豆全域を対象にロケ受け入れをしているフィルムコミッション伊豆の取り組みを例に、FCを通じた地域振興の方法について考える。 風は東から
[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ6
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FC(フィルム  コミッション)通じ地域振興に新たな動き 実績生かし、伊豆ロケ・ビューロー設立へ
地域の知名度向上はFC活動の映像から
伊豆には多くの懐かしい風景が残る(写真は白浜中央海水浴場ボードウォーク)
■伊豆には多くの懐かしい風景が残る(写真は白浜中央海水浴場ボードウォーク)


 伊豆は豊富なロケーション(風景)資源に加え、首都圏から近く、宿泊や飲食などの受け入れ機能が充実していることから、多くの映像作品のロケ地となってきた。FC伊豆は、伊豆の観光振興を図る特定非営利活動法人「NPO伊豆」の活動部会として、平成13年に設立された。テレビ局や映像プロダクションから年間150〜200件の申し込みがあり、そのうち約4割を受け入れる。主な活動はロケーションデータの収集、製作会社へのPRといったロケ誘致と、ロケーションの紹介、撮影許可申請サポート、宿泊施設、弁当販売店などの紹介、エキストラの手配、ロケの立ち会いなどのロケ支援だ。単発もののCMから、3カ月以上かかる連続ドラマをはじめ、今年はハリウッドロケを受け入れるなど、全国的に見てもトップクラスの実力を持つ。
 FC伊豆の活動が注目されたのは、SBSドラマ「世界の中心で、愛をさけぶ」「あいくるしい」の2作品の成功が大きい。前者は松崎町、後者は伊豆市が主な舞台となり、長期ロケが行われた。物語の質の高さに加え、毎回登場する伊豆の美しい街並みや自然景観が話題となった。
 連続ドラマなどの長期ロケには撮影スタッフの宿泊や飲食だけでなく、公共施設・私有地の撮影許可やエキストラの手配など、地元の協力が不可欠となる。FC伊豆でロケ受け入れを一手に引き受ける統括ディレクターの板垣敏弘さんは「宣伝にコストがかかる時代に、ロケに協力することで3カ月もの間、広告料を払わずに地域を宣伝することができる。地元の行政や住民の方には、これを大きなメリットとしてとらえてもらった」と言う。事実、ドラマ終了後の今もロケ地を見ようと多くの観光客が訪れている。松崎町では大手旅行代理店が「セカチュー」ファンを対象としたロケツアーを実施、また、昨年は県からの委託でFC伊豆が「あいくるしい」のバスツアーを行ったところ、定員40人のところに380人もの申し込みがあったという。


ロケ資源の二次的活用と新たな事業展開
道の駅「いずのへそ」(伊豆の国市田京)にあるロケ・ミュージアム。
■道の駅「いずのへそ」(伊豆の国市田京)にあるロケ・ミュージアム。「あいくるしい」などのロケで実際使われたセットや小道具を見ることができる


 ロケ受け入れの効果は大きく二つあると言われる。一つはロケ隊の宿泊や飲食、施設使用料といった地域に直接支払われる費用。もう一つはロケ資源の二次的活用だ。ロケ現場や作品、出演者の写真や名称を利用した地域PR、ロケ美術道具、台本などの地元展示、撮影地での完成作品上映会開催などが主で、作品の評価が高ければ高いほど、受け入れた地元のメリットも大きい。映画「男たちの大和」を撮影した広島県尾道市では、撮影用に作った原寸大のロケセットに100万人が訪れたという(現在は一般公開が終わり、解体されている)。
 「宿泊や飲食などは一過性の経済効果。本当に重要なのは、こうした資源を地域に役立つ形でプロデュースできるノウハウを構築すること」(板垣さん)。しかし、二次的活用には必ず肖像権や著作権などの問題がつきまとうため、製作側の要求を受け入れた割には、地元の観光振興に結び付くようなロケ資源を与えてもらえないといった不満も上がっていた。そこでFC伊豆は、ロケ依頼があった時点で二次的活用の協力の意思や可能性についてヒアリングを実施するなど、製作側との調整を行うための基本指針を1年かけて策定した。
 さらに、その豊富な受け入れ経験から、ロケ現場にケータリングカーを持っていき、その場で調理した温かい料理を提供する「ケータリングビジネス」の立ち上げも予定している。日本ではロケ弁が主流だが、ハリウッド作品を受け入れた際、ケータリングサービスの必要性に気付いたという。FC伊豆の内田隆久会長は「せっかく伊豆でロケをするのだから、伊豆の新鮮な食材を食べてもらいたい。FCの活動原資の確保という意味でも、ケータリング事業を成功させたい。そうすれば新たな雇用も地域に生まれる」と話す。すでに地元農家の協力も取り付けた。将来的には伊豆各地で行われるイベントに、地元産品を使ったケータリングカーを派遣したい考えだ。


地域を見直し、伊豆をロケーションのメッカへ
 FC機能は自治体や観光協会、商工団体などの公的機関がまちづくりの一環で担うことが多い。映像を通じた地域宣伝とともに、住民がロケーションに興味を持ったり、有名な俳優が来ることで自分の町を見直す機会づくりになるからだ。
 しかし、慣れないプロダクションとの交渉やロケ資源の二次的利用でのトラブルなど、全てのロケがうまく行われるわけではない。FC伊豆は伊豆の13市町にあるFC窓口を組織化し、今まで積み上げたノウハウをもとに、地元自治体や観光協会の職員に向けたワークショップなども積極的に行っている。板垣さんは「製作側は伊豆をひとくくりで見ている。一つのロケで同じ話を個々の自治体にするのはわずらわしい。うちが窓口になってワンストップで話ができれば、後の受け入れもスムーズだ。また、二次的活用のコンサルティングやプロデュースも地域に還元できる形で行える」とFC伊豆の存在意義を話す。現在は今の組織を中心に「伊豆ロケーションビューロー(仮称)」の立ち上げを目指して準備を進めている。
 映像を通じた地域資源の発掘と、せっかく残った風景を保存し、整備していくことでロケや観光客が多く訪れる地域を創(つく)る―。FCが即、地域に経済効果をもたらすのではなく、FCの活動をきっかけに住民がまちづくりに参加する、あるいはその中で積み上げられたノウハウをケータリングのような新規事業に応用するといったところにまで進めないと、FCを作った本当の目的は達成できない。「ロケーションビューローを立ち上げ、ロケ支援だけでなく、広く観光振興につなげたい」と内田会長。FC伊豆の次の大きな目標だ。


  ロケ受け入れの地域効果
「世界の中心で、愛をさけぶ」のロケ風景(FC伊豆提供)
■「世界の中心で、愛をさけぶ」のロケ風景(FC伊豆提供)
松崎町
 美しいなまこ壁が印象的な松崎町には、「セカチュー」のロケ地として今でも多くの観光客が訪れる。同町企画観光課の森秀己課長は「ドラマの反響はすごかった。当初、手作りのロケ地マップを作っていたがそれでは足りず、急きょ3万部追加したほど」と、当時を振り返る。エキストラ登録制度も作り、町のホームページなどで呼びかけた。地元はもちろん、県内外から多くの登録があったという。森課長は「知名度を上げる手段としてロケ受け入れは非常に効果的。古くからある町並みを守り、後の時代に伝えていくことをまちづくりの原点と考え、ロケ支援の依頼があれば前向きに対応したい」と語る。
ロケ受け入れの可能性について語る佐藤さん(左)と板垣さん。後方の堤防では、ドラマ「HERO特別版」でキムタクが海へ飛び込むシーンが撮影された
■ロケ受け入れの可能性について語る佐藤さん(左)と板垣さん。後方の堤防では、ドラマ「HERO特別版」でキムタクが海へ飛び込むシーンが撮影された
沼津市井田
 沼津市の井田地区は伊豆特有の入り組んだ湾に囲まれた小さな集落。海と山が近接し、間に数軒の民宿と狭い畑が肩を寄せ合うように並ぶ。忘れ去られた伊豆の原風景が残る場所だ。この手付かずの自然が目に留まり、ここでFC伊豆を窓口に最近たて続けに2本のロケが行われた。このうち吉本ばなな原作の映画ロケは2泊3日、スタッフ総勢60人を地域ぐるみで受け入れた。井田民宿組合の佐藤茂行会長は「ロケの都合で7時の夕食が夜遅くになったり、どの宿も宿泊料金を均一にするなど多少の手間はかかったが、大きなトラブルもなく、一度に大勢の人たちが宿泊してくれた。一般のお客さんが減っている中、こうしたロケは今後も積極的に受け入れたい」と期待する。


  「FC、住民、行政が連携し、 新たな魅力の創造を」
産業経済部長 中山 勝
サンフロント21懇話会TESS研究員 財団法人企業経営研究所
産業経済部長 中山 勝

サンフロント21懇話会TESS研究員 財団法人企業経営研究所
産業経済部長 中山 勝


 フィルムコミッション(FC)は、地方分権によって日本を再構築させる先駆けとして登場した施策の一つである。地域自身が持つ個性とポテンシャルをいち早く認識した地区からFCが設立され、現在では全国で90団体以上が組織化され、国内ばかりでなく国際的なロケ誘致・支援活動の窓口となっている。
 FCによる地域への主たる効用は、フィルムツーリズムによる観光振興、ロケ隊の食事や宿泊などの直接的経済効果、作品の印象的なシーンやロケセットが新たな観光地になったりする間接的な経済効果および映像製作に関わることで地域文化の創造や向上が考えられる。
 しかし、FCを作るだけでロケ隊が訪れ、観光客が増加するのではない。ロケ地の選定には、作品にマッチした自然環境や風景などがポイントとなるが、それにも増して、自分たちが生活するまち・地域に誇りを感じ暮らしていることが重要であろう。FCにおいても地域間競争は激しく、地域の協力度合いが決め手になることが少なくない。行政が、いくら旗振り役になっても地元住民の積極的な動きがなければ、誘致は成功せず苦労のみが残る。その意味もあり、行政主導型FCが減り、NPO法人によるFCが増加している。
 伊豆地区も全国の他の観光地同様、新たな観光資源を発掘することが命題であることは間違いない。その際、FCは、素材の発掘からプロモーション活動に至るまでをメディアという外部資源を有効に活用し、ほかの地域にはない、地域唯一の新たな観光資源を生み出してくれる。さらに、地元の人々が作品製作を側面から支援することで、観光地には不可欠な「もてなしの心」も醸成されるだろう。
 平成21年3月には、富士山静岡空港が開港する予定であり、従来以上に伊豆のマーケットは拡大しよう。このFCと地域づくり団体、地元住民、行政が意識を一つに、新たな魅力を創造することを期待する。


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