サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 来年11月、世界の若者の技の祭典「技能五輪国際大会」が日本にやってくる。約40の国・地域が参加する大規模な国際大会だ。開催地に選ばれた沼津市は市役所を中心に、市内各団体を委員とする推進協議会を立ち上げた。もともと製造業が盛んな土地柄で、世界レベルの技術を持つ中小企業も数多く存在する。大会をきっかけに地域産業の活性化と、次代の技能を担う子どもたちへの啓発や教育に力を入れる。60キロの海岸線と駿河湾、富士山などの恵まれた美しい自然環境など観光面のPRも欠かせない。12月の「風は東から」は、ホストエリアとなる沼津市の活動と、大会を契機とした地域振興のシナリオについて関係者に聞いた。 風は東から
[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ9
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国際大会を機に産業拠点整備 「技能尊重」社会目指して地域一丸
開催に向け産学官、自治会が連携
大会に向けたカウントダウンイベントで、シンボルマークが描かれた風船を放つ参加者
■大会に向けたカウントダウンイベントで、シンボルマークが描かれた風船を放つ参加者


 大会参加者の受け入れを1年後に控え、急ピッチで準備が進む沼津市。1週間の大会期間中、選手、役員だけでも約2500人が訪れる。家族や観客を合わせると10万人とも15万人とも言われる大規模な大会だ。同市は庁内に技能五輪国際大会推進局を設置し、昨年7月1日に商工業、教育、市民団体、学識経験者、行政などからなる第39回技能五輪国際大会沼津推進協議会(会長・斎藤衛市長、幹事長・井口賢明サンフロント21懇話会運営委員長)を設立した。
 大会に向け、推進協は市民参加型総合歓迎キャンペーン「ごきげん、ぬまづ。」を展開。シンボルマークやキャラクター、イメージソング、各種ホームページなどを作成し、効率的で効果的な大会PRを内外に行っている。キャンペーン計画に基づき、推進協に参加する各団体は大会周知・ものづくり啓発、にぎわいづくり・もてなし、地域の魅力発信の3部会に分かれ、取り組みの具体化を図る。
 この組織は、従来のイベントにありがちな団体ごとに役割を割り振るのではなく、それぞれの団体が三つの部会に重複して所属している。「大会を成功させるには行政だけが汗をかいていてはうまくいかない。ホストエリアとして、産学官、自治会がともに“おもてなし”を考える必要がある」と技能五輪国際大会推進局の植松秀年局長。
 最も力を入れているのが大会PR。本年度は市の広報媒体でのPRに加え、推進協の各関係団体、自治会がそれぞれの活動や会合で積極的にPRを展開。また、海人祭、沼津夏祭り、食感フェア、技フェスタなどのイベントには推進協のメンバーが必ず駆けつけた。
 こうした地道な活動が実を結び、7月に行った市民アンケート(注)では、技能五輪について「知っている」と答えた割合は約70%に上った。ちなみに、1年前のアンケートでは40%にとどまっている。


まちづくりにつなげたい跡地活用
建設工事が急ピッチで進む門池会場
■建設工事が急ピッチで進む門池会場


 メーン会場となる門池地区の整備は、静岡県と沼津市が負担する。両者はシンプル、スマート、スモール(3S)をモットーに整備計画を策定した。その結果、大会期間中のみ使用する仮設テント部分は県、大会後も恒常的に残る建物2棟は市という役割分担を行った。大会終了後、2棟の使い道については、維持管理費がかさむ公共施設とはせず、企業を誘致。医療関連企業2社の進出が決まり、企業が建物を建て、市が1年間大会会場として借り受ける。こうして2棟分の莫大な建設費用が抑えられた。
 この2社の進出が決まったことで、大会終了後の跡地活用も計画通りに進んでいる。
 長泉町や御殿場市、裾野市などの近隣市町に比べ、積極的な企業誘致が遅れ気味だった沼津市。県のファルマバレープロジェクトの研究開発エリアに指定されていることもあり、大会跡地を医療・健康関連産業の拠点として位置付けている。周辺には県沼津工業技術センター、国立沼津高専、国産電機などがあり、県の技術専門校も移転してくる予定だ。
 跡地へ進出するのは、人工透析器や医療用顕微鏡などを手がける小林製作所(長泉町)と秋山機器(沼津市大平)。小林製作所の小林敏美社長は「中小企業にとって人材の育成・確保と技術力の向上は大きな課題。すでに沼津高専の先生方とは勉強会を始めており、今後技術専門校も進出すると聞いている。学生のキャリア教育を支援しながら、優秀な人材も獲得したい」と門池地区に進出するメリットを話す。
 この2社と周辺機関が連携することで、新製品、新技術の研究開発や、人材育成、雇用促進などの面で互いの強みを発揮しながら、将来的には医療関連産業の集積を図っていく。
 工場や学校の進出に伴い、従業員や学生が何百人単位で通うようになると、周辺にはサービス業なども生まれ、さらなる雇用の場も広がるだろう。拠点づくりは地域を活性化し、まちづくりにつながる取り組みでもある。


「ものづくり」の大切さを子どもたちへ
沼津市が派遣する「おしえて名人」。竹細工やお飾りなどの作り方を教えている
■沼津市が派遣する「おしえて名人」。竹細工やお飾りなどの作り方を教えている

オルゴールのおもちゃづくりを体験
■オルゴールのおもちゃづくりを体験

 もう一つ、大会を通じて同市が目指すのは、「技能尊重社会」だ。来年の団塊世代の大量リタイアを控え、企業によっては技能の継承がうまくいかない恐れがある。この大会を、小・中・高校に通う子どもたちがものづくりの素晴らしさ、楽しさ、苦しさ、厳しさを知り、ものづくりの大切さに気付くきっかけにしようと考えている。推進協の工藤政則大会周知・ものづくり啓発部会長(沼津商工会議所青年部直前会長)は「世界各国から素晴らしい技を持つ若者が訪れ、4日間で自分の力を出し切って戦う。子どもたちにはぜひその姿を間近に見る感動を味わってもらいたい。その感動が将来、地域のものづくりにつながれば」と語る。
 すでに、同部会が中心となり、沼津市教委などの教育機関と連携し、国際交流を深める1校1国運動に取り組んでいる。今後は、市内の小中学生向けガイドブックの作成にとりかかる。イラストを多用し、職種の紹介や競技の見どころなど、事前に子どもたちが興味を持てる構成にする予定だ。また、推進協の中にはものづくりに携わる企業も多い。新たにできた“横のつながり”を活用し、工夫を凝らした体験イベントも積極的に行っていく。
 大工、左官、とび職、板金など15の組合からなる沼津連合建設協会(伊藤重利会長)は、市の依頼を受け、大会の前後に協会所属の技能士によるものづくり体験教室などを予定している。伊藤会長は「以前から『ひとづくり、ものづくり』を活動方針にしてきた。優秀な職人が高齢化して、後継者不足が深刻になっている今、大会開催を追い風にものづくりの大切さを広くアピールしたい」と協力に前向きだ。


初の地方都市開催へ意気込む推進協
 沼津市は、戦後まもなく大手工作機械・電機メーカーの工場が進出し、工業集積が図られてきた。しかし、工業出荷額を見ると、大手事業所撤退などの理由でピーク時の9884億円(平成3年)から、5766億円(同15年)に減少、「ものづくり」の再興は同市の大きな課題となっている。また、少子高齢化や地域間競争が激化する中、21万の人口を有する東部の中核都市といえども明るい話題ばかりではない。
 そんな中での大掛かりな国際大会の誘致。工藤部会長は「沼津が国際化に向けて前進するまたとないチャンス。こういう時だからこそ、地域が一枚岩となって取り組むことが必要。東部の中核としての自覚を市民自身が持ち、また、ものづくりの感動も伝えたい」と語る。技能五輪を契機に、国際感覚を身に付け、富士山静岡空港が開港した暁には伊豆、富士山、駿河湾といった東部の地域資源を活用し、世界中の人々に訪れてもらえる地域にしたい考えだ。
 来年の技能五輪国際大会は史上初めて地方都市での開催となる。今まで行われた東京、ソウル、ヘルシンキなどと違い、都市機能が十分に整っているとは言い難い。「設備面では劣るが、世界中から来る人々を笑顔でもてなそうという気持ちだけは負けない」(工藤部会長)。「ごきげん、ぬまづ。」キャンペーンには、推進協の意気込みが詰まっている。
 
(注)7月から8月にかけ、市内に住む20歳以上の男女1%(約1700人)を無作為抽出した。



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