サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 東部活性化の方策を探るサンフロント21懇話会特集「風は東から」。2月は、15日に行われた富士地区分科会でのパネルディスカッションを取り上げる。パネリストに日本政策投資銀行の大川澄人顧問、写真家でジャーナリストの外山ひとみさん、静岡県の土居弘幸理事兼健康福祉部技監、企業経営研究所の中山勝産業経済部長を迎え、ファルマバレープロジェクトが進む東部で、住む人も訪れる人も癒される地域づくりの方策について聞いた。コーディネーターは静岡産業大学の大坪檀学長。 風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ11

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富士山世界遺産登録は文化創造 癒しの景観つなぎ、選ばれる地域に
静岡県土居弘幸理事兼健康福祉部技監
静岡県土居弘幸理事
兼健康福祉部技監

岡山市生まれ。岡山協立病院医師を経て、平成2年厚生省疾病対策課主査。救急医療専門官、危機管理調整会幹事を経て、13年静岡県健康福祉部技監、15年より県理事。


写真家・ジャーナリスト外山ひとみさん
写真家・ジャーナリスト
外山ひとみさん

富士市生まれ。高校時代、芸術展写真コンテストで2年連続市長賞を受賞。20歳でフリーカメラマンに。週刊誌や月刊誌を中心に数多くの作品を発表している。
美しさを愛で、共に生きる。富士山がはぐくむ人の文化
大坪 静岡県立大学ができる際、教授に招かれたのですが、その時言われたのが「富士山が見える研究室を提供します」。それが決め手となり、気が付けば20年も静岡県にいます。
さて、今日は「ファルマバレー、富士山、世界遺産」というテーマで、ファルマバレープロジェクトと富士山、あるいはこの地域と富士山の関係についてお話をうかがいたいと思います。プロジェクトが立ち上がってから5年、静岡県は先ごろ、次の4年間の方向性を示した「第2次戦略計画(案)」を発表しました。
土居 このプロジェクトは、「世界一の健康長寿県の形成」を最終目標としています。ファルマバレー宣言(※1)に盛り込まれた「患者・家族」を中心とする考え方に代表される、本来大切にすべき普遍的な価値観の回復と、新しい価値の創造(ファルマバレーイノベーション※2)を目指しています。
 第2次戦略計画では、五つの戦略(※3)を立て、より具体的な方向性を示しました。中でも戦略4では、ウエルネスの視点による観光産業の活性化や、文化振興による都市機能の充実など、市町との協働によるまちづくりを進めます。
大坪 ファルマバレープロジェクトでは、富士山を「不死の山イコール健康、癒し」と象徴的にとらえています。加えて今、富士山を世界遺産に登録しようという活動が活発に行われています。プロの写真家から見た富士山の魅力とはどのようなものでしょうか。
外山 仕事柄海外に行くことも多いのですが、やはり富士山を見ると心が和みます。皆さんは富士山というと絵画のように美しい姿を想像されると思いますが、田子の浦の近くで生まれた私の記憶にあるのは煙突越しの富士山です。それは決して汚くはなく生活の中に自然に溶け込んでいる。富士山の魅力は、美しさ、雄大さとともに、生活に密着した山ということではないでしょうか。
土居 富士山は自然遺産でなく、文化遺産としてエントリーしています。文化は人間がはぐくむものですが、見方を変えれば富士山が人々に生み出させたと言えるのではないでしょうか。しかも既に活動をやめてしまった「遺産」ではなく、富士山はこれからもあり続け、われわれに対して文化を生み出させる存在だと思います。そして、これが富士山が世界文化遺産となることの大きなメッセージではないでしょうか。
 


癒しを与える「富士が辻」。地域全体で見直す景観の大切さ
日本政策投資銀行大川澄人顧問
日本政策投資銀行
大川澄人顧問

韮山高を経て昭和44年東京大学法学部を卒業し、日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)入行。理事、副総裁を経て昨年10月から顧問。ファルマバレー応援団代表。


企業経営研究所中山勝産業経済部長
企業経営研究所
中山勝産業経済部長

昭和56年スルガ銀行入行、57年財団法人企業経営研究所出向。研究員、主席研究員を経て平成12年に産業経済研究部長(17年より産業経済部に名称変更)。
大坪 富士山は文化遺産でなく、文化創造。今後、われわれはこのことを実践しなければなりません。それを象徴するようなプロジェクトが始まると聞いています。世界的に有名な彫刻家、流政之氏が静岡がんセンターの理念に共感し、癒しの彫刻(※4)を設置したそうですね。
土居 流先生は国内外で地域を癒し、元気付ける作品をたくさん作られています。ファルマバレープロジェクトが目指す健康、癒しの地域づくりにも共感され、日本人の癒しの原点である富士山を実感できる空間を、まずは田貫湖畔に築いてはどうかと、「富士が辻」という企画を提案されました。大沢崩れから出る溶岩石を使い、曇っていて富士山が見えなくてもその存在に触れることが出来る空間。流先生のご提案が、世界文化遺産につながる文化創造の一環として、多くの方々の協力によるプロジェクトとなることを期待します。
大川 富士山麓(ろく)に流作品を置く、素晴らしいアイデアです。ただ、気になるのが景観で、せっかくの作品が周辺の建造物や無秩序な看板で遮られては台無しでしょう。
 富士山がいい例です。私の実家がある三島市にも多くのマンションが建っています。それ自体は悪いことではないが、せっかく富士山が見えるマンションを買ったのに、山側にもっと高い建物が建ったので見えなくなってしまった、これでは意味がない。本当の癒しを手に入れるためには地域全体の景観から見直す必要がある。ここは富士山を持つにふさわしい場所なのか、きちんと生かしきれているのかを地域で考え、富士山を巡る美しい景観を孫子の代まで残そう、世界的に素晴らしい場所を作っていこうという気概を持ってほしいですね。
中山 国土交通省の日本風景街道事業に選定された「環(ぐるり)・富士山風景街道」のお手伝いをしています。富士山を囲むルートを中心に各地域の活動を結び、富士山の見える美しい道風景と裾野に広がる道を守り、創(つく)り、育て情報発信する活動です。その関連活動として、屋外広告物点検モデルプログラムの検討や、景観を損なう木立の伐採などを行いました。また、朝霧地区の風景を守り、継承していくための学びのプログラム「朝霧高原風景塾」も地元と一緒に展開しています。風景とは訪れる人にとっての癒しであり、地元のおもてなしの気持ちが表れる大切な部分だと思います。
大坪 日本は「電線病」と言われるほど景観にむとんちゃくです。市街地は電線の地中化がだいぶ進みましたが、観光地はまだまだです。少なくとも富士山の周りからは電線病をなくしたい。世界遺産登録とファルマバレーを契機に、景観をきちんと考える条例制定などにも取り組む必要がありそうですね。



静岡産業大学大坪檀学長
静岡産業大学大坪檀学長
昭和33年ブリヂストン入社。経営情報部長、米国ブリヂストン責任者などを経て62年より県立大学教授。のち静岡産業大学学部長を経て平成12年から学長。

世界レベルの地域間競争。富士山核に魅力を創出
外山 昨年、中国・杭州に行きました。上海から2時間程度の都市です。中国の国家観光局長の話によると、中国は今、経済発展を遂げ、海外旅行に出掛ける人もうなぎのぼり。「ゴールデンコース(※5)」と呼ばれるルートがあって、成田、あるいは関西空港から入り、富士山を見て温泉につかり、オプションで東京ディズニーリゾートに行くそうです。相場を尋ねると1泊6000円。静岡県内は高いと言っていました。中国は13億人の巨大市場ですし、良いと思ったことは口コミでどんどん広めてくれる国民性があります。富士山静岡空港が開港すれば、ますます観光客は増えるでしょう。今から確実に誘致できる算段を考えておくべきですね。
中山 中国、韓国をはじめとするアジアのガイドブックに富士山は必ず紹介されています。しかし、写真は静岡側から撮っているのに、観光地としては山梨になっています。また、山梨のある宿泊施設には中国から観光客がどっと押し寄せているのも事実です。海外から見ると、富士山は山梨県にあるイメージなんですね。富士山麓(ろく)一体で地域をPRすることも大切ですが、こうしたことももっと考える必要がありそうです。
大川 今や日本、いや世界全体が地域間競争です。富士山を観光資源ととらえるならば、世界中から人が呼べるような素晴らしい景観を作るのが大事。しかし、流先生の作品がいくら世界レベルでも、1点だけでは人は集まりません。流さんが田貫湖に作品を作ってくれる。その思いを点で終わらせず、次につなげることを考えてほしい。自分の住んでいるところを良くしたい、定住者、あるいは交流人口を増やしたいなら本気になって、一つの点を大きなうねりにし、つなげていく努力が必要です。
大坪 富士山がこの地域のよりどころとなっているように、ファルマバレープロジェクトのよりどころは「ファルマバレー宣言」です。これは、これからのわれわれの決断の原点であり、従来の医療分野を「患者・家族」の視点で見ることで、今まで見えなかったものが見えてくる好例です。富士山が世界遺産に登録されても必ずしも観光客が増えるわけではないという話も聞きます。むしろ、ファルマバレーや世界遺産登録を契機に、新しい視点で地域を変化、進化させていくことこそが大切なのではないでしょうか。
 


※1 ファルマバレー宣言
「私たちは、患者・家族の視点に立ち、叡智を育み、結集し、共に病と闘い、支えあい、健康社会の実現に貢献することを宣言します。」
※2 ファルマバレーイノベーション
イノベーションとは技術革新のこと。ここでは単なる技術革新にとどまらず、新しい技術や考え方を取り入れて、大きな変化を起こし、普遍的な価値観の回復と新たな価値を生み出すことをいう。
※3 五つの戦略
戦略1 患者・県民の視点に立った研究開発
戦略2 新産業の創出と地域経済の活性化
戦略3 プロジェクトを担う人材育成
戦略4 市町との協働によるまちづくり
戦略5 世界に向けた展開
※4 癒しの彫刻
「いーら(EELA)」。癒しによるまちづくりの一環で、彫刻家・流政之氏が静岡がんセンターに設置した。(写真右)
※5 ゴールデンコース
外国人客が成田−関西空港間の観光地をめぐるツアーのこと。中国、台湾、韓国などの旅行業者はこのコースに大量の団体客を送り込んでいる。
癒しの彫刻「いーら(EELA)」


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