サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 東部活性化の方策を探るサンフロント21懇話会特集「風は東から」。10年目を迎えた本年度は、大きく様変わりする東部の交流人口拡大に向けた取り組みを追う。4月は、健康関連産業を集積し、豊かな経済基盤の構築を目指して始動から5年を経たファルマバレープロジェクトを取り上げる。さまざまな成果が見えつつある中、先月、第2次戦略計画が発表された。その具体的な内容と、今後の取り組みについて関係者に聞いた。 風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ1

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ファルマバレー第2次戦略計画策定。5戦略で「世界一の健康長寿県」目指す
オリンパス三島事業場。北に富士山、南に駿河湾を望む絶好のロケーションは外国からのお客さまに喜ばれている
オリンパス三島事業場。北に富士山、南に駿河湾を望む絶好のロケーションは外国からのお客さまに喜ばれている(写真右奥は静岡がんセンター)

始動期から成長期へ。プロジェクトを動かし民間や市町の活動促進
  ファルマバレープロジェクト第1次戦略計画が動き始めて5年、県立静岡がんセンター周辺に医療系の研究開発拠点の集積が始まった。静岡がんセンターの北側に進出したオリンパス。白い外観の建物2棟には、血液自動分析機の開発・品質管理・カスタマー・サポート部門と製造を担当する三島オリンパス、テルモとの合弁企業であるオリンパステルモバイオマテリアルの骨補てん剤製造部門が入居する。今月から350人体制で稼働を開始した。オリンパスの阿川正夫三島事業場長は「工場の移転候補地がいくつかあった中で、当社の事業内容とファルマバレープロジェクトのコンセプトが合致した。隣接する静岡がんセンターとの共同研究や、今後進出してくる民間企業などと連携した事業を展開したい」と語る。
  県は、3月30日に「ファルマバレープロジェクト第2次戦略計画」を公表した。平成14年、静岡がんセンター開院を契機にスタートした同プロジェクト。18年度までは始動期としてプロジェクトを推進する産学連携や研究開発などの基盤づくりを中心に進めてきた。19年度からの4年間はこれらの体制の下で、競争的外部資金や民間資金を活用した高度な医療研究開発を進める一方、民間や市町の自発的な活動を促進する。
  プロジェクトが目指すのは「世界一の健康長寿県」。計画では、目標達成に向けた戦略を五つ定めた。

  戦略1は、患者・県民の視点に立った研究開発。先端医療の実践と診療支援、患者・家族の支援を目指す。また、医看工連携による研究開発や効率的な創薬探索を推進する。
  戦略2は、新産業の創出と地域経済の活性化。技術の高度化の促進や創業、新事業展開への支援、国内外からの企業誘致を目指す。
  戦略3は、プロジェクトを担う人材育成。医療分野はもちろん産業、経営などの分野でプロジェクトが必要とする人材を輩出するシステムを地域に作る。
  戦略4は、市町との協働によるまちづくり。地域に質の高い人材を呼び込むには、住みたいと思うまちづくりが必要だ。ウエルネスの視点でのまちづくりを進める一方、文化・芸術、国際交流や都市交通などの都市機能の充実にも力を注ぐ。
  戦略5は、世界に向けた展開。全国に誇れるシステムができ、着実に推進しはじめた。その成果を世界に対して発信していく。
 


キーワードは産業化。戦略をけん引する新たな取り組み

ファルマバレープロジェクトの行動規範

ファルマバレー宣言

私たちは、
患者・家族の視点に立ち、
叡智を育み、結集し、
共に病と闘い、支えあい
健康社会の実現に
貢献することを
宣言します。




  第2次戦略計画策定に先立ち、県は第1次戦略計画を客観的に検討・評価する評価委員会を設けた。同委員会はプロジェクトを高く評価。しかし、戦略2の「高度な研究成果を新産業や地域活性化に結び付ける取り組み」については課題が残る、とした。
  ファルマバレープロジェクトの総括責任者である出野勉県厚生部理事は「推進体制の整備に力を入れた結果、例えば新規事業の立ち上げや、起業を目指す人たちの掘り起こしは弱かった。しずおか産業創造機構の支援策などを活用し切れなかったというのが実態」と振り返る。第2次戦略はそこに重点を置いた具体策を盛り込んだ。プロジェクトの中核的支援機関であるファルマバレーセンター(PVC)に産業化コーディネータを新たに配置。また、本年度しずおか産業創造機構に創設される「地域活性化基金」(総額90億円)の運用益による助成策の活用を促進するなど、新商品、新ビジネスの一層の創出を図る。
  新たな施策としては、厳しい競争を勝ち抜いて文部科学省に採択された「富士山麓(ろく)都市エリア産学官連携促進事業(発展型)」が注目される。国立遺伝学研究所、静岡がんセンターを中核として、がんの早期発見、診断のための腫瘍マーカー、バイオマーカーの探索と診断機器、診断薬などの開発、製品化を進める研究委託事業だ。期限は3年。年間2億円が投入され、研究だけでなく、科学技術コーディネータの増員など製品化に向けたシステムも充実する。
  また、新薬の治験を日米欧、世界同時に実施する「グローバル治験(国際共同治験)」についての対応も県内主要病院を結ぶ静岡県治験ネットワークの充実・強化により進めていく。
  さらに、特色ある研究開発拠点の形成を目指し、「ファルマバレーCOE(※1)」を形成する。国立遺伝学研究所、がんセンター、県立大学など地域の研究機関や大学が一つのグループとなり、国や企業の競争的外部資金の受け皿を作る。通常COEは大学ごとに作られるが、ファルマバレーCOEは地域がその機能を持つ。全国に先駆けた取り組みだ。



第2次戦略計画に向けた期待を語る大坪委員長
第2次戦略計画に向けた期待を語る大坪委員長

2次戦略計画は本気の表れ。オール県庁体制で事業を推進
  ファルマバレープロジェクトは壮大な地域戦略。中心となる県厚生部ファルマバレープロジェクトチームは各部局との調整を図りながら、全体の進行管理を行う。同じくプロジェクトの総合窓口で、常に現場と直結しているPVCは同チームと情報を共有しながらプロジェクトを両輪で進める。
  一つひとつの事業は多岐にわたるため、関連する部局も複数になる。第2次戦略計画策定にあたり「目的の達成に向け部局をまたいだ推進体制が必要ということを理解してもらうことから始めた」(出野理事)。昨年1年間、さまざまな場面で部局長や各部のプロジェクト担当者に対し、事業の周知を図った。
  そのかいあって、第2次戦略計画には戦略ごとの目的、数値目標、スケジュール、進行管理部局名が細かに載っている。事業に対する責任が明確になった形だ。
  プロジェクトの進ちょく状況を定期的に外部から評価する仕組みも整えた。さまざまな分野の有識者から構成される戦略検討委員会(委員長・大坪檀静岡産業大学学長)が、年度ごとに足りない部分はどこか、事業のスピードアップが図れないかといった検証を行う。課題は次の年の事業計画に反映される。
 


健康づくりをまちづくりの中心に。市町と協働で快適空間の創造を
かかりつけ湯

  県庁内を統括する一方で、市町への働き掛けも積極的に行う。先日、県総務部が開いた県内副市長、副町長会議でも第2次戦略計画を説明し、まちづくりへの活用を呼び掛けた。
  未だに健康づくりは関連部局だけの「閉ざされた施策」に過ぎないという市町は多い。しかし、少子・高齢化が進むにつれ、健康をまちづくりの中心に据える必要性は高まっている。一口に健康と言っても、医療や生活改善から、食、教育、観光など健康づくりを支える切り口はさまざまであり、それらはすべてまちづくりに生かせるものばかりだ。すでに、伊東市では温泉を、また、富士宮市と伊豆の国市は食をテーマに、プロジェクトを生かしたまちづくりが進んでいる。プロジェクトから生まれた認知動作型トレーニングマシン(※2)は東部にとどまらず、磐田市や袋井市での導入が予定されている。
  「プロジェクトを通じて構築した健康づくりのノウハウやシステムを活用して、住む人も訪れる人も快適と感じる住環境、生活環境の整備を目指してほしい」と出野理事。今後は東部の各市町を回り、協働を呼び掛けていく。
  戦略検討委の大坪委員長は「このプロジェクトは創薬や先端的な研究開発だけと思われがちだが、実は非常に裾野が広い。健康を維持するには病を治すと同時に、心のあり方も重要で、かかりつけ湯(※3)や世界的な彫刻家・流先生の登場(※4)で人間味のある面白いプロジェクトに成長しつつある。ぜひ各市町や企業は、このプロジェクトを発展のツールとして上手に活用してほしい」とエールを送る。
  先端的研究開発やウエルネスの視点でのまちづくりというのは、言わば手段。地域住民がこの地域をどうしたいのかを真剣に考える、それがこのプロジェクトの本質だ。


※1 「ファルマーバレーCOE」
COEはCenter Of Excellenceの略。最先端の研究施設、世界に誇る頭脳を集めた中核的研究拠点。

※2 「認知動作型トレーニングマシン」
歩行に重要な役割を持つ体幹深部筋(大腰筋)を効率的に鍛えるKKウエルネストレーニング理論(東大・小林寛道名誉教授提唱)に基づくマシン。

※3 「かかりつけ湯」
良質の温泉とおもてなしで健康増進と癒しを提供する、伊豆の温泉宿のネットワーク。

※4 「流先生の登場」
世界的に有名な彫刻家、流政之氏が静岡がんセンターの理念に共感し、癒しの彫刻「いーら(EELA)」を設置した。


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