サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 伊東市が元気だ。佃弘巳市長の強いリーダーシップのもと、観光、健康、改革を掲げ、地域づくりが進んでいる。キーワードは「健康保養地」。温暖な気候と恵まれた自然環境の中、住む人、訪れる人が健康の大切さを実感できる地域を目指している。昨年からは東京大学と共同で、温泉と運動を組み合わせた科学的な手法による健康増進プログラムの開発に乗り出した。6月の「風は東から」は、「健康」と「温泉」を軸に官民一体となった地域づくりを進める同市の取り組みを紹介する。 風は東から
[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ3
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「かけ湯」に着目。東大のノウハウ使い独自の健康プログラムを開発
「健脳健身教室」でトレーニングに汗を流す受講者と小林教授(中央)
■「健脳健身教室」でトレーニングに汗を流す受講者と小林教授(中央)


 東京大学小林寛道名誉教授考案の「認知動作型トレーニング」は、歩行に重要な体幹深部筋(大腰筋など)を機器を使って効果的に鍛える手法。スポーツ競技力の向上、高齢者の寝たきり予防、子どもの体力向上などに効果があるとされ、県総合健康センター(三島市)での研究、成果が県内外で応用されている。ファルマバレープロジェクトの科学的な手法による健康増進プログラムとして、各市町への普及が予定されている。
 伊東市は昨年、伊東マリンタウンのスパ棟にトレーニングマシンを導入、東京大学生涯スポーツ健康科学研究センター、県総合健康センターと共同で、温泉と運動を組み合わせた「健脳健身教室」を開催した。モニターは低体力状態にある人や肩こり、腰痛、不眠など不定愁訴(検査してもどこが悪いのかはっきりしない症状)を持つ市民から公募、定員40人に対し182人もの応募があった。
 同市ならではの取り組みとして、小林教授は豊富な湯量を活用した「かけ湯」を取り入れた。トレーニングは週2回、3カ月間継続した。「体操・ストレッチ」+「認知動作型トレーニングマシン(7種類)」+「クールダウン」を行い、トレーニングの最初に50回のかけ湯をしたグループと、かけ湯なしのグループに分けた。
 トレーニング期間の前後には、身長・体重・体脂肪量の測定、体力テスト、大腰筋・内脂肪画像撮影、アンケートなどを実施。年代、かけ湯の有無、男女に関係なく、10メートル歩行、10メートル障害歩行のタイム短縮や、6分間歩行距離の増加、不定愁訴の改善が見られた。中には、整形外科へ通ってもなかなか改善しなかった腰痛が、健脳健身教室に参加したことで緩和されたという例もあった。
 「かけ湯あり」グループへのアンケートでは、「気持ちが良い」「体調が良くなる」「健康に良い」「効果が実感できる」など、肯定的な意見が相次いだ。かけ湯によって温熱刺激のほか、手おけを使い30回、50回と湯をくみ上げることで軽い筋トレ効果も期待できる。交感神経が刺激され、気持ちの面でのリフレッシュも図れる。小林教授は「現代人が最も速やかに洗い流したいものが『疲れ』。それも肉体労働による筋肉の疲れというより、むしろ筋肉を使わないことで生じる内臓疲労や血行不良、肩こり、腰痛、眼精疲労などによる代謝性の不調だろう。これらの疲労を改善する方法として、かけ湯はきわめて有効」とその効果を語る。


「健脳健身プログラム」核に観光メニューを商品化
プロジェクト用に開発された手おけ。お湯の量や柄の握りやすさなどが工夫されている
■プロジェクト用に開発された手おけ。お湯の量や柄の握りやすさなどが工夫されている


 こうして開発された「健脳健身プログラム」は、健康保養地づくりの核メニューとして、多方面への展開が期待されている。昨年12月には、バレエダンサーと教師を対象に2泊3日のモニターツアーを行った。全国で10万人といわれるバレエ人口の多くが、股関節や膝、腰椎(つい)にバレエ特有の障害を抱えている。今回はこうした人々を対象に、健脳健身プログラムを中心とした温泉ヨガ、自己指圧などを体験してもらった。
 また、同じく地域ぐるみで認知動作型トレーニングを取り入れている千葉県柏市の市民を対象にしたモニターツアーも実施。ツアーの魅力度や料金水準が有料ツアーとして事業化できるかの検証を行っている。
 さらに、団塊世代や健康志向・自己実現志向の強い首都圏在住者向けに、「健脳健身プログラム」とウオーキングや工芸体験、農業体験など10種類の「体験プログラム」を組み合わせた「健脳健身スローステイプラン推進事業」を実施した。
 この事業は経済産業省「サービス産業創出支援事業」に採択され、伊東健康保養サービス・マネジメント・コンソーシアム(※)を事業主体に、団塊世代の一番の関心事である健康や、長年の趣味、自分の価値観に即したライフスタイルの実現を滞在型の旅行プランとして提供。旅行者の利便性を高めるため、旅行プランの情報提供や宿泊・体験プログラムの予約、受け入れ調整を一元化した。
 2泊3日ツアーを2回、6泊7日ツアーを1回実施し、県内外から34人が参加。参加者ヒアリングではゆとりをもった日程を望む声や、ウオーキングのニーズが高いことなどが判明した。
 これらの取り組みは、市長を委員長に官民一体で立ち上げた「健康保養地づくり実行委員会」が行っている。認知動作型トレーニングマシンの導入もその一つだ。
 佃市長は「今まで『健康保養地づくり』というタイトルだけが先行し、具体的な取り組みになかなか結びつかなかった。それが健脳健身プログラムができ、これを起爆剤にさまざまな事業が展開しつつある」と手応えを口にする。


官から民へ。地域の受け皿作りが次の課題
「地域の資源を見直し、市民の潜在能力を引き出しながら、スピード感のあるまちづくりを進めたい」と語る佃市長
■「地域の資源を見直し、市民の潜在能力を引き出しながら、スピード感のあるまちづくりを進めたい」と語る佃市長


 小林教授は「行政の取り組みをいかにうまく民間が引き継いでいけるかが今後の課題。健脳健身教室での知恵や経験を民間レベルで受け入れ、さらに発展させていくことで、本当の健康保養都市が生まれるのでは」と地域に期待する。
 すでに、伊豆急行グループのルネッサ赤沢では、「健脳健身スローステイプラン」を商品化する段階に入ったほか、市内の旅館に認知動作型トレーニングマシンを導入し、「健脳健身かけ湯の宿」を展開する話が進んでいるという。
 また、認知動作型トレーニングを活用したプロジェクトには毎回多数の応募があるが、すべての人が体験できるわけではない。こうした健康志向を持つ人々の受け皿として、独自の健康増進サービスを提供する施設も徐々に増えている。山喜旅館は、硬くなった体を簡単な体操でほぐす「真向法健康体操」を指導、多くの参加者を集めている。サザンクロスリゾート&スパは温泉プールを利用した水中ストレッチ「ワッツ」が体験できる。ほかにも市内の診療所が健康講演会を開いたり、血流の測定をしたりといった活動が始まっている。
 「健康志向の高まりで市民の健康に対する意識も変化している。病気になってから医者に行くのではなく、病気や介護予防に重点を置いた前向きな姿勢を強く感じる」と佃市長は話す。
 市民向けの健康増進メニュー開発で生まれた健脳健身プログラムは、市民の健康に対する意識を変えただけでなく、地域の外に向けた新たな魅力として大きな実を結びつつある。そこに、市民・民間レベルのさまざまな取り組みが結集し、健康増進クラスターの形成が進む。
 東大との共同研究を推進エンジンに、誰もが健康で、自己実現にチャレンジできる「健脳健身都市」の誕生も近い。


伊東健康保養サービス・マネジメント・コンソーシアム
コンソーシアムとはある目的のために形成された複数の企業や団体の集まり。伊東温泉旅館ホテル協同組合、伊東市健康保養地づくり実行委員会、東京大学生涯スポーツ健康科学研究センター、伊豆急不動産、伊東マリンタウンなどで構成される。



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