サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 東部活性化の方策を探るサンフロント21懇話会特集「風は東から」。10月は、9日に行われた伊豆地区分科会でのパネルディスカッションを取り上げる。パネリストに白壁荘女将(おかみ)の宇田倭玖子氏、熱海市観光協会の赤尾信幸会長(ホテルニューアカオ社長)、伊豆観光推進協議会の赤尾十五郎会長、芦の湯観光協会の川辺ハルト会長(きのくにや旅館代表取締役)を迎え、富士・箱根・伊豆の広域連携による観光戦略について聞いた。コーディネーターはシードの青山茂取締役副社長。 風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ7

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白壁荘女将 宇田倭玖子氏
パネリスト
白壁荘女将 宇田倭玖子氏

伊豆市(旧中伊豆町)生まれ。1980年白壁荘に嫁ぎ、女将として修行する。99年地域産物と観光を考える会「山葵倶楽部」を設立。2003年より「THE OKAMI」の会会長

芦の湯観光協会 川辺ハルト会長(きのくにや旅館代表取締役)

パネリスト
芦の湯観光協会  川辺ハルト会長(きのくにや旅館代表取締役)

箱根芦之湯きのくにや旅館12代目。大学卒業後、ロックバンドでLPデビューするも、バンドが解散、家業に戻る。13年前、11代目他界により社長に就任

日本文化でのもてなし。望まれる地域情報の一元化
 青山 2009年3月に富士山静岡空港が開港します。海外、特に東アジアからの旅行客の増加が予想されていますが、国内有数の国立公園である富士・箱根・伊豆がいかに連携し、誘客していくのか。すでに静岡、神奈川、山梨の3県で富士箱根伊豆国際観光テーマ地区推進協議会が活動するなど、行政の枠組みはある程度確立しています。
 今日は、民間でできること、また、何が課題で、どうすれば解決できるのかについてご意見をいただきたいと思います。まずは、皆さんのインバウンド(海外誘客)、あるいは広域連携の取り組みをお話しください。
 宇田 伊豆一円の旅館女将で構成される「THE OKAMI(ザ・オカミ)」の会で、日本旅館の文化、女将さん文化を世界に発信する活動をしています。政府主催のマスコミ取材、モニターツアーなどを仕立てて、外国人誘客を積極的に展開してまいりました。
 先日はタイや、中国・杭州にも行ってまいりましたが、海外で配る伊豆半島の地図がばらばらで、伊豆全体の情報が共有化できていないというのが実感です。
 赤尾信 外国に行きますと、ガムランやハワイアンなど、それぞれの国の文化でもてなしてくれますね。私どものホテルでも10年ほど前から、女子社員が和服でお琴を演奏するウエルカムコンサートをロビーで行っています。これは海外の方に非常に好評です。
 赤尾十 伊豆観光推進協議会は、伊豆各地の観光協会のとりまとめ役として誕生しました。そういう中で伊豆は一つという大意をどうまとめていくか。例えば伊豆ナンバーのように、一つ一つの観光地ではできないことを協議会が形作っていきたいと考えています。
 青山 川辺さん、箱根から見た伊豆はどんなイメージですか?
 川辺 近くて遠い伊豆、というのが実感です。東京オリンピックを境に、ものや人の流通は新幹線や東名高速に変わり、それまで国道1号を走っていた大型トラックも少なくなりました。それを機に箱根と三島の縁が切れてしまった。それから40年、その隔たりは大きいと感じています。
 また、箱根町観光協会の誘客PRは首都圏向けのもので、三島以西を向いてはいません。同様に、JR東海とJR東日本では情報の行き来がありません。芦ノ湖は神奈川であり、三島は静岡というように、販売エリア、つまり県境が情報を遮断している状況です。
 


地域連携に課題山積。まずは共通項の洗い出しから
伊豆観光推進協議会 赤尾十五郎会長
パネリスト
伊豆観光推進協議会 赤尾十五郎会長

1968年稲取温泉旅館協同組合副組合長、75年同組合長。95年稲取観光協会会長、2002年東伊豆町観光協会会長。07年より現職


熱海市観光協会 赤尾信幸会長(ホテルニューアカオ社長)
パネリスト
熱海市観光協会 赤尾信幸会長(ホテルニューアカオ社長)

熱海市生まれ。1976年ホテルニューアカオ入社、88年代表取締役社長就任。2006年から現職
 青山 広域連携の重要さは、皆さん異存のないところだと思います。しかし、実際に連携していくには、まだまだ課題があるように思います。
 赤尾信 急がれるのは広域のフリーパスでしょう。関西は京都中心に、広域フリーパスのシステムができています。箱根も非常にうまくできているのですが、伊豆との連携は充実していない。非常に大事なことですが、これはなかなか簡単ではない。官民一体でその仕組みを作ることが大切だと思います。
 宇田 同感ですね。今は外国のお客さまは、大きな荷物をかかえ小銭を山のように用意して、細切れのルートを周遊するというのが現状です。以前、日本での快適な滞在を推進するために何が必要か、外国の方にアンケートを行ったところ、フリーパス券、高品質のツアーガイドや文化体験プログラム、新幹線のポーターサービス、空港でのコンシェルジェサービスなど、実にさまざまな答えが返ってきました。お客さまを呼ぶためには広域での対応が必要で、それには各自が既存のルールを崩す必要がありますね。
 赤尾信 これからインバウンドの主なターゲットとなるのはFIT(※)と言われる個人のお客さまですが、こうした方々はこちらの情報を手に入れにくい。特に1カ所に長く滞在するのではなく、広域で動きますので、いろいろな情報がほしいわけです。それにはインターネットの情報インフラを一つ一つきちんと整備していくことが大切ですし、気軽に利用できる端末が駅や民間の施設に設置されることも必要です。
 青山 富士、箱根、伊豆、この地域をいかに集客ゾーンとしてまとめるのか。赤尾さん、箱根と伊豆を結ぶための課題は何でしょう?
 赤尾十 やはり道路問題ではないでしょうか。箱根と伊豆を結ぶのは国道135号や伊豆スカイラインなどいくつかありますが、お客さまが少しでも走りやすく、訪れやすい道路の見直しが必要でしょう。有料道路を無料化すればバスツアーなどの料金が抑えられますし、古い道路標識は狭い範囲の地名しか載っていませんが、かなり遠くまで併記した看板があればそれだけで渋滞緩和につながると思います。
 川辺 また、県境にしばられることなくお互いの共通項を見出し、できることから始めるというのも大切です。
 以前、台風で旅館の裏山が崩落し、温泉が出なくなったことがありました。温泉を配送する手立てを考え急場をしのぎましたが、その手法を使い、硫黄のにおいのするお湯を三島のお祭りに持って行きました。これが、「元気なころはよく箱根に通った」というお年寄りたちに大変喜ばれ、それをきっかけに三島市と共同で観光マップを作るといったことに発展しています。



シード 青山茂 取締役副社長
コーディネーター
シード 青山茂 取締役副社長

早稲田大学法学部卒業。オリエンタルランドを経て、現在、シード取締役副社長。サンフロント21懇話会シンクタンクTESS研究員

地域の魅力を一枚の絵に。ニーズ把握し、旅行商品化を
 青山 ある中国の旅行雑誌には、河口湖が毎回載っています。ところが伊豆は一度も載りません。海外メディアをいかに戦略的に使いこなすか、これも大きな差だと思います。PR方法についてはいかがですか。
 川辺 われわれがドイツのノイシュバンシュタイン城にあこがれるように、外国人が日本に抱くイメージというのがあると思います。それがワンカット、世界中を独り歩きすればいい。北海道などは小樽から札幌市街を含めた広域ですが、それに比べるとこの地域は狭いエリアです。伊豆を外国にPRするときは、ぜひ芦ノ湖に映る富士山の雪景色を使ってほしい。イセエビもいいでしょう。中国の方には伊豆の踊子が根強い人気です。
 青山 空港ができたときに、海外のメディア、あるいは旅行代理店に、一枚の絵「ディスイズ富士・箱根・伊豆」が示せるかどうか、それが大きな分かれ目だと思います。そうした日本ならではの魅力、伊豆に住んでいるわれわれが見過ごしているものが外国人に受ける例はありますか。
 宇田 礼儀作法やお茶のお手前、着物の袖をちょっと持つとか、お箸にそっと手を添えるなど一つひとつの所作が美しいと言われますね。
 また、湧水や温泉などの地域資源をもう一度見直すことも大切です。今、伊豆市では観光資源を見直し、旅行商品化する取り組みを行っているところですが、何でもない温泉街の裏道や、わさび田の土手、マムシに遭いそうな小道の散策―こういったものすべてが商品になります。
 赤尾信 同時に、ニーズをくみ取ることも必要です。例えば、大都市のシティホテルはたいがいベッドですが、滞在期間中一度は大きいお風呂に入り、宴会場で宴会をして畳で寝たいというニーズは高い。富士山静岡空港が開港すれば、1泊はこちらに泊まろう、2泊なら伊豆と箱根を連泊しようといった、いろいろなツアーの可能性が期待できます。
 川辺 強羅から御殿場のアウトレットまでの直通バスも始まりました。ほとんどが中国からの旅行客です。細くて狭い道を行くのですが、「ニーズのあるところに道は通じる」の典型ではないでしょうか。
 青山 空港開港をビッグチャンスととらえ、いかに地域が連携していくのか。できるところから始める民間ならではの、スピーディーな取り組みに期待しています。

※Foreign Independent TravelまたはFree Individual Travelの略。





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