サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 魚市場として、また物流の拠点として沼津市の産業を担ってきた沼津港。近年は、新鮮な魚介類が味わえる飲食店や土産物屋が軒を連ねる観光スポットとして注目されている。昨年11月には、新たに沼津魚市場「イーノ」も誕生した。1月の「風は東から」は沼津市のにぎわいの拠点、沼津港の役割を考える。 風は東から
[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ10
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五つの玄関の一翼担う沼津港、官民一体でスピード感ある整備を
魚のセリを間近に見学。沼津魚市場
沼津魚市場「イーノ」の外観。陸送だけでなく、トロール漁で駿河湾から水揚げされた新鮮な魚が数多く取り引きされている。左手後方は大型展望水門「びゅうお」
■沼津魚市場「イーノ」の外観。陸送だけでなく、トロール漁で駿河湾から水揚げされた新鮮な魚が数多く取り引きされている。左手後方は大型展望水門「びゅうお」

 朝まだ暗いうちから市場は活気を帯びる。清潔で広いセリ場に、発泡スチロールに入ったさまざまな魚が種類ごとに並べられ、仲買人は、品定めに余念がない。あるいは、同業者と情報交換したり、携帯電話でしきりにどこかと連絡を取ったりしている。
 午前6時、セリ開始のアナウンスが流れる。そこかしこに人だかりができ、値段を決める威勢のいい声が飛ぶ。帽子の正面につけられたナンバープレートが、ライトを反射してピカピカ光る。まるで写真のフラッシュが一斉に焚かれているかのようだ。
 昨年11月にオープンした沼津魚市場「イーノ」は、こうしたセリの模様を2階の通路から見ることができる。以前から魚市場のセリを見たいという声は多く、休日の朝にはセリ目当ての観光客の姿も見られたが、荷物用フォークリフトが走り、床が常に水で湿っているため、一般客には必ずしも安全とはいえなかった。今回、見学通路を設けたことで、安全に観光客にセリを見てもらえる環境が実現した。
 1階には卸売場、水揚げ選別所、低温室の荷さばき所が完備する。沼津魚類協同組合(勝亦一強理事長)が国、県、市の補助金も含め約12億4000万円かけて建設した。イーノは今までのような、屋根と柱だけの吹き抜けのスペースではなく、四面閉鎖をすることで、鳥など外部の侵入を遮断する衛生管理型の市場となった。沼津魚市場の秋山広巳総務部長は「今、消費者から求められる食の安全を重視し、衛生面に気を使った」と語る。2階は見学者通路のほか3店舗の飲食店、展望デッキなど観光面を意識した造りになっている。


沼津港を南の玄関口に、位置づけ
イーノ内部の卸売場を見下ろす見学通路。朝早くから見学者が訪れる
■イーノ内部の卸売場を見下ろす見学通路。朝早くから見学者が訪れる
 イーノがある沼津港は、沼津市のにぎわい拠点として官民一体となった整備が進んでいる。
 沼津市は、「人が輝き、まちが躍動する交流拠点都市・沼津」を目指し、五つの玄関(ファイブエントランス)構想を進めている。同構想は、東名沼津インターを北、新幹線三島駅を東、JR原駅を西、沼津港を南、JR沼津駅を中央玄関口に見立て、それぞれを短時間・ローコストで結び、人やものの移動を円滑にすることで、地域を活性化し文化的な水準を高めることが目的だ。
 すでに、技能五輪国際大会を機に整備が進んだ沼津インター周辺道路の立体交差化や、原駅周辺の道路の拡幅やミニパークの開設など、目に見える形で整備が進む。沼津駅の高架化も予定され、駅南北のスムーズな移動が期待されている。
南の玄関口、沼津港は平成12年、国土交通省から特定地域振興重要港湾の選定を受けた。地方の活性化を図る目的で全国から応募のあった500の地方港湾から選ばれた14港のうちの一つに数えられる。
 それを機に、静岡県と沼津市は14年3月に観光振興を目的とした「沼津港港湾振興ビジョン」を作成。商工会議所、観光協会などを加えた沼津港振興ビジョン推進委員会(代表者・斎藤衛沼津市長)が、外港の埋め立てや津波胸壁の整備、立体駐車場建設などを進めている。イーノも振興ビジョンの中の民間主体事業として建てられた。
沼津港港湾振興ビジョン完成予想図。現在、5年ごとの見直し作業が進んでいる
■沼津港港湾振興ビジョン完成予想図。現在、5年ごとの見直し作業が進んでいる



 来年度は、イーノの北側でマーケットモールの建設が始まる。沼津魚仲買商協同組合を事業主体に、主に海産物を扱う十数店舗が入居予定だ。さらに、西伊豆に向けた旅客ターミナルやエントランス広場などの整備も予定されている。
 構想策定から5年、現在内容の見直しが行われている。「めまぐるしく変わる社会情勢のもと、計画策定時と現在では必要な機能や経済状況も当然変わっていく。パーフェクトな計画を作ってから進めるのではなく、80%の完成度で修正を繰り返しながら、民間が事業主体の施設もあるので、民意を尊重しつつ、スピード感を持った整備をしたい」と斎藤衛沼津市長。事務局を担う同市の沼津港振興対策室が本年度中に見直し案を作り、それを基に来年度で次の5年間の基本計画を作る予定だ。


人の回遊にも配慮。観光客にも地元にも愛される沼津港に
 沼津港の魅力は何といっても新鮮な魚を中心とした食と土産物。また、活気あるセリの様子や港の風景も人気が高い。平成16年に完成した大型展望水門「びゅうお」は富士山やダイナミックな夕景が楽しめ、夜間ライトアップは若いカップルにも好評だ。イーノの完成で港内の回遊性も高まった。「我入道の渡し」や「びゅうお」を利用した場合の駐車料割引券や、飲食店で発行する駐車券など、滞在、回遊しやすい仕組みも取り入れている。
 昨年2月に沼津市が発表した資料によると、沼津港を訪れる観光客は推計で年間92万5000人。平成18年の観光レクリエーション客数は364万人で、4人に1人が訪れている計算だ。「休日に駐車している車のナンバープレートを見ると、県外、特に首都圏からの車が多い。景色や海の幸、潮風を求めてやってくるのでしょうが、こうした魅力にさらに磨きをかけたい。例えば周辺の芹沢光治良文学館や若山牧水記念館などの文学的スポットとうまく結び、滞在時間を増やしたい」と斎藤市長。一方、沼津港で取り引きされる魚類の扱い高は、バブル期の平成4年をピークに年々減少している。こうした危機感の中、水産関係者も港ににぎわいを生み出し、集客力を高める施設や周辺整備に、行政と足並みをそろえて取り組みたいと意気込む。
 沼津港が観光地化するにつれ、地元住民からは最近港内にある店の料金が高いのでは、という声も上がるようになった。観光客、特に東京圏から来る人にとっては、1食あたり1500〜2000円程度の値段設定も受け入れてもらえるが、頻繁に昼食を食べに来る地元客は二の足を踏む。「確かに、新鮮な魚介類は値段が高い。しかし、地元の人たちから支持される価格帯もないと、単に観光地化するだけではいつか飽きられてしまう」(沼津魚市場・秋山部長)と危機感を募らせる。水産会社、飲食店など約50社で作るぬまづみなと商店会にとっても、いかに持続的に発展していくかが大きな課題。ここに来ればおいしい魚が食べられる、買えるというイメージを内外に発信していくことが重要だ。さらに、リーズナブルな値段で提供することで、地元を中心にリピーター確保を狙う。昨年11月には、商店会で新しいマップを作り、観光協会や沼津御用邸、沼津駅などで配布している。


沼津港をにぎわいの拠点に。市民一人一人の協力を期待
「夏休みなど、セリの様子を多くの子どもたちに見学してもらいたい」と話す秋山部長
  ■「夏休みなど、セリの様子を多くの子どもたちに見学してもらいたい」と話す秋山部長



 沼津駅北口への大型コンベンション施設整備や駅高架化事業など、今後沼津市では大規模な事業が予定されている。沼津港も首都圏や県内外から多くの人が訪れるにぎわいの拠点として、また物流の拠点としてさらに整備が進む。ファイブエントランスの南の玄関口は、集客機能を存分に発揮しつつある。しかし、日本中が総観光地化する中で、効果的なPRは難しい。
 「マンパワーや口コミがやはり最後には効いてくる。沼津市民一人ひとりの力をぜひ借りたい」と斎藤市長。目標を大きく上回る30万人を集めた技能五輪国際大会では、会場周辺のごみ拾いから場内案内、会場に飾る花の手入れなど、市民が自分のできる範囲で精一杯協力した。市外から会場に足を運んでくれた人が喜んでいる姿を見て、市民は自らもてなす喜びを感じたという。
 斎藤市長はこうした経験が他の取り組みに波及することについて「港をより活性化し、港と海の良さを知ってもらうために一人ひとりが何をすればいいのか、そのやり方のコツが技能五輪の時につかめたのでは」と期待する。こうした成果によって前年より訪れる人が増えれば、それが励みとなり活動の輪が広がる。その結果、周辺商店に客が集まり、地域経済も活性化する―。そんなシナリオを現実にするためにも、官民挙げた息の長い取り組みが求められる。



  「駅から港まで、楽しめる仕掛けづくりを」
「個々の魅力をつなぐアクセス整備を進めたい」と語る斎藤市長
■「個々の魅力をつなぐアクセス整備を進めたい」と語る斎藤市長
 沼津港と中心市街地をどのように結ぶかが課題の一つです。今は新宿、渋谷方面と沼津駅を結ぶ直通便もあり、駅から港まで短時間で、あるいは楽しく来られるアクセス整備に力を入れたいと考えています。
 駅から港まで直行するワンコインバスが30分に1本走っています。当然、路線バスもありますので、それらを含めると15分に1本程度運行されることになります。
 今後は、車体に魚の絵が描かれた、ひと目で沼津港に行くと分かるシャトルバスを走らせたいですね。
 沼津駅から港に向かって真っ直ぐ延びる道路に関しては、歩道も広く、途中で休めるようにベンチが置いてあります。ウオーキングも人気ですから、散策しながら港に行きたいという方のためにのぞいて楽しい店や、休憩のできるスペースなどの仕掛けを考えたい。
 かつては永代橋の下あたりまで港から船が往来し、魚市場なども立っていました。今は水上の移動手段がないので、ただ広い通りが続いているだけです。ここをひと工夫して、由緒あるお寺や、個性的な店、喫茶店でもいいでしょう、立ち寄りたいと思わせるスポットが増えるよう働きかけたいと思います。
 水上交通で言えば、我入道の渡しは時期によって永代橋まで運航します。実は、伊豆長岡まで船を使って行けないものかと、数年前調べたことがあります。堰があったり、川底が浅かったりで断念しましたが、今では浅い川底でも進める船がありますので、大規模なしゅんせつをしなくても通れるのではないでしょうか。そうすれば、長岡温泉に宿泊したお客さんが船で沼津港までやってきてお昼を食べる、といったことが可能になります。
 また、蛇松緑道も、今は沿道の家が背を向けていますが、緑道側に向けた形で店が開かれれば、桜並木もきれいですし、歩いて楽しい道になると思います。




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