サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 世界の若い匠がものづくりの技を競い合った技能五輪国際大会。昨年11月、沼津市で開催され、国内外から約22万人が訪れた。昔から製造業が盛んな沼津市はこの大会を契機に「ものづくりによる街づくり」を施策の中心に据え、さまざまな取り組みを行っている。折しも、県東部では健康関連産業の集積を図るファルマバレープロジェクトが進み、ネジやボルト、ナットを製造する螺子(らし)産業をはじめ、高い技術力を武器に新たな産業分野に進出しようとする企業も多い。こうした背景から、同市は技能五輪に続くものづくりイベントとして、「ロボカップジャパンオープン」を招致した。4月の「風は東から」は、ロボカップにかける意気込みを関係者に聞いた。 風は東から
[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ1
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ロボカップ開催に産学官連携、「ものづくりによる街づくり」図る
地方都市で初のロボカップ開催
横90センチ、縦180センチのフィールドでは、あらかじめ基本動作のプログラムが入力されたロボットがボールを追いかける。その姿に見入る子どもたちの目は真剣そのもの
■横90センチ、縦180センチのフィールドでは、あらかじめ基本動作のプログラムが入力されたロボットがボールを追いかける。その姿に見入る子どもたちの目は真剣そのもの


 ロボカップジャパンオープンとは、「西暦2050年までに、人間のサッカー世界チャンピオンチームに勝てるロボットチームを作る」という夢のある目標を掲げ、真に人間社会に役立つロボット技術を育成することを目的とした、ユニークな国際プロジェクトだ。
 沼津市での5月開催が決定し、国内外から210チーム約750人が参加を予定している。自分で考えて動く自律型ロボットによる「ロボカップサッカー」、ロボカップサッカーで培われた技術を応用し、災害救助シミュレーションやレスキューロボットを開発する「ロボカップレスキュー」、次世代のロボカップの担い手を育成する「ロボカップジュニア」の3部門で競技が行われる。観客動員数は約3万人が見込まれ、ゴールデンウイーク期間中ということもあって、すでに市内の主な宿泊施設はほぼ予約でいっぱいだ。
 同市は3年前からロボカップ誘致に乗り出した。技能五輪大会に続くものづくり啓発事業として、次代を担う子どもたちにものづくりの楽しさや大切さを伝えるとともに、地域産業の振興と同市の魅力を国内外に発信するのが狙い。
 今まで政令市やそれに順ずる大都市で開催されていた大会を、今回、地方都市である同市で開催するにあたり、運営面で二つの工夫をした。
 一つ目が、企業が協賛しやすい仕組みづくり。ロボカップ開催には、地元自治体が3000万円を負担する。沼津市は費用の3分の1を市内大手企業からの協賛金でまかなった。「今までは協賛金をお願いするだけだったが、企業側が協賛しやすい企画を民間の視点で作り、提案した」と沼津市産業振興部の杉澤貞雄次長は語る。具体的には、協賛する企業名を選手のゼッケン、のぼり旗、告知のための新聞広告などへ掲載。また、会場には企業PRブースを設けた。最終的には1000万円を超える協賛金が集まる見込みだ。
 二つ目は、会場となるキラメッセぬまづと市民体育館をつなぎ、街中ににぎわいを生み出す仕掛け作り。両会場の間は約500メートル。二つの会場をのぼり旗で結び、中心市街地の回遊性を高める。今後は、リコー通り商店街なども巻き込んで地域で盛り上げていこうという組み立てにしている。
 こうした努力が評価され、昨年1月、正式に開催が決定した。


人材育成が地域振興のカギ
「ロボカップを契機にものづくり人材の育成をはかりたい」と語る高先生
■「ロボカップを契機にものづくり人材の育成をはかりたい」と語る高先生


 同市が特に力を入れるのは子どもたちへの啓発だ。ロボカップジュニアで沼津ノード(※)運営委員長を務める東海大学開発工学部の高正博教授は「子どもたちの理科・数学離れ、学力の低下が問題になっているが、これを放っておくと工学系、理系に進学する子どもたちが少なくなり、ひいては日本の技術力の低下につながりかねない。ものづくりが見直される背景にはこうした危機意識がある。ロボカップは、ものづくりの楽しさ、素晴らしさを遊びながら体感できるイベント。小中学生という早い段階からロボットやIT、プログラミングなどに触れることで、将来の技術者を育てるのがこの活動の大きな目的」と語る。
 ロボカップジュニアは、中国・蘇州で今夏行われる世界大会の日本予選を兼ね、3月には沼津特別ブロック大会が行われた。市内だけでなく、裾野などから参加した延べ20チーム以上が熱戦を繰り広げた。それに先立ち、沼津市では1年ほど前から市内小中学校に呼びかけ、講習会を開催してきた。「この大会は初めてロボットに触る子も、ある程度知識がある子も、レベルに応じて参加できる。興味がわけばより深い知識を学べるところが魅力」と高教授。今大会を機に、沼津工業高等専門学校、沼津テクノカレッジ、沼津工業高等学校と協力して引き続きロボット教室を開催し、毎年、沼津から選手を出す継続的な活動にしたいと語る。

※ノード・・・主に市やその周辺を含むエリアの単位。ロボカップジュニアでは、いくつかのノードが集まってブロックとなる。



イベントを機に新産業への展開に弾み
 ロボカップを中心となって進めるのは同市産業振興部。普段から企業めぐりを頻繁に行い企業の考えを吸い上げ、それを施策に反映する努力をしている。また、企業を回ることで同市の施策を理解してもらう土壌作りにも成功し、今回のようなものづくりイベントへの協力も取り付けやすいという。
 同市で盛んな螺子産業に携わるイズラシの堤親朗社長は、「地元自治体が製造業に理解を示してくれるのは大変ありがたい」と語る。時に製造業は騒音や異臭、業務拡張などで近隣住民との調整や移転が必要となるが、こうしたことも行政が中に入ることでスムーズに進む。ものづくりという掛け声だけでなく、規制緩和や資金面での補助、企業誘致など総合的な支援策のある同市の体制を高く評価する。
 地元の理系高等教育機関を代表する東海大学も「ものづくりの人材育成に重点を置いている地域の活動をサポートするという大学の社会貢献の面で、また将来の学生募集という面でも大いにかかわっていきたい」という。すでにファルマバレープロジェクトでは、同大の研究成果を生かした医療機器の開発などが地元企業との間で進んでいる。
 「ものづくり産業の活性化と人材育成」という明確なスタンスのもと、沼津市が中心となり企業や教育機関と連携した取り組みを加速させている。ロボカップジャパンオープンでは、市内の小中学生約1800人に入場チケットが配布される。また、福祉・介護ロボティクス展も同時開催され、市内の医療関連企業が製品のPRコーナーを設けている。今後はファルマバレープロジェクトを活用し、地域が培ってきたものづくり技術を応用する中で、健康関連産業への展開や人材育成に弾みをつけたい考えだ。


  高い技術力背景に、医療分野への進出図る
イズラシ 堤親朗社長 サンフロント21懇話会会員
■イズラシ 堤親朗社長
サンフロント21懇話会会員
 かつて静岡の螺子生産高は東大阪、愛知に次ぐ全国3位だったが、現在は6位。この要因は、納品先となる大手企業などの海外、あるいは域外流出によるものと考えています。全体で見ると生産高は下降していますが、技術的なレベルは高く、主に自動車産業、それもエンジン、ブレーキ、足回りなどの重要保安部品を作っている会社が多くあります。
 当社では、こうした高い技術力を生かし、現在、東京大学の先生と健康関連機器開発のための共同研究を始めています。私どもの部品はもちろん、提携する工作機械メーカーなどのノウハウを応用することで、メタボリックシンドローム予防に寄与する機器の開発が可能と考えています。ファルマバレープロジェクトは、静岡がんセンターを中心とした先端医療に関する技術がクローズアップされがちですが、この地域のものづくりのレベルをもってすれば、健康関連という新しい分野でのビジネスチャンスは十分あると考えています。


  ものづくりによる街づくりを強力に推進
斎藤衛 沼津市長
■斎藤衛 沼津市長

 昨年開催された技能五輪国際大会は、多くの市民のご協力で大成功のうちに終わりました。この時盛り上がったものづくりへの機運を一過性に終わらせないため、ものづくり関連のイベントであるロボカップジャパンオープンを招致しました。ロボカップジャパンオープンは海外のチームからもエントリーがある国際大会であり、技能五輪国際大会に引き続き、世界中に沼津市の名前を知ってもらえる絶好の機会になると期待しています。
 ものづくりの機運を地域に根付かせるためには、次代を担う子どもたちにものづくりの楽しさ、大切さを体感してもらうことが重要です。
 ロボカップでは、この地域からロボカップジュニア部門へ選手を輩出するため、小中学生、高校生を対象にロボット教室を開催してきました。教室ではプログラミングなどを学び、自分の手で自律型ロボットを製作しました。3月末にロボカップジャパンオープン2008沼津予選の沼津特別ブロック大会を開催し、この地域から9チームが本大会への切符を手にしています。
 また、11月3日にはジュニアスキルズ2008を開催し、子どもたちに技能五輪国際大会種目に挑戦してもらうほか、技能士の熟練した技術の披露、技能五輪出場選手との交流などを行い、子どもたちにものづくりの魅力や大切さを体感してもらいます。
 東部地域には、優れた医療関連機器を製造している企業がたくさんあります。このような企業のPRの場として、ロボカップジャパンオープン2008沼津の会場におきまして、医療関連機器メーカーに出展をしていただきます。
 新産業の創出と地域経済の活性化を目標とする「健康ものづくり」、新たな産業の担い手を育てる「ひとづくり」など、ファルマバレープロジェクトで進められている戦略に沿って、東部地域の皆さまや次代を担う子どもたちに、健康や医療分野におけるものづくりを身近に感じてもらう機会を積極的に提供していきたいと思います。

  ロボカップジャパンオープン2008沼津
ロボカップジャパンオープン2008沼津
開催日時:2008年5月3日(土・祝)〜5日(月・祝)
開催時間:5月3日、4日/10:00〜17:00、5日/10:00〜16:00
※ロボカップジュニア・@ホームリーグ・ものづくり工作教室は4日(日・祝)、5日(月・祝) のみ開催
会場:キラメッセぬまづ、沼津市民体育館
※@ホームリーグ・ロボカップジュニア(サッカーチャレンジ・ダンスチャレンジ・レスキュー チャレンジ)の競技、ものづくり工作教室は、沼津市民体育館にて開催されますので、ご注意ください。
料金:前売り1日券1,000円/当日1日券 1,200円(ともに税込)
未就学児童は無料
●チケット:チケット販売場所 ローソンチケット(Lコード:45795)、チケットぴあ(Pコード:986-005)、TSUTAYAすみや(沼津バイパス店、三島店、富士中央店)、マルサン書店仲見世本店、富士急百貨店、アピタ大仁店、サンテラス富士宮店、ユニー吉原店、伊豆箱根トラベル ※期間中は当日券のみ発売
【同時開催】福祉・介護ロボティクス展/ものづくり工作教室 ※沼津市共催事業
主催・共催・後援など:ロボカップジャパンオープン 2008 沼津開催委員会
お問い合わせ先:ロボカップジャパンオープン2008沼津開催委員会事務局

(沼津市産業振興部商工振興課) TEL:055-934-4799
Webサイト:http://robocup-numazu.com/


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