サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 道州制が現実味を帯びるなか、自治体の合併が進まない東部。この東部飛躍のカギとなる新たな地域開発戦略が浮上した。一極集中型でなく、複数の都市が経済や教育、文化・スポーツなどの機能を分担し、連携しながら地域全体の発展を図る「多極分担型地域構造」だ。5月の「風は東から」は、石川嘉延知事、都市計画を専門とする法政大学の黒川和美教授、サンフロント21懇話会から沼津商工会議所の後藤全弘会頭が出席した座談会で、東部における多極分担型地域構造の可能性について聞いた。聞き手は静岡新聞社・静岡放送の谷川治東部総局長。 風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ2

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多極分担型地域構造で東部再生、カギ握る沼津駅周辺整備事業
進まぬ合併。東部に適合する多極分担型の地域構造
多極分担型地域構造のイメージ。少し足を延ばせば、東部は山梨、神奈川を含む200万人規模の圏域を背景にできる
■多極分担型地域構造のイメージ。少し足を延ばせば、東部は山梨、神奈川を含む200万人規模の圏域を背景にできる


谷川 本日は、東部の地域づくりに新たに浮上した「多極分担型地域構造」についてお話を伺います。

黒川 多極分担型地域構造は、中心となる町が一つでなく、それぞれの町が違う機能を持ち、かつ交通路線が発達したターミナル性を持っていることを言います。公共交通で一時間圏を一つの単位とし、そのほかの地域とは高速道路や飛行機などの高速交通網でつながっている。EUをイメージすると分かりやすいかもしれません。
 東部には利便性の高い交通網を背景に、多くの産業が集積しています。歴史ある街がそれぞれに機能を持ち、文化を育み、自然も豊かです。まさに、多極分担型地域構造にふさわしい条件が整った場所なのです。

谷川 中部、西部はすでに政令市が誕生しています。東部でも広域的な地域づくり、成熟社会にふさわしい地域づくりが求められていますね。

石川 道州制に移行するまでに県並みの権限を持つ政令市になっていれば、行政的なことは政令市が対応するのでどの圏域に属していようと今の生活と大きな変わりはありません。しかし、政令市になっていないと、今よりはるかに遠い場所にあると考えられる道州の機関とかかわらなければならなくなる。その危機感から私は政令市を目指したらいいのではないかと申し上げてきましたが、なかなかご理解いただけない。そこで、この地域は中部や西部とは異なる多極分担型の地域構造を形成して、行政は別々でも実態として一体化していった方が政令市への近道になるのではないかと考えました。今後は合併への理解を求めつつも、機能配置については県が先導的に進めようと、手始めに沼津駅北に県と沼津市で広域的な交流の拠点となるコンベンションセンターの整備を決めました。

後藤 沼津駅北への施設整備も、5、6年前ならおそらくほかの地域から文句が出て、県もなかなか決断できなかったと思います。ところが技能五輪国際大会の成功やロボカップなど、沼津市は着実に実績を積んでいますので、東部の拠点都市という認識を周辺の方も持ってくれています。昨年は東部6市4町で作るコンベンションビューローも立ち上がりましたので、コンベンションセンターができればにぎわいの拠点機能もさらに高まるでしょう。


懇話会が機能分担を提言。交通網の利便性向上が前提
石川嘉延  静岡県知事
石川嘉延 静岡県知事
昭和39年自治省入省。国土庁長官官房審議官、自治省大臣官房審議官を経て平成5年から現職


黒川和美 法政大学大学院政策創造研究科教授
黒川和美 法政大学大学院政策創造研究科教授
公共経済学、経済政策、都市計画などが専門。県の多極分担型都市圏域形成研究会座長を務める
谷川 沼津駅北のコンベンション機能強化と関連して、懇話会が先日、県に提言した東部全体の機能分担についてご説明願います。

後藤 懇話会は、ファルマバレープロジェクトを圏域形成の枠組みとし、各市町の機能分担と連携を図るべきと考えています。沼津市は新たに整備されるコンベンションセンターを中心とするコンベンション機能。三島市は大学を中心とするスポーツ・健康・福祉関連の教育と情報提供機能。長泉町は、静岡がんセンターを中心とする医療・研究機能。裾野市・御殿場市は滞在型のスポーツトレーニングセンターなどスポーツ健康産業の集積機能。各市町が現在持っている機能を高度化しながら広域で連携していく。こうした働きかけをするのも懇話会の役割と思います。

石川 民間からこうした機運を盛り上げてもらえるのはありがたいですね。
 東部の多極分担を実現する上で要となるのは三島市と沼津市の関係です。この関係を前進させるために、市民の皆さんにはもっと鉄道路線に関心を持っていただきたい。
 沼津─三島間は、用宗と静岡ほどの距離です。グランシップで大きなコンサートがあるときに用宗の人が川を越えてわざわざ行くのは面倒だ、とは思いません。清水からも喜んでやってくる。ところが、たったひと駅にもかかわらず、今の東部は行政体を意識するあまり、三島でやるコンサートに沼津の人は行かない。沼津のイベントに三島の人が行かない、というのが現状ではないでしょうか。もっとお互いが喜んで交流する関係になるよう、要は市民の方々が一体的な圏域として、行政の壁を乗り越えていくことが重要だと思います。

黒川 その前提となるのが一時間圏内で日常的に簡単に移動できる環境整備です。東部には新幹線、東海道線をはじめ、御殿場線、身延線、伊豆箱根鉄道など多くの鉄道がありますが、乗り継ぎや運行本数を見ると必ずしも便利とは言えません。
 例えば三島─沼津間に駅を作り、近隣の人ができるだけ車を利用しないで済むようにする。あるいは、御殿場や富士宮から沼津への通勤・通学が容易になるような電車の増便やダイヤ改正をする。ほかの地域とつながる時は新幹線三島駅が玄関になる。交通を基礎にしながら、よそと大きく連携でき、地域も便利になると思います。



後藤全弘  沼津商工会議所会頭
後藤全弘 沼津商工会議所会頭
平成11年から3期連続で副会頭を務めるなど、豊富な経験を買われ、今年1月より現職。ゴトー相談役

沼津駅の高架化に期待。商業、文化、教育機能の高度化を
石川 多極分担型地域構造を目指す上で、残念なことに東部には高次の商業、文化、教育機能がありません。これらは東京に行けば充足されるが、この地域に人を引き寄せるには、この三つの機能を高める努力をしなければならないと思っています。
 出発点になるのは沼津駅周辺の再開発です。鉄道の高架化でJRの利便性が高まれば、沼津と三島を行き来するのが今よりずっと楽になります。すると駅周辺の商業機能がお互いの人口をターゲットにし始める。商業機能にしろ文化機能にしろ、経済や人口が大きくなれば質の高いものが集まりやすくなるでしょう。

谷川 コンベンションセンターの整備も大きな変化をもたらしますね。

後藤 医療系の学会開催は徐々に増えてきましたが、それだけでなく、製造業、サービス業、福祉やまちづくりまでコンベンションの対象範囲は広い。当然、アフターコンベンションとして伊豆の観光とも結びつきます。富士山静岡空港が開港すれば、ビジネスチャンスはさらに広がります。
 ただ、例えばチャーター便を飛ばすにしても、伊豆各地が単独では難しい。空港の活用を東部が一緒になって考えないとならないと思いますし、コンベンションセンターの整備はそのいい機会と考えています。ビジネスの結びつきが生まれれば、地域の一体化も加速するのではないでしょうか。

石川 教育についても、高等教育が三島には日大しかないというのがかねてからの問題でしたが、三島駅のすぐ近くに順天堂大学の4年制看護学部ができることが決まりました。このほか、県では二つ以上の大学が協力して教育研究を行う共同大学院などの新しい制度も研究しており、相当高度でネームバリューの高いものを地域に配置していく、そういう展望のもとでこれからこの地域の政策を進めたいと思います。

黒川 この地域は恵まれすぎていると言っても良いほどの条件がそろっています。空港ができれば海外とも簡単にアクセスできる。東京、大阪に行くには新幹線や東名高速道路がある。東部の方々は、この恵まれた社会資本をうまく使い、もうワンランク上のライフスタイルをイメージする必要があると思います。けれど今はこうした社会資本はほかの地域のためのもの、という感覚で、例えばのぞみの通過待ちをするとか、東名が混んでいれば使わないのが実際ではないでしょうか。
 私も沼津駅の高架化が一つの糸口になる気がします。南北交通渋滞が一気に解消され、新しい高次機能も入ってきます。そこに多くの人が集まるようになると、今度は鉄道や道路など今ある社会資本をより自分たちの都合のいいように作り変えようという動きが出てくる。地方自治とはこうした意思決定ができることがとても重要で、機能分担と高度化が進み、地域の一体化が促進されれば、すんなり政令市が見えてくるかもしれませんね。
 


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