サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 官民一体で県東部の活性化策を探る「サンフロント21懇話会」は、光輝く地域づくりに向けて研究・提言活動を行っている。本年度は、富士山静岡空港開港を間近にひかえた東部飛躍のカギを探っていく。6月の「風は東から」は、平成17年度から3年間行われた県の伊豆ブランド創生事業の成果と、その成果をもとに今年から全県で行われる「地域の魅力を活用した観光商品づくり支援」について、関係者に聞いた。 風は東から
[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ3
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地域の“やる気”を県が後押し、オンリーワンの旅づくり始まる
着地型商品造成ノウハウを構築。事業通じ宿泊客31万人増
「下田・海洋浴の郷事業」では、「海」をキーワードに、マリンスポーツにとどまらない多彩な地域の魅力を発掘した
■「下田・海洋浴の郷事業」では、「海」をキーワードに、マリンスポーツにとどまらない多彩な地域の魅力を発掘した

 平成3年の1993万人をピークに、伊豆地域の宿泊客数は減少の一途をたどり、16年には40%減の1202万人にまで落ち込んだ。観光客数の低迷に歯止めをかけようと、県は17年度から3年をかけ、「伊豆ブランド創生事業」を実施した。エントリー形式で地域自らが観光商品を作り、メディアに売り込む活動などにさまざまな支援を行った。
 県産業部の出野勉観光局長は「団体客を中心とする従来型観光を営んできた伊豆と、今の観光の主流である個人型旅行との間にニーズのズレが生じており、伊豆ブランドを再生するためには、商品となる地域の新しい魅力を発掘する必要があった。そこで、地域自ら企画、立案して商品を開発できるシステムや、ノウハウを提供するための事業を行った」と振り返る。
 事業費は3年間で約9億円。補助金や旅行代理店OB、アドバイザーを派遣する「観光商品化支援」、広報・商品造成企画研修による「人材育成」、誘客ターゲットに合わせたメディアを活用する「戦略的なPR」を事業の柱とした。
「主役は地域。地域のやる気を積極的に応援していく」と語る県産業部の出野局長
■「主役は地域。地域のやる気を積極的に応援していく」と語る県産業部の出野局長
 伊豆メッカづくり補助金を受けた事業からは3年間で57の宿泊を含めたツアー商品が企画された。また、商品の発掘から受け入れ態勢の整備、交通手段の手配など、必要に応じて旅行代理店OBが“プロの目”でアドバイスを行った。OBの幅広い人脈を生かし旅行代理店にアプローチした結果、2年間で延べ26社の代理店で商品化されパンフレットに掲載、送客につながった。
 また、伊豆に関する風景写真や作文・旅プランの募集、電車を伊豆の観光情報で埋め尽くすトレインジャック、小学生記者による伊豆取材ツアーを首都圏向けに実施。メディアに取り上げられた回数も17年度173件、18年度233件、19年度147件に上り、これら一連の事業展開で宿泊客数は同事業が始まる前の16年度に比べ、18年度は31万人の増加につながった(19年度は集計中)。


意識を変えたスキルアップ研修。「海洋浴の郷」下田を効果的にPR
伊豆PR大賞を受賞した下田ビッグシャワー実行委員会委員長の増田社長。「地域への情熱が行動のエネルギー」と語る
■伊豆PR大賞を受賞した下田ビッグシャワー実行委員会委員長の増田社長。「地域への情熱が行動のエネルギー」と語る

 同事業を通じて、地域資源の商品化とメディアへの効果的なPRで集客増に成功したのが、下田の若手旅館経営者などで組織するビッグシャワー実行委員会だ。市内に九つある白い砂浜と、透明度の高い下田の海を生かし、マリンスポーツはもちろん、ノルディックウオーキングやビーチヨガ、ビーチクラフトなど「海」をキーワードにした体験メニューを、年間通して楽しめる旅行商品に仕上げた。
 同実行委員長でなぎさホテルの増田健太朗社長は「それまでも旅行代理店へ情報発信をしていたが、TVや新聞、雑誌などのメディアを活用するという考えはなかった。県の広報スキルアップ研修で、ターゲットのとらえ方やそれに合ったメディアの選択法などを学んだ」と語る。ターゲット別、メディア別にプレスリリースを作り積極的なアプローチを行った結果、旅行雑誌や女性誌、TV、新聞など多くのメディアに取り上げられ、市全体の宿泊客数は対前年比110〜120%で推移しているという。
 女性に人気の高い料理研究家・栗原はるみ氏とのコラボレーションも実現した。下田市出身で親善大使を務める同氏に市を通じてアプローチ。地元海産物を使ったレシピによる料理教室イベントと、ノルディックウオーキングを組み合わせた1泊2日の旅行商品は、女性を中心に大きな反響を呼んだ。
 こうした成果が認められ、2月に東京で行われた伊豆ブランド創生事業の成果発表会で、同実行委員会は伊豆PR大賞最優秀賞を受賞。「メディアを活用するという新しい手法を学べたことは大きな収穫。手間はかかるが、自分たちのできるところからコツコツと、熱意を持って息の長い活動をしていきたい」と増田社長。今後も体験メニューの見直しや新たな魅力づくりを続けるという。


全県対象の商品造成事業に発展。空港開港で新たな市場の開拓を
空港開港をひかえ、遠回りしても来たい旅行商品づくりが求められている
■空港開港をひかえ、遠回りしても来たい旅行商品づくりが求められている


 伊豆ブランド創生事業の成果を踏まえ、県は本年度、全県を対象に地域の魅力を活用した観光商品づくりを支援する。浜松、静岡、沼津の3会場でこのほど行われた説明会には、県内の市町や観光団体が多数参加、関心の高さをうかがわせた。伊豆ブランド創生事業で目覚ましい成果のあった旅行代理店OBによる支援は、しずおかツーリズムコーディネーターとして、県の観光協会に3人が常駐する体制となった。
 今後は、来年3月の富士山静岡空港の開港で誕生する九州、北海道、東アジアなど新たな市場に向けた商品造成にも力を入れる。出野局長は「今まで静岡に目を向けなかったお客さまにどんな新しい商品を提供できるか。北海道の方にとって真冬に桜が見られるのは魅力だろう。しかし、同じ商品では気候の温暖な九州の方は呼べない。発地のニーズを把握し、それに合った商品の開発をしてほしい」と期待を寄せる。発地や旅行代理店からの情報収集もツーリズムコーディネーターの仕事だ。
 また、東アジア向けにはピアノ工場の見学や焼津の水産業、静岡のお茶など産業分野の観光商品化が期待されている。ツーリズムコーディネーターの今井利昭チーフは「1杯150円の讃岐うどんを食べにわざわざ飛行機で行く時代。素晴らしいところには遠回りしても人はやってくる。空港というインフラを最大限活用する努力を惜しまないでほしい」と各地域にエールを送る。
 一昨年5月の旅行業法の改正で、ツアーの実施区域が会社の営業所がある市町村と、それに隣接する市町村、国土交通大臣の定める区域内での募集型企画旅行の取扱いが第3種旅行会社で出来るようになり、地域資源を活かした着地型旅行商品が造り易くなった。大手代理店を介さずに、地域ならではの旅行商品が扱えるとあって、各地の観光協会などが第3種の登録に乗り出している。
 今井チーフは「土肥のトビウオすくいや達磨山での星空観察など、そこでしか体験できない素材の商品化が進んでいる。ぜひ情熱を持って地域の魅力を磨き上げてほしい。それが、訪れる人にとって一番のおもてなしになるのでは」と語る。
 旅先での人とのふれあい、語らいが次もまた訪れようという動機につながる。訪れた人をどのようにもてなすか、地域の“やる気”がオンリーワンの旅行商品を生み出す原動力となるだろう。


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