サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 東部活性化の方策を探るサンフロント21懇話会特集「風は東から」。7月は、18日に行われた東部地区分科会でのパネルディスカッションを取り上げる。パネリストに静岡県の山村善敬企画部長、三島商工会議所の須田徳男会頭、法政大学大学院の坂本光司教授、沼津青年会議所の小笠原啓之直前理事長を迎え、道州制の受け皿にふさわしい地域づくりについて聞いた。コーディネーターは静岡経済研究所の大石人士研究部長。 風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ4

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道州制に向け地域づくり待ったなし、行政境越え広域の視点で行動を
須田徳男 三島商工会議所会頭
須田徳男 三島商工会議所会頭
商議所会頭をはじめ、三島倫理法人会顧問など地域の要職を兼ねる

山村善敬 静岡県企画部長

山村善敬 静岡県企画部長
企画部空港建設局長、都市住宅部長を経て企画部長に就任

合併の足並みそろわず。高いポテンシャルを生かしきれない東部
 大石 10年後とも15年後とも言われる道州制に移行した時、東部は自立した地域としての十分な力を持ち得るのでしょうか。合併が思うように進まない東部ですが、まずは地域の現状についてご意見をお願いします。

 須田 東部の合併についてここ10年の流れを見ると、平成11年11月に政令市を目指し調査・研究を行う東部広域都市づくり研究会が発足。16年11月に沼津、三島市、函南、清水町の2市2町合併協議会設置に向けた住民発議がありましたが、三島市議会が否決し白紙になりました。
 18年6月、研究会が2年4カ月ぶりに会合を開き、10年後をめどに政令市を目指すことを確認。10月には県の合併構想に中核市を目指す組み合わせとして沼津、三島、裾野市、函南、清水、長泉町の3市3町の枠組みが答申され、5月には県の構想に位置付けられました。
 その間、研究会の議論は一気の合併か段階的合併かで平行線をたどり、20年4月には解散が決定しました。現在はそれぞれの市町が独自に合併の道を模索しています。

 坂本 東部は行政の動きが遅いと感じます。というのも、国は道州制と並行して「地方が主役の国づくり」を頻繁に議論しており、国と地方の関係性を中央政府、地方政府とし、生活の基盤となる基礎自治体にさまざまな権限を委譲する方向で議論が重ねられています。
 そうなると、果たして500人や1000人の職員数で機能を果たせるのか、またかなりの予算規模がないと受け皿としての機能を発揮できないと思います。静岡市や浜松市の職員数は6000人を超えますが、沼津市は2000人。税収も静岡市の1200億円に対して沼津市は350億円、三島市は160億円です。これでは思い切った施策を打つことが難しいと思われます。

 大石 県は東部の位置付けをどうお考えですか。

 山村 この地域の特徴として首都圏への近接性が挙げられます。このおかげで企業立地や通勤通学人口が増大し、医療・健康関連産業も集積しています。県民所得の水準が高く、富士山をはじめとする世界レベルの自然環境に恵まれるなど、非常にポテンシャルの高い地域です。一方、文化・芸術・教育などの面では逆に首都圏への依存傾向が強く、中西部に比べて都市的魅力に欠けるのは否めませんし、広域的な求心力をもった都市があるとは言いがたいのが現状です。
 東部地域の人口は97万人を超え、規模からいうと政令市に匹敵しますので、東部全体で広域都市圏を目指すべきでしょう。
 


競争よりも連携を。多極分担型地域が描く将来像
小笠原啓之 沼津青年会議所直前理事長
小笠原啓之 沼津青年会議所直前理事長
昨年、理事長として技能五輪国際大会の盛り上げに貢献した
 大石 いずれ道州制に移行することは間違いありません。それに向けてこの地域はどのようなまちづくりを進めていったらいいでしょうか。

 小笠原 東部に高いポテンシャルがあることは、先の技能五輪国際大会開催に関わった経験からよく理解しています。しかし、残念ながらそれを生かしきれていない。魅力的な地域になるにはどうすればいいか、その際「魅力的」とは誰から見た魅力なのか、そこを勘違いしないことが重要です。どの町に行っても同じ店、同じ文化センター、同じ診療所。これでは外から来た人の目に魅力的に映らないばかりでなく、これから先、この地域は周辺から取り残されてしまいます。
 競合する相手は世界であり、九州、北海道です。多種多様な世の中にあって、この地域はこれができるというポリシーを明確にする必要があると思います。それには今までのように各市町が切磋琢磨するよりは、地域が一つになって機能を分担し行政のムダを省く。あわせて市民自らが、外からどう見られているのか、いつまでも観光都市、商業都市でいいのかを自問自答する必要があると思います。

 大石 競争より連携というお話が出ましたが、県は新たな地域の形として「多極分担型の地域構造」を提唱していますね。

 山村 これは一つの圏域の中に複数の中心が存在し、お互いが機能を分担、連携することで地域全体の発展を目指す地域構造です。沼津・三島、裾野・御殿場、富士・富士宮と一定規模の市が分散している東部ではこの手法での発展が有効と考えます。
 これを進めるためのポイントは二つ。一つは都市の求心力を高めることですが、沼津駅北に大型コンベンション施設の整備を決めるなど、都市の魅力を高めていきます。
 もう一つはネットワークの構築です。隣接する都市同士が自由に行き来できないのであれば多極分担も絵に描いたモチとなることから、新東名、伊豆縦貫道、国道138号といった道路のネットワーク化を図っています。また、光ファイバー整備に対する全国初の助成制度をつくり、情報通信網の整備も進めています。
 市町が同じ方向にベクトルをあわせながら進むという環境醸成も必要ですから、東部6市6町の首長と知事が直接意見交換を行う東部サミットを開催しています。


坂本光司 法政大学大学院教授
坂本光司 法政大学大学院教授
専門は中小企業経営論、地域産業論。国、県などの公職を多数務める

大石人士 静岡経済研究所研究部長

大石人士 静岡経済研究所研究部長
各地のまちづくりなどに深く関わる。懇話会シンクタンクTESS研究員

東京依存から東京活用へ。まずは地域をまとめる行動を
 大石 東部が魅力を高め、周囲に埋没しない地域になるには依然課題も多くあります。今後私たちがやるべきこととは何でしょうか。

 坂本 残念ながらこの地域は東京と肩を並べることができない。であるならば、好き嫌いでなく、東京との関係性を強めるべきだと思います。東京駅から八王子にある大学のキャンパスまで約1時間。工場が立ち並ぶ大田区蒲田に行った時も50分ほどかかりました。新幹線なら東京から三島まで60分、新富士まで75分です。
 また、大田区と沼津市の地価を比較すると、1平方メートルあたりの宅地は44万円と11万円、商業用地は56万円と21万円、工業用地は20万円と7万円というように大きく開きはありますが、時間距離的には差はほとんどありません。アプローチの仕方によっては東京のいろいろな機能を呼び寄せることが可能だと思います。
 魅力的な地域には魅力的な企業が立地しています。つまり生涯かけて働きたくなる、わくわくする企業や職種があるということです。この地域は産業的に発展していますが、工場移転型、外圧型。開発や人事、調査などの本社機能があった方がわくわくするじゃないですか。そういったことをいかにこの地域の中で産み育てていくか、という視点が大切です。

 小笠原 なぜこの地域の合併話が出ては消えるのか。よくも悪くも東京依存があると思います。東京で潤っていますし、ほとんどの人は関東圏に組み込まれたいと思っているでしょう。しかし、10年後もこのままでいいのでしょうか。
 必ず引き合いに出るのが沼津と三島の仲の悪さで、人によっては源平時代までさかのぼって文化が違うからだと言います。源平の文化を考えるより、われわれが文化を作るんだという気概がないとこの地域は変わらない。合併をしない理由を探す間に、地域の若者が一歩でも、一声でも行動しようと、各地の青年会議所と連携した活動をしています。

 須田 東京に過度に集中するのでなく、生活環境や人材確保の面からも地域社会が活力を取り戻すことが大切です。合併して街の規模が大きくなれば、東京に出て行った若者も地元に戻りやすくなるのではないでしょうか。昨年から始まった伊豆マラソンは、表向きはスポーツイベントですが、思いはまちおこしです。理想は下田までをつなぐことですが、今年は伊豆市をスタートし三島市がゴールとなります。こうした取り組みを通じて地域を一つにしたいですね。

 山村 広域的な地域づくりを進める上で民間の果たす役割は大きいので、今後も積極的に活動していただきたいと思います。東部は首都圏に近接していますが、東京の強力な吸引力に呑み込まれるのではなく、東京へ一時間の地の利を生かし、住む所も働く所も東部地域でと思えるような魅力的な地域づくりを目指すべきでしょう。そうすればこの地域は将来どこの圏域に属しても発展できると思います。

 坂本 東部が一つの方向に向かっていかない理由の一つはリーダーの問題だと思います。地域経営をしている社長さんですから、民間の感覚で経営をしてほしい。一方、議員さんも行政と並列関係にありますから、首長がだらしなくて、判断する情報がないなら、議員さんが動くべきです。目先の利益を優先するのではなく、孫や子のための将来を見据えた活動をしていただきたい。
 最後に、その方々を選んだわれわれ市民も、おらがところが、という意識を変えていくことが必要でしょう。この三つの方向へと同時並行的に働きかけていかない限り、地域づくりはできないのかなという感じがしています。

 大石 皆さんも、なぜ道州制の議論が出ているかを考えてほしいと思います。住む人が生き生き暮らせることが大切であって、市町村合併も道州制の導入も一つの手段に過ぎません。東部のあるべき姿は今日の議論の中で少し見えてきたと思います。あとは実行あるのみです。




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