サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 3町が合併し誕生した伊豆の国市。伊豆長岡温泉をかかえる同市は、観光を基幹産業と位置づけ、官民挙げた観光活性化を図っている。しかし、長引く観光不況や地域間競争の激化で同市への宿泊客数は減少傾向にある。これに歯止めをかけようと、市は地域を挙げて国策でもある外国人観光客誘致(インバウンド)を推し進めている。8月の「風は東から」は、同市で受け皿整備が進むインバウンドへの取り組みについて関係者に聞いた。 風は東から
[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ5
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インバウンドは時代の要請、地域一丸で受け皿整備を
低迷する宿泊客数に歯止め。外国人観光客に期待
 平成17年4月に韮山町、伊豆長岡町、大仁町が合併して誕生した伊豆の国市。旧韮山町を中心とした歴史・文化、旧伊豆長岡町に代表される温泉、旧大仁町を中心とした自然・景観・商業など、多彩な観光資源を有する地域となった。しかし、14年度に91万人あった宿泊客数(旧3町合計)は年々右肩下がりの傾向にあり、17年度は77万人にまで落ち込んだ。翌年、86万人と盛り返したものの、日帰り客の増加に伴う宿泊客の減少や他の周辺観光地へ向かうための通過点になってしまう傾向は、依然として課題となっている。
 伊豆の国市観光協会の安田昌代会長は「国がビジット・ジャパン・キャンペーンを展開し、来年3月には富士山静岡空港が開港するなど、外国人観光客の受け入れは無視できない大きな流れ。個々の旅館は外国人の受け入れをすでに行っているが、地域全体で受け入れようという姿勢は見せてこなかった」と語る。日本人観光客が落ち込む中、観光業の主流を占める宿泊客数を盛り返すにはインバウンドへの取り組みが欠かせないと、同協会を中心に、昨年度、NPO「伊豆の国ルネサンス」を立ち上げた。


民間が主導する観光ルネサンス事業
「外国人がこの地域に求めるものは何かを見極める必要がある」と語る望月市長
■「外国人がこの地域に求めるものは何かを見極める必要がある」と語る望月市長

安田会長は「海外で日本語を見るとホッとする。外国の方も同様」と案内表示の多言語化に力を入れる
■安田会長は「海外で日本語を見るとホッとする。外国の方も同様」と案内表示の多言語化に力を入れる

 同NPOは観光協会と協力し、各種インバウンド事業に取り組んでいる。中でもメーンとなるのが、昨年度から取り組む国土交通省の「観光ルネサンス事業」。国際競争力のある観光地づくりのための支援施策で、民間によるインバウンドの受け皿整備に国が40%を上限に補助金を交付する。この事業を通じて一昨年、3000人に満たなかった市内の外国人宿泊者数を本年度7000人、来年度には1万人にまで増やす予定だ。
 事業分野は多言語での情報発信、地域資源を使ったモニターツアー、人材育成など10項目に及ぶ(別表)。最も力を入れるのが「外国人観光客満足度向上のための国際観光コンシェルジュ・システムの構築」だ。
 「パンフレットや道路標識、館内表示が外国語に対応していない、少し込み入った会話や緊急時の対応窓口もなく、はらはらしながら受けていた」(安田会長)現実を改善するため、昨年度は旅館経営者やスタッフを対象に、インバウンド先進地から講師を招いて講演会を開いたり、多言語表記パンフレットの精査を日本文化を熟知する外国人に依頼したりした。また、市民から外国語ボランティアを募り、実際に外国人に接してもらう研修を行うなど、将来的には24時間対応の緊急窓口を地域で整備したい考えだ。
 各旅館から外国人客受け入れの際によく使う言葉や、緊急時に必要な言葉を挙げてもらい、それらをもとに言葉の不安を解消する「おもてなし指さしシート」も作成した。
 2年目となる本年度は基本的な受け入れ準備と並行して、実際に外国人観光客を受け入れるトライアルの年となる。
 同市で行われる狩野川薪能や芸妓まつり、下駄ダンスコンテストなどのイベントで、多言語チラシ、多言語案内板の設置や外国語に対応した案内人の配置などを試験的に実施し、検証していく。
 市も本年度、県の補助事業を活用し、観光案内看板の多言語化表記を始める。市民向けには生涯教育の一環として、初心者向けの中国語講座を開く予定だ。


地域と日本の良さを見いだし、魅力を磨く取り組みを
伊豆の国市役所で行われた海外旅行代理業者との懇談会。「割安な料金でなく、おもてなしの質を重視」との意見が相次いだ。
■伊豆の国市役所で行われた海外旅行代理業者との懇談会。「割安な料金でなく、おもてなしの質を重視」との意見が相次いだ。

 しかし、全国でインバウンドに力を入れている地域は多い。安田会長は「同じことをしても競合するだけ。伊豆の国市の特色を生かした新しい魅力づくりが必要」と語る。起伏に富む自然の景観、温泉情緒や芸妓文化、そして市内どこからでも美しい姿を見せる富士山。ゴルフ場も多く、最近では順天堂大学静岡病院や伊豆保健医療センターなど医療系施設も注目されている。「まずは地域独自の魅力をきちんと知ってもらいたい」と、ホームーページの充実や多言語化に前向きだ。同時に、昔伊豆長岡温泉にあった芸能小屋「あやめ座」を、気軽に芸妓さんの踊りやおけいこごとが見られる施設として復活させたいと奔走する。
 同市の望月良和市長は中国・江蘇省との交流を重ねる中から、インバウンドに向けたポイントとして(1)日本の歴史や文化など、日本を正しく理解してもらう(2)外国人が見た伊豆の魅力を調査し、的確に対応する(3)外国人の慣習を理解し相手に安心感を与える―の3点を挙げる。
 たとえば、中国で人気が高い「伊豆の踊子」は山口百恵の影響が大きく、原作者の川端康成を知っている人は少ない。同様に、下田の黒船来航やロシア軍艦ディアナ号の救助と洋式帆船の建造に深くかかわった韮山代官江川太郎左衛門の功績もあまり知られていない。源頼朝しかり、北条早雲しかり。日本の歴史の表舞台を幾度もにぎわしたこの地域が海外に知られる機会はこれまでほとんどなかった。
 旅館の受け入れも、中国人は生の魚を食べない、ベッドでないと寝られないといった俗説を鵜呑みにせず、日本の畳文化や見た目も美しい日本料理、おもてなしの心を体現する中居さん制度などを堂々と出していくことが必要だ。
 望月市長は「本市を視察で訪れる方々は医者、大学教授、上級公務員などで、皆さん非常に勉強熱心。日本の歴史・文化を勉強したいという気持ちを持っている」とこれまでの実感を語る。


商用旅行に焦点。アジア富裕層向けに質の高いサービスを
 こうした中、6月8日に中国、マレーシアの旅行代理業者4人がNPO「伊豆の国ルネサンス」の招待を受け、市内各地を3泊4日の日程で回った。
 市役所を表敬訪問した一行はアジアの富裕層を対象にした個人旅行の取り込み方について望月市長と懇談。席上、旅行代理業者の一人は「富士山を見ながらゴルフができるのは、大変なぜいたく」と同市の印象を語った。また、伊豆保健医療センターの検診棟視察を踏まえ、日本の高い医療技術による人間ドックと温泉をセットにした旅行商品を企画したらどうか、など活発な意見交換が続いた。
 今回のエージェントツアーを企画したイー・リョカン・サービスの平原英夫社長は「この地域と海外をビジネスで何度も行き来できる状況を作っていくべき。伊豆の国市は環境への取り組みや環境関連施設などが視察の対象となるのでは」と語る。さらに、長期滞在者を呼び込むために検診や療養などの医療面、あるいは自国で不動産が持てない中国富裕層向けに別荘地ニーズも掘り起こせるのではないか、と単なる観光旅行で終わらない継続的な集客につながる可能性を示唆する。
 既に同市は農業交流がある江蘇省から年間100人ほどの視察を受け入れている。最近では農業視察だけでなく、脳外科医のグループや、経済団体など視察の分野も幅広い。
 望月市長は「地域が持っている魅力を見いだし、理解してもらえる仕掛けをどのように作っていくか。中国人向けに中国料理を作るのもいいが、本場でははるかにうまい中国料理を食べている。外国人がああ日本に来た、日本の文化とはこういうものだと強く実感できる環境を各旅館がどのように作っていくか、自分の施設になければ周りでどうやって育て上げていくのか。われわれも含め、観光に携わる人々の創意と熱意にかかっている」と強調する。
 ビジネス面で地域の交流があり、それに加えて質の高いもてなしと日本本来の文化・歴史が体験できる魅力ある地域を実現するための、官民足並みのそろったインバウンド施策が求められている。


  別表 伊豆の国観光ルネサンス事業

(1)外国人観光客満足度向上のための国際観光コンシェルジュ・システムの構築
(2)ホームページの観光コンテンツ充実
(3)外国語パンフレット等作成事業
(4)狩野川薪能への外国人誘客促進事業
(5)芸妓まつりへの外国人誘客促進事業
(6)下駄ダンスコンテストへの外国人誘客及び参加促進事業
(7)源氏と北条氏に由来する甲ちゅう武者事業
(8)二次交通「歴史めぐりバス」の外国人客対応体制構築事業
(9)歴史観光ガイド、国際観光ガイドの育成
(10)伊豆の国観光ルネサンス調査事業


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