サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 昨年3月、県はファルマバレープロジェクト第2次戦略計画を発表した。平成13年2月に構想が策定され、スタートした同プロジェクトは18年度までに静岡がんセンターや同研究所、静岡県治験ネットワークの構築など、さまざまな基盤整備が進み、第2次戦略計画では、高度な研究成果を新産業や地域活性化に結び付ける具体的なアクションが求められている。2年目を迎えた本年度は、新しい製品やサービスなどの成果が続々と誕生している。10月の「風は東から」は、ものづくりを中心に同プロジェクトの成果を紹介する。 風は東から
[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ7
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ファルマバレーの成果次々と、医療系ものづくりの仕組みを構築
高度な研究成果から新製品が誕生
 ファルマバレープロジェクト第2次戦略計画は次の五つの戦略を軸に展開している。

■ 戦略 1  患者・県民の視点に立った研究開発
■ 戦略 2  新産業の創出と地域経済の活性化
■ 戦略 3  プロジェクトを担う人材育成
■ 戦略 4  市町との協働によるまちづくり
■ 戦略 5  世界に向けた展開


 特に、患者とその家族、医療現場から出るニーズを実現するための高度な研究開発(戦略1)と、そこから生み出された成果を新たな産業や事業に結び付ける取り組み(戦略2)に重点を置いている。
 診断薬の開発を手がけるビーエル(沼津市)は、インフルエンザウイルスを初期の段階で短時間で検知できる診断キットの販売を開始した。このキットには金コロイド粒子(液体中に分散した金微粒子)の表面に白金コロイド微粒子をコーティングする金・白金コロイド技術が使われている。同社が静岡県と包括的事業協定を結ぶ東工大の大倉一郎教授、沼津高専の蓮見文彦教授とともに3年をかけて開発した。野中浦雄社長は「ファルマバレープロジェクトによって人脈が広がり、製品開発に結び付く機会が増えた。この技術をベースにさまざまな診断薬の開発を行いたい」と語る。
 医療現場のニーズを製品化したのが医療器具製造のホリックス(沼津市)の骨腫瘍検査セットだ。長さ15センチの針を直接患者の骨に刺し、がんが疑われる部分の組織を取り出す。従来品はサイズが大きく、患者への負担も大きかったため、静岡がんセンターの高橋満副院長のアドバイスを受け、より小さなサイズを開発した。堀内利雄専務は「小型化に加え、組織を柱状に、かつ、診断に十分な量が取れるよう何度も改良を重ねた」と苦労を明かす。また、器具には自動車部品製造のビヨンズ(富士市)が、県富士工業技術支援センターと共同開発したダイヤモンドライクカーボン(DLC)加工(※1)をほどこしている。
 精密ネジや医療用ネジを製造する東海部品工業(沼津市)は、災害時や救急医療の現場で、自発呼吸ができない人に容易に人工呼吸ができる呼吸補助器を量産化した。5年前、産学官で医療機器の開発を目指す「富士山麓医療関連機器製造業者等交流会」で試作を始めたが、300個作った時点でプロジェクトが解散。交流会に参加していた盛田延之社長は「せっかく多くの人がかかわって完成したのだから、きちんとした形でやり遂げたい」と第二種医療機器の製造販売ができる同社で構造や製造方法などに改良を加え、コストダウンを図り量産に踏み切った。
 

ファルマバレープロジェクトから生まれた成果品
■ファルマバレープロジェクトから生まれた成果品





地元医療機器クラスター形成へ弾み
直腸脱気チューブを手にする藤医長
■直腸脱気チューブを手にする藤医長



  こうした成果の製品化には、ファルマバレープロジェクトの中核的支援機関であるファルマバレーセンター(PVC)が介在する。競争的外部資金による共同研究や各種セミナーなどを開催しながら、静岡がんセンターにおける医療現場のニーズと地域のものづくり企業が持つ高い技術力を結び付けている。
 前立腺がんの陽子線治療における直腸脱気チューブの開発もその一つ。前立腺の後ろにある直腸にたまったガスを抜き取ることで、陽子線を患部に正確に照射でき、かつ、直腸に与えるダメージを軽減することができる。同センター陽子線治療科の藤浩医長のニーズをPVCが受け、専門家を交えた検討を経て、空気圧自動制御機器関連のバルブ、継ぎ手、チューブなどを製造するアオイ(御殿場市)が試作と製品化を行った。PVCが主催するセミナーへの参加がきっかけで、今回、同社に白羽の矢が立った。
 医療現場のニーズを製品化する過程では、薬事法上の医療機器としての分類(※2)確認から、製品開発の可能性(素材、加工技術)、競合製品の有無、対象となる患者数、使用頻度などの市場面で専門家による検討が欠かせない。PVCはこれらに対応する専門家や企業の代表者による委員会を立ち上げ、同センターなどのニーズを検討し、試作段階で地元ものづくり企業にプロポーザルを行う「医療機器開発ワークショップ(仮)」を検討している。
 それには受け皿となる地元企業のコアコンピタンス(競合他社にまねのできない圧倒的な技術力)情報が不可欠。「今はPVCが持っている情報のみで企業に声かけをしている状態。もっと正確な企業情報を広範囲で集め、そこからお願いする企業を選んだ方がスピーディかつ効率的だ」とPVCの植田勝智副所長。質の高い、特色のある企業リストが作れるかどうかが今後の課題という。
 同センターのニーズやシーズを製品化する「ものづくりの仕組み」が整えば、ほかの医療機関からも同様の開発案件を吸い上げることができるようになる。「大手医療機器メーカーやその代理店に開発案件が持ちかけられることが多く、黙っていてはせっかくのチャンスを地元企業で生かせない」(植田副所長)。また、この仕組みができることで地元での医療系ものづくりクラスター形成にも弾みがつく。ビーエルの野中社長も「今回の診断薬は一部輸入品を除いて、製造工程に県内企業4社が入っている。あとは抗体(※3)を扱える企業があれば」と“県内産”に前向きだ。脱気チューブもアオイが部品製造し、医療機器としての組み立て、梱包、滅菌は東海部品工業、販売は協和医科器械(静岡市)が行う。
 医療という、全く異なった分野への参入をためらうものづくり企業は少なくない。しかし、異分野であっても生かせる技術は変わらない。5年前に医療用具製造業許可を取った東海部品工業の盛田社長は「必要なのはやる気とチャレンジ精神」と医療分野に進出した当時を振り返る。ものづくり企業のリーダーには勇気ある決断が求められる。

※1 DLC加工はダイヤモンドのように硬く、機器部品・金型にコーティングすることで部品などの寿命が大幅に延びる半面、容易にはがれてしまう欠点がある。今回の共同開発はこれを改善し耐久性を向上させた。
※2 医療機器に不具合が生じた場合の人体に与えるリスクの高低によりクラス(分類)が分かれている。
※3 血液や体液中に存在する糖タンパク分子で、特定のタンパク質などの分子を認識して結合する働きをもつ。



  ものづくりだけでなくウエルネス分野でも、ファルマバレープロジェクトの成果が生まれている。
東部の恵まれた地域資源を生かし、住む人も訪れる人も元気になるまちづくりが進んでいる。

●科学的手法による健康づくりを推進
山喜旅館(伊東市)

 山田幹久社長は「これからは健康を気遣う世代が増える。温泉と運動、海辺の散歩や体に良い食材など、健康をキーワードにした総合的な魅力づくりが必要」と、東京大学の小林寛道名誉教授が提唱する認知動作型トレーニングマシンを使ったジムを館内に開設。宿泊者だけでなく、伊東市が定期的に開催する「健脳健身教室」の修了生を広く受け入れている。同トレーニングは歩行に重要な体幹深部筋(大腰筋など)を鍛え、寝たきり予防や健康増進に効果があるという。すでに県の総合健康センターを中心に裾野、伊東、袋井、磐田市で導入されている。
問い合わせ 山喜旅館 0557-37-4123

科学的手法による健康づくりを推進

●ウエルネスの視点で観光産業を振興
かかりつけ湯

 ファルマバレーセンターが選定した、健康増進と癒やしを提供する伊豆の温泉宿泊施設のネットワーク。現在、49施設が加盟し、「伊豆八十八カ所めぐり」とかかりつけ湯への宿泊をセットにしたモニターバスツアーは、リピーターや口コミでの人気が高い。3年目を迎える今年は、伊豆西海岸に点在する九つの札所や観光名所をめぐる。12月 9 ・10日開催。
問い合わせ 三嶋観光バス 055-970-1011

ウエルネスの視点で観光産業を振興


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