サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 富士山静岡空港開港を控え、県中西部の各地で魅力的な観光商品の開発や、空港と地域を結ぶ直通バスなどの整備が進んでいる。11月の「風は東から」は先月行われた伊豆地区分科会でのパネルディスカッションを取り上げる。パネリストに静岡県観光協会の今井利昭しずおかツーリズムコーディネーターチーフ、全日空の鹿野内国裕静岡支店長、伊豆の国市観光協会の安田昌代会長、秋田2次アクセスを進める会の若杉清一会長を迎え、伊豆観光の新たな発展に空港開港をいかに取り込むかについて聞いた。コーディネーターはシードの青山茂副社長。 風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ8

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空港が伊豆にもたらす新市場、2次アクセスと旅行商品の開発急げ
今井 利昭 静岡県観光協会しずおかツーリズムコーディネーターチーフ
今井 利昭
静岡県観光協会しずおかツーリズムコーディネーターチーフ

1961年(財)日本交通公社入社。94年JTB静岡支店長、2001年JTBレストラン代表取締役社長、06年同社顧問。04〜08年3月ふじのくに観光客誘致促進事業アドバイザー、08年5月より現職。

鹿野内 国裕 全日本空輸静岡支店長

鹿野内 国裕
全日本空輸静岡支店長

1981年全日空ワールド入社。95年ANA HALLO YOURS EUROPE LTD.出向取締役、2002年東京支店長、03年ANAセールスFITセンター長を経て06年より現職。

着地型商品づくりに必要な「ここならでは」のストーリー
 青山 富士山静岡空港の開港で北海道、九州、東南アジアなど、新たな観光マーケットの誕生が期待されています。鹿野内さんは全日空がドイツ便を就航させた際、現地で日本人向けの旅行商品づくりに従事されました。そのご経験から着地型、体験型商品に求められるものをどうお考えですか。

 鹿野内 南バイエルン州フュッセンにノイシュバンシュタイン城という日本人に大人気のお城があります。通常はバスで乗りつけて1〜2時間観光するのですが、われわれはその村に2泊し、お城まで歩くという商品を作りました。日本で初めての体験型商品だったと思いますが、爆発的に売れ、第1回ツアーオブザイヤー(事務局=日本旅行業協会)でグランプリを取りました。
 一番のポイントは現地の方との交流を組み込んだことだったと思います。相手の国、地域を知らないとそれができません。よくお互いを知り、相手が何を欲しているか知ることが体験型商品を作る近道だと思います。

 青山 今や日本の観光地は全国共通化してしまい、これからはよそのまねでない観光が求められています。伊豆にとってそれはどのようなことでしょう。

 安田 3町が合併し伊豆長岡、大仁、韮山という名前が消え、当初は大変悩みましたが、逆に宝物も増えました。韮山の歴史、長岡の温泉、大仁も観光でがんばろうという機運が高まっています。そこで観光協会は、国の観光ルネサンス事業、県の観光プロデューサー事業を進めています。
 観光ルネサンス事業では外国人誘客促進に力を入れています。外国のお客さまに温泉旅館の文化やしつらい、また地域の歴史を紹介したいと研究するうちに、これは外国だけでなく日本の方にも通じるものだ、ということが分かってまいりました。地域の宝を見直し、発掘することこそが観光の「ルネサンス」だと思います。また、自分たちでは地域の良さがなかなか分かりません。観光プロデューサー事業では、アドバイザーの「外からの目」を活用して地域の宝を商品化しています。

 今井 東部地区の皆さんは空港を遠い、と決め付けているように思います。しかし、たった150円の讃岐うどんを食べに飛行機で行く時代。人は行きたいと思えば遠くからでもやってきます。また、目的地だけでなく、そこに行き着くまでのストーリーをどう作っていくかが重要で、それによっては伊豆は決して空港から遠い地ではないと思います。
 


課題となる2次交通。小さな成功事例の積み上げが大切
安田 昌代 伊豆の国市観光協会長
安田 昌代
伊豆の国市観光協会長
1966年伊豆長岡温泉安田家の安田嘉一郎氏と結婚、若女将として入社、85年専務取締役に。92年嘉一郎氏死去に伴い社長に就任。伊豆の国市観光協会長のほか県東部コンベンションビューロー副会長。
 青山 行きたいと思わせる地域の魅力を創ると同時に空港からの2次アクセスが非常に重要です。若杉さんは秋田空港と各観光地を乗り合いタクシーで結ぶ「秋田エアポートライナー」の運行に尽力されていますね。

 若杉 観光事業者、観光協会などからなる「秋田2次アクセスを進める会」という任意団体をつくり、地元タクシー事業者がエアポートライナーを走らせています。
 例えば、秋田空港から秘湯として人気の高い乳頭温泉に行くには、空港からリムジンバスで秋田駅、そこから新幹線で田沢湖駅、さらにバスを乗り継ぎます。料金は約5000円、タクシーだと3万円かかる距離ですが、事前にエアポートライナーを予約すれば、ひとり3000円で行くことができます。このサービスは好評で、今では空港から8路線が各地の観光地に放射線状に出ています。

 今井 伊豆でも空港から直接入る玄関口を何とか見つけたい、と進めてきたのが「伊豆ドリームパス」です。空港と清水港を結ぶ貸し切りバスの運行をきっかけに、清水港と土肥港をフェリーで結び、電車・バスでの周遊をセットにした3日間有効のパスができました。
 乗り合いタクシーやワンコインバスは、事業者1社1社にお話をすると関心を示してくれますが、現状は他社の出方を見ている状況です。一つ一つ前進する事例を見つけながら突破口を見つけたいと思っています。

 若杉 エアポートライナーは行政から3年間補助金をいただきましたが、4年目からは自立を前提に行ってきました。赤字の懸念もある中、タクシー事業者全員に声をかけ、やる気のあるところに手を挙げてもらいました。
 また、空港だけを考えるとビジネススキームは作りにくい。飛行機だけでなく、高速バス、高速道路、新幹線などと組み合わせたアクセスの仕方を最初からイメージする。マーケットはもっともっと大きいはずだということに着目して事業者にプレゼンテーションするといいと思います。

 青山 個人客が事前に乗り合いタクシーを知るための情報発信はどのようにしていますか。

 若杉 宿がお客さんの予約を受けるときに、必ず交通手段を確認して宣伝してもらいます。新幹線に比べ料金は半分、タクシーだと10分の1ですから。あとは県、自治体、宿などのホームページに掲載してもらっています。
 便利さを強調するのはもちろん、乗り物自体に特徴を持たせ、話題づくりをしています。タクシーの燃料にてんぷら油などの廃油を利用し、環境にやさしいことをPRしました。そちらの方が有名になってしまいましたが…。

 今井 伊豆ドリームパスも、民間企業が自分たちの力で立ち上げました。この話を聞いたある大手バス会社さんが「路線バスを考える」と言い出しまして、それならなお結構という話をしました。依然、様子見という部分はあると思いますが、いろいろな選択肢があれば、訪れる人にとって滞在しやすく、目的を達成しやすくなります。伊豆にエアポートライナーのような仕組みができれば、土肥や下田、修善寺などを基点にした新たな動きもどんどん生まれるでしょう。お客さまが喜ぶコース、手段をもっと考え、それをつなげる取り組みが必要だと思います。


若杉 清一 秋田2次アクセスを進める会会長
若杉 清一
秋田2次アクセスを進める会会長

1971年リクルート入社。北海道支店長などを経て89年リクルートコスモス広報室長。98年秋田県秋田ふるさと村代表取締役専務。2001年田沢湖高原リフト代表取締役社長を兼任、06年より専任。

青山 茂 シード副社長

青山 茂
シード副社長

オリエンタルランドを経て現在、シード取締役副社長。伊豆新世紀創造祭、東海道四百年祭などに参画。サンフロント21懇話会シンクタンクTESS研究員として研究・提言活動をサポート。

新たなマーケットに期待。観光振興で試される地域の底力
 若杉 乗り合いタクシーの仕組みは、最終的には住民の足になることも付け加えたいと思います。長年観光に携わる中で、人づくりや景観づくりなど、きっかけは観光でもそれが地域づくりに広がっていくという感じがしています。一方で、観光事業者と市民の間には考え方にまだまだ開きがある。経済団体や観光事業者が一生懸命集まってやるにも限界があります。例えばこうした会合に市長さんや県会議員がきちんと来て一緒に考える。地域づくりにつなげられるかどうかは、地域の底力によって差が出ると思います。

 鹿野内 航空会社も路線を維持していくには現地と一緒になって努力しないと難しい。単に人を運べばいい、という考えではなく、運ぶことと需要を喚起することの両方をやらないと事業的にうまく運営できません。私どもでは観光局、あるいは地元の行政、観光協会に社員を出向させ、首都圏の情報、航空会社が何を考えているか、地区の人たちが何を考えているかを相互に理解し、活性化しようという取り組みをしています。徐々に効果が出ていると思います。

 安田 伊豆の国市が独自で発行している「伊豆の国観光パスポート」も、市役所と市内有志で始めました。伊豆の国市のファンを増やし、交流人口を拡大することが目的で、パスポートを購入された方は市内外の観光、商工業108店で独自のサービスや特典が受けられるものです。
 伊豆のお客さまは東京圏がほとんどですが、新幹線や高速道路ができると、その都度新しい所から新しいお客さまがいらっしゃいます。空港開港を、伊豆全域に新たなお客さまが降り立つチャンスととらえ大いに活用したいですね。

 青山 空港の先に何を作れるか、地域独自の本物を生み出すことが2次交通実現に向けた動きにもつながります。ぜひ、地域のみなさんの行動を期待しています。




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