サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 1日も早い開港が望まれる富士山静岡空港。県内の観光事業者は、空港開港で新たに誕生する九州・沖縄、北海道、アジアなどの市場を取り込む観光商品の開発にしのぎを削っており、すでに県中西部では2次交通の整備とともに、地域主導で生み出される「着地型商品」の開発が盛んに進められている。12月の「風は東から」は、伊豆各地で着地型商品づくりに積極的に取り組む事例を紹介する。 風は東から
[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ9
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地域の本質見極め旅行商品化、従来型温泉観光地からの脱却を
民間主導で、伊豆の魅力を結ぶ仕組みを構築
伊豆には「本物の自然」を体験できるフィールドが数多くある(写真提供:伊豆グリーン・ツーリズム協会)
■伊豆には「本物の自然」を体験できるフィールドが数多くある(写真提供:伊豆グリーン・ツーリズム協会)

 伊豆グリーン・ツーリズム協会の鈴木達志代表は、日本で唯一の専任グリーンツーリズムインストラクターとして、3年前から西伊豆の自然を利用した体験活動を行っている。ブナの原生林ネイチャートレッキングやプロの漁師と一緒に行う釣り体験などおよそ20本の体験プログラムに首都圏から年間約1000人を受け入れている。鈴木代表は「伊豆は海・山・川が全部そろった、全国の自然のいいところを凝縮した地域だ。しかも東京からも名古屋からも近い。本物の自然体験を通じて発見と驚きのある旅を提案したい」と語る。
 今年8月、活動範囲を西伊豆から伊豆全域に広げるため、旅館、飲食店、土産物店、交通機関などに声を掛け、民間主導で伊豆体験型観光協議会「JOYZ!」を立ち上げた。「行政主導だと、中伊豆でワサビ体験をした後に海で体験をしたくても、行政単位でルートが区切られてしまう。けれど、お客様から見れば伊豆はひとつ。民間で構成する同協議会ならそれを結び付けることができる」と鈴木代表。会員相互が連携し、知恵を絞ることで伊豆の魅力を上手につなげたいとしている。
 参加している団体は現在25。地場産品を使った料理や、地元でしか買えない土産物、ダイナミックな夕日が窓いっぱいに広がる宿など、「ここにしかないこだわり」を持っているところに声掛けをした。
 受付から支払いまでの窓口は一本化し、利便性を高める。また、安全対策、衛生管理の研修プログラムを作成し、登録メンバーには受講を義務付ける。こうすることで利用者に安全、安心面をアピールしたい考えだ。


「21世紀型湯治」目指し、健康・癒やしの地域づくりへ
温泉を使ったリラクゼーションを提供する「ワッツ」と、TO−JI博のプログラム(右)
■温泉を使ったリラクゼーションを提供する「ワッツ」と、TO−JI博のプログラム(右)

 伊豆市で秋に開催される参加型プログラム「伊豆市まるごとTO−JI博覧会」は今年で4回目。毎年参加を楽しみに待つファンも増え、すっかり同市を代表するイベントに定着した。10月から11月にかけ、市内各地でウオーキングや手作り陶芸、健康セミナー、文学散歩など70もの体験プログラムが楽しめる。昨年は期間中、延べ2万3000人が参加した。
 もともと市内にはワサビの収穫体験や温泉を使った水中ストレッチ、磯遊び体験など、さまざまな体験プログラムを提供する個人や施設が多くあった。同市は合併を機に、こうした体験型プログラムを洗い出し、観光事業者、飲食店、セラピスト、一般市民など20人で構成する「TO−JI」プロジェクト会議(事務局・同市観光商工課)を結成、「TO−JI博」開催にこぎつけた。
 同会議の鈴木基文会長(船原館館主)は「観光地だから観光事業者だけがもうかれば良い、という従来のやり方への反省があった」と語る。農業や商業に携わる人も潤う地域をどのようにつくっていけばよいか。それには地元でできる体験を観光とうまく組み合わせるのも一つの方法だ。同時に市民も健康になる、楽しめる、文化にも触れられる。「両方がそろって初めて、本当の意味の観光地になるんじゃないかという大きな理想があった」と鈴木会長。
 イベント期間中だけでなく、いつ訪れても34〜35のプログラムが体験できる体制も整えた。天城なら自然体験や森林浴、中伊豆はグリーンツーリズム、修善寺は弘法大師をはじめとする文化・歴史、土肥は海とそれぞれの地域の特色を生かし、温泉だけでない、新しい地域の魅力を提案している。


伊豆の文化・歴史にどっぷりひたるバスツアー
「伊豆ものがたり」事務局のスタッフ。伊豆の玄関口、三島田町駅前に開設した
■「伊豆ものがたり」事務局のスタッフ。伊豆の玄関口、三島田町駅前に開設した

 1200年の文化・歴史を切り口に、まもなく誕生するのが「伊豆ものがたり」バスツアーだ。企画・運営はNPO法人「靫彦・沐芳会」の伊豆ものがたり事務局。修善寺の老舗旅館、新井旅館の所蔵品を中心に、地域に眠る日本画や美術品などを地域活性化に役立てることを目的に設立された。運行は東海バスが担当する。
 ツアーは昼前に三島駅を出発し、食事処と伊豆を代表する名所・旧跡を回り、新井旅館に着く約5時間のコース。同会は「伊豆は横山大観をはじめ、安田靫彦など日本を代表する文化人が多く集った場所。それだけに各地に宝物が数多く眠っている。これらに光を当て、商品化することで伊豆への誘客を図りたい」とこのツアーの企画意図を語った。
 ツアーの特徴は「伊豆の文化・歴史」の体感。三嶋大社や江川邸、反射炉など、歴史の表舞台に登場した場所で、専門家の解説を聞きながら本からは得られない知識を深める。また、柿田川湧水群や天城トンネルなどの美しい景観を味わい、伊豆の自然が人々に与えた影響について思いをはせてみる。終着点は、これも文化財級の老舗旅館。建物はもちろん、文人墨客が残した作品が宿の物語とともに鑑賞できる。
 同ツアーは来年1月中旬から歴史、文化、自然などをテーマに、まずは八つのコースでスタートする。宿泊施設も新井旅館だけでなく、伝統が息づく宿や文人が長期滞在した宿など、歴史的背景を持つ宿に呼び掛け、選択肢を増やしていく予定だ。


住む人の思いと情熱で地域の魅力を再発見
「多彩な自然に惹かれ、4年前に西伊豆に移り住んだ」と語るJOYZ!の鈴木会長
■「多彩な自然に惹かれ、4年前に西伊豆に移り住んだ」と語るJOYZ!の鈴木会長

 旅館に泊まって温泉に入るだけでは、その土地に何があるのか分からず、観光客に真の価値が伝わりにくいのが伊豆観光の現状だろう。「伊豆ものがたり」を中心となって進める新井旅館の相原郁子社長は「せっかくの名所もふらりと立ち寄ったのでは表面的に見るだけになってしまう。それではもったいない。一段も二段も深い伊豆の魅力を伝えるガイド役になれれば」と語る。
 鈴木会長も「伊豆の魅力が温泉にあることはまぎれもない事実で、昔から湯治場として人々を癒やしてきた。しかし、今後はただ湯に浸かっておいしいものを食べるだけのやり方から、心と体が喜ぶさまざまな体験を通じて、癒やしと健康を提供する新しい湯治場の姿を目指したい」と語る。湯治を日本の文化として世界に発信したいという思いから、表記も「TO−JI」とした。JOYZ!の鈴木会長は「都会の人々に、田舎に残る豊かな自然を体験してもらうことで、“外貨”を呼び込み、過疎に悩む地域を活性化したい」と抱負を語る。それには、東京にない素材、自然で勝負し、漁師と一緒に釣りをするなど、地域の人との交流が欠かせない。
 今までの「伊豆イコール温泉」という単純な観光形態に代わり、今回紹介した事例はそれぞれ、「自然体験」「健康・癒やし」「歴史・文化」など、伊豆の古くて新しい魅力に着目した旅行商品だ。その裏には伊豆を愛し、地域に根差した人々の「伊豆を何とか活性化したい」という熱い思いが垣間見える。また、こうした熱意のこもった旅行商品が、外から人を呼び込む大きな魅力となるだろう。


  「独鈷の湯」移設へ
「独鈷の湯」移設へ

 1200年前、弘法大師が掘り当てたとされる修善寺温泉のシンボル「独鈷の湯」が来年、移設されることになった。川の中という景観が珍しい人気の観光名所だが、台風など大雨の際に川の流れが阻害され、洪水などを引き起こしかねないことから、移設計画が持ち上がっていた。川のほぼ中央にある独鈷の湯を周囲の岩盤ごと切り取り、川幅が広い約19メートル下流の左側に移設する。来年3月からは移設先で新たな歴史を刻むことになる。

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