サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 食の安全が重要視される中、生産者の顔が見える地産地消の動きはますます広がっている。「富士宮やきそば」を発端に、地域ならではの食材や伝統の食文化に着目し、「食」で地域おこしをしようという動きも各地で見られるようになった。1月の「風は東から」は、外から人を呼び込む地域の魅力として欠かせない「食」にスポットを当て、特産品を使った新たな名物での地域おこしを紹介する。 風は東から
[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ10
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地元グルメでまちおこし、地域愛と行動力が成功のカギ
やきそばで培ったノウハウをニジマスにアレンジ  富士宮にじます学会
本格的なニジマスのくん製が楽しめるにじます学会アンテナショップ「ままん」(左)。「みしまコロッケ」は子どもたちにも大人気(右上)。健康野菜モロヘイヤがたっぷり練りこまれた「すその水ギョーザ」(右下)
■本格的なニジマスのくん製が楽しめるにじます学会アンテナショップ「ままん」(左)。「みしまコロッケ」は子どもたちにも大人気(右上)。健康野菜モロヘイヤがたっぷり練りこまれた「すその水ギョーザ」(右下)

 「やきそばG麺(メン)」「天下分け麺(目)の戦い」など、ダジャレを使った効果的なPRで、全国にB級グルメ旋風を巻き起こした「富士宮やきそば」。富士宮市の知名度を上げ、観光客を呼び込んだだけでなく、市民に地元の食文化を再認識させるきっかけとなった。
 地元では、やきそばだけでない富士宮の魅力をもっと知ってもらおうと、昨年9月「富士宮にじます学会」が発足。養鱒が盛んで身近な魚として親しまれている「ニジマス」に着目し、新しい地域の魅力として売り出している。
 同学会は、やきそばで培ったノウハウを生かし、ニジマスをPRするための方法を考え、実践している。ニジマスの押し寿司をサンドイッチの手軽さにアレンジした「鱒(マス)コットキューブ」や、地元の大学生のアイデアを生かした「クリス鱒(マス)ツリーケーキ」など、ニジマスにこだわった商品開発を続ける一方、ニジマスを使ったプロ向け、主婦向けの料理教室なども積極的に開催する予定だ。
 地元で割ぽう旅館を営む同学会の小川登志子会長は「ニジマスのおいしさをまずは地元の人に知ってもらいたい。富士宮を訪れた人に住民がニジマスを紹介することでコミュニケーションが生まれ、それがおもてなしにつながる」と語る。ニジマスのことを理解してもらうための資格制度「レインボー鱒TER(マスター)」も発足させる。
ニジマスの創作料理が市内各所で楽しめる。和食処「花月」は、いけすから出したばかりのニジマスを刺身で提供(上)。富士宮岩市本店の煮ます、揚げます、焼きますそば(下)
■ニジマスの創作料理が市内各所で楽しめる。和食処「花月」は、いけすから出したばかりのニジマスを刺身で提供(上)。富士宮岩市本店の煮ます、揚げます、焼きますそば(下)
 今後はバレンタインやホワイトデーに向け、ニジマスをイメージしたアクセサリーの販売や、オリジナルのニジマス料理を提供する飲食店の開拓を進める。「鱒コットキューブ」は開港が待たれる富士山静岡空港で「空弁」としても売り込み中だ。
 2月末には同じく同市の特産品である乳製品、豚肉、地酒をPRする学会を立ち上げ、やきそば、ニジマスとともに「富士宮地域力再生総合研究機構」が設立される。


コロッケの親しみやすさを短期集中で一気にPR  みしまコロッケ
親子3代でみしまコロッケを作る駒井精肉店
■親子3代でみしまコロッケを作る駒井精肉店

 箱根西麓で作られる馬鈴薯(ジャガイモ)は、主に首都圏で高額で取り引きされている。地産地消や食育に力を入れる三島市は、三島産メークインを使ったご当地グルメ作りに取り組んだ。「コロッケをつくろう」という小池政臣市長の発案で、昨年5月に試食会を開催。これを機に、精肉加工店、飲食店、JA、地域ボランティアなどが集まり「みしまコロッケの会」(事務局・市商工振興課)が誕生した。
 同会は各地のイベントに積極的に出店、認定店ののぼり旗掲示など市民が「みしまコロッケ」を目にする機会を多くした。また、広報みしまで2度にわたり特集を組んだほか、市ホームページにも専用ページを開設した。マスコミの取材も積極的に受けることで「みしまコロッケ」の名前は一気に市民に広まった。
 みしまコロッケを名乗るには三島馬鈴薯を100%使用するのが唯一の条件。参加申し込み店には馬鈴薯の仕入先確認書を提出してもらう。市内外、味付けや形、値段の制約はない。同会で広報を担当する渡邉靖乃さんは「みしまコロッケの名前を広めるのが当面の目標。身近なコロッケだからこそ、各店でオリジナリティを出してもらいたい。どこで食べても一つとして同じ味はない、というのが魅力」と語る。
 初年度用意した馬鈴薯は23トン。予想を上回る好評に瞬く間に在庫切れとなり、同じく特産の甘藷(サツマイモ)を使った「甘藷みしまコロッケ」も発売した。昨年行った認定店へのアンケートでは、馬鈴薯の購入見込み量が倍近い43トンに増えるなど、手ごたえは上々だ。
 同市は同じくコロッケでまちおこしに取り組んでいる富山県高岡市、茨城県龍ケ崎市と「三コロ会」を結成、相互交流が予定されている。今年、秋田県横手市で開かれる全国B級グルメの祭典「B-1グランプリ」への出場を目指し、B級グルメでまちおこしを目指す地域が集まる「愛Bリーグ」にも加盟を申請中だ。
 同会の諏訪部敏之会長(三島商工会議所副会頭)は「2年目を迎え、みしまコロッケの名を全国に発信する基礎作りを行いたい。収穫時期を遅らせたり、保存期間を長くしたりするなど、通年で提供できる体制が整えば」と抱負を語った。


まちの特徴と特産品と結びつけ新商品を開発  すその水ギョーザ
各地のイベントには、おそろいのウエアで水ギョーザをPR
■各地のイベントには、おそろいのウエアで水ギョーザをPR

 緑色の皮のもっちり感と、つるっとしたのどごしで人気の「すその水ギョーザ」。きっかけは平成14年、裾野市役所職員を対象に開いた政策課題研究会だ。「人口1万人あたりの餃子取り扱い飲食店全国一」「市内大手スーパーの惣菜売り上げで餃子がトップ」など、餃子好きな市民が多いという実態が浮かび上がった。
 これを受け、18年度に裾野市商工会が「すそのブランド推進委員会」を設立。国の補助金を得て市の特産品である「モロヘイヤ」を使った水ギョーザの開発に乗り出し、試食イベントやアンケートを繰り返して製品化を行った。19年3月には同委員会の中に「すそのギョーザ倶楽部」を立ち上げ、各地のイベントに出向き普及を図っている。
 また、推進委員会メンバーを中心に有志を募り、すその水ギョーザと地域特産品を販売する「株式会社すそのブランド」を5月に設立。すそのギョーザ倶楽部代表で同社社長の土屋浩三社長は「せっかくの活動を無にしたくないという思いで仲間に呼びかけ出資金を集めた。まさに地域への思いが結集してできた会社」と当時を振り返る。これまでに出荷した水ギョーザは100万個を超え、出向いたイベントも40回を数える。
 すその水ギョーザは、6月に富士宮市で行われた「第2回B-1グランプリ」で初出場ながら堂々の4位を獲得。反響は大きく、水ギョーザを扱う飲食店も当初の5軒から28軒に増えた。市外から水ギョーザを食べに足を運ぶ人も増えている。「地域が評価されるのが何よりうれしい」と土屋社長は言う。
 最近では、小学校の総合学習で水ギョーザを取り上げたり、各種団体から料理教室などを依頼されたりと、着実に地域にも浸透している。一方で、すその水ギョーザの名前は知っていても、食べたことのある市民は半数にとどまるといったアンケート結果もあり、イベント参加の機会や市内の協力店を精力的に増やすなど、一層の浸透を図っていく方針だ。
 同市に人を呼び込みたいと、現在は市内での販売が中心だが、東名富士川サービスエリアの富士川楽座と道の駅ふじおやまでも販売するなど、今後は徐々に市外にも進出する予定だ。


地元グルメの取り組みをまちづくりにも
大盛況だった昨年の「パン祭」。今年は1月31日・2月1日にアクシスかつらぎで開催
■大盛況だった昨年の「パン祭」。今年は1月31日・2月1日にアクシスかつらぎで開催

 今回取り上げた三つの事例のほか、伊豆の国市でも幕末に活躍し、日本で初めてパンを作った江川坦庵公にちなんだ「パン祖のパン祭」を毎年開催するなど、東部各地で食をテーマにした地域づくりが進められている。
 全国で地元グルメブームが注目される中、取り組みを一過性に終わらせず、外から人を呼べる地域づくりにまでつなげるには、地元の特徴や特産物をよく知り、それを今の時代にふさわしい形に仕立て上げる創造力が必要だ。地域への誇りや深い愛着を糧に、市民、生産者、商業者、行政の枠を超えた息の長い取り組みが求められている。

  地元に愛されてこそ「ご当地グルメ」
サンフロント21懇話会 TESS研究員 大石 人士(財団法人静岡経済研究所研究部長)
■サンフロント21懇話会
TESS研究員  大石 人士
(財団法人静岡経済研究所研究部長)

 今、地域ゆかりの“食”を活用したまちおこしが全国で活発になっている。最近ではテーマとなる食材もバラエティーに富むようになり、「スローフード」や「地産地消」「食育」といった“食”に関する新しい動きを、まちおこしと結びつける地域も見られる。
 “食”による地域おこしの目的は、魅力的な“食”の提供によって観光客など交流人口の増加を図り、地域経済の活性化に結びつけることにあり、地場食材のブランド化による農林水産業など食関連産業の育成や、地域の知名度・イメージの向上にもつながるなど、幅広い分野への波及効果が期待されている。
 “食”がまちおこしのテーマに選ばれる背景には、食材や料理は地域によって品種や風味が異なる上、調理方法や歴史なども独特で、地域特性を強調しやすいこと。また、自治体が関与する場合、地域に定着している“食”というソフト中心のプロジェクトとなることから、財政状況が厳しい中でも大きな負担を必要とせず応援しやすいというメリットもある。
 しかし、こうした動きが一時的なブームではなく広く消費者に受け入れられて浸透するには、かなりの時間が必要となる。いまや全国のB級ご当地グルメの頂点に立つほどの人気となった「富士宮やきそば」も、きっかけとなったまちづくり市民活動から、マスコミへの登場を強く意識した情報発信により地域ブランドに仕立て上げるまで、10年以上の努力を積み重ねてきた。地域おこしには、“じっくり育てる”といった姿勢が必要であり、参加者の協働により地域全体を活性化していくという強い信念を持った活動が求められる。
 とりわけ、“食”による地域おこしの持続的な展開には、地域の象徴としての“食”に対する意識を地域全体が共有し、地域ぐるみで取り組んでいくスタンスが欠かせない。その意味で、テーマとなる“食”は地元に愛され、地域全体に受け入れられるものでなければならないし、“食”にまつわる歴史や文化など地域との密接なかかわりを演出していくことが重要といえよう。 

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