サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 国を挙げて取り組むインバウンド(外国人誘客)に新たなメニューが登場した。日本の歴史や自然といった従来の観光資源ではなく、世界的に見ても高水準にある日本の医療サービスを提供する「メディカルツアー」だ。伊豆の国市で、県内初となる中国富裕層向けの人間ドックツアーがまもなく商品化される。受け入れ側の同市の望月良和市長、財団法人田方保健医療対策協会伊豆保健医療センターの前川武男病院長、NPO法人伊豆の国ルネサンスの稲村浩宣理事長、送客側から中国・上海の旅行代理店アジアックスの李衛東社長に、ツアーの概要について聞いた。 風は東から

[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ3

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健康テーマにインバウンド推進、県内初、中国人向け健診ツアー開発
中国富裕層を対象に人間ドックツアーを計画
図:健診ツアーの流れ(一部抜粋)
■図:健診ツアーの流れ(一部抜粋)

― 中国では今、日本と同様に人間ドックを自費で受ける富裕層が増え、健康管理、自己管理の意識が高まっているそうですね。

  生活が豊かになるにつれ、中国人の間でも糖尿病や高血圧などの生活習慣病が広がりつつあり、人間ドックのできる健診センターが国内にどんどん作られています。一方で、健診システムや設備がずっと進んだ日本で健診を受けたいと思う中国人がたくさんいます。
 このツアーは5〜7日程度の日程で、人間ドックを市内の医療機関で受け、その前後は日本旅館でゆっくりくつろぎ、富士山観光やゴルフなどを楽しみます。検査結果が良好なら東京でショッピングをして帰国する、という内容です。

― これまで3度のモニターツアーを行ったそうですね。どのような検査項目がありますか。

 前川 貧血や高脂血症、痛風、前立腺がん、肝炎ウィルスなどを調べる血液検査をはじめ、胃と大腸の内視鏡検査、超音波・X線検査、また、CT(コンピューター断層撮影装置)を使って肺がんや脳梗塞などの検査も実施しました。婦人科は近くのレディースクリニックで乳がん、子宮がん、卵巣がん、20代にも多い子宮頸がんについて行っています。市内の順天堂大学静岡病院でPET(陽電子放射断層撮影)-CTを使った、より詳しい検査を行うツアーも検討中です。

― 日本人でさえ検査の時は緊張しますが、言葉の通じない外国で受ける不安はありませんか?

  通訳が同行し、事前の説明や検査結果を参加者に伝えています。ツアーは一度に5〜6人ですし、検査は順番に行うので問題はありません。実は、伊豆保健医療センターのCTに私の声で「あおむけになって」や「息を止めて」など、中国語の指示を吹き込みました。モニターツアーに参加した人がびっくりしていましたね。

 前川 健診内容は日本人と変わりません。ただ、結果を説明するのに、血糖値やコレステロール値が何を表すのか、今どのような状態なのかを中国の方には一から説明しなければなりません。検査結果を十分ご理解いただき、納得してもらうのに時間がかかりましたね。また、事前に検査の内容や手順をまとめたDVDやビデオを使った説明があればよかったと思います。


観光事業者と医療機関を市が橋渡し
望月良和伊豆の国市長
■ 望月良和伊豆の国市長
日大短大部卒、印刷会社経営。昭和62年大仁町議会議員、平成3年大仁町長就任。合併に伴い17年4月より伊豆の国市長、現在2期目

 (財)田方保健医療対策協会伊豆保健医療センター前川武男病院長
■ (財)田方保健医療対策協会伊豆保健医療センター前川武男病院長
昭和41年順天堂大学医学部卒業。同大助教授などを経て、平成10年同大伊豆長岡病院(現静岡病院)救命救急センター長就任。外科教授、副院長を経て、今年4月より現職
― 今回の商品造成には観光サイドと医療機関の橋渡しを市が行ったと聞いています。以前から中国・江蘇省との交流も重ねていますね。

 望月 伊豆の国市は食と農の分野から安全、安心、健康のまちづくりを進めています。中国・江蘇省とは平成17年の農業交流をきっかけに、政府の高官、大学教授やお医者さんが大勢当市を訪れています。順天堂大学静岡病院や伊豆保健医療センターなどを見学していただく中で、彼らが日本の健康観や健診に関心が高いことを肌で感じていました。
 ちょうど、地域でインバウンドの受け皿整備が進んでおり、中国富裕層のニーズが大きい人間ドックと、市内の旅館や観光施設を組み合わせたメディカルツアーを推進することは地域にとってプラスになると考え、医療機関に呼びかけました。

 前川 私ども伊豆保健医療センターは、重点課題の一つに健康づくりを挙げる市の姿勢に賛同していまして、今まで取り組んだことのない観光分野での地域貢献ができると考え、参画を決めました。地域の方の健康を担うのはもちろん、外から来られた方の健康管理も同じように大切ですし、しかも県内では初めての取り組みということで、大変有意義なことと考えています。
 このツアーを通じて順天堂大学静岡病院や矢田レディースクリニック(産婦人科専門医)など市内の医療機関と連携できたことも収穫の一つですね。

 稲村 ツアー造成のきっかけは観光協会の役員を中心に立ち上げたNPO法人伊豆の国ルネサンスが昨年、李社長をはじめとする海外の旅行代理店を招待したことです。19年度から2年間、国土交通省から「伊豆の国観光ルネサンス」事業の認定を受け、多言語での情報発信、地域資源を使ったモニターツアー、人材育成などを行ってきました。
 こうした活動を下地に、今回のツアーではよりきめ細かなサービスが可能な「コンシェルジュ・サービスメニュー」(図)の洗い出しと検証を行いました。例えば、問診票の記入、健診前後の食事や飲食制限の確認、健診サポート、検査結果の通訳などです。実際の受け入れをこなす中で、コンシェルジュの人材育成を軸にさらにサービスに磨きをかけていく必要があります。

  このツアーでは、人間ドックはもちろん、しっとりした旅館の風情や、女将さんたちとの触れ合いを通じて日本の旅館文化を体験するのも大きな目的です。ですから、宿泊の受け入れも健診前後の食事をおかゆにするといった細かな配慮までしてもらえる質の高い宿を求めています。


NPO法人伊豆の国ルネサンス稲村浩宣理事長
■ NPO法人伊豆の国ルネサンス稲村浩宣理事長
昭和58年横浜市立大学商学部卒業。韮山町観光協会長、伊豆の国市観光協会副会長を歴任。蔵屋鳴沢代表取締役社長

アジアックス李衛東社長
■ アジアックス李衛東社長
昭和57年上海復旦大学卒業。同年中国民航上海管理局(現・中国東方航空)に入社。平成4年に来日し、9年アジアックス設立、代表取締役に就任
健診ツアーを機に積極的な地域交流を
― この取り組みを今後どう発展させていきたいか、ビジョンをお聞かせください。

 稲村 国内旅行全体が減っている中でインバウンドは新たな顧客マーケットです。旅行ニーズが変化し、今までと同じでは集客できなくなってきました。業界としても質的な変化を求められています。その先駆的な事例としても勉強できますし、新たな観光需要を自分たちで生み出していくきっかけになればと思います。

 望月 健診は人対人のサービスですので、大勢を一度に受け入れるというのは難しい。ですが、私たちが年1回検診を受けているように、少人数でも繰り返し、長く来ていただければと思います。富士山静岡空港が開港しましたし、7月からは中国富裕層の個人旅行が解禁になりますので、中国から比較的手軽に来ていただける環境は整ってきたと思います。
 健診ツアーを機に別の分野での連携に発展することも期待しています。例えば今、中国で問題となっている水不足や土壌汚染などの解決に日本の技術や設備がお役に立つのではないでしょうか。

  日本は一番近い国。交流して勉強することがたくさんあります。中国沿岸部は発展していますが、これから農村部をどうしていくかが大きな問題です。中国では農村フォーラムが予定されていて、どうしたら農村の人たちが豊かな生活を送れるかを中国全土から村長が集まって話し合います。彼らに日本のごみ処理技術や堆肥化の取り組みを紹介したい。また、日本の旅館や食文化を体験してもらいたいですね。健康管理にも気を使っていますから、今回のようなツアーは喜ばれるでしょう。
 もう、中国の人たちは心待ちにしています。新型インフルエンザへの対応が決まり次第、販売を開始したいと思っています。将来的には富士山静岡空港を利用したルートを考えたいですね。

― ありがとうございました。




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