サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 平成15年のビジットジャパンキャンペーンを皮切りに日本の観光政策は大きく進展した。18年に観光立国推進基本法が成立、昨年10月には観光庁が設置され、観光立国に向けたさまざまな施策が進んでいる。7月の「風は東から」は、地域間の連携を促進し、滞在型観光を推進する国の「観光圏」整備について取り上げる。今年4月、一足先に採択された浜名湖の事例を参考に、伊豆地区にとって観光圏は必要か、また、申請に向けた道のりについて関係者に聞いた。 風は東から
[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ4
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連泊増やす試行を国・県が支援、観光圏整備で「伊豆はひとつ」実現を
観光圏認定で旅行業特例や補助金交付も
伊豆地域の首長、観光団体のトップが多数参加したセミナー
■伊豆地域の首長、観光団体のトップが多数参加したセミナー

 観光圏は国(国土交通省)が認定する。今までばらばらに行ってきた観光振興を地域が連携し一体で推進することで、国内外の観光客に2泊3日以上の滞在型観光をしてもらい、地域活性化につなげるのが狙い。行政、観光事業者、農林水産業者、商工業者、NPOなど地域の関連団体が連携し、また、周辺の観光地とも連携する中で、宿泊自体の魅力向上や周辺観光地への着地型旅行の開発、交通・移動手段の改善、案内・情報提供の強化などを行う。
 認定されると「旅行業法の特例」が受けられる。法で定められた旅行業免許を持たない宿でも宿泊客に直接、着地型旅行商品が販売できる。また、全事業費の40%を上限に国が補助金を支給する。ほかにも周遊割引券を導入する場合の運送関連法令の手続き緩和や、宿泊施設の設備投資に対する財政投融資などがある。農山村活性化法の特例も受けられるので、農産品の直売場や滞在市民農園の整備などに農水省の補助金が別枠で活用できる。
 現在、伊勢志摩地域観光圏やさっぽろ広域観光圏、雲仙天草観光圏など全国に30地域あり、県内では4月に浜名湖観光圏が認定された。また、県は本年度から認定地域に上限で1000万円を補助する制度も新設した。
 観光圏の申請には地域で観光圏整備推進協議会を立ち上げる。行政、観光団体、商工会議所、農業・漁業団体、NPOなどで構成し、中には学識経験者や交通事業者が入っている地域もある。
 次に、宿泊施設が集積する滞在促進地区(複数可)を決め、協議会で議論した滞在促進のためのさまざまな方策を基に自治体が方針や数値目標、事業内容を盛り込んだ観光圏整備計画を作成する。協議会の構成メンバーは、整備計画に基づき個別の事業内容を記載した実施計画を作る。これには、実施主体、実施期間および事業規模、見込まれる効果などが記載される。この実施計画を国に申請し、観光圏に認定されると前述のさまざまな特典が受けられる。
 県産業部の出野勉観光局長は「補助金や旅行業法の緩和などは大きな支援だが、観光圏の意義はばらばらだった人たちが一つの目標に向け一緒に取り組むことにある。一つの事業に対する支援は最長2年間。つまり、仕組みづくりは応援するが、あとは自分たちで努力してほしいということだ。誰をターゲットにし何を整備するか、マーケティングに基づく仮説を立て、必要な道具を作り試行してほしい」と語る。


浜松の事例を基に伊豆でトップセミナー開催
事業の概要を説明する国交省の森部長
事業の概要を説明する国交省の森部長
 今月8日、県主催の観光圏整備に向けたトップセミナーが修善寺総合会館で開催された。伊豆地域の各市町の首長、観光関係のトップなど約100人が参加。国土交通省中部運輸局の森勝彦企画観光部長が制度の概要や先進事例の紹介をした後、浜名湖観光圏整備を中心となって進める「環浜名湖の観光振興を考える会」代表の稲葉大輔氏(ホテル鞠水専務取締役)が具体的な事業内容や認定までの経緯などを解説した。
 稲葉氏は「地域全体をPRするよりも、どうやったら宿のお客さまが増えるか、1泊が2泊になるかを具体的にトライするもの。はっきり言ってホテル、旅館のための事業」と言い切る。浜名湖観光圏では、観光マーケティングを重視。観光地の強み、弱みを徹底して分析し、どんな観光客にどれだけ来てほしいか、理想のビジョンや哲学をしっかり定めた。それに基づき目標とする売上高から、客数、客単価、税収などまで明示した観光地の経営計画を作った。これを達成するための実践プランは、そのまま観光圏の実施計画に反映されている。
 観光圏で定めた数値目標を実現するためには、地域の魅力を発掘、商品化し、その情報を観光客に届ける一連の仕組み「観光プラットフォーム」の整備が不可欠だ。力のある観光プロデューサーや観光プロモーターの存在も欠かせない。「農業や漁業をはじめ、NPOやB級グルメなど町おこしに熱心な方などは観光から見たら重要な人材だ。われわれ観光の思いや現状を分かってもらえる代表者を探し、一緒に商品造成をしていく地域観光プロモーターの存在は特に重要。こうした人材を地域で育てる、あるいは外から招へいするのも観光圏でできる」(稲葉氏)。
 セミナー終了後、会場からは申請までの経緯や行政との連携などについて、多くの質問が飛んだ。稲葉氏は「宿泊を伸ばすのは宿の人にしかできない。観光圏整備はやって損することはないが、非常に面倒で手間がかかる。しかし、地域でやり始めたがうまくいっていない、長年やってきてマンネリ化している、新しくこんなことを始めたい、などの課題と取り組むには有意な制度だ。また、地域の観光について議論する場ができるのも大きい」と結んだ。フィルム・コミッション伊豆の板垣敏弘統括ディレクターは「伊豆新世紀創造祭のコンセプトだった観光システムの改革、観光バリアフリーなどはまだまだ不十分。伊豆地域はこの10年、その時の課題が持ち越されたままだと思う。この機会にぜひ観光プラットフォーム作りを議論する場を作ってもらいたい。それを踏まえて観光圏整備の議論も深まるのでは」と感想を述べた。


まずは観光プラットフォームの整備から
浜名湖観光圏
■浜名湖観光圏

 22年度の認定に向けては来年2月に申請、それまでに協議会を発足させ、整備計画と実施計画を作る。補助金の申請にはより細かな書類の準備が必要で、伊豆が申請するなら急ピッチの作業となる。
 伊豆13市町の観光協会で構成する伊豆観光推進協議会の赤尾十五郎会長は「伊豆半島は北部と南部、東海岸と西海岸、中伊豆と、意識が全然違う。とはいえ点で頑張っていてもだめで伊豆半島全体で売り出さないと生き残れない。(観光圏は)伊豆には必要。積極的に進めるようにしたい。ただ広いからどのようにまとめるか。また浜松は市長が1人だが、伊豆13市町でどこが手を挙げてくれるか、行政とも話し合いを進めないとならない。そのまとめに大分かかると思う」と語る。伊豆市の菊地豊市長は「観光圏が伊豆にとってベターであることは間違いない」としながらも、「浜名湖のように舘山寺が周辺の資源を使うのと違い、熱海があり伊東があり、修善寺、長岡など中心選手≠フ多い伊豆で、果たして観光事業者の皆さんがほかの宿泊地と一緒に連泊をやろうと考えてくれるのか。仕組みや箱は行政主導でもできるが、事業者のやる気がなければ機能しないと思う。まずはプラットフォーム整備のための議論の場があって、結果として観光圏に発展するのではないか。それを呼びかけるのが誰になるのか、そこが問題」と語る。
 伊豆新世紀創造祭35億円、伊豆ブランド創生事業9億円─。県が過去に伊豆の観光振興に注ぎ込んだ金額だ。首都圏を抱え、交通利便性が高く、豊富な観光資源を持つ伊豆。恵まれた環境にあぐらをかいていられた時代は終わり、先の見えない観光不況が続く中、伊豆をどうよみがえらせるのか。官民挙げた本気の対策が望まれている。




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