サンフロント21懇話会 静岡県東部地域の活性化を考える
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 日本人のみならず外国人観光客にも人気の高い富士山。ミシュランの旅行案内書「ギドベール(緑のガイド)」日本版「グリーンガイド・ジャポン」で三つ星の評価を受けたことから、世界的な注目が集まっている。富士山を有する静岡県も空港開港で海外からのアクセスが向上し、今後、東アジアを中心に旅行客の増加が見込まれている。9月の「風は東から」は国のインバウンド政策が推進される中、富士山を活用し、県東部に外国人観光客を呼び込む取り組みを取材した。 風は東から
[サンフロント21懇話会企画]
シリーズ6
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富士山人気で増える外国人客、受け皿整備に「待ったなし」
富士山周辺でインバウンドの取り組みが加速
富士山宝永火山のトレッキングを楽しむ東京アメリカンクラブの関係者
■富士山宝永火山のトレッキングを楽しむ東京アメリカンクラブの関係者
 海外での富士山の知名度は抜群だ。静岡県の名前は知られていなくても富士山はどこの国でも知られている。上海やソウル、シンガポールの静岡県現地事務所には、富士山のビューポイントや、富士山が見える宿はどこかといった問い合わせが多い。近年は外国人登山者から登山口や山小屋に関する質問も寄せられる。県観光局観光政策室によると、今年の総登山者数は約37万人。外見での判断が難しいため外国人登山者数の正確な数字は把握できていないが、感覚としては多くなってきているという。
 富士山周辺の観光地は増加する外国人旅行客を取り込もうと、さまざまなサービスを展開する。やまなし観光推進機構は富士山に登頂した外国人観光客の記念に「登山証明書」を発行。希望者には同機構のホームページに登山者の国籍と名前を掲載するサービスも始めた。また、英語通訳案内士が同行し、青木ケ原樹海や西湖、河口湖周辺の自然が楽しめる「富士山ろくウオーキングツアー」も7月から11月まで毎日開催している。富士山にかかわる歴史や環境、気候などを紹介する富士河口湖町の県立富士ビジターセンターには、昨年15万人を超える外国人観光客が詰めかけた。
 小田急・京王・富士急は外国人旅行者限定の「富士箱根パス」を共同で販売している。富士エリアの富士急バスや中央高速バス、小田急電車、箱根エリアの小田急グループ各交通機関の割引乗車券がセットになっていて、美術館や寺社などの施設で割引も受けられる。


おもてなしは正しい富士山情報の提供から
静岡観光マップ。マップに掲載された富士山の地図は広く一般にデータを提供している
ピクトグラムや多言語で表記された案内看板
■ピクトグラムや多言語で表記された案内看板(下)と静岡観光マップ。マップに掲載された富士山の地図は広く一般にデータを提供している

 同じく富士山をインバウンドの主力に位置付ける静岡県側だが、山梨、神奈川に比べ受け皿整備にやや後れを取っている印象は否めない。
 そんな中、県は今年、環境省、山梨県と協力して富士山の案内看板の整備に着手した。登山客がルートを間違えたり、登り口と違う場所に下りてしまったりしないよう、登山道の名称を統一し、目的地までの距離や時間を表記した。増加する外国人登山者のために英語、中国語、ハングルの多言語表記や、ピクトグラム(標準図記号)も多用した。県観光局観光政策室は「登山は危険を伴うものなので、きちんとした情報提供によって道を外れたり迷ったりすることを防ぎたい。ユニバーサルデザインに即し、多言語表記することで外国人登山客にも配慮した」と言う。
 正しい情報を提供する観点から、案内看板の整備と並行して富士山の地図情報も統一した。この地図を活用し、静岡県観光マップも4言語で作成。広域で移動する旅行者のために、静岡県を中心に、中部国際空港から成田空港までの地図を掲載し、県内の主要な駅と観光地の市街図を入れている。
 また、今年予定されている観光実態と満足度調査で初めて外国人も対象に含める方針だ。この調査は3年に1度、静岡県を訪れる観光客を対象に、観光施設や宿泊施設において、どこに行くか、どういった目的か、何を期待しているか、交通手段は何かなど、聞き取りやアンケートを行い、観光客の特性や満足度を把握する。富士山静岡空港を利用する外国人観光客の動向についても情報の入手が可能だ。


「現場の声」が生み出す新たなサービス
観光案内所には英語が堪能なスタッフが常駐し、外国語のパンフレットが並ぶ。
「日本一の富士山もあなたの美しさには恥ずかしがって隠れてしまった」という内容が書かれた「べっぴん証明書」「男前証明書」。富士市長のサインも入り、好評だ
■観光案内所には英語が堪能なスタッフが常駐し、外国語のパンフレットが並ぶ。
「日本一の富士山もあなたの美しさには恥ずかしがって隠れてしまった」という内容が書かれた「べっぴん証明書」「男前証明書」(下)。富士市長のサインも入り、好評だ

 
 JR新富士駅構内にある富士山観光交流ビューロー。昨年4月の設立以来、同ビューローが運営する観光案内所を訪れた人は1年で1万5000人を超える。そのうち外国人は約2700人、JRパスを利用する欧米の個人旅行客が大半を占める。今年7月、案内所が日本政府観光局の「ビジット・ジャパン案内所」に指定された。
 同ビューローの金指満理子ホスピタリティマネージャーは「圧倒的に富士山関連の情報が不足している。また、通りいっぺんの情報はあるが、旅行客が本当に必要な一歩踏み込んだ情報はどこにも出ていない」と語る。富士登山には往復のバス代や山小屋の宿泊代など、数千〜1万円ほどかかるが、カードが使えないので、困った外国人旅行客が案内所に駆け込むこともある。また、オフシーズンは直通バスがないため、片道2時間のタクシー代に二の足を踏む旅行客も少なくない。こうした旅行客には五合目行きのバスが出る河口湖まで三島駅からバスを利用する方法や、徒歩やバスで行ける富士山のビュースポットを案内している。6月にはレンタサイクルも5台配備した。
 現場の実体験を基にしたこれらの細かな情報は、日本語のほか3カ国語で同ビューローのホームページに記載されている。また、1年中美しい姿を見せてはくれない富士山にがっかりする外国人も多いことから「べっぴん証明書」「男前証明書」の配布を開始した。
 この夏は富士宮市観光協会と同ビューローが共同で富士山富士宮口新五合目(標高約2400メートル)に「日本一高い観光案内所」を開設。同ビューローのボランティアガイドが土日限定で外国人観光客に情報提供を行った。2カ月で約200組が利用し、山の天気や登山にかかる時間、帰りのバス停の場所、温泉に入りたいが近くにないかなど、さまざまな質問が寄せられた。
 このほか、外国人観光客が日本滞在中に感じた良い点、悪い点を帰国後、メールで寄せてもらう「For Our Precious Visitors」の配布も行っている。すでに、新富士駅構内に登山リュックが入る大きなコインロッカーが少ないといった意見が届いているという。


関係者が連携しニーズの把握と受け皿整備を
 県は今月上旬、都内に住む海外から赴任した駐在員やその家族などが加盟する社団法人「東京アメリカンクラブ」の関係者4人を招き、モニターツアーを行った。ツアーには富士山宝永火山のトレッキングと浅間神社の見学を盛り込み、浅間神社では普段公開していない「富士曼荼羅図」を見学した。
 県観光局観光振興室でインバウンドを担当する関典子主幹は「富士山そのものを楽しむだけでなく、富士山によって培われた文化や恵みも知ってほしい。富士曼荼羅図もそんな富士山文化の一つ。富士山ろくで育った牛の乳でバターを作るなど、富士山を体感できるような一ひねりした観光商品を提案していきたい」と言う。
 金指マネージャーは「富士山にあこがれる外国人は多い。登りたいのか、近くまで行きたいのか、遠くから眺めるだけでいいのか、時間はどのくらいあるのかなど、相手の希望をいったん吸い上げ、それに見合ったものをいかに提案できるか。毎日が勉強」と笑う。駅周辺の宿泊施設に、外国人旅行者に無料で情報提供と予約斡旋のサービスを行う「ウェルカム・イン」加入の働きかけや、田子の浦と富士山が楽しめるサイクリングコースのマップも作成中だ。
 大きな課題の一つ、周遊ルートの整備にも新たな動きが加わった。清水港と土肥港を結び、空港利用客に1枚のパスで伊豆が周遊できる「伊豆ドリームパス」。エスパルスドリームフェリー、伊豆急行、東海自動車の3社が連携する「山葵路」・「黄金路」ルートに、伊豆箱根鉄道と伊豆箱根バスが加わり「富士見路」ルートが完成。中伊豆の周遊がよりスムーズになった。
 富士山静岡空港が開港し、外国人旅行客の増加が見込まれる中、富士山情報の提供や魅力的な旅行商品の開発、移動に欠かせない周遊パスの整備など、地域がやるべき課題は多い。ニーズの把握と受け入れ環境の整備に向けた関係者のさらなる連携と協力が期待される。


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